ことよろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
深海棲艦でも、無能な上官でもない敵――ゾンビに襲われる艦隊というのは、他の者から見れば呪われた艦隊と言えた。見たことがあればの話であるが。
「…………34……35…………」
木曾に誰にも近寄らせないよう見張らせている工廠の裏で、球磨は頭を撃ち抜いたゾンビの数をかぞえていた。数え始めてから二十分になる。あと十分程度で終わる『仕事』だった。
球磨が長月の代わりに『仕事』をこなせるようになったのは、自前のピストルカービンを用意できたからだった。安く調達したピストルに、サプレッサー、フラッシュライト、フォアグリップ、ストック、ホログラフィックサイトを追加改造している。廃材を利用して狭い工作台の上で組み立てられたとは思えない働きをしていた。
「…………36…………」
今まで、その小柄な体躯で『仕事』をしていた長月の代わりになれたことは大きいと球磨は考えていた。この仕事は決まって真夜中に、ある種の儀式のように行われていた。務まる者は多いほうが良いに決まっている。ましてやゾンビが相手なのだから。
「……37…………慣れって怖いクマ」
ゾンビ処理能力の限界、撃ち漏らしが引き金となるバイオハザードを恐れていた以前までの自分を思い出しての独り言だった。
今はただ、ゾンビの頭に銃弾を二発しっかり叩き込むことだけに集中すればよかった。
球磨は前方にだけ注意を払っていた。
だから、背後の人影に気付けなかった。
「寒イノニナァ、ゴ苦労ナコトダ」
「クマッ!?」
球磨が振返ると、毛布オバケがそこにいた。
着る毛布の上から毛布を羽織ったオバケ、極楽は地面に散らばった空薬莢をいくつかチャリチャリと拾った。
「ホラ、余所見スルナ」
「え? あっ」
球磨がピストルカービンを構え直すより早く、極楽は空薬莢をゾンビめがけて投げた。無論ただの投擲ではない。ネオサイタマのニンジャが使うスリケンめいて、空薬莢は38体目のゾンビを蜂の巣よりも酷くした。
「木曾が、ここに誰も近づけないよう見張ってたはずクマ」と球磨は言いはしたものの、極楽を相手に意味のないこととは分かっていた。
「慣レナイ奴ニ亡者狩リヲ任セルノモ心配デナ」と極楽は自分の言いたいことを言った。「突破サレルト面倒ダ。オ前ニハ特別サービスデ自動小銃ヲ融通シテヤッタ方ガヨカッタカモナ」
「……このゾンビ達のこと、いつから知ってたクマ?」
「サア? イツダッタカ我ニモ思イ出セナイナ。コレガ本当ノ『腐レ縁』ッテヤツダ。相手ガ亡者ナダケニ」
「面白くないクマ」
「ホラ次ガ来タゾ。我ヲ守レ」
「クマより強い人を守る意味がわからんクマ」
球磨は39体目の頭に二発の銃弾を撃ち込んだ。
「ナイスショット」極楽はまるで賞賛がこもっていない拍手を送った。
「腐れ縁、我を守れ……――まさかこのゾンビ達、お姉さんを狙ってるクマ?」
「ム。失言ダッタカ。気ニスルナ、忘レロ」
極楽はまた空薬莢を拾うと、まるで川に小石でも投げるように空薬莢を投げた。40体目のゾンビが海に帰らされた。
「つまり、お姉さんが元凶だと考えろ、ってことになるクマ」
「次ノ劇場版ノ主役ハ我ダナ」
「毛布の上に毛布を重ね着する主役なんて、興行爆死は必至クマ」
「アニメ化サレタ我ハソレッポイ格好スルニ決マッテルダロ。主題歌ハ我ガ歌ッテモイイゾ」
「……どっちが悪いクマ? ゾンビの方? お姉さんの方?」
「海ガ悪イ。七ツノ海ガダ」
「さすがお姉さん、スケールが無駄にでけークマ」
「ソロソロ時間ダナ。最後マデ気ヲ緩メズココヲ死守シロ。オ前ノ命ニカエテデモ亡者ヲ売店マデ通スナ」
タシュッと飛び上がった極楽は一足で工廠の屋根を踏んだ。そこから毛布を外套のようにはためかせ夜の闇へと消える姿はさながら怪人――そう、彼女は中から外まで怪人だった。
2019年冬イベントは皆々様、どんな感じでしょうか。
我が天照大艦隊はおかげさまで今回も無事、掘りも含めて作戦を全うできました。