伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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まさかまさかの10,000字越えですよ。長いので気をつけてください。


戦闘服、そして戦闘訓練

 食事を終えて食器を洗い仏壇に手を合わせて制服を着る。いつも通りのルーティンを行ったのちドアを開けて伏黒は歩き始める。昨日のことを考えながら個性把握テストを通して理解した自身が改善すべき点を。深く深く考える。故にこそ気づかなかった。

 

「おーい、大丈夫か?」

 

 幼馴染である拳藤の接近に。拳藤からすればいつも通り声をかけたが1回目は反応せずにいたため肩を叩いて声をかけたつもりだった。しかし、深い思考の海に潜っていた伏黒にとっては拳藤が突然現れて話しかけたように感じられた。咄嗟に飛び退いた後に流石にのめり込みすぎたと反省して挨拶をする。

 

「おう、大丈夫だ。おはよう」

 

「昨日どうしたんだ?朝のお前はそんな調子だし。A組はガイダンスにもいなかったしさぁ」

 

 拳藤は昨日から少しというかかなり様子がおかしかった幼馴染が少しばかり心配に思えた。困惑顔でこちらを見てくる拳藤を見て伏黒も流石にこれ以上引きずるわけにはいかないと思考を切り替えて昨日の個性把握テストについて軽く話す。すると、

 

「はぁ!?個性把握テストォ!?」

 

「ガイダンスなんてしている意味ないからってA組だけやらされた」

 

「何それ超おもしろそう!」

 

 拳藤は普段の頼れる姉御を思わせる雰囲気を消して年相応の反応をしながら目を輝かせていた。そんなに楽しみか?と思いながら拳藤の最後に言った『楽しそう』という言葉には気をつけたほうがいいと説明した。

 

「え?なんで?」

 

「昨日お前と全く同じこと言った奴がいてな。その言葉をきっかけに個性把握テスト最下位者には除籍っていう特典がつくようになったよ」

 

「はぁ!?」

 

 今度の反応には驚愕と伏黒に対する若干の猜疑心が込められていた。伏黒も疑うのも無理はないと思えた。いくら自由な校風とは言えど除籍はやりすぎだと世間一般ではそう思える。ただし、もし払い落とすための行為だとしたらよくできていると伏黒が思っていると。頭を抱えた拳藤がそこにはいた。

 

「大丈夫か?」

 

「え?結局出たの?その除籍者」

 

「出てない。合理的虚偽だって」

 

「なんだよー!脅かすなよー!」

 

 除籍者が出てないことを確認するとすっかり肩の力が抜けて安心した顔でため息を吐いてその後にケラケラと微笑んだ。しかしそれでも伏黒は忠告する。相澤を、プロヒーローを前にした一個人としての助言を。

 

「確かに除籍者は出なかった。だけど、拳藤。舐めないほうがいい。うちの担任が最下位を除籍するって言った時、ステインみたいな真剣さを感じる凄みがあった。やるからには全力でやったほうがいい」

 

 そう言うと拳藤は苦虫を噛み潰したような顔をした。自身が理由とは言えコロコロと顔色を変える拳藤を見て伏黒は情緒不安定な奴だ、と思っていた。少しだけ悩むような素振りを見せると拳藤は顔を上げて伏黒と目線を合わせて礼を言う。

 

「サンキュー伏黒。今度なんか奢るわ」

 

「いらねぇよ」

 

「ていうか心配くらいしてもいいだろうがよー」

 

「そんなもん必要ねぇだろ。お前の個性なら握力やらソフトボール投げとか手を使った測定で上位か一位は狙えるだろ」

 

 伏黒の脳内に思い浮かぶのは自身と軽い会話をしながら個性抜きで胡桃の硬い皮を指先の力だけで砕いたあの光景だった。伏黒のぞんざいな扱いに拳藤は「なんだよ、なんだよー」とブーブーと文句を垂れる。そんな様子を見た伏黒は心配しない理由を「それに」と言った後に付け加える。

 

「お前の実力の高さに関しては俺がよく理解している。だから、お前なら出来る」

 

 伏黒は顔を逸らしながらそう言った。言い切っておきながらなんだが、伏黒にとっても真正面から相手を認めて褒めて励ますことは初めてだったため、かなり恥ずかしかったのだ。伏黒の言葉にキョトンとした顔を浮かべる拳藤。しばらくしてから伏黒の言葉の意味を噛み砕いて飲み込み少しずつ頬が緩んで気分と共に上に上がっていき、思わず抱きしめる。

 

「お前は本当に素直じゃないなぁ!」

 

「やめろ!触るな、抱きつくな!撫で回すな!」

 

「いいじゃないか。これくらい!」

 

 そう言いながら拳藤は少し顔を赤くした伏黒の頭を撫でくりまわす。恥ずかしく思いながらも流石に鬱陶しく思え始めた伏黒は咄嗟に引き剥がそうとする。が、筋力面では伏黒よりも拳藤の方に分があるうえに個性の都合も相まってどう足掻いても勝てないのだ。真正面から抱きついてきたとはいえ抱きしめるが絞技になっていったため伏黒からしても少しだけ苦しかった。故に抜け出すと同時に伏黒はその場からも脱出した。後ろから聞こえた「じゃあな〜」という声を聞きながら伏黒にとっての1日が始まった。

 

 

 午前中は必修科目である普通の授業が行われる。この授業を行う教師たちですらプロヒーローの面々なのだから、雄英には驚かされる。因みに数学がエクトプラズムというヒーローで英語が入試の際に説明を行なっていたプレゼントマイクという教師だった。そこまで高望みをしていたわけではないが教え方や内容は普通だったことは少しだけ拍子抜けだった。昼頃には道中でばったりと出くわした拳藤と共に食事を済ませた。食事の面ですら手抜かりの無さぶりに雄英の倍率が高すぎるのも納得ができた。

 

 そして午後のヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!普通にドアから来たー!」

 

 テレビで1日に一回は聞くほど聴き慣れた声がドアを力強く開いた。知ってはいたがドアから現れたのはオールマイト。筋骨隆々の肉体と力強く跳ね上がった二つの前髪、明らかに生まれる世界線を間違えたであろう画風の違い。それを見た瞬間、クラスが一気に沸きたった。

 

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

「オールマイトだ……!!!」

 

「すげぇや!わかってたけど本当に先生やってるんだな!」

 

 意気揚々と鼻歌混じりに教壇へと近づくオールマイト。そして教壇の前に立つと手に持っていたプレートを突き出す。そのプレートには『BATTLE』と書かれていた。

 

「今回の授業で行うのは〜、こちら!戦闘訓練!そしてそいつに伴って入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチューム!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、クラスの盛り上がりのボルテージが増して中には喜びのあまり立ち上がるものもいた。かく言う伏黒も胸を高鳴らせていつの間にか笑みを浮かべていた。すると、教室の壁が迫り出して、戦闘服コスチュームが入っている番号の書かれたロッカーが現れる。

 

「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

「はーい!!」

 

 それぞれコスチュームを受け取ると目を輝かせながら更衣室へと向かっていった。

 

 

 更衣室でケースを開けると、要望に沿って完璧に作り上げられたコスチュームが入っていた。胸と首元にある金色のボタンを除いて上下共に黒寄りの紺色の服。そうとしか言いようのないものでどこか制服のようにも見えた。赤髪の切島は「地味じゃね?」と割と遠慮なしに言ってきた。軽く物申したくなったが、面倒に思い無視をした。確かに見た目は地味だが機能性を重視したもので通気性はいいが燃えにくく濡れにくい。その上防刃、防弾性能もあると言う優れものなのだ。最後に腰にベルトとポーチをつける。着替えを済まし、駆け足でグランドに出る。

 一年A組の生徒達はそれぞれがあらかじめオーダーしていたコスチュームを身に纏い、グラウンドに集合した。見た目は人それぞれ。武器の様なモノを搭載している者もいれば、伏黒同様普通の私服とあまり変わらない格好の者もいる。しかしそのどれもが自身の個性に最適な形をしていることを意味している。オールマイトは生徒達のコスチューム姿を見ながら嬉しそうに言った。

 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!自覚するのだ。今日から自分は、ヒーローなんだと!さあ始めようか有精卵ども!!」

 

 最後に入ってきた緑谷を見た伏黒が真っ先に思ったことは。

 

「オールマイトみてぇ」

 

「えー!?そ、そうかなぁ……?」

 

 目を泳がせながらしどろもどろに告げるあたり伏黒の予想は当たっているのだろう。実際、緑谷の見た目はエメラルドグリーンを基調としたジャンプスーツで白いラインが入ったシンプルなデザインだった。そして特徴的なのは二つの触角のようなオールマイトの髪型を思わせると布地と笑顔を模した形状のマスクだった。

 

「まあ、いいんじゃねぇか?」

 

「ふ、伏黒くんこそ。黒を基盤とした服が、その、えっと、あー、かっこいいよ!」

 

「無理して褒めんな。地味なのは自覚してる」

 

「あ、デクくんに伏黒くん」

 

 互いにコスチュームについて指摘しあっていると声をかけられる。声からして恐らく麗日お茶子だろう。声のした方に目線を向けると軽くギョッとした。頭はヘルメットのようなものを被っているのだが、問題はその下。採寸でも間違えたのかボディーラインを強調するようなボディースーツにも似た格好になっていた。

 

「なんつー格好してんだよ」

 

「いやぁ…… 要望ちゃんと書けば良かったよ~。パツパツスーツんなった」

 

 照れ臭そうに頭をかくあたり本人も恥ずかしいことはわかった。要望通りの格好でないことに安心しながら緑谷に視線を向けると顔を赤くしながらワタワタしていた。すると、足元を軽くノックされたためそこに視線を向けると。コスチュームも相まって葡萄にしか見えない峰田がそこにはいた。訝しみながら峰田を見つめると親指を突き出して、

 

「ヒーロー科最高」

 

 そう告げてきた。言いたいことはわかるがあけすけだなと思いながら伏黒は

 

「おう、そうだな」

 

 と、適当に答えた。何やら驚愕した顔でこちらを見てくる峰田を置き去りにして前に出る。全員そろったことを確認したオールマイトが話し始めた。

 

「さあ、戦闘訓練のお時間だ!君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう」

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知るための実践さ。ただし、今回はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ」

 

 そらそうだな。と伏黒がオールマイトの言葉に納得していると。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ぶっ飛ばしてもいいんすか?」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」

 

 矢次に質問を飛ばす生徒達。ちなみに上から八百万、爆豪、麗日、飯田の順番だ。いくら平和の象徴と謳われるNo. 1ヒーローのオールマイトも雄英では新人教師。経験のないことをすれば当然のごとく。

 

「んんんん〜〜〜!聖徳太子ィィィ~!」

 

 対処に困らせる。セリフ的に「いきなりたくさん質問されても困るよ」的な意味合いなのだろうかと場違いなことを考えている間にオールマイトは今回の授業の説明をする。

 

 屋内での対人戦闘訓練であった。生徒は『ヴィラン組』と『ヒーロー組』の2対2のコンビに分かれて屋内戦を行う。 

 

 状況設定は『ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事』である。核兵器の回収はタッチする事。捕まえるには捕縛テープを相手に巻き付ける必要がある、との事だ。ここまでカンペを読んで喋っているあたりオールマイトも新米なのだと考える伏黒。そしてふとあることを思い出す。

 

「2組なら1人余りますけどどうするんですか?」

 

「その辺は大丈夫。相手側は少しだけ難しいかも知んないけど3対2で行ってもらうよ!」

 

「わかりました」

 

 とりあえず納得した伏黒が下がると、オールマイトは他にも質問がないかを確認する。特に確認できなかったためオールマイトは何処からか箱を取り出して皆にクジを引かせていく。結果はご覧の通り。

 

A:緑谷、麗日

B:障子、轟

C:峰田、八百万

D:爆豪、飯田

E:芦戸、青山

F:口田、佐藤

G:上鳴、耳郎

H:常闇、蛙吹

I:尾白、葉隠、伏黒

J:瀬呂、切島

 

 伏黒の番が来た時に引いて出た番号は『I』だった。コンビが決まるとオールマイトは次に箱に手を突っ込んで最初の対戦カードを決める。

 

「最初の対戦カードはこいつらだァ!!AとD!!AがヒーローでDが敵だ!他の者はモニタールームに向かってくれ!」

 

「「「「はい!!」」」 」

 

 オールマイトの指示通りAとD以外の生徒はモニタールームに向かった。そして、本当の意味でこの授業が開始した。

 

 第一戦目、Aチーム緑谷、麗日 vs Dチーム爆豪、飯田。

 

 結果はAチームの勝ち、なのだが。勝ったチームがボロボロで負けたチームがほぼ無傷という結果で終わった。試合内容は一言で言うならば『危険』もしくは『壮絶』これに尽きた。麗日と飯田の戦闘では核を巡った鬼ごっこであったが、緑谷と爆豪の戦闘は終始、爆豪が殺気を放ち正直殺すのではないか?と疑問に思うほど荒れていた。特に爆豪がサポートアイテムを用いて緑谷を建物の一角諸共爆破した時は一時中断すべきとの声が出たほどだった。最後の最後で緑谷が機転を聴かせて麗日をサポートして麗日はそのサポートを生かしきって見事に核を手に入れていた。

 

 思った以上に荒れていたため自身も気を引き締めようと思っていると。

 

「次の対戦カードはこれだァァ!BとI!まさかまさかの推薦1位と実技1位の戦闘だァ!Bがヒーロー役、Iはヴィラン役だ!さっきのチームの反省点を生かして頑張ってくれよなァ!」

 

 思っていた以上に早く自身の出番が来ていた。伏黒がBチームに目線を向けると轟と目がかち合う。轟は測るように目を細めるとチームメイトの元へと向かった。伏黒もチームメイトに呼ばれて建物へと向かっていった。

 

 

 所定の場所について核を設置する。そして互いの情報をすり合わせるために自己紹介をする。

 

「はいはーい!私の名前は葉隠透(はがくれとおる)!個性は見ての通り透明化!葉隠もしくは透、あだ名でもいいから好きな方で呼んでもいいよ!」

 

「じゃあ次は俺で。俺は尾白猿夫(おじろましらお)。個性はご覧の通り尻尾。一応、尻尾を交えた近接格闘が得意だ。よろしく頼む」

 

「わかった。よろしく葉隠、尾白。俺は伏黒恵。個性は影絵」

 

「「影絵?」」

 

「ああ、見せた方が早いか」

 

 伏黒はそう言うと手で犬を形どり、「《玉犬》」と言う。すると、影が蠢きながら白と黒の二種類の犬が形作られる。それを見た2人は驚き、葉隠は玉犬に手を伸ばそうとする。

 

「こんな感じだ」

 

「凄〜い!ねぇねぇ、触っていい!?」

 

「嫌がらない程度ならな」

 

 やったー!と言いながら玉犬を撫で回す葉隠を見ていると尾白も撫でたそうにこちらを見てくる。特に断る理由もないため玉犬・白を足元まで呼ぶとお座りさせて尾白に差し出す。そして撫で回している2人を見ながら作戦会議をする。

 

「取り敢えず。お前らどちらか2人の個性について知らないか?」

 

「轟くんと障子くん?私、障子くんは知らないけど轟くんなら知ってるよー」

 

「なんだ言ってみてくれ」

 

「えっとねぇ。個性把握テストで氷を使ってた!50メートル走とかでは氷を次々重ねて高速で移動してたよ!」

 

 腹をみせた玉犬・黒の腹を撫で回しながら轟の個性についてわかっていることを言う葉隠。それを聞いた伏黒は現状分かっている情報だけで轟の個性について軽くまとめてみる。

 

「なら氷の操作か生成系の「あ、でも。作った氷に手を当ててジュワーって溶かしてたよ?」……なら温度を操作する個性か?まだ不明だが、暫定的に温度操作ということにしよう。葉隠、ありがとう」

 

「どーいたしまして!」

 

 そう言うと再度玉犬・黒の腹に顔?を突っ込んで匂いを堪能し始めた。次に尾白に顔を向ける。尾白は玉犬・白の顎を撫でてたが伏黒の視線に気づいたのか「ゴホン」とわざとらしく咳をしてから伏黒と向き合う。

 

「轟のは言ったから。障子のだよな?よくわからないけど肩から生えた2対の触手の先端に、腕とか複製してたな。後、喋る時は口とかも複製してた」

 

「体の一部を作る個性?取り敢えずありがとう尾白。後、そろそろ始まるから立ち上がろうな?」

 

 そう言うと尾白と葉隠は惜しむように玉犬から離れる。玉犬も立ち上がるといつでも戦えるように準備をする。するといきなり葉隠が手袋もブーツも脱いぎ始めた。

 

「これでよし!じゃあ私3階に行ってチャンスがあったら捕まえてくるね!」

 

「あ、ああ、わかった。伏黒、葉隠の奴手袋とった途端に見えなくなったけどまさか服着てないんじゃねぇのか

 

「そりゃあねぇだろ」

 

 実際は尾白の予想通り葉隠はここにくるまで手袋とブーツ以外は何も身につけずに全裸であった。しかし、外で公衆の面前で全裸など狂気の沙汰であると伏黒は尾白の意見を完全に否定する。葉隠がその場から離れようとした瞬間。

 

「「バウ!」」

 

 玉犬が2体同時に吠えた。次の瞬間、足元が天井が壁が凄まじい勢いで凍りついていくのがわかった。

 

「跳べ!」

 

 伏黒は跳びながら咄嗟に叫ぶ。尾白は咄嗟に跳ぶことで足が凍りつくのを回避できた。しかし、葉隠は突然の出来事に反応しきれない。このまま足が凍りついて身動きが取れなくなる、はずだった。瞬時に動いた玉犬が葉隠を跳ね飛ばすことで葉隠はなんとか氷結を回避できた。一瞬だけ放心した葉隠はすぐに正気に戻りこちらに駆け寄る。

 

「ごめん!伏黒、尾白、大丈夫!?」

 

「全員無事だ。だけど玉犬は捕まった」

 

 自身と尾白の無事を葉隠に報告した後に玉犬が捕まったことを告げる。伏黒の視線の先には足首あたりまで足が凍りついた玉犬・白の姿がそこにはあった。寒いからか痛いからか「クゥ〜ン」という鳴き声をあげる玉犬。

 

「ごめん伏黒!」

 

「大丈夫だ解除すれば戻る」

 

 そう言った後に伏黒は玉犬・白を影に戻るよう指示を出そうとする。しかし、その直前であることを思いつく。失敗すれば負けは確実だが相手の対応次第ではほぼ間違いなく勝てる策を。解除をやめて尾白と葉隠に向き直る。玉犬を戻さずにそのままにしている伏黒に疑問を覚えていると。

 

「お前ら。俺の策に乗ってみないか?」

 

 伏黒は先ほど浮かんだ計画を2人に話した。

 

 

「凄まじいな……轟」

 

「そうか」

 

 驚嘆にも似た障子の言葉にそっけなく返す轟。2人は今氷の迷宮と化した建物の中を散策していた。氷を使う轟にとって氷の道は慣れたものだが慣れない障子にとっては注意しなければ何度か足を滑らしかけるほど歩きにくい道と化していた。

 

「障子。本当に三人中二人は止まったまんまなんだよな」

 

「ああ、音からして二人とも身動きが取れない状況にある。恐らく、というかほぼ確実にお前の攻撃に囚われている」

 

「……そうか」

 

 自身の攻撃により一人を除いて捕まっているのかという質問に障子は間違いないと答える。その言葉を聞いた轟は少しだけ肩透かしを食らっていた。轟の父エンデヴァーによって何年も轟は鍛えられ続けていたとはいえ全国の選りすぐりのヒーローの卵が集う雄英の生徒がこうもあっさりと捕まったからだ。ましてや三人中一人は実技試験で1位をとっていたのだから尚更だった。一階は探し終わり二階へ向かおうとした時、

 

「轟!来るぞ!」

 

 障子がとある方向を見て身構える。轟もその方向へと視線を向けると真っ直ぐと此方へと直進してくる伏黒の姿があった。それを見た轟はため息を吐いた。

 

「策が無くなったから自暴自棄か?」

 

 そう言うと同時に右半身を起点に大量の氷が殺到する。普通のヴィランであればこの時点で詰みであるが伏黒は殺到してきた氷を足場にして回避する。それを見た轟と障子は驚愕して動きが鈍る。その隙をついて伏黒は轟の鳩尾に向けて全力で拳を放つ。

 

「ガッ!」

 

「轟!クソッ!」

 

 激痛にうずくまる轟を見て立て直した障子は自前のガタイを生かし、伏黒を捉えるべく突っ込む。が、

 

「隙だらけだぞ?」

 

 相手の勢いを利用して人中に向けて拳を放ちぐらついた障子に向けて蹴りを放ち距離を取る。

 

「俺だけなら倒せると思ったか?」

 

 そう言いながら相手の動向を伺う伏黒。立ち直った二人を見た伏黒は再度攻撃を仕掛ける。そこからは乱戦が続いた。障子が肉弾戦で挑むが技量面で抗う伏黒。轟も氷を飛ばして援護しようとしたがそのたびに伏黒が障子を盾に攻撃をさせないように行動する。焦ったく思った轟が遠回りしてその場から離れようとしたがその前にサポートアイテムの閃光弾で身動きを封じる。三人の一進一退が続く中、均衡が崩れた。

 

「捕まえたぞッ!伏黒!」

 

 放たれた蹴りに耐えた障子が伏黒の足を掴む。掴まれた伏黒は驚きのためか目を白黒させる。足元を見ると障子の足元の氷が不自然に盛り上がっていた。轟が障子のタイミングに合わせて障子の足元の氷を競り上げることでブレーキとなったのだ。足を掴んだまま障子は伏黒を加減して壁に叩きつける。

 

「ガッ」

 

 加減していたとはいえあまりの衝撃に一瞬だけ息が詰まる。そして轟はその隙を見逃さなかった。伏黒に駆け寄り右肩に触れて凍らせる。全身を氷に覆われた伏黒は身動きを封じられた。

 

「拍子抜けだって言ったが前言撤回だ。対人戦強すぎんだろッ」

 

「強いって言うよりも上手かった。俺を何度も盾にされたりして最後の方でしか本領を発揮できなかった。轟、急ぐぞ。思ったより時間を取られた」

 

 そう言いながら少しボロボロになった轟と障子はそのままその場を離れようとする。すると、

 

「もういいぞ」

 

 伏黒がそう言った。どう言う意味か問うべく轟が伏黒に近づく。次の瞬間、伏黒の影から飛び出たナニカの鋭い打撃に轟は顎を撃ち抜かれ一撃で意識を闇の中へと落とした。

 

「なっ!?どういうことだ!」

 

「答え合わせはお前が起きたらするよ」

 

「それはどう言ゔっ」

 

 伏黒の言葉に対して問い詰めようとして言葉を発そうとしたが首筋に強い刺激が走った。くらむ視界の中振り返ると宙に浮かんだスタンガンがそこにはあった。

 

『ヴィランチーム、WIN!』

 

 オールマイトの声が建物全体に響き渡り……伏黒・葉隠・尾白チームは勝利した。

 

 

「おーい轟少年、障子少年。目が覚めたかい?」

 

 その声を聞いて轟と障子は少しずつ意識を覚醒させる。目の前にいたオールマイトに戸惑いながら先ほどまでの思い出して苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

 

「オールマイト。俺たちは負けたのか?」

 

「うんそうだね。君たちが気絶してから大体4、5分程度かな」

 

「……そうか」

 

 障子と轟は再度突きつけられた現実に再度頰を歪ませる。そして自身がなぜ負けたのかを轟は問う。するとオールマイトは、

 

「それを今から説明する。だから、おいで。立てないなら肩貸すよ」

 

 差し出された手を二人は握ると立ち上がり大丈夫なアピールをする。それを見たオールマイトは大丈夫だと確信すると二人をグラウンドへと案内する。するとそこでは「ドンマイ!」やら「あんなの誰もわかんねぇし騙されるよ!」と言った声で出迎えられた。

 

「じゃあ!Iチームが何をしたのか見てみようか!」

 

 そう言うとスクリーンに氷で覆われた部屋が映し出された。

 

 

「お前ら。俺の策に乗ってみないか?」

 

 伏黒は先に行こうとする葉隠を引き止める。自身が浮かんだ策を説明するために。

 

「策って何?っていうか、白い玉犬ちゃんを元に「元には戻さない」……へ?」

 

「玉犬はこのまま囮にする」

 

 伏黒は自身の影で作り上げた玉犬を囮にすることを提案した。その言葉を聞いた尾白と葉隠は一瞬固まる。そしてすぐに伏黒の提案を却下する。流石にヒーローの卵が足凍らせた犬を放ってはおけないと。伏黒はその反応をあらかじめ予想していたためこれは自身の影でできているもので怪我しても自身の影に戻れば元に戻ると説明する。そう言うと二人は渋々ながら落ち着く。それを見た伏黒は自身の案を説明する。

 

「まず、二人には俺の影に入ってもらう」

 

「ちょっと待って。そんなこと出来るのか?」

 

「出来る。気になるなら触ってみろ」

 

 伏黒の言葉におずおずと伏黒の影に触れる。すると、二人の手が伏黒の影に沈んでいった。「うおっ!」と二人が飛び退くのを見ると説明を続ける。

 

「俺が今から単騎で二人に挑んで捕まる。そしてその時に轟と障子を倒して欲しい」

 

「あっちから影に侵入されることはないのか?」

 

「俺が許可しなきゃ入れないから平気だ」

 

「えーっと。私、そもそも男2人不意打ちで一撃で倒せるほど逞しくはないよ?」

 

「なら、俺のサポートアイテムのスタンガンを貸してやる」

 

 自身の案を聞いた尾白と葉隠はそれぞれ侵入されることはないのか、倒すにはどうすれば良いのかと質問していく。侵入に関しては許可なしでは侵入できないと説明すると尾白は納得して、倒す方法としてスタンガンを渡すとわたわたとしながら葉隠は受け取った。

 

「障子がいる以上早めに決めて欲しい」

 

 そう言うと尾白と葉隠は「頑張ってくれ」や「失敗したら許さないからなー」と言うと次々には伏黒の影に飛び込む。それを見届けた伏黒は2人に礼を言うと悪い笑みを浮かべて轟と障子へと挑んでいった。後は伏黒の計画通りにことが進んでIチームは勝利をもぎ取った。

 

 

 視聴が終わった2人の反応は呆気に取られていた。誰も予想ができなかった。むしろ予想できるはずがなかった。影の中からヴィラン役が飛び出てくるなど。2人が悔しそうな顔をしているとオールマイトがそのまま講評を行う。

 

「今回のMVPは伏黒少年だ!理由はみんなもわかる通り見事なまでの作戦立案、そして2人に自身以外戦えるものはいないと思わせるまで粘り続けた戦闘能力と判断能力!どれも素晴らしかったぞ!」

 

 モニタールームでオールマイトは伏黒を手放しで褒める。伏黒は「ありがとうございます」と言いながら深々と頭を下げた。

 

「他にも褒めるべき人がいるぞ!わかる人!?」

 

「はい、オールマイト」

 

 AチームとDチームでも見事なまでに講評を行っていた八百万がまた手を挙げる。

 

「Iチームだと思えます。いくら合図があったとは言え、タイミングを合わせて轟さんを吹き飛ばして見せた尾白さん。そして気づかれることなく障子さんを仕留めて見せた葉隠さん。この2名も見事な対応であったと思えますわ」

 

 八百万の言葉に照れ臭そうに頰をかく尾白と葉隠。そんな様子を見たオールマイトはまたも悔しそうに八百万を褒める。

 

「くぅ〜またまた大正解だ!八百万少女!しかも今回は全員が各々最適解の動きをして見せた!仮にあったとしても視野を広げる、と言ったところかな?では、次行ってみよう!」

 

 オールマイトがそう言うと伏黒は疲れて力が抜けたのか壁に寄りかかり脱力する。屋内、高火力、動揺、この3つがなければ伏黒は負けていたことを自覚していた。それだけ障子と轟は強かった。個性上、近接面で障子が強いのは分かっていたが、轟も伏黒が想定していた以上に強かった。正直なところ負けていた可能性も十二分にあり得たのだ。ある程度疲れが抜けて次の試合を見ようと顔を上げると。目の前に轟がいた。

 

「……次は絶対に負けねぇ」

 

 強い思いを乗せた言葉をどこか悔しそうに言った。その言葉に伏黒は「おう」とだけ答える。それを聞いた轟は再度スクリーンへと向かった。伏黒も立ち上がると画面越しのクラスメートの行動を見た。




戦闘シーンがやはり難しいですね。
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