球磨の薬指   作:vs どんぐり

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体力的な問題から、本編を一旦ストップします。
アニメの総集編みたいなアレです。

【留意事項】
天照大艦隊はみんな仲良しです。


第50話 ショートショート集

◆― 叢雲と一ノ傘副司令 ―◆

 

 こうも遅い時間に小浴場を一人で使っていると、寒さともあいまって少しさみしい気持ちになる。

 お湯に口までつかってブクブクしていると、一ノ傘副司令が入ってきた。

「お疲れ様やね叢雲ちゃん。竹櫛も後で入るってよ」

「どうも、お疲れ様です」

「竹櫛が来るまで待つならワタシは邪魔かいな?」

「からかわないでください」

「にはは」

 雷電姉妹から清い心と身体を奪った人間の言うことは冗談かどうか分かりにくい。

「そういえばさ。すっごい今更なんやけど、今は頭の機械、外しとるよね」

 副司令は両手を頭の上に添えてウサギの耳のようにピョコピョコさせた。

「あ、ちょい待って寒っ!」

 

――――――――

 

 だんまり二人で湯船につかっているのも気まずいし、副司令から話を振ってくれるのはありがたかった。

「でさ。あのウサギみたいな機械って何なん? 他にも何人か頭に似たようなの浮かべとるよね」

「本当に、すっごい今更ですね」

「むしろ今まで気にせんかった自分にビックリしとる。で、何なん? 装備したら強くなるん?」

「強くなる……というより、補ってるんです」

「ほう」

「元々、艦娘としての適正が低かった私には補助が必要だったんです。自転車の補助輪みたいなものです」

「あ、ああ。なるほど。……なんかゴメン。変なこと聞いたね」

「気にしないでください。今の私にもう補助輪は要りませんし、制服の一部くらいにしか思ってないですから」

「知らんかったわぁ。後でちょっと貸してくれん? ワタシも装備したら海の上に立てんかいな」

「んー……、やめておいてください」

「やめとく。長湯させてしまったけど大丈夫?」

 確かにけっこうな長風呂になってしまった。ポカポカしすぎると湯上がりの牛乳も味が落ちる。

「私はこれで。今日はお疲れ様でした」

「うん、お疲れ。ワタシは竹櫛が来るまでもうちょい――あ、いや、うん。お疲れ」

「お疲れじゃあないです」

 私はまた湯に戻った。

「副司令。私からも今更な質問があります」

「明日も一日がんばるぞい」

「副司令と竹櫛司令官の仲ってどれくらいなんですか」

「あ、そ、そういや仕事ひとつやり残しとった。ワタシもう上がるわ」

「仲良しなんですか。混浴レベルですか!」

「わからんわからん。ワタシには何の話かわからん」

「ちょっ、逃げるな! 待ちなさい!」

 次の日、私と副司令は風邪をひいた。

 

 

 

 

◆― タマ改二 ―◆

 

 タマはなかなかに面倒くさい猫である。

 そんなに綺麗好きを自称するのなら風呂に入れと言ってもなかなか聞かず、そのくせ一度風呂に入るとなかなか上がろうとしない。お前は風呂が好きなのか嫌いなのかどっちなのかと何度問い詰めても「多摩は猫じゃあないにゃ」の一点張りである。

 木曾が「ほら姉ちゃん、キンキンに冷えたビン牛乳が待ってるぞ」と言うと、五割ほどの確率で興味が湯船の外へと移る。

「今日は木曾のおごりにゃ」

「今日『も』の間違いだろ。つーか今週の分、後で返せよな」

 

――――――――

 

「な、なんてこったクマー!?」

 タマがサッパリホカホカして脱衣所に戻ると同時に、ジャージ姿の球磨型の長女が突然騒ぎ始めた。

「多摩のジャージが盗まれて、代わりに『改二』の制服が置いてあったクマー! あ、下着は残ってたクマ。でもこうなったら、とりあえず、しかたなく、今は『改二』制服で我慢するしかないクマ。多摩、泥棒探しは後にして――」

 タマは球磨の顔面を容赦なく引っかいた。

「グマッ!?」

 さらに球磨が着ていたジャージ上下を無理やり剥ぎ取り、それを着てさっさと脱衣所から出ていってしまった。

「なあ球磨姉ちゃん。今度の作戦は完璧だって言ってなかったか」

「……姉ちゃんを躊躇なく引っかくような娘に育てた覚えはないクマ……」

「もう引っかかれ慣れてるもんだと思ってたよ。――だめだ全然分からねえ。どこが『臭い』んだ、この制服は?」

「たぶんネコにしか分からない臭いがあるクマ。何回洗ってもダメな臭いが」

「それを理由に改二の制服を捨てる心理も分からねえな。はぁ……どうする? もう姉ちゃんが使ったらいいんじゃあないか」

「木曾、ナイスアイデアだクマ」

 球磨は捨てられたタマの改二制服に袖を通した。

「じゃーん! 今から球磨は改二――お、おお! 悪くない着心地クマ。安眠すらできそうクマ」

「その格好で寝るのか? まあ使われないよりは寝間着になるほうがマシだろうけどよ」

 

――――――――

 

 その翌朝、軽巡寮でのことである。

 木曾はあくびもピタリと止まるほど妙なものを見た。

「おはよう多摩姉ちゃ……あ?」

 部屋から出てきたタマは、ヨレヨレになってしまっている改二の制服を満足げに着ていた。

「にゃ」とだけ挨拶したタマが行ってしまったあと、同じ部屋から下着姿の球磨がヨロヨロと出てきた。顔面には引っかき傷が昨日より増えていた。

「――ああ。そういうことか」と木曾は得心した。「球磨姉ちゃんの匂いがついたからネコ的に安心したんだな」

「……クマ的には納得いかねークマ」

 

 

 

 

◆― 艦娘ッポイコトヲシタイ春雨 ―◆

 

 艦娘であらんがために艦娘っぽいことをしようと思った春雨は、演習の時などで使用するメガホンを用意した。

 

――――――――

 

 春雨はたいへん真面目な深海棲艦である。

 艦娘としての道を歩み続けると決意してからというもの、彼女はいっそう艦娘たらんと振る舞うようにした(ように当人は思っているのだが、実際のところ自身が深海棲艦であることを忘れかけていたものだから艦隊生活にほとんど変化はなかった。あえて言えば白露型一番艦に「好きじゃあない」と言われた麻婆春雨を作らなくなったくらいである)。

「艦娘ッポイコト……秘書官、時報……総員起コシッ! カナ?」

 

――――――――

 

 ちょうど今月の駆逐艦寮の寮長当番は春雨である。

 四階建ての寮の中庭、すべての部屋が見渡せる敷地の中心部で、春雨は大きく深呼吸をした。

 時刻はマルロクマルマル。春雨はメガホンを構えて叫んだ。

 

「ソウイン! オコシィー!!」

 

 中庭に春雨の声が響くと、三つの部屋の扉が弾けるように開いた。何事かと飛び出してきたのは叢雲、吹雪、雷電姉妹の四人だった。

 しかし四人とも、中庭でメガホンを持っている阿呆が特に切羽詰った様子でもないのを見ると、ブツブツ文句を言いながら自室に戻ってしまった。

 それだけだった。春雨はしばらく待ってみたが他の部屋の扉が開きそうな様子はない。

「チャント聞コエナカッタノカナ?」

 春雨は今度は腹にしこたま空気を取り込んだ。

 

「ソウインッ!! オーコーシィ――ッ!!!!」

 

 春雨がふたたび叫ぶなり、今度は寮の八割ほどの扉が開き、中から枕や目覚し時計を持った駆逐艦たちがワッと出てきた。

「いま何時だと思ってンだ!」

 誰かがそう野次を飛ばしたのを皮切りに、中庭の春雨めがけて四方八方から物が投げつけられた。枕はまだいい。しかし目覚し時計は痛い。

「痛ッ、痛イッ!」

 隠れる場所もない春雨がカリスマガードで耐えているうちに、砲撃は止み、駆逐艦たちは自室に引っ込んでしまった。涙目の春雨の他に残ったのは散乱した枕や砕け散った目覚し時計だけだった。

 時刻はマルロクマルゴー。

「……艦娘、ヤッパリ私ノ敵ナノカナ……」

 

 

 

 

◆― 弓道警察 ―◆

 

「翔鶴姉……アーチェリー、そんなに面白い?」

 翔鶴は弓道場に似付かわしくない弓、リカーブボウをテキパキと組み立てている。

「ええ。とっても楽しいわよ。瑞鶴も始めてみる?」

「いや……。この前まで、なんか丸いのが両端に付いた弓を持ってなかったっけ? それ、また通販で買ったの?」

「協会の方におすすめ頂いて、新宿の渋谷で一式そろえたわ」

「新宿の……渋谷?」瑞鶴は首をかしげた。

「和弓と同じ力の流れで引けて、サイトを通してしっかり狙えるから楽しいの」

 翔鶴が組み立てたリカーブボウ『葉桜』は黒を基調として桜色と緑色の模様が入っているためそう名付けられた(作者愛用の弓でもある。WIN&WIN製)。

「すごくよく中るのは見てれば分かるけどさあ……海では和弓を使うんだから、弓道に集中したほうがよくない?」

「もちろん弓道を疎かにするつもりはないわ。でも、弓に対する新しい発見もあるし、それにとても良い息抜きになるのよ」

「そうかもしれないけど、でも……」

 そーゆーことじゃあないんだよ翔鶴姉、と瑞鶴は言いたかった。

 もし翔鶴が弓道をほっぽり出し、貴重な時間を息抜きのアーチェリーのためだけに使っていたとしても、弓道場にエアガンを持ち込んでBB弾を撒き散らす一ノ傘副提督と球磨よりはるかにマシである。

 では何が悪いのか? それは今、道場に来た加賀が教えることとなった。

「翔鶴。あなたまたアーチェリーをやるつもり?」

「軽い気分転換です。加賀先輩もやってみませんか。加賀先輩、ここのところ『まったく中らない』みたいですし、『射形も見るに堪えない』ほど焦りが出てますから、ここは違った視点から――」

「弓道警察よ」

 言うなり加賀は翔鶴に腹パンした。

 あまりに無慈悲な弓道警察の一撃。

 翔鶴は膝を折った。

「な……なん、で……」

 弓道警察としての用は済んだと練習の準備に行ってしまった加賀の代わりに、瑞鶴が罪状を告げた。

「『弓のことなら私、知り尽くしてますから』って顔してる翔鶴姉、ウザい。弓道警察とアーチェリー警察を足して2をかけたくらいウザい」

「あ……く……き、きゅ……」

 あの人だって空母一の弓道警察でウザいじゃない、と言いたくても呼吸すらままならない翔鶴だった。

 

 

 

 

◆― 任務:ネオサイタマ鎮守府との交流を深めよ! ―◆

 

 駆逐艦たちが羨ましいと提督にぼやくと、「私が直々に肩をもんでやる艦娘は山城、お前だけだぞ」と肩甲骨のあたりをグリグリされた。秘書艦の席でくつろぐ私と背後から手を伸ばす提督、こんな私たちを叢雲が見たらどんな顔をするか知らん。

 私が700円の指輪を受け取ってからというもの、私と提督の仲はまあ何と言うか、こんな感じに変化した――のはまた別の話。

「じゃあマッサージ交代します。私が提督の肩をもみますから、任務をよみうりランド泊地の視察に変えてください」

「ならん」と提督は一刀両断した。ちょっと……ほんの少し仲良しになったところで駄目なものは駄目らしい。「駆逐艦を中心に、もう何人が何回出撃したか分からん」

「分からんって、もう完全に遊ばせてるじゃあないですか」

「私にも色々と思うところがあるのだ」

「その思うところに戦艦が入ってなくないですか? 戦艦だけは誰もよみうりランドに行ってないんですけど」

(このとき私は、しばらく姿を見ていない日向のことを打ち忘れていた)

「よみずい任務に戦艦だけ編成制限がかかるってことはないでしょう。差別です」

「お前ならば分かってくれると私は信じているのだ。山城よ」

「分かりません。分かろうとする気も――」

 肩の良い感じのところを押されて「あ゙ぁ~~そこです」不平をキャンセルされた。

「ネオサイタマにも娯楽はあるだろう。向こうの相手と最低限の接触を済ませた後は好きにして構わん。小遣いも出そう。なに心配するな、我が天照大艦隊の戦艦は強い。……万一ヤクザに絡まれても戦艦ならば何とかなるはずだ」

「ならねーですよ」

「山城がネオサイタマ入りしている間は金剛姉妹と陸奥を都市境で待機させておく。何かあれば連絡しろ。場合によってはすぐに増援を――」

「待てや阿呆提督」さすがにマッサージの手を払いのけた。「私ひとり? 金剛たちの意味がないし、単独任務の意味がまったくサッパリ分からないし」

「複雑な事情があるのだ。話せば長くなる」

「いいですよ長くなっても。むしろ私を不幸にする事情ってものに興味すらあります」

 かくかくしかじか、と提督は言った。

「――つまり、こういうことね。不可解にも向こうから名指しをうけた三人のうち、斑鳩は多忙で無理。長月はよみずい任務中。じゃあ暇人でいらっしゃる山城さんが行ってこい、と」

「我々の方はネオサイタマ鎮守府についての情報をほとんど持っていない。今まで接点がまったく無かったからな。しかし向こう側は少なくとも山城、長月、そして斑鳩の存在を知っている。お前、何か個人的な繋がりを持っているのか?」

「記憶にございま……すん」

「どっちだ」

「ちょっと記憶をたどりますから待ってください」

 戦艦クイーン・エリザベスとウォースパイト。

 長月から聞くところによると、私たち『洞観者』の間にみょうちくりんな慣習を根付かせた阿呆らしい。特にクイーン・エリザベスの方は傲岸不遜なちっこいお子様のくせに大陣営の頂点に君臨していて、面倒なことはすべて専属メイド隊にやらせているとかいないとか。

 私とネオサイタマとの繋がりなんて、その二人を除いてある? いやない。それにしたって私と長月、斑鳩にとっちゃあ洞観者のお仲間がいるってだけの話で、ネオサイタマ鎮守府とはなんの関係もない。交流なんて心の底からどうでもいいと思う。艦娘歴は長いけれど今の今まで関わったこともなかったし。

「思い出しましたよ提督。私、ネオサイタマ鎮守府の艦娘(?)と連絡取れます」

「本当か。まったく情報が無駄に流れたかとヒヤヒヤした」

「じゃあ向こうとは適当に話を付けておきますから、任務はそれでいいですよね」

「いいわけがあるか。現地に行って話をしてこい」

「そもそも戦艦なら万が一でも云々とか関係ないじゃあないですか。そんなに交流がしたいなら、ええ私は別に構いませんよ。でも提督か一ノ傘副提督が一緒に行かないと、ただのお使いになりませんか」

「……よくぞ気づいてくれた。そこなのだ。そこが最も大きな問題なのだ」

 提督は自分の席に戻って座ると、もったいぶったように机に肘をついて大きなため息をついた。

「山城、『ブレードランナー』という映画を知っているか」

「いえ。知りませんけど」

「一ノ傘がこよなく愛する映画だ。映画に登場する鉄砲のオモチャを数万円で購入する程だ」

「あの人らしいですね。それが?」

「似ているのだ。映画ブレードランナーの世界と、ネオサイタマが」

「はあ」

「そして奴は当然、ネオサイタマに行きたがっている。何としても阻止せねばならん」

「は? どうして?」

「言葉で説明するより見た方が早い。すぐにTSUTAYAに行ってブレードランナーをレンタルしてくるんだ。見れば分かる。あの世界に足を踏み入れていいのは、鉄砲を歓迎のクラッカー程度に思える超弩級戦艦だけだ」

「いやいや撃たれたら普通に死にますし」

「今から山城を旗艦とした戦艦六人で部隊を編成しろ。ブレードランナーを本日中に鑑賞し、明日にはネオサイタマに向かえ。都市境から先はお前の単独任務となる」

「いやです。拒否します」

「一ノ傘は既に車と荷物の準備、観光スポットの調査、鉄砲のオモチャのメンテナンスをはじめている。奴が出発する前に何としても任務を終わらせるのだ。さあ早くTSUTAYAに行くんだ。いいな」

 そして私は第一執務室から追い出された。「ひとでなしの阿呆提督!」と叫んでも中から鍵をかけられた扉は開かなかった。

 せめてTSUTAYAまでのバス代とレンタル料くらい渡すものじゃあないの? 私はそう思った。誰だってそう思うでしょう。

 私が扉の前で憤っていると、隣の第二執務室、一ノ傘副提督の部屋の扉が開いた。

「またケンカしてるのです……?」と電が呆れた顔をのぞかせた。

「違うのよ。副提督のせいで私が――いま副提督は何してる?」

「さあ」

「さあ?」

「出張の準備で忙しいとか言ったきり連絡が取れないのです。見つけたら伝えておいてください。『死ね』って」

「……あ、ああ。うん」

 魔境ネオサイタマ。

 その都市の空気は、電が吐き捨てる毒のように息苦しいのだろうか。

 私の任務は始まった。

 

 

 つづく……つづかない?

 




タグを編集したんですよ。
『アズールレーン』タグを追加した後で気が付いたんですよ。
そういえば本編にはまだアズレン要素が出てきてねぇ!
というわけでショートショートでも何でもいいからアズレン出そう、という事情もありました。
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