「最下位除籍って!?入学初日ですよ!?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!!」
誰かが皆の心を代弁するかのような抗議の声が上がる。当たり前だった。この雄英という狭き門を通るためにここにいる誰もが惜しみない努力と研鑽を重ねてきた。それを目の前の教師は一笑に伏すかのように除籍することを告げたのだから。それでも相澤は譲らない。
「自然災害……大事故……そして身勝手な敵達にいつどこから来るか分からない厄災……日本は理不尽にまみれている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えてこい」
相澤がそう不敵に告げる。それを見た者たちの反応は様々だった。ある者は気を引き締めて、ある者は好戦的に笑い、ある者はどこか憤る。そんな中、伏黒は新しき受難を受け止め踏破することを胸に誓い次の競技へと移っていった。
――――これより雄英より課された第一の受難、『個性把握テスト』が開始された。
◇
第一測定、50メートル走。
50メートル走は書いて字の如く50メートルをいかに短い時間で走るかを競う競技である。この種目は記録自体を重視するというよりも、計測時のコンディションを把握するという点で大きな指標となる。この種目でのトップは飯田の3.04秒だ。どう走ったものかと頭を回していると伏黒の番がきた。隣にいるチンピラ風のクラスメートが明らかに喧嘩腰でこちらを見てくるがそれを無視してスタートラインに着く。そしてふとあることを思いつく。
「相澤先生」
「なんだ」
「個性使えばどんな方法でもいいんですよね」
「白線から出なければ良いよ」
そうと決まれば伏黒はやり方を決めた。屈んでクラウチングの姿勢をとりながら地面に手をつかずに待機する。『ヨーイ』と聞こえ、伏黒とチンピラ風のクラスメート爆豪は構えたと同時にスタートの合図がかかる。
「《蝦蟇》」
両手でカエルの頭の影絵を作る。すると、足元の影から伏黒の胸の高さほどの大きさを誇る大きなカエルが現れる。周りがギョッとしているのを尻目に頭に伏黒を乗せた蝦蟇は隣から鳴り響く爆音と爆破の余波を上手いこと回避しながら二度跳躍して50メートルを渡り切る。
結果、50メートル走……伏黒恵5秒55→4秒62。爆豪勝己5秒58→4秒13
という結果となった。爆豪がこちらを見て「ハッ」と鼻で笑ったのを無視しながら表示された結果を見て伏黒は上々であると判断した。それでもやはり自身の機動力が課題であることを理解して改善するにはどうするか考えるようになった。
第二測定、握力。
握力は難しい動きを必要とせず、短時間で安全に測定することができるため、高齢者の筋力測定に適していると言える。握力は下肢の筋力やその他多くの部位の筋力と相関関係が高いため、全身の筋力の程度を知るための指標として用いられるのだが、今回は個性ありきの体力測定。故に、
「《玉犬》。咬め」
何も手を用いて測る必要はどこにもないのだ。伏黒は玉犬の2体の内の一体を呼び出すと口を開かせて握力計を噛ませる。少し噛みにくそうにしている玉犬を見て申し訳ない気持ちになったが玉犬は伏黒の命令を遂行すべく持てる全ての力を使って握力計のグリップ部分に噛み付いた。
結果、握力……伏黒恵67キロ→214キロ
「あれ、有りぃ!?」
伏黒の測定法に流石に疑問に思ったのか生徒の1人が指を刺しながら相澤に問う。すると、
「個性をうまく使えてるから良し」
そう言って伏黒の結果は許容された。
第三測定、立ち幅跳び。
この種目は空を飛べる鵺を持つ伏黒にとってさほど問題にはならなかった。伏黒は鵺を再度呼び出すと鵺の上に乗った。鵺の方も伏黒が乗ったことを確認すると空へと羽ばたく。空を飛ぶ伏黒を見て「おー」という感嘆があちこちからもれる。伏黒はそのままグラウンドを一周してきた。
「伏黒。その状態も日が暮れても維持出来るか?」
「はい、流石に一日中乗った試しはありませんが多分出来ます」
その言葉を聞いた相澤が手元の液晶に手入力で記録を打ち込み、ソレを生徒たちに見せる。
結果、立ち幅跳び……伏黒恵3メートル10センチ→測定不能
「また、測定不能が出たー!」
再度測定不能を叩き出した伏黒を見てざわめくクラスメート達。それを聞きながら伏黒は鵺の上から降りる。すると、視線を感じた。振り返ると爆豪と赤と白の左右非対称な姿が特徴的で赤髪の下、左目を中心に火傷の痕がある少年、轟焦凍がそこにはいた。やたらと敵視するような視線に自身が何をしたのか伏黒は疑問に思いながら次の競技へと移って行った。
第四測定、反復横跳び。
これに関しては伏黒はこれといった記録は出せなかった。理由は単純で自身の個性が活かせる要素がなかったからだ。初めはどうしたものかと悩んでいたが、思い浮かぶ前に自身の番が来てしまったとのこと。この記録で強いて上げることがあるとするならば葡萄頭の男がやたら良い記録を出していたことだろう。
結果、反復横跳び……伏黒恵62回→61回
伏黒はこの結果に少し凹んだ。
第五測定、ソフトボール投げ。
ここでは麗日という女子生が∞という結果を叩き出していた。すると1人の生徒が伏黒の測定不能と麗日の∞どう違うのかを問う。曰く、
「麗日のは限界迎える前に大気圏に突入してそのまま永遠に浮き続けるから∞。対して、伏黒のは限界はあるがこちらの方がメーターが振り切れるのが早くて測定できないから測定不能。どっちも結果は同じもんだから気にしなくて良いよ」
とのことだった。その言葉を聞いた伏黒も納得して二度目のソフトボール投げに移行する。この時、相澤に今度は正確な射程距離を図りたいから真っ直ぐ飛ばしてほしいと頼まれる。今度は鵺の口にボールを咥えさせるとそのまま青空目掛けて飛んでいった。しばらくして伏黒は鵺が解除されたことを悟ると相澤に視線を向ける。すると相澤は手に持っていた記録を伏黒に見せつける。そこには1045メートルと記載された結果が表示されていた。
その結果に納得すると次の緑谷へと測定を譲る。すれ違いざまに顔を見たが完全に青ざめておりピンチであることをありありと告げていた。
「緑谷くんはこのままだとマズイぞ……」
「温存してるのかと思ったけど顔色を見るにそうは思えないしな」
「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」
上から飯田、伏黒、爆豪の順でそれぞれ緑谷に対してコメントする。そして伏黒は最後の爆豪のセリフに疑問を覚える。
「無個性なのか?」
「そうだっつってんだろ!」
念のため確認するように問うと爆豪はキレながらそう言い返してくる。正直な話、あの試験はそう易々と合格できるような試験内容ではなかった。ならば武術面で秀でているのかと思ったがそうでもなかった。なぜなら今までの記録は確かに平均よりは良いものだったがどう考えても個性抜きの伏黒よりも記録が低いからだ。再度緑谷の顔を見る。すると、先ほどとは打って変わって覚悟を決めたような顔をしていた。
そして緑谷は全身を使いボールを投げ飛ばす。
結果、緑谷46メートル。
平均よりもやや高いがその程度だった。何がしたかったのか意図が掴めずにいると。
「な…今確かに使おうって…」
絶望した表情で緑谷はそう呟いていた。本人にとっても想定外だったことをありありと顔に表している緑谷に伏黒は益々疑問を募らせる。すると、相澤は髪を掻き上げて困惑する緑谷に近づいた。
「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」
「消した…!あのゴーグル…そうか!視ただけで人の個性を抹消する個性!抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!!」
聞いたことのないヒーロー名に伏黒は首を傾げながら『個性を消す個性』という特異的な個性に少しだけ興味を持てた。緑谷に対して何やらブツブツと小言らしきことを言って配置に戻る相澤を見てさらなる疑問も浮かんだ。
「なぁ爆豪、だったか?」
「あ゛あ゛ぁ!?」
「あいつは本当に個性が使えないんだよな」
「そうだっつってんだろ!?」
「お前とあいつは幼い頃からの付き合いなのか?」
「良い加減にしろよ、テメェ。口開けば質問ばっかしやがってよぉ、オイ」
何がそんなに癪に触るのか爆豪は機嫌を悪そうにそれでいて律儀に全ての質問を返す。最後の言葉に関しては否定しないあたり幼い頃からの付き合いなのだろう。故に疑問に思えた。
「ならなんで」
「あ゛?」
「なんで相澤先生は緑谷に対して『個性を消す個性』を使用したんだ?」
そう言った瞬間、爆豪は分かりやすいくらい固まり緑谷に視線を向ける。そこには先ほどと同じフォームでボールを投げようとする緑谷がいる。違う点があるとするならば
「SMASH!」
掛け声と共に遥か彼方へと飛んでいったボールくらいだろう。相澤の方に視線をやると驚愕しながら目を見開いている。
「先生…! まだ…動けます」
緑谷は指の痛みに涙を浮かべる。変色して腫れ上がった人差し指は明らかにへし折れている。しかしへし折れた指すらも握り込み、力強い拳を作って相澤にアピールする。それを見た相澤は思わず目を見開きニヤリと笑う。指一本であれほどの威力。もし、腕一本丸ごと使えばどれ程の威力を出すのか伏黒はゾッとしながらもとても興味を惹かれた。
「どーいうことだ!ワケを言え!デクてめぇ!」
そこに一人ブチ切れた爆豪が右手を爆破させながら緑谷に襲いかかる。流石に指一本とはいえ骨の折れている人間に襲い掛かろうとする爆豪を伏黒は蝦蟇を呼び出して動きを止めようとする。が、その前に。白い包帯のような布地がまるで生き物のように爆豪に絡み付いた。
「ぐっ……。なんだこの布、固てぇ……」
「炭素繊維に特殊合金を混ぜ込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も個性使わすなよ……俺はドライアイなんだ。時間がもったいない、次、準備しろ」
そう言うと相澤は爆豪に巻き付けていた布を外して次の種目を受ける場所に足を運ぶ。それにクラスメートは着いていく中で爆豪だけが立ち止まり焦ったように緑谷を見ていた、
第六測定、長座体前屈。
この種目の際に伏黒は自身の持てる最大級の大きさを誇る影絵を呼び出す。
「《大蛇》」
影が浮かび上がると同時に長く長く伸びていく。名前の通り見た目はまんま大蛇であったが、どう贔屓目に見ても15メートルほどの大きさがあった。大蛇が現れるのと同時にクラスメートの何名かが悲鳴をあげる。蛙吹に関しては個性の都合上なのか大蛇を見た瞬間、完全に固まっていた。伏黒は配置につくと両脚を両箱の間に入れ、長座姿勢をとる。壁に背・尻をぴったりとつける。箱を押す大蛇の尾の先端を握りながら大蛇が伸びきる限界まで待つ。そして伸び切ったことを確認すると伏黒自身も伸びて測定する。
結果、長座体前屈……伏黒63cm→15m64cm。
相澤が結果を測定したことを確認すると。体を元に戻して大蛇を元に戻す。本来の使い方とはだいぶ違うが現在に至るまで良好な結果を得られていることに伏黒は実感を得ていた。しばらくして蛙吹の測定の際に蛙の特性を生かして舌を使って測っているのを見て、伏黒はそういう測り方もあることを知った。
第七測定、持久走。
「この雄英は全体的に広く大きいところもうりでね。グラウンドは一周で大体1キロくらいある。今から5周、ようは5キロ走ってもらおうか。当たり前だがズルはなしだ。それさえ守ればどんな風に走っても良し。じゃあ、よーいスタート」
その言葉の合図と共にクラスメートの全員は一斉に走り出した。その中でも抜きん出ていたのはやはりと言うか当たり前と言うかふくらはぎにエンジンのような器官が備わっている飯田だった。しかも、50メートルの時は加速しきれていなかったのか明らかに50メートルの時よりも早かった。
そんなことを鵺に乗りながら考えていると、背後からエンジン音が響く。何事かと思い振り返ると後ろからバイクで走行している八百万と呼ばれていた女子生が追い縋ってきた。ご丁寧にヘルメットまでしており、これもありなのかと思い相澤に目をやる。すると、OKという意味なのか親指を突き出した。それを見た伏黒は少し精密さを欠けさせて鵺の速度を上げた。
結果、持久走……第1位 飯田天哉 第2位 伏黒恵 第2位 八百万百。
という結果となった。結局飯田には追いつくことは出来ず、八百万と伏黒のデッドヒートの末に同一2位という結果に終わった。途中で速度に目が行きがちで鵺の制御が甘かったことを反省する伏黒は次に生かすことを心に誓った。
第八測定、上体起こし。
これもこれといって特筆すべき点はなかった。初めは自身の背中に影絵の動物を挟んで行おうと思ったが、流石に現実的ではないと判断して普通に行った。
結果、上体起こし……45回→47回。
因みに八百万は腹筋ワ○ダーコアを作り出して62回。葡萄頭の峰田という男は地面に貼り付けた個性『もぎもぎ』の反発を生かして69回と好記録を叩き出していた。
上体起こしを最後に全ての個性把握テストは終了した。トータル最下位が除籍となる。21名全員が集められてその前に相澤が立つ。隣を見ると緑谷の顔色は明らかに暗い。それもそうだった。ソフトボール投げ以降は指が折れた痛みでどれもひどい結果だったからだ。いくらソフトボール投げの記録が上位に食い込めるほど高くとも一つだけでは余りにもスコアが足りなかった。祈るように目を瞑る緑谷から伏黒は相澤に目線を向ける。
「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括表示する」
そう言うと3Dホログラムで結果が表示される。伏黒は自身順位を確認する。すると、1位の横に伏黒の名前が記載されていた。自身が思っていた以上の結果を出せて安心しているとまた負の感情が混じった視線を感じる。それも後ろと真横から。目線を向けると明らかにヒーローの卵がしていい顔ではない状態の爆豪と鋭い目線でこちらを見てくる轟がそこにはいた。勘弁してくれと、内心愚痴りながらも21位の最下位の欄の名前を見る。そこにはやはりと言うべきか緑谷の名前が記載されていた。流石に初日とはいえ同級生がしかもクラスメートが除籍になることに気まずく感じていると。
「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
相澤はハッと鼻で笑いながら結果を消す。その言葉を聞いた大半は固まり次の瞬間には『ハァーー!?』と叫ぶ。かく言う伏黒も完全に呆気に取られており、声には出さなかったが目を見開き口をひくつかせて固まっていた。しかし、八百万は
「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ……」
と言っていた。しかし、伏黒にはそれが嘘には感じられなかった。なまじ、ヒーロー殺しとまで言われているステインと相対している身としてはあの時の除籍する、という言葉には本気の意思を感じさせるほどの凄みがあったからだ。けれど真実は誰にもわからない。目の前の教師を除いて。
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ」
そう言って相澤は緑谷に保健室利用届けを渡すとその場から去って行った。最後の最後まで掴みどころのない担任に自身がヒーローになるまでの道の厳しさを伏黒は再確認させられた。
個性把握テストを終えて、雄英高校初日の生活が終わった。
感想もありがとうございます。今後も批評などどうぞよろしくお願いします。
ちなみに個性把握テストの結果は
第1位 伏黒恵
第2位 八百万百
第3位 轟焦凍
となっております。