ドーモ。カンコレテイトク=サン。正規空母、葛城です。
本日の業務をこの辺で切り上げて休もうとしているところです。提督は先程あくびをしながら執務室を出ていきました。「後よろしく~」と言い残して。それは別にいいんです。いつものことですから。
困ったのは伊号潜水艦の五人です。夕方ごろに遠征から帰ってくるなり休息も取らず工廠に籠り、ずっと出てくる気配がありません。何を作ってと頼んだわけでもなく、今日はもう休んでくれてよかったにもかかわらず、日付も変わろうというのに窓から漏れる明かりが消えない、というか怪しげな機械音が響いています。僕はこのまま自室に帰ってもよいのでしょうか。それとも工廠の様子を見に行くべきでしょうか。普通ならば後者に決まっています。ですが練度カンスト空母である僕から見て、遠征から戻るなり開発に精を出す艦娘は普通ではありません。遠征任務中に自分たちの装備に不満でも覚えたのでしょうか? にしたって明日でいいでしょう。何も五人がかりで開発に励む必要はないでしょう。
僕と提督、大和、猫吊るし、そして伊号潜水艦が五人しかいないこの艦隊では誰某に苦手意識を持つ贅沢はしていられません。働いてくれるのであれば猫吊さんとでも、仕事の相談をして一緒にランチをして出撃中の留守を任せて戦果をまとめて、また明日と手を振ります。ええ慣れましたとも。発狂しそうになるのは最初だけでした。むしろ誰よりも軍の『かくあるべし』に忠実である猫吊さんは日本一優秀な職員と言っても過言ではありません。猫吊さんが着任してくれてから僕の仕事も随分と楽になったものです。……妖怪ですけどね!
だから贅沢な悩みだと僕は自分に言い聞かせています。ですがどうしても、伊号潜水艦の五人が僕にはよく分かりません。決して不仲ではありませんが、接し方が分からないのです。時々、見えている世界が違うのではないか、とすら思えてくる程なのです。
◆――――◆
「完成でち!」
【伊58:Lv.150+1】
結局、僕は昨日、落ち着かないまま自室に戻りました。ですが工廠をずっと気にしたせいで欠伸が止まりません。
ぼやけた頭と視界で執務室を開けてパソコンの起動を待っていると、目の下を青黒く変色させたゴーヤが飛び込んできました。その姿に僕は少し、恥ずかしながら、失禁しそうになりました。……しそうになった、であって失禁した、ではありません。それくらい驚いたという表現です。驚いたことを恥じたという意味です。
ゴーヤは工廠から一直線にここ執務室まで来たらしく、所々が焦げたりしている作業着のまま、お風呂にも入っていないからか髪もガビガビしています。ここまでは良いのです。ちょっと不潔なくらい可愛いものです。
問題はゴーヤが、大和の主砲よりもゴツい鉄塊を肩に担いでいることです。これに僕は驚いたのです。
「見て見てすごいの作ったよ。ほら見て」
「見えてる見えてる嫌でも目に入るからこっち向けないで」
その鉄塊はどこか見覚えがあり、僕は青白い脳細胞をフル回転させました。走馬灯にも近いほどの勢いで記憶を探るのです。だっで少なくともゴーヤが担いでいる鉄塊は、まず間違いなくボンバーウェポンなので。
「……思い出した! それ映画でシュワちゃんが使ってたバズーカ?」
「ランチャー系の兵器をバズーカって呼ぶのは、レシプロ戦闘機なら全部をゼロ戦って呼ぶようなものでち」
知らんがな。
「でもコマンドーのこと言ってるならイイ線いってるよ。なんとビックリ、これはロケットの代わりに魚雷を発射する、その名も『トルピードランチャー』でち!」
もう驚き済みなのでトルピードランチャーなるものをまじまじと観察しました。何のことはありません。魚雷発射管を四本束ねたものに取っ手と照準器を付けただけです。ただ一般的な駆逐艦や軽巡や僕などが装備するものより見てくれが第三次大戦的になっているため、威圧的に感じてしまうのでしょう。いや実際、こんな狭い部屋で発射されたら僕はおろかゴーヤも巻き添えでミンチになるのですが……。
「おやおやその冷めた目。ただの魚雷発射管だと思ってるね?」
「いや……資材とか電気とか無断で使ったことには目をつぶるから、その危険物を置いて速やかに休息を取ってほしいと思ってる。他の四人は?」
「トルピードランチャーが完成したら倒れ……工廠で寝ちゃった。みんな疲れてたしね」
「うん。その四人は僕が何とかしとくから、ゴーヤも自室に戻るかお風呂に行くかして」
「『な、なぜそのような兵器を?』って聞いてくれないんだー。ショックでちー」
「な、なぜそのようなへいきを」面倒臭い。
「よくぞ聞いてくれたでち!」
徹夜したからだと思います。ゴーヤのテンションはちょっとおかしなことになっているようです。
「昨日の遠征、コンテナ船を護衛するのでね、到着して港の警備にバトンタッチした後だったのよ。新米っぽい奴が浮かれて敬礼して、『二周年おめでとうございます!』だって」
「そういえば何かが二周年らしいね。記念掛け軸もあるとか」
「だからゴーヤ達で決めたんだ。アイツ殺そう、って」
「…………」
可愛らしい女の子が魚雷発射管(装填済み)を担いで笑顔で「アイツ殺そう♪」とのたまう恐怖は対峙した者にしか分からないと思います。僕は大至急、提督が始業する前までにトイレ・シャワー・着替えを済ませなければならなくなってしまいました。大和でも猫吊さんでもいい、誰か何とかして……。
「……怒らないでね? 僕にはイマイチその新米君を殺す動機が分からないんだけど」
「えっ!? だって二周年おめでとうだよ!? 港ごと焼き払ってケジメをつけさせないと!」
規模が大きくなった!
「僕の聞き方が悪かった。よく知らないけど二周年は、ゴーヤにとっておめでたい事じゃない、ってこと?」
「戦争二周年を祝う趣味はないでち」
「ああ……なるほど」と言いつつ、僕は誰が正しいのか分からなくなっていました。二周年がどうこう騒いでいても僕はおよそ一年間、艦娘と深海棲艦の間を彷徨っていて記憶がないので興味がありません。
ゴーヤたちの怒りを買った新米君はたぶん男性で、艦娘を間近に見て興奮して、何かしらがおめでたくて悪気はなく「二周年おめでとうございます!」と言ったのだと思います。相手に悪気があったら雷撃していいかどうかは別として。
「本当はその場で吹っ飛ばしてやりたかったのに、潜水艦は基本的に陸上の敵には無力……! あれほど悔しい思いをしたのは久しぶりでち!」
「敵じゃないからね。派閥のいざこざはあっても一緒に戦う仲間だからね」
「そこでゴーヤたちは考えたでち。魚雷をロケットランチャーのように改造したらどうだろう? 水陸両用にしてしまえばどうだろう?」
「水陸両用ってそういう意味で使えるの? というか魚雷は空をすっ飛んでいくものじゃないでしょ」
「その通りでち。さすがは砲雷撃戦までこなすマルチロール空母、よく勉強してるね」
「シーッ、誤解を招くこと言わないで。深海棲艦だって判断されたら実験プールで雷撃処分されるか調査解剖されるかの立場なんだからね、僕は」
「大丈夫、大丈夫――というワケでこのトルピードランチャー、実は最も工夫された箇所は装填する魚雷の方なんでち! 世界初! ロケット弾のように空を飛ぶ魚雷!」
「それロケット弾のように、じゃなくてロケット弾そのものだと思う」
「まあ実際、作るのが難しくて仕組み的にはグレネードランチャーに近いものになっちゃったけどね」
だから知らんがな。
「作るだけ作ったけどテストできてなくて。ねえ葛城、今日って確かあっちの鎮守府と演習組んでたよね?」
「僕一人で出る。だからゴーヤは今日はもう休みでいいから――」
「腕が鳴るでち! 爆雷バラ撒く低練度の駆逐艦はコイツの丁度良い的でち! もし二周年とかで浮かれポンチだったら……ナムアミダブツ!」
徹夜のテンションを維持したままゴーヤは執務室から出て行きました。廊下の壁に長大なトルピードランチャーをゴツゴツとぶつけながら。
シャワーを浴びたい。下着を替えたい。でもその前に大至急連絡しないと。
「おはよう葛城。ん? なにか慌ててる? さっきミサイルみたいなの持ったゴーヤとすれ違ったけど」
「すれ違ったって……止めようよ、あなた提督でしょ。鎮守府内で見たまんまの超危険物を持ち歩いてるんだけど」
「やだよ。目が怖かったし」
「だろうねえ。提督がそんなだろうと思ったから僕は焦ってるの」
「まあ酷い」と呑気に言う提督を無視して、僕は天照大艦隊に電話をかけました。あっちの今日の秘書艦は誰だろう。叢雲さんみたいに話が通じる相手だといいなあ。今日の演習はロケット魚雷が飛んで来ても何とかなる練度の艦娘に変更して下さい……なんて話が通じる艦娘が、全国に何人いるとも思えませんが。
こうして僕の、本日の業務が始まりました。いっつもです。いっつもこんな感じです。二周年だか記念日だかは分かりませんが、中には毎日「……深海棲艦になっといた方がマシだったかなぁ」とつぶやく艦娘がいることを、僕は誰かに覚えておいて貰いたいんです。
嗚呼、ナムアミダブツ!
アニメで大爆笑したのが実際、始まりだったニュービーヘッズです。
なのでスミマセン、忍殺語は不慣れです。これから勉強……したら影響ガガガ……。