《応答しろ神州丸! 僕のドローンも壊れたようだし、いったい何が起こっている!?》
◆――――◇
「もしもし。悪いな忙しい時に。
――え、今日1人もいないのか、バイト!? 言ってくれよ、私は今日暇だったのに。
――言った?
――あ、本当に悪い、見てなかった。でも丁度よかった。この電話が、今からハングド・キャットに行ってもいいかって話なんだ。私の艦隊に、洞観者でもないのに超能力めいた何かを使える軽巡がいるって
――そうそう球磨。もしかしたら炎は持たないがダメコンは発動しない、みたいな中途半端で悪いとこ取りの存在かもって相談したよな。その球磨を今からハングド・キャットに連れて行くから見てもらいたいんだ。私もバイトに入れるし小遣い稼……いやなんでも。とにかく丁度いいな。
――それが実はさっき、とんでもなく怪しい奴が鎮守府の中にまで、球磨を探しに来たんだ。ゴッドランドって名前でフード被ってる奴なんだが、武蔵はそういう奴に心当たりあるか?
――いや見た感じ海外艦ではない。あと多分そいつの仲間が飛ばしてるドローンが離れたところから偵察してた。一応アイサツしてみたが反応はなかったから大した脅威ではないはずだが、少なくともよからぬことをしようとしているのは多分まちが
――あー。
……うん。その通りだ。すまない。ハッキリ感じたことを言うとだな、ゴッドランドは球磨を殺しに来たか、拉致しに来たか、それくらいのことを実行するつもりでこの鎮守府に入ってきてる。もう調べたり様子見する段階は終わってて、あとはヤるのみって眼をしてた。1度だけ戦ったことある深海棲艦のレ級より闇が深い眼だった。だから頼む。ハングド・キャットで武蔵と猫たちに見てもらって、ついでにしばらく匿まえないか?
――いやでもほら、何れにせよ、まず武蔵に話さないと始まらないし
――あー、誰だっけ目利きが得意なの? もうそれか、ネオサイタマから陛下を呼んだほうが手っ取り早
――まあそうだな、都合よく来てはくれないよな。だから今日アルバイトが1人もいないんだし。でもせめてゴッドランドをなんとかするまで
――え? そりゃあ……殴って分からせるとか?
――いま面倒臭くなって言っただろ。でも言ったからには頼らせてもらう。とにかく私は球磨を連れてそっちに行くぞ。
――さあ? まあ、皿洗いくらいは最低できるんじゃあないか?」
◇――――◇
嘘を見抜いて嘘で返した睦月を、底の見えない暗い不安が襲った。寒気が襲った。怖気が襲った。
こんな『駆け引き』をしたのは初めてだった。叢雲や雷電姉妹のような熟練艦が嫌でも通ってきた道に、この少女は今、初めて足を踏み入れた。
「睦月ちゃん?」
「如月ちゃん……。どうしよう、私、あの人を騙せなくて、騙された振りでお返事されて……球磨ちゃんが……!」
「大丈夫よ睦月ちゃん。みんなここにいる。カレンダーズはいつもみんな一緒だから。菊月ちゃんと水無月ちゃんと弥生ちゃんと長月ちゃんはいないけれど、『心は繋がってる』とかキングダムハーツみたいなことを適当に言っておけば何とかなるから。さあ、お話を聞かせて」
「うん、ありがとう如月ちゃん……! みんな、実はかくかくしかじかで」
皐月「言われてみれば……あの人、雰囲気が球磨ちゃんに似てたよね。悪い意味で」
卯月「うーちゃん復活ぴょん!」
睦月「ゴッドランドっていうお名前も怪しいよ。金剛さんの英国設定くらい怪しい」
三日月「これ言っていいのかな? 球磨ちゃんが狙われるのって……逆に安心しない?」
如月「たし」
望月「かに」
文月「返り討ちだもんね、ふつ~に」
睦月「でも、もしゴッドランドさんが球磨ちゃんより強かったら……」
睦月の懸念は当たっていた。
卯月「カレンダーズじゃあどうしようもないっぴょん」
皐月「11人がかりで球磨ちゃん1人に負けたんだよ、ボクら」
如月「ああ、あのトレーニング体験の時ね」
望月「ナイフが本物だったら球磨ちゃん無傷であたしら全員死んでたもんな」
三日月「いーえ! あの時のもっち、何もしなかったでしょ!」
望月「何かはしたかったよ、でもできなかったんだよ! 一番最初に狙われて!」
睦月「カレンダーズがあと100人くらいいたらにゃぁ」
皐月「追加した100人分の名前、どうするのさ。お月さまは1個しかないよ」
卯月「世界には175姉妹がいるぴょん。名前くらいなんとかなるぴょん」
如月「さすがに無理だと思うわぁ」
睦月「じゃあ吹雪型とか他みんなを名誉カレンダーズにして……何するんだっけ?」
望月「おい言い出しっぺ」
文月「あ~っ、いいこと思いついた~!」
皐月「100人分の名前の心当たり?」
三日月「それはもういいから」
文月「あっち見て。ほら、暇そうな戦艦の人がいるよ~」
睦月「いるにゃー」
卯月「いるぴょん」
如月「いるかいないかで言えば、いるわね」
皐月「確かにいるね。それから?」
文月「? 戦艦の人だから、強いよ?」
望月「あれ? 概念と概念のマウント争いとか、そっち方向の話?」
睦月「うん。睦月たちよりはもちろん強いと思う。腕相撲とかなら」
如月「でも練度は? 睦月ちゃんの何分の一?」
一同「「う~ん……」」
◇――――◆
カレンダーズは間違っている。
あの暇そうなのは戦艦ではない。
航空戦艦だ。
◆――――◆
『試飛会』とは日向が制作したラジコン飛行機のテスト飛行を行う会である。
戦艦から航空戦艦へと進化した日向は己の刃を研ぐべく航空機の研究に明け暮れ、定期的に切れ味を試すべくラジコンを製作しては戦艦寮上空を飛行させたり墜落させたりした。
日々を深海棲艦との戦いに費やす艦娘にそのような暇があるのかと問うならば普通は無いと答え、日向は普通という枠を何食わぬ顔で切り捨てた。故に航空戦艦になってから随分と久しいものの練度には僅かの上昇しか見られず(Lv.10 → 13)、ラジコン飛行機の製作技術ばかりが無駄に上昇していった。勿論、この技術が深海棲艦に対する抑止力となった例は一度として……いや一度だけ、深海棲艦になりかけた艦娘を止めたことならあった。その一度だけだった。本末転倒も甚だしかった。
「艦娘としてあんたそれでいいの!?」
総旗艦・叢雲に激怒されることは度々あり、日向も猫の額くらいは気にしている。ところで猫の額とは面積の狭さを例える言葉であり思慮の大小を表すのには使えないのではと日向は疑問に思い、つまり全く気にしていないと同義とも言えた。これぞ鋼のメンタルの成せる業である。
日向が製作するラジコンはいかなる機種であれ、全体をヘチマのような緑色に塗装され、両翼と胴体には赤いマル模様が入れられる。機体下部には固定翼機や回転翼機、アダムスキー型未確認飛行機だろうと何だろうと例外無く水上に浮かぶためのフロートが無理やり取り付けられ、つまりは瑞雲化改修が行われた。
制作する飛行機の機種はいつも自由自在だった。F-22ラプター、F-35ライトニングⅡ、A-10サンダーボルトⅡ、Ka-50ホーカム、V-22オスプレイ、サボイアS.21、SH-60K、テポドン2号、コンコルド、気球船、果てはハインケル・レルヒェのような珍機体(特に航空戦艦が運用できそうなもの多)などがプロペラ駆動のラジコン飛行機となった。
半強制的に観覧に招待された最上が見守る中、日向のラジコンは戦艦寮前の空を優雅に飛行した。あるいは制御不能に陥った機体が爆発しない巡航ミサイルとして最上の頭や山城の部屋、斑鳩の意識、金剛の後頭部、弾道ミサイルとして北鎮守府の執務室を狙ったりもした。それらの経験はすべて日向の糧となり、最上の精神的重石となった。
◆――――◆
「ほう、この不審者が、球磨を狙っていると」
睦月がゴッドランドを背後からこっそりスマートフォンで撮影した動画を、日向はとても真剣に観察している。フード付きの外套を羽織った者の後ろ姿は、人相こそ分かるはずもないが他の者と見間違えることはないだろう。もし同じ姿で顔を隠した者が大勢現れても全員ぶちのめすまでのことである。
今回の試飛会は本当の本当に過去最悪レベルで危ないから、
(飛ばす予定だった機体は瑞雲化改修されたパンジャンドラムだった。誰でも一度は飛ばしてみたくなる兵器ランキングの常連だろう)
近寄るなと最上はカレンダーズを追い返そうとしたのだが、
「まあ待て最上。艦隊の危機は我々航空艦の危機だ」
今まで数々の天照大艦隊の危機をスルーし続けてきたニート航空戦艦は、珍しく趣味を放り出した。
実は今回作ったパンジャンドラムにあまり自信がなかった――飛行する姿があまり美しくないかもしれないという意味で――それは些細なことで、強力かつ絶対の航空戦艦がちっこい駆逐艦たちの救援要請を無下にしてよいはずがない。
「つまり、このゴッドランドと名乗る者に話を聞いて適切に対処すればいいわけだな。そして同時に球磨の安全を確保すると」
「はい。嘘をついてまで誰かを探してるなんて絶対怪しいです」
睦月は2つの意味で心配で仕方がない。
ひとつ、無論、球磨が危ない。
ふたつ、練度13の戦艦(ではなく航空戦艦)を頼るのは正解だったのか。
「なに、言葉通り大船に乗ったつもりで、全面的に任せてくれて構わない。しかしそうだな、念の為……最上、この子たちを戦艦寮の中へ。山城の部屋ならば防弾ガラスやら何やらで安全だろう。相手は最低でも、まあ普通は拳銃などだろうが、何かしら武器を持っているからな」
「え、分かるんですか?」と最上。「あの動画だけで? 手ぶらでしたけど」
「手ぶらだからだ」
「はい?」
「他所から来る艦娘が手ぶらなはずがないだろう。鉄の装備は預けてきたか知らないが、『艦隊に用事がある』と言ったのだろう。ならば荷物のひとつでも持ち歩くのが普通だ。普通でなければ、その者は普通ではない。外套の下などを見せてもらわねば」
「…………ああ」
真っ当なことを言う日向に少しモヤッとさせられる最上だった。
「ならば急いだほうがいいな、では不審者を探しに行くとしよう。そうだな、とりあえず売店の方向に行けば途中で何か目につくだろう」
◆――――◆
不審者はあっさり見つかった。
ついでに、何故か、ジャケットとパンツ姿の大和も見つけた。
しかも親切なことに2人とも――大和はべつにどうでもいいのだが――結束バンドで手足の自由を放棄させられ地面に転がってくれている。それも二人三脚のように2人が仲良く繋がれていて互いに動きを制限し合い、不審者の方など短すぎたスカートの中を隠すこともままならない。
日向に言わせると、拘束された人間をナマで見るのはあまり愉快なことでないものの、まあ楽だったというか、脱出ゲームの最後の鍵がいきなり手に入ったというか、こういうのを確か……そう、「肩透かしを食わされた」と言う。
よく見ると転がる2人の背中からそれぞれ2本の細いワイヤーが伸びていて、その先は玩具の拳銃のようなものに繋がっている。日向は試しに2つの拳銃の引き金を引いてみた。
「イ゙ぎ……ッ!」
「ぁああああっ!」
見れば分かるものでも試さずにはいられない人畜生である。
「ッ……やめろ貴様!」
「なにしてくれるの!」
不審者と大和から文句を言われる航空戦艦。
「いや、装甲を貫くでも爆発するでもなく、電撃で無力化するという発想が面白くてな」
「「面白くない!」」
「ところで大和ではない方の君が、ゴッドランドを名乗る者だな」
「そういう貴様は……まさか日向ではないか? そうだ、この艦隊に貴様がいることをすっかり失念していた。ならば本艦のことは知っているだろう。本当の名を神州丸という」
「神州丸? はて……すまんが、富士急ハイランドで会ったか?」
「その頃はまだ本艦は実装されていない。覚えていないのか!? 煙突の件だ、貴様から不要になった煙突を譲り受けて、本艦はそれを偽装として――」
「飛行甲板は?」
「は?」
「飛行甲板。持っているか?」
「……馬欄甲板とカタパルトならあるが?」
「そうか。良かったな。大切にするといい」
「あ、ああ……」
「…………」
「……つまり何なんだ貴様は!?」
「不審者の方はこれで解決して、あとは球磨の安全確保だが……む、あれは……いささか骨の折れる仕事になりそうだ」
「あの、日向? 私を無視しないで?」と大和。共に戦ったことが一度もなくともこのニートの名は当然知っている。なにせ『日本一いやどうかすると世界一働かない戦艦(航空戦艦)』と7つの海に名高い。真逆の戦艦撃沈王が知らない理由がない。
「私の拘束は解いてほしいのだけど」
「いま駆逐艦たちから頼まれ事をされているのでな。後でな」
「ちょっ、待っ、私の解放くらいしてもいいでしょ! ねえ待って! ……嘘でしょ撃沈王をスルーした……。私が何かした? ビリビリされて地面に転がされる屈辱を味わわされるようなことした?」
した。具体的には売店の銃器コーナーを破壊した。
むしろテーザー銃の引き金を引きっぱなしで固定されないだけ売店のお姉さんにしては有情ですらある。
「……ねえ、あなた神州丸といったわね。たぶんSCPやらSPCとかの特殊部隊的なプロなのでしょう? こういう状況から抜け出す訓練とかも積んでるのでしょう?」
「なんだその雑な認識は。無茶を言うな。くそっ、このっ!」
「いたた、ちょっと勝手に動かないで」
「わざとスカートの中を丸見えにされているんだぞ、こっちは」
「…………その下着、ずいぶん可愛いけれど、そっち方面の武器? それともあなたの趣味?」
「黙らないと貴様の関節が外れるまで暴れるぞ」
◆――――◆
元々その自動車は、ガバッと捕まえた人間――今回の場合は球磨をポイッと放り込んでブロロロ……と走り去るために使われるものだった。さらに車内には屈強な男4人が詰まっていた。ドローンを操縦して神州丸と通信をしていたモブ男とは違い、誰の目にも荒事が得意そうに見える者らだ。この予備チームは、機転を利かせたプランCを実行するために鎮守府の正門から強引に乗り込んできた様子だった。
警備員はさぞ驚いたに違いない。恐らく車の運転手は鎮守府をホームセンターか何かと勘違いした高齢者だろうと思ったに違いない。稀によくある事案だ。まさか艦娘をこうも堂々と拉致しに来たとは思うまい。
そして球磨を狙った謎の組織側も、まさか自分たち4人が乗る自動車が、たった1人の深海棲艦に似た艦娘に天地逆にひっくり返され、車外に這い出たところをテーザー銃と結束バンドで無力化され、さらにひっくり返った自動車の上にどこからか現れたロードローラー3台が積み重ねられて潰されるとは思うまい。理解など追いつくまい。
だが事実そうなっている。
なかなかに不思議な状況だが、プランCだの何だのを知らない日向には関係のないことだった。航空戦艦の手助けが必要な場面はとっくに終わっている。
そんなことよりも、少し離れたところで――。
「球磨を渡してくれ、お姉さん。今から急いで連れて行かなくっちゃあいけない用事があるんだ。力尽くになってもだ」
赤いジャージ姿の長月と、
「この万引き犯は今から我に分からせられるんだ。つまり我とコイツは忙しい。それとも何か長月、お前に真のイクサを教えてやるのが先か?」
ネズミ色の上下スウェットに黄色いエプロンをかけたお姉さんと、
「オロロロロ……」
片腕で雑に抱えられた猫のように、いやネコではなくクマなのだが、お姉さんに捕まって顔を真っ青にしている球磨がいる。
15メートルほどの距離で睨み合う長月とお姉さん。
まだまだ成長途中の駆逐艦と、一見病弱そうな戦艦、2人の間に枯葉がひとつ地面に落ちたと同時、2人は残像を作る速さで飛び掛かった。どう見ても人間がやってよい動きでは――いや残像しか見えないのだから、どう見るもこう見るもない次元だった。
日向はカレンダーズから球磨を託されている、だから、という理由など物理的かつ常識的に許されないはずなのだが、人外2人の間に割って入った。
「まあ待たないか2人とも。球磨が……あっ」
少し驚いて急停止したお姉さんは球磨をうっかり手放してしまった。
極々普通の人間という器からちょっぴりはみ出た程度の球磨は、嘔吐しながら可哀相な飛ばされ方をした。
◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆
これより先
過去、投稿したりしなかったりしたヤツ
◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆
◆― 書けば出ると聞いて ―◆
【Fletcher実装時】
比叡を旗艦とした水上打撃部隊の帰還報告を受けた竹櫛提督は、
「これで何度目だ! なぜ出ない!」
パソコンのモニターに向かって吼えた。
今までは険しい顔をしながらも静かに比叡たちを送っては迎えていた提督も、イベントの事前に用意していた資材が半分を切ってしまっては堪忍袋がいよいよ発熱したらしい。
「なぜ出ないのだ、山城!」
「いや、私に聞かれても」
困ります。
私はこれで何度目になるか、マウスをカチカチと操作して、帰ってきた部隊の子らに補給をして、損傷した子を入渠させた。
中でも加賀と霧島の損傷が著しく、修理完了予定は20時間以上も先だった。ので、すぐに高速修復材を使って復活してもらった。
今回のイベントでは、けっきょく最終作戦までワタクシ山城の出番はなく、ずっと秘書艦を担当していた。
そう、我ら天照大艦隊はもうとっくに最終作戦まで成功させていた。最終的には丙で。へいへーい。
というのも、本イベントの前段作戦、第二作戦《防備拡充! 南西諸島防衛作戦》で天照隊は早くも大きくつまずいてしまったのである。
旗艦大和と5人の駆逐艦で構成された部隊が、20回出撃して1度もボスの姿を拝むことすらできないというピンチに見舞われたのだった。ラストエリクサー症候群だ何だと言っていられる余裕すらなくなって、部隊の6人は天照隊初となる補強増設を使った強化艦娘となったのだけれど効果はなかった。無念、撃沈王(と言っても、この世界の大和はかなり弱く装備も貧弱なので仕方がない)。
こんな序盤からこの調子かと、あせりにあせった提督は、甲報酬の烈風改(三五二空/熟練)を指をくわえて見つつ、作戦難易度を『そこそこ頑張る』の乙に下げた。
「英断じゃあないですか、提督」
私がせっかくこう言ってあげたのに、提督ときたら、
「…………うむ…………」
しわしわピカチュウのような顔をしていた。
そこから先の作戦は――察してください。
甲種勲章? ああ、それなら一度、大量の燃料などと交換したことがありますよ。手元に数があれば便利かもしれませんね。でも別にないと困るものじゃあありませんよね。
……はぁ。
イベントの塩梅はそんなところで、今は遡って第四作戦海域を周回しているところだった。
何人目かの戦艦・陸奥が着任したところだった。
「陸奥には悪いが、陸奥はもういいのだ……」
提督は頭をかかえた。
私は基地航空隊の補充をしながら、
「そんなに疲れるのなら、もう諦めたらどうです? ほら、アズールレーンの方ならとっくに高レベルのフレッチャーがいるじゃあないですか」
「イベント期間中は浮気はせん」
「ご立派なことで」
「……ん? 待て山城。アズールレーンに駆逐艦フレッチャーがいるな」
「そう言いましたけど。そろそろ頭、ダメです?」
「駆逐艦……フレッチャーとは駆逐艦なのか? 軽巡洋艦ではなく?」
提督は物欲センサーが働かないよう、イベント期間中は情報収集を最低限に控える。そんなんだから20回出撃ボス到達ゼロとかやらかすのだろうけれど、実際、攻略中にまったく知らない可愛い子がドロップする事も少なくない。
(そういう意味でも、未来の作戦突破報酬の神州丸はかなり衝撃的で特別だった)
「そんな勘違いをしたまま掘ってたんですか? そりゃあ出るものも出ませんよ」
「駆逐艦だったのか……」
次の出撃、そのまた次の出撃でも、比叡の部隊は道中の敵戦艦ル級に阻まれ撤退を余儀なくされた。
これには提督だけでなく私もイラッとさせられる。たとえ何度目のことであっても。
「まあ、私たち以上に比叡たちの方がイライラしてるでしょうけど」
すると提督が、
「そうだ……淀んだ空気を変える意味でも、部隊編成を変えてみてはどうか?」
「せっかくそこそこ最適化してきた編成ですけど、どんな風に?」
「例えば、レベリングを兼ねてコロラドや八丈、石垣を組み込むのだ」
「そんな余裕ありますかねえ」
「同じことを考えて実行に移している他の提督がいるかもしれん。今すぐググるのだ」
「迷走してますね、提督」
「やかましい。さあレベリング兼掘り編成例をネットの海から探せ、秘書艦山城」
「自分で考えたらどうです?」
「……私は、もう、疲れたのだ……」
さようですか。
ものは試しと、頭を使わず単純に旗艦比叡をレベル1のコロラドに入れ替えてみたものの、予想通りの火力不足……それ以前の問題で、ボスまでのルートを大きく外れてしまった。最短ルートを通るためには部隊を高速艦で編成しなければならず、コロラドは低速だった。
提督はまた、しわしわピカチュウのような顔をした。
◆― 没った世界 ―◆
【艦これアーケードの「発動!渾作戦」予告PVを見て激しく興奮するも、話が矛盾してしまうため並行世界送りになった春雨の話】
◇――――◇
「コ……コレダ……!」
◇――――◇
にまぁ……。と春雨は鏡に向かって笑みを浮かべてみた。
鏡側から見るとそれはただの上目遣い、肌と瞳が青白かろうと普通に可愛いだけだった。肝要である目のハイライトの消し方やノイズの出し方など春雨が知るはずもない。
「ウーン……違ウ、コウジャアナイ。モット影ガアル感ジデ……」
「さっきから何やってるの、春雨?」と1番な姉は聞いた。「笑顔の練習? FFⅩ?」
「白露姉サン。モシモ、モシモダヨ? 艦娘ガ実ハ深海棲艦ト隣リ合ワセデ、今マデ仲間ダト思ッテタ艦娘ガ深海棲艦トシテノ本性ヲ現シタラ、ドンナ感ジダト思ウ?」
「え、ごめん何て?」
「私ガ実ハ深海棲艦ダッタトシテ」
「うん」
「本性ヲ現スノ」
「うんうん」
春雨はせいいっぱい魔性の笑み(ただの上目遣い)を作った。
「ドウ? ――怖イ?」
「え、何が?」
春雨の顔がひきつった。
「ダ、ダカラ、私ヲ深海棲艦ダト思ッテミテ」
「うんうんうん」
「フフ……。怖イ?」
「え、だから何が?」
「モウッ! チャント私ヲ見テ、真面目ニ想像シテ!」
「うんうんうんうん」
「今マデ仲間ダト思ッテタノガ実ハ深海棲艦ダッタノ。ドウ? ドウ!?」
「ん~~……。ごめん。春雨のことは1番よく知ってるあたしだけど、意味分かんない」
◇――――◇
「阿呆ガ相手ダカラ悪インダ」
自分の、ただ可愛いだけという贅沢すぎる笑顔を棚に上げた春雨は駆逐艦寮を出た。白露型姉妹に聞いても1番な姉と同じ反応をされそうだと思った春雨は、他の艦娘を探した。できれば駆逐艦でもない方がよい。その方が新鮮な反応を貰えそうな気がしたのだった。
するとちょうど、戦艦寮の前に2人の駆逐艦ではない艦娘がいた。
◇――――◇
『試飛会』とは日向が制作したラジコン飛行機のテスト飛行を行う会である。
戦艦から航空戦艦へと進化した日向は己の刃を研ぐべく航空機の研究に明け暮れ、定期的に切れ味を試すべくラジコンを製作しては戦艦寮上空を飛行させたり墜落させたりした。
日々を深海棲艦との戦いに費やす艦娘にそのような暇があるのかと問うならば普通は無いと答え、日向は普通という枠を何食わぬ顔で切り捨てた。故に航空戦艦になってから随分と久しいものの練度には僅かの上昇しか見られず(Lv.10 → 13)、ラジコン飛行機の製作技術ばかりが無駄に上昇していった。勿論、この技術が深海棲艦に対する抑止力となった例は一度として……いや一度だけ、深海棲艦になりかけた艦娘を止めたことならあった。その一度だけだった。本末転倒も甚だしかった。
「艦娘としてあんたそれでいいの!?」
総旗艦・叢雲に激怒されることは度々あり、日向も猫の額くらいは気にしている。ところで猫の額とは面積の狭さを例える言葉であり思慮の大小を表すのには使えないのではと日向は疑問に思い、つまり全く気にしていないと同義とも言えた。これぞ鋼のメンタルの成せる業である。
日向が製作するラジコンはいかなる機種であれ、全体をヘチマのような緑色に塗装され、両翼と胴体には赤いマル模様が入れられる。機体下部には固定翼機や回転翼機、アダムスキー型未確認飛行機だろうと何だろうと例外無く水上に浮かぶためのフロートが無理やり取り付けられ、つまりは瑞雲化改修が行われた。
制作する飛行機の機種はいつも自由自在だった。F-22ラプター、F-35ライトニングⅡ、A-10サンダーボルトⅡ、Ka-50ホーカム、V-22オスプレイ、サボイアS.21、SH-60K、テポドン2号、コンコルド、気球船、果てはハインケル・レルヒェのような珍機体(特に航空戦艦が運用できそうなもの多)などがプロペラ駆動のラジコン飛行機となった。
半強制的に観覧に招待された最上が見守る中、日向のラジコンは戦艦寮前の空を優雅に飛行した。あるいは制御不能に陥った機体が爆発しない巡航ミサイルとして最上の頭や山城の部屋、斑鳩の意識、金剛の後頭部、弾道ミサイルとして北鎮守府の執務室を狙ったりもした。それらの経験はすべて日向の糧となり、最上の精神的重石となった。
◇――――◇
「アノ、チョットイイデスカ」と、まさか駆逐艦が無防備に近寄ってきたものだから最上は慌てた。
「危ない! 伏せて!」
「エッ、危ナイ?」
最上はラグビーのタックルめいて春雨を押し倒した。直後、春雨の頭があったまさにその場所をラジコン飛行機がチェックポイント通過のような正確さで風を切った。間一髪、という言葉がこれほど当てはまるタイミングはなかなか無い。
今回の試飛会の飛行機は(当時の)時事ネタよりP-1哨戒機である。もちろん瑞雲化改修が例に漏れず施されており元の姿とはだいぶ違っている。
「ふぅ……。危ないよキミ! どうして迂闊に近づいてくるかなあ!」
「エッ、エッ、危ナイ?」
「さあ、早く逃げて!」
「ア、アノ、少シ話ヲ――」
「逃げるんだ! 走って!」
「ハ、ハイィ!」
何の用事だったか彼女は知らないが、最上は1人の駆逐艦を救った。『いつも通りのお約束』という意味不明な脅威が発動しても、犠牲者は出ていない。最上はやれたのであった。
「何だ、さっきのは」とP-1哨戒機の持ち主、日向が言った。
「さあ。でもたぶん大した用事じゃあなかったんですよ」
「そうなのか。せっかくだから本物の低空飛行哨戒を見ていけばよかったものを」
「そ、それはボクが見てますか、ら……あれ? 飛行機は?」
「む。そういえば」
今日の最上の勘はとことん冴えていた。
低空飛行。哨戒。
ほんの一瞬でもコントロールを失ったP-1哨戒機を、最上は事故が起こるより前に発見することができた。
だが、発見しただけで飛行物体が停止する道理はない。
P-1哨戒機は背を向けて走る春雨目掛けて速度を増していた。
◇――――◇
「イタタ……」
「はい。ここでいい?」
「ウン。アリガトウ、姉サン」
白露に背中に湿布を貼ってもらった春雨は、ぎこちなくベッドにうつぶせになった。
「ところで春雨。さっきの深海棲艦がどうとかって、結局どういう意味だったの?」
「……ゲームセンター以外デハ、勘違イダッタミタイ」
「ふーん? そうなんだ」
「姉サンモ忘レテイイヨ」
「えー、でも可愛かったよ」
「ソレガ1番違ウンダケドナァ……」
◆― 大和の夢 ―◆
【家でプレイステーションか艦これをしてろ!】
「ん…………」
大和は自分の席でうつらうつらしていた。
昨夜寝ていないのもあるが。
今は春。
だから仕方がない。
◇――――◇
「あら?」
大和のスマートフォンが鳴った。
電話を掛けてきたのは珍しく――通話することは別に珍しくもない相手だったが、向こうから掛けてきたのは珍しいことだった。
大和も電話をしようしようと考えてはいたものの、この忙しさでなかなか時間を作れなかったため、まあ小休止にも丁度良かった。
「もしもし武蔵? 私も電話しようと思ってたのよ。そっちはいま大丈夫?」
《…………すまない。大和型の姉妹艦に頼みが……いや……》
「万策尽きた?」
《この電話が……最後の策だ、な》
まあ、そうなるわよね。
大和型はかしこいが。ハタから見ていると意見が分かれるが。彼女らも意識的にそうとは思っていないのだが。
なんだかんだ、この2人は姉妹艦思いだった。
◇――――◇
猫喫茶『THE HANGED CAT(ハングド・キャット)』も、艦娘たちが働いているという特徴はあるものの、特別ではない。どころか世界を守る艦娘の安全を守るためには営業自粛以外の選択肢はなかった。かといってドーカンシャ達を指導し守るための秘密結社ハングド・キャットが潰れてしまっては元も子もない。未だ頑にドーカンシャを認めようとしない大和も、矛盾上等でそれは理解している。
幸いなことに直近の確認を取った段階では、検査を受けた者は全員陰性だったらしい。また他の者にも症状の出現は見られていないとのことだった。
《さすがにウイルスに対抗できる能力を持つ洞観者は都合良く見つかっていないが――》
能力とは扱い方を工夫してはじめて生きるものである。ウイルスに対抗できる能力も、実際ないこともなくはなかった。
ただ残念ながらその能力を持つ者が天照大艦隊の売店のお姉さん・第79話を映す視点役・極楽で、対抗方法とは火炎放射器を大量に具現化するというものだった。
「イタリアのどっかの知事がそんなこと言ってたぞ。本場の自粛警察は装備が違うな」
この有難迷惑な申し出に賛同者が8人もいた(極楽を師匠と崇める5人はともかく他の3人はなんなんだ)から武蔵は逆に冷然……いや冷静になれた。
《――クラウドファンディングについての知識を提供してくれた者や、シンプルに支援金を寄せてくれた陛下、他にもかなり助けられていてな。今のところ、どう楽観的に計算してもギリギリアウトではあるが……仲間たちがいなければ、私1人ではとっくに潰れていた》
「そもそも1人じゃあないからハングド・キャットがあるのでしょうに」
《ああ――その通りだ》と言う武蔵にその気はなかったものの、姉妹艦の大和には伝わった。やっと気付けた。今の言葉は武蔵にとってなかなか良かったらしい。
武蔵のメンタルはとても硬い。
が、しかし脆い。
そのことを大和は、ハングド・キャットの開店告知チラシを自慢気に送られて店に殴り込みをかけて実際武蔵を殴り倒して何から何まで喋らせるまで『知らなかった』。
気付けなかった。
このことが大和にとってどれほど恥辱的だったことか。
今の状況下でもし武蔵に頼られなかったら、大和はまた殴り倒しに行くつもりでいた。
「でもその『陛下』って誰? ずいぶんと余裕のある艦娘なのね」
《んー……向こうに余裕があるかは正直なところ分からん。もしノブレス・オブリージュとやらの遂行ならば「自分を優先しろ」と遠慮するのも侮辱になるしなぁ。かといってあそこの状況もまったく――》
「どこ?」
《ネオサイタマ鎮守府》
「大和型戦艦1番艦『撃沈王』大和が命じます。今すぐ全額返しなさい。代わりにその分だけ私が追加で出すから」
《いや、しかしだな》
「ネオサイタマ鎮守府に借りを作るって何考えてるの? KAN-SEN-YAKUZAに絞り上げられたいの?」
《いやネオサイタマを拠点とするだけで悪い奴らでは……かなりのスピード感でハングド・キャットの危機をだな》
「ドーカンシャ達に重金属で汚染されたマスクを着けさせたいの!?」
《……マスク、単価が上がりすぎてだな》
「だったら燃料フィルターでも口に咥えてなさい! このおバカ!」
大和ははたと気づいた。オフィスで働いているマスク顔の皆が皆、大和を見ていることに。
皆、大和がハングド・キャットでも大切な仕事をしているのは知っている。仕事相手がかつてここに顔を出していた大和型戦艦2番艦だと聞かされたら納得せざるを得ない。しかしあくまで納得したのは『仕事相手』であり。『仕事内容』は話せることではない、と説明はされないまま。燃料フィルターを口に咥えさせる仕事とは何なのか。
「大和さん、大丈夫ですか?」
右隣の初月に気遣われてしまった。
「ありがとう大丈夫。ど、どうもお騒がせしましたー……」
大和はペコペコしながらオフィスの外に出ていった。
◇――――◇
廊下の隅っこにて。
「それで、私は何を提供すればいい? お金? 全自動コーヒーメーカー?」
《猫関連、食料とか猫砂とか》
「え? そこの猫たちがキャットフード食べてるの、私見たことないわよ」
《何も食べない猫の毛並みがこんなに良いわけが――よしよし珍しく良い子だ――ないだろう》
「言われなくても分かりますぅ。でも私が買ったおやつは食べてくれなかったんですけどぉ。お金返してくれますぅ?」
《それはそうだろう。お前は艦娘、それも艦娘オブ艦娘なのだから》
「ドーカンシャに唯一のメリットがあってよかったわね」
《ほとんどの猫たちがお客さんの視線を嫌ってな。おやつは誘惑の方が勝るらしいが。それにお前はたしかまだトイレ部屋は見たことがなかったはずだ》
「じゃあ餌と、その……あれ、えっと、そう猫砂をどれくらい送ればいい?」
《いや。ここの猫たちは賢さに比例するように好みのベクトルがバラバラかつ大きい。最も賢い猫は燃費がものすごく悪痛っ!?》
「なにごと?」
《久々にひっかかれた。とにかく我々洞観者が猫の手を借りるのなら、それぞれに好みのものを与える必要がある》
「つまり――やっぱりお金じゃあないの」
《すまん……》
「私はもともとそのつもりだったから、武蔵はネオサイタマ鎮守府をどうするか考えてなさい。後はお互い適当に。頑張りなs……何でもない。じゃあね」
余計なことを言い捨てて通話を切ってしまった、ああ失敗やれやれだった。
こんな時こそTwitterでそれっぽいことをつぶやくのが――良くないわね、武蔵に指摘されるまでもない。大和型はかしこいのだから。
だが……だが、である。
廊下の見える範囲には誰もいない。人のことを言えない。少しくらい弱々しい顔をしてため息をつく程度は許されるだろう。
武蔵に余裕がない状況下で、大和に余裕があるはずがない。
大和は壁に寄りかかって、少し目を瞑った。まばたきより少し長い間――大和は油断した。
『 C I A O ち ゅ ~ る を 送 る の で す 』
白いセーラー服。無闇なドヤ顔。そして前足を持って吊るされた白猫。
大和の目の前に、妖怪がいた。
◇――――◇
「ひあぁ……っ!」
大和は椅子をガタッと揺らして跳ね起きた。
つまり、居眠りをしてしまっていた。
右隣を見ると、当然、初月がいる。
「大和さん、大丈夫ですか?」
左隣を見ると、当然、扶桑がいる。
「大和、少し疲れているのね」
ぐるりと見渡したオフィスは、夢? で見たものとはひとつだけ違っていた。誰もマスクを着けていない。
「……ごめん。20分だけ仮眠とってくる」
オフィスの外に出た大和はすぐに電話を掛けた。
「武蔵はCIAOちゅ~る食べたことある? そんなにおいしいモノなの? ――――食べないわよ! ただ何となく、今がハングド・キャットのお猫様に貢ぎ物をするタイミングかなって。――――勘よ。撃沈王の勘。じゃあお金は? ――――だからお金。電子じゃないマネー。――――こ、これも何となく……――それはそうでしょうよ。ええ、心配した私がバカでした。じゃあね」
大和型はかしこいが。ハタから見ていると意見が分かれるが。彼女らも意識的にそうとは思っていないのだが。
なんだかんだ、この2人は姉妹艦思いだった。
ただし少々、歪んでいた。
メルブラの思い出を語りたくなる時節ですが、やめておきましょう。
pixivの自分の作品タグ一覧の中に「MUGEN」がありますしね!
MUGENを自分のPCでもやりたくて、でも設定とか意味不明すぎて諦めて……ええ諦めてよかったと、今、思ってます。