球磨の薬指   作:vs どんぐり

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第22話 妖精さんの、かんたいこれくしょん

 手のひらサイズの三頭身が、台車の上でゴム毬のように飛び跳ねた。

「むらくもさん、むらくもさん」

 無表情にも関わらず楽しげらしいことが伝わって来るのは、妖精さんが器用なのか私が毒されたからか。

「はいはい、なあに?」

【叢雲;Lv.104 → 111】

「さいしんへいき、できました?」

 いや、私に聞かれても……。

 錆だらけの鉄柱が屋根を支えるここ工廠では頃来、何故か、言語体系が非常に不安定で不安になってくる。意思疎通は図れている(らしい)からいいのだけれど。

「お願いしてた主砲の改修ができた、ってことよね?」

「ありていにいえば」

「装備の改修って、私まだよく分かってないのよ。どんな風に改造できるの?」

「ちょーすてきなかんじに?」

「……漠然とした聞き方した私が悪かったわ。仕上がったもの見せてくれる?」

「あいー」

 私の肩に飛び移った妖精さんは、重さをまったく感じないほど軽い。

「あっち、かも?」

 指をさされた方へと歩いていく。

 弾薬箱や部品が並ぶ棚の間をすり抜けて行くと、隙間から次々と、とても工事作業に向いているとは思えない色とりどりの服を着た妖精さんが飛び出してきた。みんながヘルメットの代わりに三角帽子を被っていて、やっぱりみんな無表情。

「むらくもさんだ」「むらくもさんか?」「おそらく」「まちがいないかと」「ぎゃくに、むらくもさんなのでは?」「そのかのーせーは、ひてーできませぬな」「きよくただしきつんでれだ」

 頭が痛くなってくるので、いつも通り「お疲れ様」と軽く手を振ってスルー。ちなみに彼ら(彼女ら?)がお疲れになるような仕事をしているのか、艦隊の誰一人として知らない。結果は出しているのだけれど、その過程がサッパリ不明瞭。そもそも常に無表情なのだから、疲れたとしても顔に出ようがないし。

 消耗品置き場から完成品置き場に移ったあたりで、

「あれでっせ」

 お目当ての品は、妖精さんに言われるより前にソレと分かった。いや正確に言うと、ソレが雑多に置かれた兵器の中であんまりに異彩を放っていただけで、私は決してあんなモノを目当てに改修をお願いしたわけじゃあない。間違いであって欲しかった。でも妖精さんは間違いなくアレを指していた。

「いや、あのね? ちょっとアレは……何?」

「くーりんぐおふ、きかんぎれです」

「まだ納品すらされてないんだけど!? 悪徳商法も雑すぎよ!」

「らいせんすせいさん、しましたがゆえ」

「なに勝手な契約を無許可で……どこから? どの国から?」

「さー?」

「……まぁいいけど。今更だし」

 妖精さんを相手にいくら質問をしたってせんないので、作られた現物で成果を確かめるしかなかった。

 私が改修をお願いしていたのは10cm連装高角砲。そのままでも優秀な主砲だけれど、せっかく数は揃えられて試験機には困らないから、ひとつ試しに強化改修してみることにした。ライセンス生産パーツを使ってまで強化しろとは誰も言ってないけれど。いや使うなとも言っていないし考えもしなかったけれど……妖精さん語の言葉の綾ということにしておこう。うん、私が気にしすぎているだけ。うん。

 で、改修が完了したらしい物体Xが目の前にある。

 どうやら火器というカテゴリーからは外さないでくれたらしく、物体Xの下部から6砲身のガトリング砲が勇ましく突き出している。きっと砲撃の際は砲身が超高速回転して恐ろしい程の連射ができるんだと思う。元のシンプルな砲身2本から何をどう弄ったらガトリング砲になるのやら……とりあえず見た目のインパクトは絶大なものになった、ということで。

 そう、最大の問題は見た目。

「ねえ妖精さん」肩の上でクネクネしている妖精さんに、無駄だろうなと思いつつも聞いてしまう。

「はいな」

「この真っ白な……ええと、トイレットペーパーの芯に卵の殻の下半分を乗せたようなものは何?」

 形状については芸術的オブジェっぽさのせいで、どう表現したものかとても難しい。モノで例えるならば星の戦争のR2-D2とか、シルバーソウルのジャスタウェイとかに似ている。

「ましーんですが?」

「てい」指で妖精さんのお腹をつついた。

「やーん」と悶えながらも何故か嬉しそう。

「見りゃ分かるわよ。ああいや、機械だってことしか分かんないんだけど、どんな意味があるのかを教えてくれる?」

「さすが、めのつけどころが、しゃーぷです?」

「これだけ目立ってれば誰だって気になるわよ」

「むらくもさん」

「うん?」

「……ぼくのことも、みて?」

 この謎の兵器Xと同じくらい妖精さんのことも分からない。

「妖精さん、飴ちゃん食べたくない?」

「あめちゃんらびゅー!」

 でも、とても分かりやすくもある。

 妖精さんが飴玉をペロリと(ほんの数回ほど舐めただけで全部溶かしてしまったかのように消化してしまう)平らげたところで、話を元に戻す。

「で、この白い機械は何なわけ?」

「かいぐんでゆーところの、でんぱたんしんぎ?」

「普通にレーダーって言ってくれていいから」

「そうよぶのも、やぶさかではありませんな」

「火器にレーダーって、どう使えばいいのかいまいちピンと来ないわね。もう改修完了してるなら試射できるのよね?」

「……どーしても、やる?」

「なんで含み持たせんのよ……だめな理由があるの?」

「やるきのもんだい、てきな?」

「だから、やりたいんだけど。私すっごいやる気あるんだけど」

「ただのてすとじゃ、こいつをまんぞくさせられないぜ」

 武器のやる気って何よ……。

 

◆――――◆

 

 

 鎮守府近海の掃討や遠征で慣らしている最中のメンバーらを演習に連れて行くのは、新兵器Xのテストにも丁度良かった。……工廠にあるテスト環境をスルーしていきなりの装備は嫌過ぎるのだけれど、作った妖精さんが使え使えとうるさくて、監督役のはずの私だけが装備に不安を抱いた状態での部隊編成となってしまった。

 旗艦は時津風。

【時津風;Lv.12】

 時津風を先頭、私をしんがりとした駆逐隊の単縦陣で、どうにも綺麗な一列になりきれていないあたりから、皆のぎこちなさが伝わってくる。

「あと数分で相手の偵察機が飛んで来るはずだけど、飛んできた方向に相手がいるとは限らないからね」

 前を進む五人に、出撃前に確認したことをもう一度言い聞かせた。――時津風、ハンドシグナル覚えてないなら普通に返事してくれていいから。その手は何、忍術の印?

「相手は正規空母と戦艦のたった二人だけど化け物よ。下手すると近づくこともできずにやられるからね」

 時津風を真似て他の四人まで忍術で返事してきた……今はいいけれどね。ちゃんと話、聞いているなら。

「とにかく、相手の航空機が見えたら片っ端から撃ち落とすこと。ほとんど迎撃できないでしょうが、それでもよ。私たちの目標は航空戦と砲撃戦を突っ切って雷撃戦まで持ち込むこと。いいわね」

 全員、忍術。肝は座っているようで大変よろしい。

 今回の演習相手はお隣りの鎮守府の二人、葛城と大和。たった二人での部隊編成なのは平均練度の低い私たちに合わせてくれたわけでも、こちらを甘く見ているからでもなく、所属している艦娘が諸事情あってこの二人しかいないから。よくもまあ艦隊として成り立っていると感心させられる。

 一人は深海棲艦になりかけるも蘇った正規空母、葛城。

 もう一人は全国区の強さを誇る『撃沈王』戦艦、大和。

 どちらの練度も当然のように測定不能域に達していて、もう何度もこちらから挑んだ六人を返り討ちにしてくれている。しかも人手不足は明らかなため、酷い時には葛城がタブレットを片手に秘書艦としての仕事をこなしながら、もう一方の手で航空機を飛ばして来ることもあったとか。ボコボコにされた矢矧曰く「最初は舐められてるって頭にきたけど、あの忙しさで目を回して泣き出しそうな顔を見てると、私たちが仕事の邪魔してるみたいで……」ということらしい。練度カンストしているのに律儀に演習に付き合ってくれる葛城と大和にはひたすら感謝しかない。

 相手の鎮守府の方角へと一直線に向かっていると、

「来た、来たよー! あっち! えーと……2時の方角!」

 時津風が指した方向から偵察機の一団がゆったりと飛んできている。こちらの戦力は既に大まかに把握したからか引き返すでもなく、さらに近づいて詳細を観察に来られている。さて、こちらの情報が丸裸にされたところで、どうするか――じゃない。今の私はあくまで演習の監督で新兵器Xのテスターだった。戦術は旗艦に任せないと。

「むらくもー! 戦闘始めていーんだよねー!?」

「前を向きなさい前を! 爆撃されるわよ!」

「よーし。それじゃあ時津風隊、あっちの方角へ突撃ー!」

 時津風がものすごく大雑把な作戦を立てて速度を上げた時だった。

 

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 

 私の艤装が突然、けたたましい炸裂音(レシプロエンジンを酷くしたような音)と共に火を吹いた。あまりに突然の衝撃で海の中へとひっくり返りそうになり、わたわたとみっともなくバランスを取ってなんとか立ち直した。

 一方、空からも同時に異音が聞こえた。私たち時津風隊に探りを入れていた偵察機が全機、なんと、黒い煙を吐きながら墜落しているところだった。

 時津風隊、速度の維持なんて忘れて全員ポカーン。

 前方の三人は青空に墨汁を垂らすように落ちてゆく偵察機を見ていた。「我ニ追イツク敵機無シ」とは何だったのか。

 後方の二人と私は、私の艤装から火が出た部分――新兵器Xをじっと見ていた。

 火薬臭い新兵器Xと撃墜された偵察機。状況証拠からも間違いない。……のだけれど私に撃った覚えなんて当然なく、ほんの一瞬で敵機団を壊滅させる対空技術なんて現実的ですらない。

「……今の、叢雲がやったの?」

 イエスでもありノーでもあり、黙り込むしかない私。それと、先の連続ブウウン! にやられたせいか、少し目眩がするような……。

 つい戦場に棒立ちしてしまう間抜けな私たちに対して、相手はもちろん待ってはくれない。飛ばした偵察機が一機も帰って来ない異常にもすぐに頭を切り替えたらしく、私たちが動き出すより早く、更なる機体を送り込んできた。プロペラが風を切り裂く音が恐怖の合唱となり、その数――葛城のカタログスペックと大和の観測機を足せば、丁度あれくらいにはなる。

「い、いっぱい来たー! どどどどうしよう!?」

 そして何より恐ろしいのが、その戦い方。こちらの対空能力がはっきりしていないにも関わらず全機を送り込んでくるやり方には覚えがある。

『押してだめなら引いてはいけません。もっと強い力で押して、必ず道を切り開きます。それが最強の火力を誇る戦艦の使命なんです』

 テレビのインタビューで『撃沈王』大和は確かこんなことを答えていた。国の命運そのものを背負う大本営直属の戦艦様はさすが気合が違っていらっしゃる、と皮肉気味に捉えていたことを思わず無線で謝りたくなる。空を埋め尽くす敵機なんて見慣れているはずなのに、『押してだめ、だからこそ押し通る』鋼の信条が私ですらも含めた全員を竦み上がらせた。

 ……そのおかげ、というのが甚だ遺憾ではあるものの、誰も動けない状況は新兵器Xの謎機能をテストするのにはうってつけだった。

 私は引き金なんて引いていない。

 新兵器Xは再び唐突に、迫り来る戦闘機団に対して猛火を吹き始めた。

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 やっぱり全自動、というより私の意思からも離れたスタンドアローン兵器だった。レーダーらしい白いオブジェも含めた全体が忙しなく動いてはガトリング砲の向きを最も近い敵機の方へ変え、 短い連射を叩き込んでは迷いなく次の目標に移った。

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 自動照準だからなのか曳光弾なんて気の利いたものは用意されておらず、ガトリング砲のマズルフラッシュが灯る度に、一拍置いて戦闘機、爆撃機、攻撃機、観測機がレミングスのように墜落していった。

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 時津風隊は恐怖を忘れ、さっき偵察機を撃墜した時以上にポカーンと、砕け散る敵機と新兵器Xを交互に見ているだけだった。

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 時津風が歓喜と不満を入り混じらせた味のある表情で何か言ってきた。

「なに!? 聞こえない!!」

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 この時点で相手の戦闘機団の過半数を無力化。最後っ屁に魚雷を放っていく機体もいたけれど狙いなんてあったものじゃあなく、時津風隊を狙ったものとすら思えない方向へとすっ飛んでいった。

 ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン! ブウウン!

 しかしさすがは練度測定不能の二人の機体、航空戦を諦めると残った航空機で隊列を組み直して逃れる観測機を私たちから隠すように、他の機体は壁となって引いていった。大和が弾着観測を行うためだ。新兵器Xの鬼神の如き殲滅力にも劣らない切り替えの早さ、やっぱり相手は化け物だと改めて思い知らされる。……相手からしたら私こそ正真正銘の化け物なんでしょうけれど。

 カチッ、とガトリング砲の回転がようやく停止し、嵐が過ぎ去った後の静けさが私たちを間が抜けた感じで包んだ。連続砲撃で爆音を鳴らし続けた新兵器Xのせいで、ちょっと耳をやられた私には足元を打つ波の音が聞こえない。

「……ぜんぶ叢雲一人でいいじゃん」

 と恨みがましく言う旗艦殿の声はかろうじて聞こえた。

「えーっと……高角砲の改修でこんな超兵器になるとはね? ちょっとテストするだけのつもりだったし……演習の邪魔したいわけじゃないのよ? いやホントに」

 スタンダードに連装砲と魚雷、それとごく普通の高角砲を装備している皆からの視線が痛い。

「ほ、ほら、駆逐艦って魚雷撃ってなんぼだから、ね? 受け身に回るしかない航空戦は運良く切り抜けたってことで、だから、えーと……ほ、砲雷撃戦よ時津風! 敵は本能寺にあり!(自分でも意味不明)」

「……分かった。じゃあ行くよ」

 渋々ながらも気を取り直してくれた時津風は後方の五人に進路を示した。

「あっちから飛んできたから、相手もあっちにいる! だからなんかこう、いい感じに裏を取るよ!」

 時津風の非常にふわっとした作戦を聞いていた時だった。突然、視界が真っ暗になり、全身の力が抜けた。いや、感覚が何故だかハッキリしなくなり、艤装を背負っていることや自分が立っているのかすら分からなくなった、というのが正しい。

「時津風隊、あたしに続けー!」

 時津風が言い終わるより先に何かが水面を叩く音を聞いて、それっきりだった。

 

 

◆――――◆

 

 

 目覚めると私は仰向けに倒れていた。いや、天井があるし頭の下はフカフカしているし――医務室か。

 ……私としたことが、やってしまった。

 妙に重たい頭を動かして自分の体を見ると、布団がかけられ、左手には点滴を打たれていた。そして右手は、がっしりと握られていた。

「……時津風?」

「叢雲!? 起きた! 大丈夫!? 痛くない!?」

【時津風;Lv.12 → 13】

「大丈夫よ。ごめんね、心配かけ――」

 時津風の顔がくしゃりと崩れた。

「よ、よかっ……ぐすっ……このまま叢雲が死ん、ズズッ、じゃったら……うわああああーん……!」

 大泣きしてしまった時津風の声を聞いてか、医務室に次々と入ってくる人たち。私は体がだるくて起き上がることもできず、ひたすら時津風を泣かせ続けてしまった。あー恥ずかしい……。

 たっぷり数十分かけて時津風が落ち着いてから、いったい私に何が起こったのかを聞いた。

 まず今日は、なんと演習の日から三日後であるらしい。呼吸はあったものの意識を失った理由も取り戻す目処も分からなかったそうで、そりゃあ時津風をあれだけ心配させるわけだ。

 私がまったく唐突に海に沈んだものだから時津風隊はパニックに陥り、とにかく私をどうにか引っ張り上げてくれて、白旗を掲げた時津風は全速力で葛城と大和の元へと向かい、二人に助けを求めた。そして私は大和におぶってもらって無事、鎮守府に帰ってくることができたと。

「ありがとう時津風。勝負相手に救護を求めるなんて咄嗟には出来ない。いい判断のおかげで沈まずに済んだわ」

 時津風は赤くなった鼻を擦りながら、えへへっと笑った。

「気にしなくていいよ。だって叢雲は時津風隊の一員だからね」

 了解、を表す独自のハンドシグナルらしい忍術の印をビシッ! と構える時津風。……今の私の立場から色々と教えていくの、やりづらいなぁ。

 でも、どうして戦闘中に体調不良で倒れる(セルフ轟沈する)なんてみっともない真似をしてしまったのか、いくら考えても思い当たる理由がない。最初に偵察機を迎撃した直後、目眩がしたのは覚えている。あの時点で体調に何らかの異変があったと判断していればこのような大事にはならずに済んだのかもしれない。……でも仮に貧血なんかだったとしても、三日も昏睡してしまう理由にはならない。今は怠さ以外の不調はないけれど、一度しっかり検査してもらわないと。

 

 

◆――――◆

 

 

 私の容態とは別に、10cm連装高角砲を改修した新兵器Xにも注目が集まっていた。

 一番驚いていたのは葛城と大和だそうで、特に大和は大本営直属ということもあり、正規空母をたった一人の駆逐艦で無力化させてしまう驚異的な兵器を放っておく手はなかった。

 私をこの鎮守府まで担ぎ込んでくれた後、新兵器Xの量産とデータ採取を頼んでいった。勿論、せっかくこちらまで来たのだから改修方法も視察していこうと工廠に足を運んだものの、

「あれを」「こうして」「こんなふうに」「ろばすとなかんじで」「ぐろーばるなおぽちゅにてぃを」「このてでつかんだら」「あたらしいそうぞうせいが」「うまれるかも?」

 さすがの『撃沈王』も妖精さんのアバウト加減の前には無力だった。

 三機の10cm連装高角砲を追加で改修して、新兵器Xは私が使ったものと合わせて計四機が揃った。誰か一人にガン積みしてみるためなのは言うまでもない。部隊全員に一機ずつ装備させて様子を見る、という案もあったのだけれど、改修資材が不足したのと単艦で実現し得る最大火力を計るために廃案となった。

 ……廃案にして本当に良かったと、私たちは後に戦慄することになる。

 それと、いつまでも名無し兵器(「新兵器X」とは私が何も考えず勝手に呼んでいただけで、他には「長10cm砲改」「ガトリングガン」など、みんな好き勝手に呼んでいた)のままで使用するわけにもいかず、いつの間にか誰かによって『ファランクス』と命名されていた。極端に密集した縦長弾幕が古代ギリシャ兵の陣形に似ているからだとか、はたまた防空性能がギリシャ神話のイージス並だとかどうとか、由来もあやふやだった。名付け親が古代ギリシャ好きらしいことだけは分かる。

 

 

◆――――◆

 

 

 私がようやく医務室のベッドから自室の布団に移れるようになった頃、ファランクス四機をガン積みした夕張を旗艦として、テスト部隊は南方のサーモン海域へと出撃――そして大失敗を喫し、テストどころか夕張を失いかける惨憺たる結果に終わった。

 私が寝ていたベッドに入れ替わるように夕張が寝かされ、ファランクスは力の代償として呪いをもたらす悪魔の兵器だ! ……と誰もが口を揃えて恐れおののいた。

「呪いなんてなーいさ♪ 呪いなんてうーそさ♪ ねーぼけーたひーとを、あーたしーがたーたく♪ ……だから叢雲のことも守ってあげようかなと。あ、あたしは時津風隊の旗艦だから怖くないしね! ホントホント! ちょっとなにその目!」

 時津風隊の五人が寝間着で枕を抱いて、私と吹雪の部屋に押し掛けるような光景が駆逐艦寮のあちこちで見られた。他には第六駆逐隊の部屋あたりが競争率が高い(?)とか。

「気持ちは嬉しいけどね? 見ての通り狭いんだけど。この部屋」

「川の字になって寝ればいいじゃん」

「いや川の字ってそういう意味じゃないし。そもそもここじゃ七本も線引けないって言ってんのよ……」

 縦線を並べて1111111。百十一万千百十一。2進数と見て10進数に変換すると127。

「じゃあ『囲』の字ならコンパクトでいい感じじゃない?」

「んん? 囲う? ……あ、ホントだ七画でしかも誰も折れ曲がらずに済んでる。よく思いつくわね」

「へっへー♪」

「で? 誰がくにがまえの中の『井』で寝るの?」

「臨機応変にいこうよ。四人がそれぞれ誰かの足を枕にしたら、ほらね」

「ほらね、じゃない。私は普通に寝たいの。まだ安静にしてないとしんどいの」

「しょーがないなー。じゃあ叢雲から『囲』の好きな箇所、選んでいいよ」

「……ファランクスの呪い、うつすわよ?」

「ひぃっ!?」と悲鳴を上げた時津風隊は私を見捨てて廊下をドタドタと逃走していった。自分で追い出しておいて何だけど薄情者どもめ。

「ごめんね吹雪、騒がしくしちゃって」

「ううん、いいよいいよ。全然気にしないで。……でもね」

【吹雪;Lv.105 → 107】

「叢雲ちゃんが呪いって言うと、ちょっとリアリティがあるなーって……」半泣きだった。

「あー……ごめん」

 それでも部屋を出て行かないでくれているのは、時津風たちとは練度の桁が違うからか、旧一ノ傘艦隊の最古参は伊達ではないからか。

 艦隊が呪い云々の話題に飽きて、落ち着きを取り戻してからファランクスのテストについて話を聞いた。

 体調も万全の夕張は敵機動部隊と遭遇した際、随伴艦が構える必要すらない程の弾幕で、ほぼ一瞬と言っても過言ではないくらいの早さで敵航空機団を壊滅させたらしい。駆逐艦の私がファランクス一機であれだったのだから、より安定感のある軽巡が四機ガン積みすれば当然といえば当然といえる。

 しかし問題は、敵機の残骸がまだ空中で黒煙を上げている最中に発生した。私と同じように夕張は唐突に気を失い、敵機より先に海中に倒れた。

 随伴艦は練度も高く実戦経験も豊富で、時津風隊の時のようなパニックにこそ陥らなかったものの、大破者と意識不明者では部隊にかかる負担に雲泥の差がある。おまけにテスト環境に選んだのは強力な敵機動部隊が確認される南方サーモン海域。念の為に遠方で控えていた支援部隊が駆けつけるまで、まったく反応を返さない夕張を抱えたテスト部隊は死に物狂いで戦う羽目になり、暇を持て余していた天照大艦隊の頬を引っ叩く形となってしまった。この事もファランクスの呪い騒ぎに拍車を掛けた一因と見て間違いないと思う。

 夕張が大きな病院に移されて目を覚ましたのは、私の丁度四倍、十二日後の事だった。原因は不明。私の時と同じように、ただひたすら休息に入っているように見えた。ついでに私も精密検査を受けたけれど異常なし。ちょっとだけ痩せたかな、くらい。

 この結果を受けた司令官・副司令官は当然、ファランクスのテスト並びに量産計画を永久凍結。実戦テスト結果を記した報告書にサンプルの一機を付けて、使用禁止兵器として大和に送った。この時、産廃兵器のくせにファランクスという名前は奢侈が過ぎる、というしょうもない理由で『夕張砲改』と名を改められた(命名:竹櫛司令官……あのバカ)。そっちの方が酷と苦情が噴出したのは言うまでもないものの、『ファランクス』と再び訂正しようとするも時既に遅く、既に大和が研究機関に回してしまっていた。産廃兵器『夕張砲改』として全国の鎮守府に開発・使用禁止が発令されるのは時間の問題であり、テストの被害者である上に指名手配犯のように名前が広まるであろう夕張が気の毒でならない……。

 

 

◆――――◆

 

 

 10cm連装高角砲の改修をお願いした私には、騒動が終わった後にもあと一つだけ仕事が残っていた。

「妖精さん、いるー?」と工廠で叫ぶと、物陰から三角帽の小人がわらわらと出てきた。

「つんでれさんだ」「つんでれさんか?」「おそらく」「まちがいないかと」「ぎゃくに、つんでれさんなのでは?」「そのかのーせーは、ひてーできませぬな」「きよくただしきむらくもだ」

 コイツら、私を何だと……!

「ファランクスのことで聞きたいことがあるんだけど」

「すふぃんくす?」

「ファランクス。……って、あなた達は名前知らないんだっけ。ほら、10cm連装高角砲を改修してもらったやつのこと」

「はて」「しってる?」「しらない」「きおくにございません」「ゆめでみたかも」「こちょうのゆめで」「じんせいは、はかないものですな」「しかし、くらなどはじんせいでは?」

 とぼけているようには見えない。ああ、本当に忘れてるんだ……。どんだけ刹那的な生き方してればこうなるんだろう。

「じゃ、じゃあね? えっと……例えばこの10cm連装高角砲を」現物を見せて説明することにした。

「こういう形の兵器に改修したとするわよ?」

 ファランクスを一機、持ってきて妖精さん達に見せた。

「びてきせんす、けつじょしてます?」

「いや、あんた達が作ったんだけどね……」

 グッとこらえて話を続けた。

「この新しい兵器、妖精さんならどうやって動かす?」

 私たち艦娘の常識を遥かに超えた動きを見せたファランクス。それが機能を働かせるために真っ当な方法を使っているとは思えなかった。

「さー?」と予想していた反応。

「ちゃんと考えて」

「そういわれましても」

「お願い考えて」

「むずかしいですなー」

「……10分やるから考えろ」

「ぴぃ!?」

 イラッとしたのが功を奏し、てんでバラバラだった妖精さん達は一箇所に集まって会議を初め、十秒程で(早っ!)代表者が出てきた。

「きあいで、うごきます?」

「気合?」

「きあい」

「……気合?」

「こんじょうでも、いけますが?」

「そう。ちょっと待ってね、頭ん中を整理するから」

 妖精さんは嘘をつかない。と言うか恐らくつけない。だから気合とか根性で動かすというのも、本気で言っているのだと思う。

 でも妖精さんの言う事はあくまで妖精さん基準であって、私たちとの認識には大きな隔たりがあったりなかったりする。じゃあ妖精さんの言う気合や根性とは、いったい何を指す? それとも本当にそのままの意味?

「むらくもさんがふりーずした」「ふゆだけに、ふりーずどらいだ」「おゆをかけて、いただきます?」「むらくもれーしょん」「ほろにがそう」「つんでれあじ?」

 ……頭を柔らかくしよう。そうでないと考えに集中するどころか妖精さんの会話でイライラしてしまう。妖精さんに悪意はない。妖精さんに悪意はない。

 ファランクスが気合や根性で動くとして――ファランクスを動かすために気合や根性を使ったとすると、使用者はどうなる? シンプルに考えるとそのまま、気合・根性が無くなる。じゃあ気合・根性が無くなると、使用者はどうなる? 例えば、練度がカンストした正規空母の航空機団を壊滅させるほどの気合と根性を、一瞬で使い果たしたとしたら……?

「ねえ妖精さん」

「さー! いぇっさー!」

「ちょっと聞きたいんだけどね」

「さー! どうぞ、さー!」

「……どこぞの海兵式はいいから」

「あーい」

「気合と根性って、どんなものだと思う?」

 妖精さん相手にはいささか曖昧が過ぎる質問であっても、聞かないわけにはいかない。

「うーむ?」「わかる?」「しつもんのいみが」「べりーはーど」「るなてぃっく」「へるもーど」「だんてますとだい」「こうりゃくふか?」「きあいとこんじょう、あれば」「いのち、すりへるな」

「ストップ! 最後の発言者、もう一度!」

「いのち、すりへるな」

 平然と言った! 命がすり減るって平然と言った!

 妖精さんに悪意はない。妖精さんに悪意はない。むしろ好意でファランクスみたいな超兵器を生み出したんだと思う。……その安全性とか私たち使う側の命とかは一切考慮されずに! そのあたりに頭を回すという発想すらないでしょうね!

「はーい、ちょっと注目―」

「なんだ」「じゅうだいはっぴょう」「くるかも」

 私は大きく息を吸い込み、まだ工廠のあちこちにいるであろう妖精さん達にも聞こえるよう、ありったけの声で叫んだ。

「いい加減にしなさ――――――いっ!!!!」

「ぴ――――――――――っ!!!!????」

 蜘蛛の子を散らすとはまさにこのこと。けっこうな人数がいた妖精さん達はあっという間に私の視界から逃げ、悲鳴は工廠から消え、私一人がぽつんと残された。

 私と夕張の命、大丈夫なんでしょうね……。

 

 

◆――――◆

 

 

 翌日から工廠はごくごく当たり前の妖精により、ごくごく当たり前に稼働していた。

 結局あのファランクス、いや、それを作った彼ら(彼女ら? それすらも不明)は何だったのだろう。ある日突然この鎮守府に居座って、私の一喝だけで姿をサッパリ見せなくなった。何もかもがあまりに刹那的過ぎて、これで良かったのか悪かったのか判断に困る。

 作ってしまったファランクス、大和に送った分を除く残り三機については、ダメコンと組み合わせたら使えるんじゃないか? という意見もあったにはあったのだけれど、当然ながら実践を買って出る者は一人も出ず、保管箱に鍵付きで封印さることになり、鍵は海に投げ捨てられた。

 ファランクスの動力源が装備者の命だということは皆には黙っていた。本当にそうなのか確かめようがないし、また呪い騒ぎが起きそうだし、退院と同時に全国に発令された『夕張砲改 開発禁止令』のせいで凹まされた夕張に追い打ちをかけたくなかったから。

 さて、私がようやく本調子を取り戻し、久々の秘書艦として働いていると、

「ところで叢雲」と司令官。

「なに?」

「いやな、数日前に電探を製作していたのだが、妙な物ができてな」

 これだ、と司令官が片手で軽々と持てる程の機器はどう見ても電探には見えず、電圧や電流なんかを計るような計測器だった。目盛りが扇状に並び、今も何かを計測しているのか赤い針が目盛りの真ん中あたりをフラフラしている。その針の根本の下あたりには、とてもシンプルな銘版が付いていた。……白いアクリル板に『 き あ い 』とだけ印刷されていた。こんなシュールな計測器が他にあるだろうか。

「ああそれ間違いなく失敗作だから」

「しかし相応の資材をつぎ込んだのだが――」

「失敗なの。いらないものなの。ちょっと工廠行ってくるわ」

 司令官から気合計測器をひったくって、

「お、おい叢雲?」

 私はまっすぐ工廠、ではなく海に向かった。気合計測器を持っている間、恐らくは私の気合(命)を計測していたはずなので見ないようにして、ファランクス保管箱の鍵と同じように大海原へ放り投げた。

 




阿呆なミス。
七画の漢字『囲』ですが、七人で囲の字を作ろうとすると右上の一人、折れ曲がりますな。ハハハ。
……辞書からいい加減に探したこと、バレバレですな。
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