批評でなくても、何かしらを募集しています。
今朝も皆の間で、傘姫提督が姿をくらました「らしい」という話でもちきりだった。昨日から北鎮守府をゴミ箱の中まで探す斑鳩の様子がそれだけ切羽詰まっていた、ということなんでしょうね。でも私と長月は事態がよりよろしくないこと――傘姫提督が本当に、文字通り、消えたことを知っていた。
昨日、斑鳩からこんな電話があった。
《山城の能力で提督を出したり消したりしてないよね!?》
もちろん私はやってないし、そんな能力の持ち合わせはない。
「私もそんな能力は知らないな」
食堂の隅で私たちは朝食をとりながらヒソヒソと話していた。
傘姫提督はいなくなった「らしい」のではない。本当に、青い炎の中に、消えてしまった。少なくとも斑鳩にはそう見えた……「らしい」。
「テレポートやサイコキネシスでなくてもよ、例えば長月ならそういうトリックもできるんじゃない? 青い炎を出してる間に傘姫提督を抱えて超スピードで連れ去るとか。ほら、長月ってば超能力を活かした宴会芸が得意じゃあないの」
「無理だ。私の炎は加減が利かないからな、燃やした瞬間に人間くらい木っ端微塵だ」
「変な想像させないでよね、食べてるときに」
「言い出したのは山城だろう」
「じゃあ、やっぱり傘姫提督が洞観者だったってこと?」
「艦娘でない洞観者なんて聞いたこともないけど、今のところそうだったとしか思えない。分隊の他の洞観者、潜水艦たちもいるにはいるが、斑鳩の胃を痛めつける理由がないしな」
「斑鳩には悪いけど力にはなれそうもない――とは言ってもいられないのが不幸だわ」
「普通に失踪事件だしな」
「いや、普通じゃあないわよ。斑鳩が言ってたでしょう、別れの挨拶を一方的に済まされたって。このことを知ってる私たち洞観者だけで事件を解決しなきゃいけないのよ。いや、叢雲とか球磨たちは事情を知ってるから喋ってもいいのよね、うんそうだわ。それなら少しは状況がマシなのかしら」
「そういえば叢雲たちはどこまで話を知ってるんだろうな」
食堂を見渡すと、すぐに頼れる六人を見つけられた。叢雲、球磨、金剛、吹雪、それに雷電姉妹がちょうど固まって座っていて……みんな、朝っぱらからとても難しい顔をしていた。なんだか、もう、ダメそうな感じしかしなかった。例えるなら勝ち目のないにも程がある相手に喧嘩ふっかけて今日が決闘日、みたいな。
「……もう万策尽きてそうな顔してるな、あの六人」長月も同じ感想だった。
「ねえ長月。事態が事態だし、念のため長門にも事情を話しておいた方がいいんじゃあない?」
「洞観者の事をか? それはダメだ」
「でも傘姫提督が見つからなかったら今日からたぶん、指揮系統が混乱するわよ。雷電、長門の系統が途切れたら困るわけだし」
「なら山城が間に入ってやってくれ。よく秘書艦やってるから、そういうの得意だろ」
「いや全然得意じゃあないわよ」
「とにかく洞観者の存在はあくまで秘密、それが第一だ」
「まったく悪い予感がするわ。そう簡単に崩れないための天照大艦隊なのに」
まあそれを考えるのは提督たちの仕事だ、と私が言おうとした時だった。
食堂が一瞬ざわついた後、
「食事中にすまない、みな聞いて欲しい!」と阿呆、竹櫛提督が食堂中に言った。
なぜ皆がざわつくかって? 理由は二つある。
ひとつ。竹櫛提督はめったに食堂に現れることがないから。あの人は普段、売店で適当に買ったものを執務室で食べている。
まあ、それは別にどうでもいい。
もうひとつ……竹櫛提督の隣に一ノ傘副提督がいて、そして……ああ、何かの間違いであって欲しい……。竹櫛提督の左手と一ノ傘副提督の右手が重なっていて、指がこう、それぞれ離れないようジョイントになっていて……つまり、私たちが面食らったのは、そう、何と言ったかしらん……。
「なんで手なんか繋いでるんだ?」と長月が代弁してくれた。
「長月、長月。ちょっと私のほっぺた摘まんでみて」
「ああ、ほら。どうだ」
「めっちゃ痛いわありがとう」
よくよくみれば提督も副提督も、気恥ずかしさを隠しているような表情をしている。でも、どこか嬉しそうというか――「新しい道を歩み始めます」的な顔でもある。あんな乙女な副提督、一度だって見たことがない。
嘘でしょ提督。今から冗談だって言うんでしょ提督。
「静かに、静かに」と提督がなだめたことで食堂はしんとなった。そりゃあ黙るしかない。
「今日は皆に重大なことを伝えなければならない。まず一つ、これはもう噂になって聞き及んでいる者もいるかもしれないが、分隊の傘姫提督の行方が分からなくなっている。彼女を発見した者はすみやかに私に報告して欲しい。しかし過度に心配をする必要はない。彼女の性質からして、そう深刻な理由はないと考えている。本日中に姿を現さなかった場合、分隊の指揮は一時的にこの一ノ傘副提督が取る」
傘姫提督には悪いけれど今はそんなことはどうでもいい、と思ってるのは絶対に私だけじゃあない。
「そして――ゴホン。もう一つ、皆に知らせるべき事がある」
早く言え、いや言うな、私はどちらかというと恐怖していた。
「この度……――私と一ノ傘鉄子は身を固めることとなった。以上である。では朝食に戻ってくれ」
早口で言って、提督と副提督は食堂から逃げるように出ていった。
食堂中の誰もがポカンとするしかなかった。
私は長月を見た。長月も私を見た。今の、聞いた? と目と目で言い合った。
誰かが喋り出すより先にゴツンという鈍い音が二連続で聞こえた。何かと思えば、叢雲と電が頭から倒れた音だった。その音を皮切りに皆の口から思い思いの、いや、それはもう思うこと思わないことが発せられた。
食堂、大混乱。
提督たちと入れ替わるように入ってきた寝坊組はなんだなんだと聞くより先に「ちょっと聞いてよ!」と混乱をぶつける相手にさせられた。
「山城は……知ってた?」と長月に聞かれた。
「まさか。誰か一人でも知ってたら噂になってたわよ」
「身を固める、って、そういうことでいいんだよな」
「ええ、たぶん。エイプリルフールって四月一日だけじゃあなかったのね」
「そ、そうなのか? 今日ってエイプリルフールだったのか!?」と冗談が通じないくらいには長月も混乱しているらしかった。
「いや、いや。……ところで長月、今日は暇だったりしない?」
「え? あ、ああ、特に用事はない」
「私、今日の秘書艦なのよ。お小遣いあげるから代わって――」
「嫌だ」
「はぁ…………不幸だわ」
◆――――◆
もちろん、私は皆の期待を背負わされた。秘書艦ならどういうことか詳しく聞いてこいって、そりゃあ聞きたい気持ちは分かる。私だって聞きたい。でも直接聞く役になりたくはない。
「……失礼しまぁす」と私はおどおど第一執務室に入った。
「うむ」とだけ言った竹櫛提督は朝食のカロリーメイトを食べていた。
私は秘書艦用の席に着いた。……こんなに落ち着かない秘書艦業務はケッコンカッコカリのとき以来、いやそれ以上だった。
「何か聞かないのか」
提督の方から話を振ってきた。
「……聞いていいんですか?」
「聞かれるのならば早い方がいい」
「じゃあ……いや提督から話してくださいよ。お味噌汁飲んでる時にいきなりあれだけパーッと言われたって反応に困るんですけど」
「傘姫が行方不明なのだ。斑鳩が捜索願を出す予定であるが、それ以上の混乱は避けたかった」
「混乱させられまくりなんですって。せめてもう少し、傘姫提督の件が落ち着くまでの間、内緒にしてた方がよかったんじゃあないです?」
「こういった事は隠していても話が漏れるものだ。ならば先んじて話しておいた方が良い」
「……いつから、副提督とそんな話をしてたんですか? そんな素振り、ぜんぜん見えませんでした」
「いつから、か――それが分からんのだ」
「は?」
「気がつくと、一ノ傘とそういう話になっていたのだ」
「いやいや、んなはずないでしょう阿呆提督。そんな、ふわっとした話がありますか」
「ならば一ノ傘にも聞いてみるといい。同じことを言うはずだ」
「えぇ……。大人ってそんなのもアリなんですかねぇ……」
だもので、提督との話はふわふわしたものが続くだけだった。
ただひとつ。叢雲のことを今どう思っているのかはなんとなく聞けなかった。