「お疲れさん!初めての訓練にしちゃあみんな上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!」
最後の組の戦闘訓練が終わり、その講評も済むとオールマイトは生徒達にそう言い残し、目にもとまらぬ速さで走り去っていった。その速さはこの後何か用事でもあるのかと問いたくなるほどだった。各々が教室に戻る頃には下校時間になっていた。コスチュームから制服に着替えた後に教室に到着してすぐ。
「なあ!放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」
クラスメイトの1人がそう提案する。声のした方に目線を向けるとそこには赤いツノのような髪がトレードマークの切島がそこにはいた。見た目通りの陽キャぶりに率先して案を出したことを納得する伏黒。
「あ、それいいじゃん!やろうやろう!」
「お、いいな。参加するぜ」
「あ、俺も」
切島の言葉を皮切りにピンク色の肌をした女子、芦戸が手を挙げて参加を表明し、多くが参加する事になった。
「全員参加か?おーい、爆豪。お前はどうする?」
「……」
切島が声をかけるも爆豪は無言のまま教室を出て行った。今日の訓練で緑谷に負けた事がよほど響いているのだろう。実際、緑谷との戦闘の後は俯いたまま一言も声を発さなかった。プライドの高い者が負けるなどのことがきっかけで起こることは二つほどあることを伏黒は知っている。
一つ目が敗北を糧にして更なる向上に取り組むこと。こういう類の人間は中々に厄介で何度プライドをへし折っても相手を打倒すべく更に強くなり挑み続けることもある。
二つ目は敗北をきっかけに成長も止めてしまう者。肥大化した自尊心が崩れて足を止めればまるで滑り落ちるかのように成長の伸び幅が短くなる。こうなってしまうと向上心や挑むこと自体に恐怖を覚えるようになってしまう。
伏黒の目には少なくとも今の爆豪が後者のようにうつった。
「ありゃ、帰っちまった。まぁいいか。って、轟もか?」
「悪ぃ、今日は用事があるんだ」
「そうか、引き留めて悪ぃな。じゃあまた明日な」
また、轟もそう言って帰った。それを見送った伏黒は自身もバックを持って出ようとする。すると、ガッツリと切島と目が合う。
「伏黒も!?なんか用事あんのか?」
「……いや、特に何もないが」
「なら反省会やんねぇか!?あんま時間かけねぇからさ。な?」
少しだけぐいぐいと切島は伏黒を反省会に誘う。流石の伏黒もそこまで言われると断りにくくなる。少しだけこの後の時間を考え込んでから本当に特にない上に他人から見て自身はどう見えるのかを知るいい機会だと思い残ることを決める。拳藤に今回は一緒に帰れないことをLI○Eで送ると取り敢えず切島に参加することを告げる。
「いいぞ。よろしく頼む」
「おう、さっきも言ったけど長時間はやらないぜ。今回指摘されたところを踏まえればなんか見つかんじゃねぇのかって理由で集まってるわけだしな。それに伏黒もまだ話してない奴いるだろ?反省会も兼ねた交流会として打って付けだと思わねぇか?」
後光が出そうなほどの陽キャオーラを引っ提げた切島の提案に伏黒は荷物を下ろして席に着くとそれと同時に反省会が始まった。立ち話でワイワイと騒いでいるようにみえるが、実際は真面目に訓練を振り返っている。見た目で案外判断できないもんだなと1人眺めていると。
「ところで伏黒の個性って結局なんだったんだ?」
ふと稲妻模様のメッシュの入った金髪で、釣り目で眉の薄い顔のチャラ系男子生徒である上鳴が話題の矛先をこちらに向けてきた。顔を上げると何名かが顔をこちらに向けていることが確認できる。参加した以上自身の個性の説明をすべく手で犬を型取って玉犬を呼び出して説明をする。
「尾白と葉隠には説明はしたが、個性は影絵。手で象った動物を呼び出す個性だ」
「へぇー、んじゃあ。あれなの?個性把握テストで出てきたやつらもお前の影な訳?」
「そういうことだ」
「他にはいないのー?」
「個性把握テストで見せたのが全部だな」
一通り説明すると皆が納得したように頷く。その後、芦田が玉犬を撫でていいか聞き始めたため、嫌がらない程度ながら良いと言うと女子勢を中心に一斉に玉犬へと群がった。八百万がソワソワしながらジャーキーを生成しているのを見ていると鋭い目つきに赤い瞳の黒い鳥のような風貌をした常闇がこちらに近づいてきた。
「なんだ?」
「似た者同士故に引き寄せられた」
「似た者同士?ってことはお前も」
「ああ」
伏黒の予想を常闇は肯定する。すると、影のようなモンスターが腹部から現れた。思ったよりも大きいなと思いながらマジマジと観察する伏黒。
「これが俺の個性ダークシャドウだ。俺の中に眠る闇をエネルギーにしている」
『ソウ言ウコッタ!ヨロシクナ!』
常闇がダークシャドウと呼ばれた影型モンスターの紹介を終えると共に流暢に喋り始めた。しかも、明らかに常闇以上に気さくに。自意識を持った個性、伏黒の玉犬なども自意識はある。しかし、喋ることはない。未だかつて見たことのない個性驚きながらもに世界は広いことを改めて確認させられていると、常闇が伏黒に向けて手を差し出す。
「似た個性を持ったもの同士がこうして出会えたのも何かの縁。ヒーローに至るまでの覇道を共に歩み続けようではないか」
「……ああ、よろしく頼む常闇。それにダークシャドウ」
差し出された手を伏黒が握り返すと常闇はフッと笑いダークシャドウは『コンゴトモヨロシクナ!』と言いながら伏黒と常闇の手の上から手を握りしめる。握手を終えて手を離すと伏黒は反省会というわけで常闇、蛙吹チーム対八百万、峰田チームの話をする。
「そう言えば常闇。訓練で何があったんだ?訓練終了後は峰田と八百万は目に見えて落ち込んでたが」
「……黙秘をさせてもらう」
「おい待て、何があったんだ」
質問した瞬間、目を背けて黙秘権を行使する常闇。墓場まで持っていくと言わんばかりの態度に流石の伏黒も困惑する。一応、口の軽そうなダークシャドウに聞いてみても『アー、ソノ、ダナァ……。マァ、オレモ秘密ッテコトデ……』と言葉を濁した。本当に何があったのか是非とも気になったがあんまりしつこいと相手にも迷惑だと思い大人しく引き下がる。すると常闇は話題を切り替えるように伏黒の話をする。
「しかし、俺としてはお前の作戦に驚かされた。よくあんなの思いついたな」
「それめっちゃわかるわー!俺なら建物凍らされて身動きが封じられかけたら焦ってなんもできねぇもん」
「あと、近接戦が強かったわね伏黒ちゃん。2対1でも一歩も引いてなかったわ」
「すまない俺も聞かせてくれないか。お前から見て俺はどうすべきだったか聞きたい」
伏黒の話をしていた瞬間、上鳴と蛙吹と障子がこちらに来て割り込むように話しかける突然のことに伏黒は軽く驚きながらも運が良かっただけだと軽く受け流す。
「運が良かった?」
「どういうことなの?」
「あそこが動くことの限られた閉所で相手が2人いて、2番目だったからな。あそこが1番目でだだっ広いところなら俺らが負けてた」
そこまで言うと上鳴と蛙吹と障子と常闇の4人とも首を傾げる。それを見た伏黒は流石に説明が足りなさすぎたかと軽く頰をかくと再度説明を開始する。
「多対1でやる時は必ず狭い通路とかでやるのが定石なんだよ。そうすれば相手もまともに動けないし、嫌でも1対1に持ち込めるからな」
「ケロ……でも、あの通路ある程度広かったわ。それこそ2人同時でも通れるほどに」
「そこは障子の巨体を利用した。そうすることで轟の氷結を防いだ。障子に関しては1回目で爆豪が高火力ぶっぱで建物を破壊したことで『建物の破壊はヒーローチームから見ても良くない』って思うだろうから率先して挑んでみた。そしたら案の定、動きにくそうにしてたよ」
そこまで言うと蛙吹は納得したのか感心したように頷く。そしてその後に多々ある腕の一部を口に変えた障子が伏黒に問いかける。
「……つまり。俺があの時すべきだった行動は多少建物を破壊してでもお前を攻めるべきだった、と?」
「そう言うことだ」
「なるほど参考になる」
実際のところ障子が建物の壁を破壊して戦うフロアを広くされていたら負けが濃厚になっていた。伏黒としてもあんだけ喧嘩三昧の日々を送っておいてその経験を生かせずに負けようもんならそれはそれでショックを受けていただろう。すると今度は常闇が質問をしてきた。
「もし、2人が離れたらどうするつもりだったのだ?それこそ計画がご破算だったのではないか?」
「そこは俺が一人一人相手取るつもりだったよ。万が一核にたどり着いたとしてもそこは玉犬たちに対応してもらうことにしてた。戦闘になればいやでも建物に戦闘の余波が響くだろうからな」
「そこまで考えてたのか……」
目を見開き驚く常闇を見た後に玉犬達の様子を見る。するとそこには力なく横たわる玉犬とそれを撫で回すクラスメイトの姿があった。「ケテ……タスケテ…」と言いたげな目でこちらを見てくる玉犬をガン無視していると切島が緑谷について話題を上げる。
「そう言えば緑谷はまだ保健室だしな。大丈夫かよアイツ・・・」
第一回戦の際、緑谷の右腕は個性を使った反動でボロボロになり、更には左腕が爆豪の個性の『爆破』によって火傷と裂傷を負っていた。どちらの腕もボロボロになっている。試合後、気を失った緑谷はすぐに保健室へと運ばれたのを伏黒やクラスメイトは見ていた。その話が話題に上がると他のクラスメイトも心配し始める。すると、扉が開いていく。クラスメイトのほぼ全員が視線をそこに向けるとギプスを付けた緑谷が入ってくるのが確認できた。
「おぉ~緑谷来た!お疲れ!」
切島を筆頭に何名かのクラスメイトは緑谷が戻ってきたのを見ると、今度は緑谷の方へ向かった。そして今回の緑谷の活躍を褒め称える生徒達。緑谷は若干戸惑いながらそれらに対応していたが、爆豪がいないことに気付くと急いで教室から出て行ってしまった。そして校門の前で爆豪に追いつくと何やら話し始めた。伏黒は一区切りついたのか話終わり帰っていく爆豪を見て心配事は杞憂であると思った。それを見届けた伏黒はバックを持って席を立つ。
「あれ?もう帰るの?伏黒」
「悪りぃ。家帰ってメシつくんねぇといけねぇから」
「そうか、もうそんな時間か。よしわかった。伏黒また明日なぁ!」
切島が手を振って伏黒に別れを告げると伏黒も「おう」とだけ答える。目があった常闇や蛙吹にも軽く手を振ると2人とも同じく手を振って答えた。そしてそのまま教室を出て家に帰宅する前に食材を購入してから入学二日目はこれで終了した。
余談だが伏黒は個性の発動効果範囲に出て自身の影に玉犬が戻ってくるまで玉犬を置いて行ってしまったことを忘れていたと言う。
伏黒くんにとって相性の悪い個性は増強型や硬化系です。故に切島くんとかめちゃくちゃ相性悪いです。