球磨の薬指   作:vs どんぐり

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この話さえ読めばオリジナル要素『洞観者』が理解できる!
そんなページが欲しくて書きました。
書いていて思ったのですが、VOICEROIDで読み上げ動画とか作ってみたいですね。
斑鳩は結月ゆかり、球磨は……琴葉茜?


第52話 洞観者ってなにクマ?

 ドーモ。斑鳩型航空母艦、一番艦の斑鳩です。

 今回はですね、『洞観者(ドウカンシャ)』とは何なのかを、僕が知っている範囲で解説していこうと思います。実際、聞き慣れないというか一般には認識されていない言葉ですしね。大事ですよね、解説。たぶん。

 解説のお相手は球磨型軽巡洋艦の一番艦、球磨さんです。

 

「球磨だクマー」

 

 よろしくお願いします。

 ところで画面外の皆さんは『軽巡・球磨』と聞いてどのような姿を想像しますか? おそらく腕と脚が開放的な制服を着ていることでしょう。あるいは浴衣姿? サンタクロース? ですが僕の前にいる球磨さんは寒がりなので長袖で、ついでに言えば袖の下に飛び出しブレードを仕込んでいます。アサシンブレードです。怖いですよね。やめてほしいですよね。でもそれが球磨さんのアイデンティティなんですから仕方ないですね。

 

「そーゆー斑鳩は深海棲艦の空母ヲ級にそっくりだクマ。髪型は駆逐艦の睦月を真似してて、全身真っ白い上衣袴がユーレイみたいな奴クマ」

 

 どうせ僕は深海棲艦のなりかけ、半端者ですよ。

 今回はこのデコボコギザギザした二人で解説をしていきます。

 

「クマはギザギザしてないクマ。オマエが勝手にビクビクしてるだけクマ」

 

 僕をナイフでぐっさり刺したことのある人がよく言いますよ。

 

 

◆――――◆

 

 

「わかりやすく説明するクマ。洞観者って何クマ?」

 

 辞書のとおり言ってしまえば『本質をつかんだ艦娘』なのですが――説明になってない上に、普通の艦娘を無知と見下しているようで、正直なところ言いづらいんですよ。

 あの、球磨さん? 最初にお願いしますけど怒らないでくださいね?

 

「話が進まないクマ。さっさと言うクマ」

 

 ええ。では。

 深海棲艦の侵略と艦娘による抗戦、これはどうしようもないくらいの茶番です。はっきり言って戦うなんて馬鹿馬鹿しいです。

 

「茶番?」

 

 そうです。僕らが出撃するのも、深海棲艦が海を制圧して陸を破壊するのも、双方にとって無意味で無価値なことなんです。

 これが洞観者から見た『戦争』です。

 逆に言えば、その真相をうっかり観測してしまった艦娘のことを洞観者と呼んでいます。まあ、呼び方はあくまで洞観者たちの中だけで通じるものですけど。

 でも、絶対に、これだけは勘違いしないでくださいね球磨さん。僕たち洞観者は球磨さんの艦隊行動を否定するつもりはこれっぽっちもないんです。無駄だ無駄だと言って深海棲艦を無視したりはしませんし、今までの僕だってちゃんと艦娘としてやってきてましたよね。すべての洞観者が同じように『戦争』のバランスを崩壊させないよう決意しています。これからもそうするつもりです。そこはどうか心配しないでください。

 

「……本質的に全部、無意味だって言うクマ?」

 

 言い方は乱暴ですけど、そうなっちゃってます。

 

「じゃあ当然、無意味っていう根拠を斑鳩はこれから話すはずクマ」

 

 それはできません。

 

「ああ?」

 

 ほら怒った!

 ですから洞観者は可能な限り普通の艦娘にその境涯を明かさないんです。球磨さんや叢雲さんみたいに艦娘としての軸がしっかりしてる人ならまだしも、大抵の艦娘はやる気をなくしちゃいますよ。今までの戦いはすべて無駄だった、なんて言われたら。

 

「説明するならクマをちゃんと納得させるクマ」

 

 すべてが無駄だという真実を洞観し、『秘匿する』。艦娘としての正しい在り方からうっかりこぼれ落ちてしまった者たちが仲間を道連れにしないよう覚悟を決める。それが洞観者です。――長月ちゃんが洞観者だってバレてしまったのは本当にイレギュラーなことだったんです。その他の洞観者は、ああ武蔵さんと大和の関係をのぞいてですが、誰一人としてバレずにやっています。

 球磨さんには洞観者の存在だけを認めてほしいんです。かつ、僕ら洞観者が見る世界を知るべきではないんです。ほら、底なし沼に落ちた人は「こっちに来るな」としか言えないって、あるじゃあないですか。そんな感じです。

 あ、でも『神様のゲームボードの上で踊らされてる』みたいな類ではないですよ。そこは安心してください。

 

「なにに安心すればいいのかも分からんクマ。まあ、隠したいのなら探らないでおいてやるクマ」

 

 

◆――――◆

 

 

 洞観者になる――なってしまう仕組みですが、これは全然わかっていません。

 

「オマエ本当に解説する気あるクマ?」

 

 だって分からないんですもん僕だって気がついたら猫が――あ、そうです猫です。

 

「猫?」

 

 洞観者になると必ず賢い猫が一匹、その人の元に現れるんです。最近の洞観者、山城の場合には夜の山奥の中で黒猫が寄ってきたっていうから間違いないです。……たぶん。

 

「ふーん、猫。使い魔みたいな感じクマ?」

 

 あ、そう! それです使い魔! 僕ら洞観者はまさにそんな感覚で猫と接してます。……いや、どちらかというと僕らの方が使われてるのかな? まーとにかく本当に賢い猫でですね、伝書猫といって、ちゃんと手紙とか届けてくれるんですよ。

 

「クマの姉妹艦にも猫がいるクマ」

 

 タマはお使いなんて絶対にしてくれないでしょ。

 洞観者になる仕組みが分かってないのは、人数が少ないのも理由のひとつなんです。各泊地にだいたい一人から三人くらいしかいませんからね。検証しようにも絶対数が足りません。

 

「一人から三人? 天照隊はどうなってるクマ?」

 

 長月ちゃん、山城、イムヤ、ゴーヤ、イク、ハチ、シオイ、そして僕。かなり特殊な艦隊だって武蔵さんには言われてます。

 

「この艦隊に何かあると考えるのが普通クマ」

 

 それが本当に心当たりが見つからないんですよ。天照隊の最初の洞観者、長月ちゃんに聞いてはいますけど、「あるタイミングで猫たちが一斉に青い炎を点けた」としか知らないらしくて。そのタイミングの後から洞観者になった僕や山城はレアケースだそうです。

 潜水艦たちは……ええ、まあ、ええ。何なんでしょうね。

 

 

◆――――◆

 

 

 洞観者の洞観、それともう一つの大きな特徴が青い炎です。見た感じは――言ってしまうと、深海棲艦の上位クラスが目とかから出してるアレに近いですね。

 

「斑鳩オマエ、やっぱり深海棲艦クマ?」

 

 おっと、その理屈だと長月ちゃんや山城も深海棲艦になっちゃいますよ。

 この炎とはですね、なにも寝食の時や戦闘中なんかにやたらめったら出すものではなく、その洞観者の特性・能力の表れなんです。カッコイイ表現をすると固有スキルってなものです。

 

「一部の巡洋艦が普通の巡洋艦と違って水戦・水爆機を搭載できるのとかとは違うクマ?」

 

 ええ、もう全然別物です。艦娘として有利に働く能力持ちの洞観者は少なくないですが、使い道が見出せない能力や、デメリットですらあるのもありますね。

 

「デメリットの能力って何クマ? 面白そうクマ」

 

 一例を挙げると、中途半端な空気圧を生み出す能力ですね。彼女ほど悲惨な能力持ちはいないでしょう。

 

「なんでクマ? クマなら持っておいて損はしなさそうな能力クマ」

 

 圧力を生み出す時にですね、音がするんですよ。……おならみたいな。

 

「…………なんかすまん」

 

 僕に謝らないでください。僕の能力じゃあないですからね。

 ちなみに僕の能力は『あらゆるものを僕の装備品にする』というものです。

 

「斑鳩はどうでもいいクマ。長月の能力について説明しろクマ」

 

 えぇ……。

 ……長月ちゃんですか。それが強すぎて逆によく分からないんですよね。むりやり言ってしまえば魔神化だって武蔵さんが。僕も同じ意見です。まず僕らが能力発現の前に青い炎を展開させる、そのワンクッションすら必要ないのが異例で、長月ちゃんの特性です。

 普通はですね。『凶化』を発動させることで青い炎を出せるようになるんですよ。

 

「強化?」

 

 凶化。

 

「凶化」

 

 はい。

 ちょっと気分的に悪くなるその状態でのみ、炎を出して能力を操れるようになるんです。この凶化と青い炎こそ洞観者の最も大きな特徴ですね。分かってもらえたでしょうか。

 

「おならと魔神化だけじゃあ性質がよく分からんクマ。仕方ねーからオマエの能力も聞いといてやるクマ」

 

 えぇ……。

 ……僕の炎はですね、いろんな固体、液体に引火するんですよ。そうやって燃やした物はなんでも操れるようになります。例えば鉄筋コンクリートの壁に炎を引火させると、燃えた部分をバコッとひっぱがして軽々持ち上げることができます。艦娘的な利用方としては、戦艦の主砲を燃やせばそれを装備して運用できます。空母なのに。

 

「ふうん――。その炎で火傷はしないクマ?」

 

 青い炎はむしろひんやりします。ためしに今、僕の炎に触ってみます? 球磨さんに引火させてしまうと僕は『球磨さんを装備』しちゃいますけど。

 

「気味悪いこと言うなクマ」

 

 まとめると、洞観者は自らの青い炎によって特殊な能力を操ります。僕らが艦娘という存在から余計にかけ離れたように感じてしまう一因にもなっています。

 能力の種類は千差万別……というほど洞観者の数はいませんが、様々で不可思議なことを芸としています。

 能力についてはこんなところでしょうか。

 

 

◆――――◆

 

 

 ああ、それともう一つ、大切なことを忘れてました。洞観者と妖精との関係ですが、これが悲しいんですよ。

 

「妖精? 艤装を動かしてくれる妖精のことでいいクマ?」

 

 はい、その妖精です。

 戦争は無駄。艦娘は無意味。そんな目をしているからかもしれませんが、妖精との付き合いがとても冷淡なものになってしまいます。いくら僕たちが話しかけても反応はもらえませんし、仕事はとても機械的になってしまって……まるでロボットです。

 戦闘機にいくら乗っても習熟しようとはしませんし、困難な戦況を前にしても司令部施設はまるで無関心です。

 さらには応急修理要因に応急修理女神――轟沈するほどのダメージを洞観者が被った場合、ダメージコントロールは機能しません。装備した時から妖精は、つまり最初から諦めているんです。沈むものは沈むのだと。

 

「んな馬鹿な……じゃあ、ダメコンを用意しておきながら轟沈した艦娘がいたってことクマ?」

 

 いえ。以前はその可能性があるから洞観者たちの間で情報共有を厳にしていたのですが、今は実験によってダメコンが機能しないことが確認されています。

 

「実験、って、どうやったクマ? まさかわざと轟沈したとか、そんな阿呆な……」

 

 そのとおりです。いますよね、天照隊にはわざと轟沈する阿呆と、その下で備える阿呆が。そんな実験を平然とやってのける潜水艦たちが。

 

「……頭がどうかしてるクマ」

 

 同感です。イムヤ達のやることは本当に心臓に悪いですよ。でもおかげで可能性が裏付けされて洞観者たちのモヤモヤはなくなりました。僕ら洞観者はダメコン要員を抱えながら沈みます。

 おっと違います違います。そんな顔しないでください。ダメコン頼みの行動ができないってだけですから、普通の艦娘のように気をつけていればいいだけのことです。ただ、他の仲間には『普通じゃあない』ことを悟られないようにしないといけませんが。

 

「そんなの、いつまでも隠しきれるものクマ?」

 

 まあ何とか。あれこれ情報共有しながら今のところはやっていけてます。……天照大艦隊を除けば、ですが。

 

 

◆――――◆

 

 

 どうでしょう球磨さん。ここまでの話で何か。

 

「洞観者になった時点で、艦娘やめるって選択肢はないクマ? 運良く扱いやすい能力を持ったとしてもデメリットが大きすぎるクマ」

 

 言われてみればそうですね。二人くらい前線を退いてハングド・キャットでアルバイトをしている子もいますが、艦娘までやめてしまおうって話は聞きません。

 たぶん仲間意識が強いからですよ。特に武蔵さんや長月ちゃん達、ほぼ同時期に洞観者になった艦娘たちはその傾向が見られます。頑なに口をつぐまれるんですが、どうにも長月ちゃん達は武蔵さんのために、力を合わせてシリアスなことをしでかしたっぽいんですよね。十中八九、犯罪行為です。

 

「マジクマ? やべー連中クマ」

 

 アサシンブレード忍ばせてる人には言われたくないと思います。

 ちょうど話そうとしてたハングド・キャットの名前が出ましたね。

 

「それなら知ってるクマ。大和型が何故か喫茶店やってるっていう戦力の無駄遣いクマ」

 

 ま、まあ確かに大和型を遊ばせてるように見えますよね、普通は。

 洞観者は危なっかしさを抱えているくせに、猫のネットワークでつながって大きなことをやらかす性格をしています。さっき言った犯罪、つまり暴走です。これを制止して制御するために武蔵さんが進んで先頭に立って、ハングド・キャットという秘密結社、かつ喫茶店を作りました。なにせ大和型ですからね、組織のトップとして名乗りを上げた時にはひとつも文句がなかったそうです。まあ、もちろん、面倒事を率先してやってくれるという人にケチなんてつける理由もなかったのでしょうが。

 組織としてのハングド・キャットの活動は、とにかく秘匿、秘匿ばかりです。いちばん最初に言った『無駄な戦争』を観測しながら表に出さないよう、武蔵さんからの指令という形で協力し合ってます。伝書猫のことは話しましたよね。大切な情報は猫に託して、本当の本当に火急の時だけ専用の携帯電話を使ってやりとりしています。ちなみに、まだ僕の携帯電話が鳴ったことはありません。

 

「じゃあ本当に、猫が手紙を持ってくるクマ?」

 

 そうです。

 

「メールとかSNSは使わないクマ?」

 

 秘密結社だから……だそうです。まあ、他にも通常の艦娘の任務の内に隠した活動もありますから。

 ところでハングド・キャットのもう一方の面、喫茶店については――球磨さん、行ったことあります?

 

「コーヒーがマズかったクマ」

 

 あっはい。それだけの認識で十分です。

 

 

◆――――◆

 

 

 他にはですねー。ええと、いえ、球磨さんは別に知らなくてもいいですね。今のはナシで。

 

「なに隠し事してやがるクマ。ぜんぶ話す約束クマ」

 

 いえいえ隠すような事でもないんですけどね、これは……。洞観者は礼儀知らずじゃあいけないんですけど、逆にシツレイでは? と僕は思ってる作法があるんですよ。

 

「ほう。どんなものクマ?」

 

 アイサツは神聖不可侵の行為です。古事記にも書かれています。アイサツはされれば返さなければならないのです!

 

「…………うん?」

 

 ドーモ、球磨=サン。斑鳩です。

 

「は? あ、うん、こんにちはクマ」

 

 駄目ですよ球磨さん。ちゃんと手を合わせてオジギしないと、シツレイです。

 

「……わ、分かった、もう分かったクマ」

 

 相手が深海棲艦だろうとアズレン勢だろうと、アイサツという礼儀も知らないサンシタがイクサの中で生き残ることがありましょうか!

 

「も、もう十分クマ。オーケー理解したからもういいクマ」

 

 

◆――――◆

 

 

 洞観者について僕から教えられるのはこんなところです。どうでしょう、お役に立てたでしょうか。

 

「ん――……。いっこ質問クマ。洞観者が普通の艦娘と敵対することはあるクマ?」

 

 ない、と僕は断言したいです。洞観者をまとめている武蔵さんと撃沈王・大和のコンビが決裂でもしない限りは平和なはずです。

 球磨さんの心配は、例えば魔神化長月ちゃんが敵に回ったらどうするか、ということですよね。大丈夫です。洞観者になったところで艦娘としての部分を捨てたわけではありませんし、それ以上に仲間を捨てることはありません。僕だって青い炎の能力は仲間のためだけに使うつもりですから、絶対に――という今後のフラグでもないですよ。普通よりちょっと手間がかかる艦娘、くらいにどうか思っておいてください。

 

「ふうん。まー今のところは信用しといてやるクマ」

 

 はい。ありがとうございます。では洞観者の話はこれで。

 ……そ、それじゃあ、僕はちゃんと話しましたし……球磨さん?

 

「分かってるクマ。ほれ、ハロウィーンの時の駆逐艦たちの仮装姿、しっかり撮影しといたクマ。このUSBメモリに入ってるクマ」

 

 ありがとうございます! いや、いや、本当に!

 

「『仕事でハロウィーンに参加できなかったから気分だけでも味わいたい』って、別に今からでもお菓子をくれてあげれば駆逐艦は普通に喜ぶと思うクマ。どうして写真クマ?」

 え? い、いやだから気分の問題ですって。やっぱりこう……ハロウィーンといえば仮装こそが醍醐味じゃあないですか。その記念写真ですよ、記念写真。

 

「渋谷のパリピみたいなこと言ってるクマ。斑鳩オマエ、イベント好きだったクマ?」

 

 え、ええそれはもう! 仕事の疲れも吹き飛びますよ。

 

「ふーん。ふーん。まあいいクマ。情報、感謝してやるクマ」

 

 ええ。長い解説の傾聴、お疲れ様でした。

 

 

◆――――◆

 

 

 あ、そうだ球磨さん、最後にひとつ。

 この成句はご存知ですか。

『この世界には深海の闇ですら消せない炎が存在する』

 

「クマ? ――聞いたことはある、気がするクマ。それが?」

 

ああいえ、ただ聞いてみただけです。ふと、何だろうなと思いまして。

 

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