球磨の薬指   作:vs どんぐり

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第15話 叢雲の薬指 11

 お前は二番手にしておくには惜しい人材だ。

 なあ一ノ傘。

 どうだ、私に代わり天照大艦隊を統べる気はないか。

 コツコツと板張りの廊下をリズムよく踏み鳴らして横を歩く一ノ傘は、

「や」

 と私のほうを見もせず、せっかく捏造してやったありもしない美徳まで並べたというのに、無遠慮にひらがな一文字で却下した。顔色一つ変えない。

 味も素っ気もありようがないひらがな一文字は、もしかしたら口からゲップのように出たのかもしれないと考えた私は、出鼻をくじかれはしたが話を続ける。

「ずっと考えていたのだが、やはりお前は艦隊を先頭で指揮してこそ輝ける人間だ。誰かの補佐に回るなど性に合わないとお前自身も思っているはずだ。そうだろう?」

「全っ然、粉微塵も思っとらん」

「ブラック鎮守府と言われていたことを気にしているのか? あれは艦娘を砲弾や魚雷のように使い捨てる連中を指す言葉だ。お前は違う。ここのところ龍驤と龍鳳が干し柿のような顔をしてはいるが、力を付けた二人は後々になってお前に感謝するだろう。戯言なんぞに耳を貸すな」

 私の言うことに耳を貸さなくなってしまった一ノ傘は返事も反応すらもすることなく第二執務室に戻っていった。その背中を少し睨んで私も第一執務室に一歩入った直後、机の上の電話が鳴った。相手は一ノ傘の声で喋った。

《今日のそっちの秘書艦って叢雲ちゃんよねぇ》

 通信回線の向こう、また壁一枚挟んだ向こうで一ノ傘が勝ち誇ったようにニヤついているのが容易に想像できた。受話器を耳に当てた私を、一ノ傘の言う通り秘書机に座った叢雲が見ている。

「だったらどうした」

《あら、ひとがせっかく気ぃ遣ってやったんに冷たいねえ。さっきの話、ワタシがあんたの部屋の前であることあること喋って叢雲ちゃんに聞かれてもよかったん?》

「あることあること? なんだそれは」

《あんた最近、やたらワタシに立場押し付けようとしてくるやん。こんな時代に鎮守府から出て他の仕事探すんかな、なんでかなーって考えとったんよ。それでちょこちょこ艦娘たちに聞いとったらね、偶然あんたがこんな話しとるのを聞いたらしいんよ――叢雲ちゃんと寿退役したいって》

 私の脳内に瞬時に暗雲が立ち込め、記憶の稲妻が閃いた。あれは雨続きの最後の日であり、また丸一日記憶を失った日の前日のことだった。秘書艦だった時雨と休憩中に話をしていた私は「二人揃って寿退役」と軽口をたたくようで心からの願望を口にした。もう数ヶ月も前の事だが確かに言った。

(※詳しくは……いえ別に詳しくはないですけど【 叢雲の薬指 3 】を参照してくださいね!)

 時雨が他言するとは思えない、いったい誰が盗み聞きしていた!

《竹櫛のヘタレぶりはよー知っとるけん、まだ叢雲ちゃんには何もアプローチしとらんのやろ。どーしてもワタシに仕事押し付けたいんやったら、今からそっち言ってナマでお喋りしてもいいんよ?》

「……要求は何だ。さっさと言え」

 叢雲がギョッとしてこちらを見た。確かに通話で「要求は何だ」と言わなければならない相手といえば誘拐犯や爆弾魔のような輩を想像するだろう。手信号で(気にするな)と送ると、叢雲もため息をついた後で手信号で(早く仕事に戻れ)と返してきた。

《ワタシねぇ、今の立場がけっこう気に入っとるんよ。前と違っていざとなったら竹櫛を盾にできるし》

「おい貴様」

《艦隊も、まあワタシの責任の重さは竹櫛と重複して増えたと思っとるけど、艦隊そのものがメチャクチャ強くなって事故が起こる確率は激減するはずやし、よかったとは思っとるよ。でも事故る確率をゼロにはできんやん? 例えば竹櫛が鎮守府から出ていった後で――》

「胸糞悪い例え話すら出る余地を無くすのが我が艦隊のルールだ。私がいなくなったとしても全員が必ず遵奉するよう教育している」

《あんたのやり方にケチつけたいわけやないって。ワタシとあんたで珍しく共通しとるとこやろ? そこにワタシのやり方を加えてほしいって話よ。今のままじゃう、海に出た子たちが心配で心配でたまらん》

「不安を煽るのは保険屋のやり方だな。私は脅されているのか?」

《あーごめん、ちょっと真面目な話んなる。ちょっと屋上でも行こ》

 司令官が副司令官に呼び出されてたまるか。「お前がこっちに来い」

《あんたが動かしとった艦娘に聞かせていいか悩んどるんよ。叢雲ちゃんは艦隊全体の旗艦みたいなもんやから特に。余計な足枷になったら嫌やし》

 叢雲の名前を出されてしまっては動く他にない。一ノ傘が保険の営業であれば私はなんとチョロい客であろうか。まあ今の時代、この職と保険屋の間には危険という隔たりが高く広くそびえ立っているため無縁であるが。

 席を立とうとしたところで、今更ながら電話の向こう壁の向こう、一ノ傘の隣にも秘書艦がいることに思い当たった。今までの一ノ傘の余計な発言はすべて聞かれているではないか!

「おい、そっちの秘書艦は誰だ」

《電やけど》

 私と時雨との会話を出したのは当て付けだったのだろうか。一ノ傘と電が仲直りをした後、二人の関係がどのように変化したのかは私の与り知るところではなく、一ノ傘の百合的恋慕の行方も定かではない。個人的には一ノ傘と電が相思相愛になることを強く望んでいるのだが、電の私をターゲットとする緩急を付けた絶妙なアピールが終息の気配を見せないあたり、物事は望んだようには運ばないものだと嘆く他にない。

 半ば思考を放棄し、電話を切って腰を上げた。

「すまん叢雲。また少し席を外す」

「はいはい、いってらっしゃい」

 叢雲は実にそっけなく、ひらひらと手を振って私を執務室から追い出そうとするかのようだった。

 

 

◆――――◆

 

 

 扉が閉まるのを見て、私は椅子の背もたれに体を預けて、天井あたりを漂っていると思われる淀んだ空気を眺めた。

 一ノ傘副司令を妬んでも心が荒んでゆくばかりなのは分かっているけれど、一人留守を任された執務室では司令官を連れ出した一ノ傘副司令に心の中で「あほー……」と八つ当たることくらいしかやることはなかった。浅ましい罵倒はすぐに私自身に跳ね返ってきた。

 司令官はずっと前から司令稼業を辞めてしまうことを仄めかしている。私を残し……もとい、私たちを残して、鎮守府から出て行きたいと。

 関係者が戦争から手を引きたがるのは珍しいことじゃない。情報が規制されていても人から人へ、噂は風に乗って届いてくる。時には艦隊を去った事実より、その理由ばかりが強調される。

 電は――ああ思い出したらまた腹が立ってきた――こう言っていた。

「私たち艦娘は、いつ灼熱の炎に焼かれて寒冷な水の底に沈むか分からない身です」

 この言葉を『轟沈』のたった一言で片付けるべきか? 深く考えてしまう司令や恐れ怯えてしまった艦娘は恥も外聞もなく逃げるべきだと私は考える。人から人へ語られる噂、写真や映像に残される資料、それらは氷山の一角どころか砂漠の砂の一粒に過ぎない。目を瞑り耳を塞いでも逃れられない現実に背を向けるのであれば……そんな人たちの恐怖を水平線の彼方へ追い散らすのが私たちの役目だ。

 灼熱の炎に焼かれ、寒冷な水の底に沈むことを覚悟して。

 

 

◆――――◆

 

 

「艦娘がどうやって轟沈するか知っとる?」

 風になびく長い髪をかき分け、すっかり錆びてしまっている柵に寄りかかった一ノ傘は、そっぽを向いて缶コーヒーを開けた私に続けて問う。

「じゃあ昨日も届いた『慢心、ダメ、ゼッタイ!』のポスターは?」

「もう何枚届いたろうなあ、あれ」

 捨ててはいないから執務室のどこかにまだ残っているだろう。目に付く場所に必ず貼れとの命令も一緒に付いてきたことを思い出したが、私の興味は建屋屋上からの景色に再び移った。階下の執務室から高さはあまり変わらないはずの景色は新鮮なものだった。青く晴れた空を遮るものはなく、気温を上げる忌々しい陽光がコーヒーの味を引き立てるのに役立った。

「あのポスター、艦娘が手ぇ伸ばしながら海の底に沈んでいっとったろ」

「ああ」

「絵にケチつけるのも阿呆らしいけどさ、あれ、おかしいと思わん?」

「よく見ているわけではないからな、覚えていない」

「五体がちゃんと残っとるのに沈むのってどんな状況やろね」

 私は深く考えず答えた。「魚雷の炸裂で脳震盪でも起こしたんじゃないか」

「艦娘の装備は、当たり前やけど浮かぶように作られとるやん? それに一人が気絶しても普通は他に誰かがおるもんやろ」

「何の話がしたいのだ貴様は。また私を脅しているのか?」

「つまり」一ノ傘は腰から拳銃(お気に入りのエアガンだ)を抜いて、銃口を自分のこめかみに当てた。「艦娘が沈むには相応のダメージを食らわんといかんのよ。普通の人間は小さい銃弾で、艦娘は装甲を貫く砲弾で、っつー違いはあるけどね。……恥ずかしながらそれを艦娘に見せてしまって、報告させてしまったことがあるんよ」

 バスン! と一ノ傘の銃が作動した。空撃ちであっても今の話の流れで自決の真似事など悪趣味極まりない。一ノ傘は銃を腰のホルスターにしまった。

「いきなり応援の要請が入ってね、でも主力部隊は遠い海域に出しとったし、高速艦の急造部隊を向かわせたんよ。でも他の艦隊に応援要請しとる時点で……分かるやろ? ワタシの部隊が到着した時には深海棲艦もおらんで、壊れた装備がいくつか浮かんどっただけやった。火を避けながら残骸が散らばった中を探して、結局見つけられたのは一人だけ。飛行甲板にしがみついとった」

「そいつは助かったのか」

「高雄がね……」話を続けようとした一ノ傘の表情が崩れた。俯いて「ごめん」と呟いた。

 途端に一ノ傘が小さく見え、私は何故だかそれが気に食わなかった。阿呆だらけのこの鎮守府で、一ノ傘にまで調子を狂わされてはたまらない。私は飲みかけのコーヒーを握らせて、いつもと変わらない穏やかな海を眺めた。

「その子、抱き上げたらね……胸から下が、無かったって……」

「そうか」

 へたり込んだ一ノ傘の隣に私も座った。このような日もあるのだろう。

 

 

◆――――◆

 

 

「――という話をしてると思いますよ、屋上の二人は。一ノ傘『元』司令官の鎮守府がブラックになったのはそれ以来ですね」

 二人の司令官がいなくなったのをいいことに、仕事をサボってこちらの執務室に遊びに来た電は『慢心、ダメ、ゼッタイ!』ポスターで折り紙を楽しみながら語った。

「いやあ、あの時はさすがにみんな、参ってしまったのです」と嘯く電。ポスターが気に食わないのか私が気に食わないのか、どちらにせよ電の腹立ち紛れの話のせいで今日の夕食は不要になりそうだった。

 高雄とはまだ任務関係で軽く話したことしかない。でも会話に気を遣う必要がありそうには思えなかった。

「こんなに簡単に話していいの? デリケートに扱う事件じゃないの?」

「ここぞの時のために叢雲さんは知っておくべきと思いまして」

「……なに、ここぞの時って」

「この話をダシにして副司令官が偉い人から色々ふんだくる時です」

 ドン引きがさらに極まった。

「気をつけてくださいよ。うっかり『アンタ艦娘を死ぬほど働かせてるでしょうが!』ってツッコミ入れてしまったら一ノ傘副司令の名演技が台無しになりますから」

 泣き崩れる一ノ傘副司令がスケベ心丸出しの男たちを手のひらで転がして、心の中で笑っている姿が容易に想像できた。今までいったい何人の阿呆がその毒牙にかかったことやら。

 呆れて言葉も出ない私の顔を見て、電は慌てて付け加えた。

「あ、いえ、その時は本当に艦隊のみんながショックを受けたんですよ。高雄は立ち直るまで長いこと病院に通ってましたし、一ノ傘司令官も『資料映画の世界が現実になった』って考え込んでしまいました。他のみんなも海が怖いって言い始めたんです。だからわたしと雷、蒼龍、飛龍、長門、陸奥の六人で手当たり次第に深海棲艦を駆逐して回りました。わたしたちなら絶対に大丈夫だって言いながら。振り返ってみると本末転倒ですけど、そのうちわたしたち六人に他のみんなも続くようになったんです。一ノ傘司令官の盛り返しは一番最後でした」

「ん? ブラック鎮守府になったきっかけ、の話よね?」

「です」電は首肯した。

「いちばん最初の頃はわたしが応援に行かないと壊滅待ったなしだったくらい、一ノ傘司令官には司令官としての素質が欠けてた、のはご存知ですよね。資材を枯渇させたりわたしたちに論者積み装備させたり。暫くはわたしたち艦娘の個々の能力だけが頼りでした。ですがさっきお話した事件があって、わたしたちが我武者羅に敵を倒していくのを見て、一ノ傘司令官のスイッチが入ってしまったんです。それからは……まあ良くも悪くも、一ノ傘司令官はわたしたちを追い越していきました」

 電は丁寧に折りたたまれたポスターに口を付けて息を吹き込んだ。ふっくらと大きく立派に、しかし素材が『慢心、ダメ、ゼッタイ!』ポスターなだけに縁起がいいとは言えない鶴が誕生した。

「つまり以前までの鎮守府がブラックになったきっかけは一ノ傘司令官にはなくて、勝手に無茶な出撃を繰り返したわたしたち艦娘――というか最初に立ち上がったわたし含む六人にあるんです。一ノ傘司令官のことを最初からブラック鎮守府の女王だったみたいに見る人は多いんですが、就任からいきなりブラック稼働なんてしてたら三日経たずに焦土にされちゃいます。艦隊に歴史あり、なんて考えもしない人たちは良いカモだとか言い始めたのもその頃からです。まさか一ノ傘司令官に『ブラックな鎮守府を指揮する』才能があったとは想像もしませんでしたが……わたしたちが苦労していたのは自業自得、だったのです」

 

 

◆――――◆

 

 

 流れてゆく雲の形で一人ロールシャッハテストを行いながら、そういえばあのテストに用いる絵は左右対称だったと思い出し、テストを切り上げて視線を下ろした。

 打ちっぱなしコンクリートの上に蹲って、伏せていた顔をのろのろ上げた一ノ傘はコーヒーを一気に飲み干して「今のままで安全やと思う?」と肯定を許さない問いかけをした。

「海に絶対の安全などあるものか」と返すと、気に食わなかったのか空き缶で私のふくらはぎを突っついてきた。何かにつけて発揮される一ノ傘の攻撃癖が今だけは可愛らしい(まだまだ未熟に見える的な意味であって、一ノ傘が叢雲のように可愛いということは断じてない)。

「あんたの艦隊の過去の報告書、全部目ぇ通したんやけど、普通やったら誰か最低一人は轟沈しとるはずの任務が二件あった。ひとつが撃滅任務で、もう一つが物資のお使い。お使いはヘタしたら全滅しとった」

「馬鹿を言うな。私はお前と違って敵を選ぶ。危険だと判断される海域には絶対に近寄らせない」

「あんたがミスったわけやないよ。ただ運悪く想定外の敵に出くわして、運良く部隊メンバーが想定外に対して強かっただけみたいやし。まあ、そんなひねくれ者たちやから、あんたにちゃんと伝わらんかったんやろうね。ワタシみたいな第三者やないと読んでも気づかんやろ、あの報告書やと」

 ひねくれ者、という言葉で真っ先に一人の間抜け面が思い浮かぶ。

「球磨か」

「そう、一人は球磨ちゃん。たぶん数えたくもない数の敵機動部隊に囲まれとったんやろうね。普通なら誰かが囮か盾になってでも突破するしかない状況なのに、どうやったかは分からんけど無傷でやり過ごして帰ってきとる。球磨ちゃんの報告書にもちゃんと書かれとったよ。目立たんように、やけどね」

「……だからあの阿呆は気に入らんのだ」

「もう一件は長月ちゃん」

 意外な名前が挙がった。

「夜間の輸送任務で旗艦は天龍やったけど、報告書には長月ちゃんに刀盗られた単独行動されて探すのに時間食った、って文句ばっか書いてあった。でもおかしいやろ? ただの輸送任務で部隊の足並み乱す意味無いもん。それで他の子に話聞いたらね、レ級らしき奴が単騎でうろついとったんやって。そいつに長月ちゃんはたった一人で天龍の刀担いで、こっそり戦いを挑んだんよ。しかも部隊に合流した時は天龍の刀を無くしたのと弾薬を全弾消費して、燃料もかなり使っとったけど、報告書になんも書かれとらんってことは天龍の目から見て長月ちゃんに異常はなかった。帰投後もドッグ入りしとらん。無傷で帰ってきとる」

「さすがにお前の勘違いだろう。長月本人には聞いたのか?」

「覚えていない、の一点張り。でも時雨ちゃんが確かにレ級にロックオンされたって言っとるんよ。その標的を引き受けて長月ちゃんが向かっていったって。……信じられんのはワタシも一緒よ。だってロクな装備もない子が一人でレ級の相手して無傷で生きとるんやもん。雷巡・重巡・戦艦どころの話やない、ベヨネッタくらいの別次元的な強さやないと」

 小柄な長月がキャンディーを舐めながらレ級を必要以上に挑発する姿を想像した。「ギャグだな」

「ワタシもバカ正直に信じとるわけやないけど、天龍たちが何らかのギャグに命を救われとるのは間違いない。竹櫛はこのままでいいと思う? 送り出す部隊に万が一があっても、球磨ちゃん長月ちゃんみたいに才能ある誰かが何とかするとは限らんのよ。ワタシだって……もう迂闊に応援部隊組んで出撃させたくない」

「誰だって不愉快な思い出などいらん。……それで、考えがあって私を屋上に連れ出したのだろうな?」

 我が意を得たりとばかりに一ノ傘は立ち上がり、私に向けて人差し指を突き立てた。表情は空模様と同じく晴れ晴れとしている。まるでさっきまでメソメソしていたのが演技であったかのように。

「勿論、考えはあるんやけど、まず前提として竹櫛には叢雲ちゃんとの寿退役を諦めてもらわんとねえ」

「はあ!?」

 なにをいきなり、と詰め寄る前に一ノ傘は柵から身を乗り出し、下に向かって叫んだ。

「叢雲ちゃーん!」

 

 

◆――――◆

 

 

 窓の外から名前を呼ばれ、顔を出して屋上を見ると、屋上の縁から一ノ傘副司令の顔がひょっこり出ていた。3メートルくらいの距離だから普通に会話もできるけど……。

「……何してるんですか?」

「竹櫛がねー。『一人で』艦隊やめたいってダダこねとるんよー」

「貴様なにを! ――違うぞ叢雲、誤解だ」と司令官が一ノ傘副司令の横に並んだ。

「どうしたんです?」と電まで私の隣から顔を出して、重力に逆らいながらの雑談に興じる四人。なんというか、平和だった。

 そのまま一ノ傘副司令が艦隊の方針を変える話を始めそうになり、慌てて私は話を遮って、屋上にいる二人に降りてくるようお願いした。青空はホワイトボードにはならない。

「自由な人よね、一ノ傘副司令って」

「フリーダムさで言えば叢雲さんたちも負けてませんよ」

 ……その通りではあるのだけれど、電には言われたくないし、何より私が阿呆たちの筆頭のように言われるのは甚だ不服だった。

 

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