球磨の薬指   作:vs どんぐり

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前々話【ヤーナム島の黒い風(後編)】の続編、いやむしろ正編です。


第76話 球磨争奪戦 ① アサシンフリート

 あきつ丸がいくらアレであろうとヤーナム泊地を任される提督であるという事実は認められたものである。否定は決してされない。文句を言われる筋合いは、大いにあるのだが、「じゃあお前が代わりにヤーナム泊地を預かれ」という暴力的な反論があまりに強かった。だから、あきつ丸に勝てる人間はこれも暴論めいて存在しないのである。

 それに、その言動は批難されるようなものだけではない。仮にも提督であるあきつ丸は、彼女なりにやる事はやっている。

 現状維持ではなく改善を。

 行動を起こせば起こすだけジリ貧だと言って放り投げてしまうような輩に深海棲艦の相手は務まらず、付き従う艦娘などまずいない。その点、あきつ丸には立派な『ヤーナム歌劇団』神風型駆逐艦たちという指揮下にある艦娘が確かにいる。ならばヤーナム泊地を任される提督であるという事実を認められ、否定は決してされず、文句を言われる筋合いは、いや冷静に考えて大いにあるのだが「じゃあお前が代わりに――」……と、あきつ丸周囲の人間は、この堂々巡りに付き合わされる羽目になるのだった。

 

 

◆――――◆

 

 

 最近は、ここ天照大艦隊・分隊、北鎮守府の者らがウロボロス丸の被害に遭っていた。

 

「泊地が使い物にならなくなって幾日。ほぼ総力戦だった第二次南方作戦のタイミングが我らにとってあまりに悪く泊地の再建が後回しにされた、と嘆くのは提督として三流。自分ほどにもなると、こうして天照隊分隊に居候中でありながらも、戦力の増強を着実に図っているのであります。フフッ。揚陸艦にならず最初から提督の道を進んでいたifの自分を想像するのが恐ろしい……」

 

 傘姫提督からも、斑鳩からも、猫吊さんからも聞かれていないのに勝手にしゃべり始めるあきつ丸はもちろん、自慢話がしたいだけだった。

 執務室内はエアコンで暖められており、特別チープな加湿器はそれなりに潤いをもたらしている。休憩用ソファの座り心地はヤーナム泊地のパイプ椅子より良好。ついでに聞く耳をもつ人間の模造品と半艦娘半深海棲艦と妖怪もいる。つまり自慢話がしたいあきつ丸にとって、ここはとても居心地のよい場所だった。

 こういう時に相槌を打つのは秘書艦、半艦娘半深海棲艦、斑鳩の仕事である。

 勤務中の雑談を推奨しているくせに面倒臭い受け答えは秘書艦任せなのが、人間の模造品、傘姫提督であり。

 そもそも滅多に喋らないのが、妖怪、猫吊さんなのだ。

 

「あー……、うん」と律儀にキャッチボールに付き合うところが斑鳩の美点である。「ヤーナム歌劇団に加わった黒風ちゃんが即戦力レベルだったからね。艤装をちょっと整えてあげただけで性能が跳ね上がったもんね。よかったね」

「いつの話をしているのでありますか。南方作戦より以前などもはや遠い過去。自分は常に時代の最先端を生きているのであります」

「左様で。じゃあ何かもっと強い装備でも作った?」

「この鎮守府の工廠は、ほぼ24時間、常に潜水艦の誰かが使用していて近寄れない、と苦情を申し立てたいところでありますな。それに資材は、わずかでも本隊の方の作戦行動に回すから必要最低限しか使うなと言ったのは貴官でありましょう」

「そうだったね。倹約重点。今週も効率的にがんばろう」

 

 スッとPCモニターに視線を戻した斑鳩的には自然な流れで仕事に戻ったつもりだった。

 しかし、そうはさせないまだ話し足りない自慢し足りないと、ウロボロス丸は構わず喋るのをやめない。まだまったくドヤァァ……り足りていない。

 

「聞けば驚くこと間違いないでありましょう。実は今日、新しい艦を1人迎える手筈になっているのであります!」

「……なんだって?」

「黒風が加わったとはいえ、自分の艦隊が保有する艦は神風型駆逐艦が6人。切り札中の切り札である自分、このあきつ丸も数に入れたとしても、あまりに戦力不足――いや単純に人手不足。ならば自然、艦を増やして戦力を増強すべしとなるのでありますなあ。そして、フッフッフッ、自分の一声は陸軍から海軍へとも呼び寄せてしまうのであります。これが『かりすま』と呼ばれる力でありましょうか」

「ちょっと待ってあきつ丸。今日、ここに艦娘を呼んだの? 来るの?」

「そうであります。が、まだ来ないでありますな。少し遅れるとの連絡は受けたのでありますが」

「いきなり来られても困る、というか、鎮守府に入れさせられないよ」

「む。貴官ともあろう者が、元陸軍人だからと締め出すつもりでありますか。やれやれ、これだから海軍は――」

「いや単純に、関係者以外は立入禁止だから」

「ん? 疑う余地のない関係者でありますが?」

「それを証明する書類を用意して1週間前までにちゃんと申請してくれたら、あの人」斑鳩は傘姫提督を指さした。「が許可を出すよ」

「…………ここは、このあきつ丸の顔に免じて、どうかひとつ」

「昔、『ジャマイカからやってきた金剛型1番艦』とかいう不審者に襲撃されて以来ねー、警備を厳しくしてるんだ。正直ちゃんと申請してくれてても、知らない人を中に入れるのはどうかなってくらい。というか今の時間まで少し遅れるの連絡ひとつしかないのなら、前にあきつ丸が間違えたのと同じように、天照隊の本隊、南鎮守府の方に行っちゃってるんじゃあないの?」

「あ、あれは、そもそも天照大艦隊の公式ウェブサイトが悪いと思うであります。『本隊と分隊があります』程度の情報しか掲載していないのは明らかに不親切。あのウェブサイトを見れば誰だって、とにかく本隊の方に行けばいいのだな、と思うに違いないであります」

「まあ、天照隊に用事があるからって、この分隊に来られても実際困るし」

 

 ここまで、あきつ丸の戦力増強の話を困り顔で聞いて却下しようとしている斑鳩であるが、ここ天照隊分隊の人手不足も大概である。空母斑鳩の他には5人の潜水艦しかおらず、不足は本隊からの艦娘派遣で補っている。所属艦娘全員の練度が一騎当千が如く極めて高いので充分だと錯覚しがちだが、艦隊運用は練度のみに頼ったゴリ押しが通用するものではない。どうあれ艦隊の人員不足の解消に着手しているあきつ丸の方が、本隊に頼り切ることに慣れてしまった傘姫提督や斑鳩よりマシ、と嘲笑できることに気付いているのは猫吊さんだけであった。

 猫吊さんは仕事をしながらも斑鳩とあきつ丸の会話を耳でしっかり拾っている。しかしやはり、何も言わない。嘲笑もしない。余計なことも言ったほうがいいことも言わない。猫吊るしとはそういう妖怪なのである。

 斑鳩は、新たに来るという元陸軍人を一応心配しつつ話を続けた。

 

「そのお仲間さんには言ったの? 本隊の方でなく分隊に来るように、って」

「言ったはず……いや言ったであります。間違いなく」

「電話してみたら? 正門の警備からも本隊からも連絡がないし、ただ単に道に迷ってるだけかも」

「そうでありますな。ではちょっと失礼」とあきつ丸はソファから立ち上がった。「傘姫提督殿。『神州丸』は練度が初上限に到達している極めて優秀な艦であります。どうか本日の受け入れを前向きにご検討頂きたい」

 

 あきつ丸はそう言い残して執務室を出ていった。それを見届けてから斑鳩は言った。

 

「ご検討しろだってよ、どうする提督? 身分証確認と持物検査で正門くらいは跨がせてあげる? ヤーナム泊地の戦力は後々のために1日でも早く、1人でも多く補強したほうがいいのは間違ってないと思うけど。神州丸さんがどんな艦かはさておき」

「やだ。怖い」

 

 傘姫提督、フルネームで一ノ傘姫乃という者は、人間の模造品とはいえ立派な大人である。その立派な大人が「やだ。怖い」と小学生並みの感想を吐く様はあまりに、せめて安全のためには例外を作らないなどの建前を……いや悲しいかな、秘書艦斑鳩は既に傘姫の小並感に順応してしまっていた。

 

「じゃあイムヤ達に監視にあたってもらおう。最近、振動魚雷の研究でなんかブレイクスルーを見つけたとか言ってたし、元陸軍人さんが、万が一、脱法対艦娘実験のチャンスを提供してくれるかもしれないなら喜んで監視してくれるよ。たぶん」

「ふうん。その、振動魚雷って、陸の上でも、使える、ものなの?」

「今更それ聞く? トルピードランチャー担ぐ潜水艦にだよ、僕らの常識なんて通用しないしない」

「ふうん。まあ、それなら」

「でも、なーんか引っかかるんだよね。黒風ちゃんみたいに、姉妹艦がいるから、相当の理由を持っていてヤーナム泊地の仲間になりたがる人がそうそういる? いや普通いない。きな臭い。……こういう時に球磨さんがいてくれたらなあ」

 

 

◆――――◆

 

 

 ――1時間前

 

 彼女は天照大艦隊の本隊がある南鎮守府の中にいた。

 彼女は入場許可証をネックストラップで下げていた。

 しかし、彼女は誰からも何の許可も得ていなかった。

 だからだろうか。彼女は入場許可証を持っているにもかかわらず、つい反射的に建物の影に隠れてしまった。その表情もまたフードの下に隠されている。

 

「あれは――撃沈王、大和?」

 

 彼女が見る先ではその姿を知らぬ者などいない戦艦大和が、当たり前に堂々と、しかも案内役と思しき駆逐艦らしき少女2人を付けて歩いていた。

 

「何故ここに? まさかあの不確かに過ぎる噂が本当だと……いや考えすぎだ。大和が天照大艦隊と深い交流を持っているのは隠された話でもない。今日ここに来ているのはただの偶然だろう。まさか、仮に噂が正しかったとしても球磨を確保しに来た(・・・・・・・・・)タイミングがぶつかるなど――」

《独り言が多いな神州丸》

 

 彼女の右耳の通信装置から届いたその声は、成年以上だがまだ若い男と聞き取れるものだった。どこか嫌味ったらしい印象を与える声である。また、特別その存在を覚えておく必要がない作中のモブキャラクターっぽい声でもあった。

 

《僕の助けが必要なら早めに言ってくれよ。1秒を争う状況になってから頼られても困る》

「貴様は、今日この鎮守府に大和が来ることを知っていたか」

《いや? そんな報告は受けていないな。しかしまあ、君がブツブツ言っていた通りだろう。世に名高い撃沈王様が君と同じく艦娘を拉致しに来たとは、少し想像し難い》

「拉致ではない。確保だ」

《どちらでもいいから早く済ませてくれよ。僕のドローンのバッテリーは長く持たないし、君のアリバイ偽装にも時間制限がある》

「言われなくても分かっている。貴様は空からの偵察に集中しろ」

 

 大和たちが過ぎ去ったのを確認してから、彼女――神州丸は建物の影からするりと抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

つづく可能性、5割くらい

 




神州丸実装のおかげで全てが狂った、といっても過言ではありません。
今までアサシン役を、ただ好みだけを理由に、キャラになんの共通点もない球磨に演じてもらっていたのに、ド直球でフード被った艦娘が来たんですもの。
衝撃……あの実装時はかなりの衝撃を受けました。
2019年秋イベントは神州丸が全て、それ以外どうでもよかったまでありました(全艦コンプはしましたが)。
え? というか何故うちの球磨はナイフ隠し持ってたりCQB/CQC技術に長けてたり超感覚持ってたりするの? なんで?
……真実はなく、許されぬ事などない。きっとそういうことなのでしょう。
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