全員がコンマ数秒の世界で動いた。
いったい何故? そんなものは、数秒後の自分が思い返せばいい。
◆―< 球磨? >―◆
艦娘が副提督に近付くのに理由はいらない。抵抗される理由もない。最初の暗殺は意図せずチュートリアルのようになってしまった、と思った。
それでいい。
これから先はどうせ何もかもが敵になる。最初の一人くらい楽をしてもいいだろう。
あと10メートル。
天龍と龍田を決して甘く見てはいなかった。過小にも、過大にも。まだ耳も心も癒えていないだろうに。――いや。だからこそか。
◆―< 天龍と龍田 >―◆
大和がガラス戸を殴り割った。
球磨が知らないヤツをライフルで一発撃った。確かに当たったように見えたが……動きを止められていないのなら外した?
知らないヤツは拳銃のようなものを撃ちながら逃げ、球磨は二発目を外すと売店から逃げたヤツを追いかけた。大和もそれに続いた。売店のお姉さんは磯風に幾つかの指示を残して面倒臭そうに店を出ていった。
天龍と龍田は何もできなかった。
球磨と大和の敵ならば当然自分たちの敵、ヤツに体当たりでもすればよかったか? 分からない。まったく。……二人は結局のところ同じことを考えていた。
「…………なー。龍田」
「なあに?」
「オレ達ってよ……ただ、邪魔だったんだよな」
「何もしなかったから邪魔にもならなかった、が正しいんじゃない?」
「ああそうそう、ソレだ。つまりだ龍田」
「そうね天龍ちゃん、こんなの――『全然面白くない』」
二人はそれぞれ手に持っていた、天龍はエナジードリンクを、龍田はカフェオレを、一息に飲み干した(後に天龍はオエェッとなった。無理をするからに)。
「お、おいこら!」と磯風。「支払いの前に商品を飲み食いするんじゃあない。さっきお姉さんが言ったことが聞こえていなかったのか? 万引き犯にはインタビュー(尋問)を――」
「お姉さんにはナイショに、ね?」
龍田が磯風に握らせたのは、なんと五千円札。千円札と比して五倍も強力。これには磯風も「まあ……次から気をつけてくれ」見て見ぬ振りをせざるを得ない。
「天龍ちゃん、大丈夫?」
「げふっ……問題ねぇ。行くぜ龍田」
「ええ行きましょう。だって私たちは――」
世界水準を軽く超えているから。
店の外で起こっていた状況はまるで理解できない。
どうして球磨が副提督を襲うのか、理解できるはずもない。
どうして副提督が球磨に襲われるのか、訊いても理解できないだろう。
だが凶刃を遠ざけることなら。その後で訊いてみなくっちゃあ理解できるものもできなくなる。
副提督を体当たりで突き飛ばした。球磨の方は……既に気付かれた状態から本人をどうこうするのは無理。球磨の腕を二人で一本ずつ掴み、アサシンブレードを腹で受け止めることが精一杯。理性的な頭が逆に仇となってしまい激痛に耐えられなかった。盾にもなれずゴミのように退けられた。
「オレ達を……甘く……っ!」
「っ……あた、ま……おかしく……?」
言いたいこと、聞きたいことは届いていない。球磨は無表情で、ターゲットの副提督しか見ていない。
なんてこった、また『全然面白くない』し痛い。まさか長いか短いか分からない人生の中でハラキリを体験することになるとは。こんなのなら体験せずに死にたかった。
副提督がこの場から逃げるまでの時間を作りたかったのに、泣きたくなる、一瞬の邪魔にしかならないとは。読んで字の如く痛切に、全然面白くない。二人は倒れながら思った。
◆―< 神州丸 >―◆
失敗や敗北から学び成長する奴は素晴らしい。
数分前の売店では観察した通り、あの軽巡二人を気に留める必要は無かった。そんな奴らが今、『球磨を相手にコンマ数秒の時間を稼いだ』。恐らくあの二人は自分らの無力を嘆いているだろうが、とんでもない。磨けば必ず光る。普通の艦娘をやらせておくには勿体無い。部下にしたいくらいだ。これは思いがけない人材の発掘をしたものだ。
リクルーターには後で話すとして――。
ちょうど右手にブルブル震える鬱陶しいスマートフォンがあった。万に一つも保存されたデータを見られてはならず、消耗品のように扱ってよい安物でもない。
だが何より優先されるべきは軽巡二人が稼いだ時間。
走って間に合う距離ではないが丁度良いところに最強と呼ばれる兵器がいる。球磨の顔面目掛けてスマートフォンをブン投げた。
◆―< 大和 >―◆
一歩の踏み込みで右手が球磨に届く距離にいる。転んだ一ノ傘副提督には――間に合わない。
まさか状況が意味不明だからといって、その敵が、その子が欲しいがために今日は天照大艦隊を訪問していて、少し前に売店で助けたとしても、即断即決できない撃沈王ではない。
ないけれども……自分が欲する程に相手が相手だから無傷で止められる期待はできず…………言いたくないが正直に言うと。
「提督たった一人のために撃沈王の肢体や大量の血液を失うわけにはいかない」
暴走する球磨を止めないといけない。自分には絆創膏ペタリで済む切創くらいしか許されない。ならば確実なのは、球磨の両腕から飛び出た刃が副提督の身体に食い込んだ直後。
……また、この迷惑な艦隊か。
数年前、葛城と名乗っていた友人に向けて、自分を含む戦艦六人で三連装砲それぞれ四基で計七二門を斉射したことを思い出した(第33,34話重点)。勿論、殺すために。でもあの時、撃つ直前まで覚悟を決められず駆逐艦の小さな子に――……。
……うわぁー恥ずかしい。その小さな子、長月ちゃんが今ここにいる。自分の情けなさをぶちまけてしまった。仲間殺しなんて嫌だとか甘ったれたことを口にしてしまった。しかも徹甲弾七二発中七一発を防いでもらったおかげで無用な仲間殺しをせずに済んだ。
今、また、長月ちゃんに情けない撃沈王の姿を見せてしまっ……いいや見せるわけにはいかない。やる。やると決めたからにはやる。反撃でザックリやられるのは、やられた後で考える。右ストレートでぶっとばす。一歩踏み込んでぶっとばす。
良いのか悪いのか、行動が勝手に連係してしまう者らがたまにいる。ものすごく久しぶりに武蔵と並んで出撃した時は「流石お二人とも息ぴったりですね」とか言われたけど全然意識してなかった。先の売店では球磨が危険を冒して頭を引っ込めた。ちょうどそこは神州丸の後頭部を殴る軌道上だったから避けてくれて助かった。
今、神州丸の投げたスマートフォンが球磨の顔に直撃して隙ができた。「本艦の手は届かず間に合わないから止めるのは当然貴様の仕事だ」とでも言わんばかりに。思考が同レベルだから連係できた、ではないと思いたい。あれほど可愛い下着を買ったことはない。――どこで買ったかは参考までに知っておきたい。
◆―< 長月 >―◆
球磨が、躍り出る天龍と龍田を刺した。
その次は副司令官に飛び掛かった。……嘘だろ? 冗談だろ?
ゴッドランドが球磨の顔にスマートフォンを投げ付け隙を作り、その一瞬を突いて大和は右拳を腹に食い込ませ殴り飛ばした。大和の筋力なら人間は文字通りぶっ飛ぶ。
ここまで見てやっと、危ない奴からは第一に逃げるべきだとテレビで見たのを思い出した。自分のように逃げる必要がほとんど無い者の場合はどうすればいいかも知りたかった。
「素人か貴様! ぶっ飛ばすより地面に叩き付けろ!」
「素人で悪かったわね!」
動き出しの早かった二人は走り出して……刺された箇所を手で押さえながら倒れる天龍と龍田、を、全然、まったく、無視した。球磨の方を追った。
なんで?
怪しい陸軍人は目的が球磨なのだからそうしたのだろう、けど、大和は? 仲間じゃなかったのか?
「あのトラックの裏に隠れるつもりだ。絶対に視界から逃がすな」
「もう逃げ場はないじゃない」
「いいから!」
そうだ、他にも野次馬艦娘がいた。副司令官も無事でいる。出血に対してはとにかく圧迫しろと習った。じゃあ自分も――。
「いない!? どこに隠れ――」
「ああクソッ! 逃がした。最悪だ」
「トラックの下は? 上は?」
「違う。もうこの場にはいない。気配が完全に消えた」
そう、違う。
天龍と龍田の方じゃあないと思った。
何が?
「間に合わないだろうが追うぞ。この艦隊の副ではない方の提督は何処にいる?」
「あの建物の四階、ほらあそこ。ちょうど窓から私たちを見てる」
「おい! そこの貴様、竹櫛提督! 今すぐそこから逃げるか隠れるかしろ!」
「どういうこと?」
青い炎はウヌボレではない。
なのに何故、天照隊の者ではない二人が副司令官と司令官を守ろうとしている? 自分は何をしている?
何故、天龍と龍田があんなにも痛そうにしている? 自分がいたのに何をしていた?
いったい何時、青い炎それを扱う者がウヌボレていたことに気付けばよかった?
「奴は副提督の暗殺には失敗した。だがこの艦隊に限ってはもう一人分チャンスがある」
「――次は竹櫛提督を狙うっていうの!? なんで!? それに、さっきからあなた――!」
「元来死ぬべきは貴様の方なんだぞ撃沈王! 本艦が今ここで……! いや兎に角、貴様は建物内部の階段を上れ。外壁から行く本艦と挟み撃ちだ。あの男の運が良ければの話だが」
「っ……ああもうっ!」
それでは駄目だ。さっき言った通り間に合わない。
「長月ちゃん!」
野次馬の中にいた、睦月が叫ぶ――。
なんて無能だ。言われなければ自分にしかできない事が分からないなんて。自分一人では言葉も出ない無能。失敗。今はそれを受け入れる。反省は今晩呑みながらやる。
「提督を守って!」
だが。
カレンダーズの一人としての自分は違う。
カレンダーズはウヌボレを数年前に踏み越えた。
球磨がいきなり敵になったワケは自分には想像がつかない。それでも何人寄れば文殊の知恵、昨日は水無月が、明日は誰かが、今は睦月がやるべき事を教えてくれた。
総合棟の四階、第一執務室へ跳んだ。
◆―< 叢雲 >―◆
逃げるか隠れるかしろ、と言われても……いったい何から逃げるか隠れるかすればいい? 不審陸軍人から名指しされた司令官も同じ疑問を持っているらしく顔にそう書いてある。
いや分かる。一部始終を見ていたから分かる。
でも……扉をノックして入ってきたのは……。
「てーとく、叢雲。なんか外が大変な騒ぎになってるクマー」
いつもの、普通の、球磨にしか見えない。
「私の所感だが……」と司令官は額を押さえながら言った。「大変な騒ぎを起こしている者らのうち一人は、球磨、お前ではなかろうか」
「クマは運悪く巻き込まれただけクマ」
「どちらかと言うと巻き込んだ元凶のように見えたのだが」
「あの阿呆共とクマを――」
球磨は左拳を振り上げた。子供のテレフォンパンチより遅く、さっきの扉のノックより弱い威力。
「一緒にするんじゃあねークマー」
つまり仲良しパンチで司令官に抗議しようとしているだけなのに。
球磨の長袖の下、腕の内側に刃が仕込まれていることは天照隊の誰もが知っている。その刃がどうしてか、まるで、司令官の心臓を真っ直ぐ狙っているかのように――。
ドガン! と窓の方で破壊音がした。その後の一瞬は目で追えず、不思議と納得してしまう結果だけを見ることになった。
語るまでもないだろうけど球磨の刃が『左拳から』司令官めがけて飛び出していて、でも窓の外から飛び込んできたらしい長月が刃を素手でガッシリと握って止めていた。
長月に守られた司令官は……この状況をどう見て何を思っているだろう。
球磨の歪んだ表情は、暗殺に失敗した悔しさからか、それとも左手の薬指を切り落とした痛みからか。
◆―< 球磨? >―◆
天龍と龍田で『ああなった』のだから、自らナイフを教えたのに加えて提督を恋い慕う叢雲は必ず無視できない障害になる。ならばと打った一芝居その数秒が仇になるとは……。どうやら本調子ではないらしい。そんな自分も、呆けていた長月が動けるようになることも、普段の自分ならば視えていたはずだが。
長月に掴まれたアサシンブレードを腕から外して捨て、執務室から逃げた。視線も切れた。どこか静かな場所で自分の状態も含めた状況を整理しなくては。
暗殺チュートリアルを進めた結果はただ失うだけだった。パンチに偽装した刃も、長月の超高速の世界の中では無駄も無駄。左手の薬指は付け根から――。
「……ああ。そういう意味……」
これが実以てチュートリアルなのだとしたら、暗殺入門として『縁を切れ』ということか。
指輪ごと失った箇所は、血が止まらない。
◆―< 電と日向と極楽とタマ >―◆
天照隊が控え目に言って未曾有の危機に瀕している、と知る由もない電と日向は正門の方で平和にああだのこうだの言っていた。
「晴れ時々ロードローラーはもういいのです。そんな天気もあると勉強になりました。ところでさっきからガソリンスタンドみたいな臭いがするのですが、これマズくないです?」
「うん。実は航空戦艦的にもそれが気になっている。鎮守府内で火災など、いかなる理由があろうとも洒落にならないからな。――どうだろう君たち」
日向は拘束された男四人に話を振ってみた。
「もし火災に至れば真っ先に君たちが温まることになりそうだが、どうしたらいいか知っているかな?」
男らは冷静だった。
電や日向くらいの年齢の子供を持つ者もいる。彼らはいくら訓練をしたところで駆逐艦や航空戦艦にはなれないが、歳月を重ねた男として、つまり単純に人生経験が違う。ただ先程は相手があまりに悪過ぎたために今の情けない状態になってはいるものの、話が通じる相手ならば話は違う。
流石は神州丸が失敗してからが本番の予備チームという名の本命チーム、言葉巧みに然るべき業者の電話番号を伝えた。勿論、電話をすればやって来るのは彼らの仲間である。
男の一人が、上着のポケットにスマートフォンが入っているから使ってくれと言う。伝えた電話番号も登録されているらしい。電は言われるがままスマートフォンを取……残念なことに男らには冷静さも人生経験もあったが、より単純に運が無かった。
「雄野郎の言うことを真に受けるな総旗艦2号」
顔に多数の引っ掻き傷を作った売店のお姉さん極楽は、『猫』の首根っこを掴んでどこからかフラリと現れた。
「お姉さん、とタマ。どうしてここに?」
「多摩は猫じゃあないにゃ」
「覚えておけ総旗艦2号」
「電(いなづま)です。総旗艦は叢雲さんです」
「パスワードなんかは結局しょうもない盗まれ方をする。お前のスマホの鍵である――生体認証は使ってるか?」
「はい。指紋認証を」
「なら怪しい奴のデバイスに触るな。ほら猫、もう自分で立て」
「猫じゃあないっつってるにゃ」
「あるいは正しい触り方をしろ。例えばこうだ」
極楽はスマートフォンを使ってくれと言った男のポケットからそれ(神州丸のものと同一モデル)を抜き取ると、書き損じたメモ紙をそうするようにバキグシャリと握り潰した。
「…………」男は軽口恨口のひとつも言えなかった。
「ん? なんかガソリン臭いぞ」
「車を潰したのはお姉さんだろう」と日向。
「しまったスマホが発火するぞ。総旗艦2号、これを安全なとこまで持っていって放置しろ」
摘み取った花を、スカートの裾をつまんで乗せ集める素朴な少女は現代日本にいるのだろうか。鬼畜お姉さんに花ではなくバッテリーが膨らみはじめたスマートフォンを乗せられた少女ならここにいる。
「ちょ、ちょ、ちょォーーーーッ!?」
その行く先が修羅場になっているとも知らず、電は「おぼえてるのですーっ!」走って行った。
「――で? お姉さん、球磨のコピーはどうなった?」
「この猫が邪魔すぎて集中できん」
「多摩にゃ」
「はいはいタマな。球磨は一旦我が預かって何とかする。日向にはタマを任せた。正直、洞観者と共に現れる猫を侮っていた」
「今日はよく分からないことがどんどん増えていく」
「あー……今度のは、そうだな、星界からの使者〔夏〕とパンケーキに黒猫が乗る、そんな感じだ」
「前々から考えていた。やはり一度、この世界を航空戦艦が調査する必要がありそうだ」
◆――◆――◆――◆――◆
ここから本編と関係ないヤツ
◆――◆――◆――◆――◆
◆― SCP-████-JP-EX 天照大艦隊七不思議 ―◆
この話は「SCP財団」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/
このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。
加えて、上記ライセンスに関する記述は妖怪猫抱きフ█ック「アングリーSCPナード」のライセンスガイドより丸コピしています。
https://scp-event.tokyo/licensing-guide/
◆――――◆
アイテム番号:SCP-████-JP-EX
[天照大艦隊七不思議]
オブジェクトクラス:Euclid Explained
特別収容プロトコル:
SCP-████-JPは天照大艦隊█隊が活動拠点とするサイト-81██所属のSCP-████-JP-aの口をダクトテープで塞ぐことで収容されます。SCP-████-JP-aが食事や睡眠などの前に口を開くことを要求した場合、要求された者はSCP-████-JPについて発言しないよう「指切拳万」を行った後にダクトテープを必要とされる時間だけ剥がしてください。天照大艦隊█隊関係者にカバーストーリー『あの子、今ちょっとアレだから』を適用することでSCP-████-JP-aの口を塞ぐダクトテープは適切に管理されます。SCP-████-JP-aがサイト-81██外へ出撃するには総旗艦1名の許可が必要です。
SCP-████-JP-EXを収容する必要はありません。
説明:
あまり言いたくはないのだが……艦娘たちがコソコソと何かやっているのを提督、つまり私は見ている。最低でも『奴は一昨日から何をしている?』くらい感付いてはいる。小学校でも大学でも、教壇に立てば児童や学生がいかに工夫を凝らそうが居眠りを発見できるようなものである。腹が立つから無視したくとも艦娘が船を漕ぐ様は――なんだ艦が船を漕ぐとは。この世界のメタファーか。
まさか磯風が艦娘を辞めた理由「実家の都合がどうのこうの」を私が本気で信じたとでも? そう言うのか? まあ、あの件はすぐに傘姫が拾い直して叢雲も立ち直ったからよかったものの――いやまったくよくないが。
本題に入るとしよう。
「あの子、今ちょっとアレだから」
そう言って叢雲は時津風の口をダクトテープで塞いだ。そこから本格的に何かが始まった。
次は時津風が自室待機となった。私は何ひとつ指示と許可をしていない。
その次は時津風が営倉待機となった。遊びが過ぎる。
終いには私を含む天照隊の全員が口を塞がれそうになり、さすがに遊ぶのも度が過ぎると判断した私は叢雲に報告書の提出を命じた。できればその口で説明(するよりもっと前に相談)して欲しかったのだがダクトテープの下からモゴモゴ言われても、すまない叢雲、さっぱり分からない。
曰く。
天照大艦隊七不思議、というものがあるらしい。
時津風が次々に不思議で不可解なモノを見つけてくるらしい。
現在までに発見されたモノは以下の七つである。
SCP-████-JP-1:親潮あるいは朝潮
SCP-████-JP-2:初期艦Gotland
SCP-████-JP-3:『 !? 』
SCP-████-JP-4:そんなことより金剛が紅茶でなくコーヒーを飲んでいる
SCP-████-JP-5:零式艦戦52型(烈海王)
SCP-████-JP-6:気合計測器
SCP-████-JP-7:海の上に立つ人
聡明なる読者諸氏はお気付きのことだろう。
SCP-████-JP-1~6はどうでもいい。親潮、朝潮、忘れもしない初期艦、霧島、金剛、そして烈海王妖精には悪いのだが、ものすごくどうでもいい。
問題はSCP-████-JP-7を時津風が発見した時間、その瞬間。
これは大本営より厳重注意事項として発令され、また類似する情報を東西南北の提督たちが慌てて発信したのだが……。
情報を整理すると、日本時間████、各海域に展開していた艦娘及び交戦状態にあった深海棲艦が、ほぼ同時に海中に落ちたらしい。まるで突然、足場が消失したかのようにドボンと海水を飲む羽目になってしまったという。我が天照隊の部隊も例外ではなく、相当な混乱があったもののすぐに海面上に上がることができ、泳げないがために沈みかけた斑鳩を除けばそれ以降は特に問題はなかったと報告を受けている。
時津風か、あるいは七不思議を活性化させた天照大艦隊が元凶かは分からない。
しかしやるべきことは明瞭である。
私はSCP-████-JPを解明し、ただの偶然かそれとも遊びの範囲内にしなければならなかった。
◆――――◆
SCP-████-JP-1:親潮あるいは朝潮
『なにも矛盾しない』のであれば、逆に何も問題はない。親潮あるいは朝潮――親潮と朝潮には今後も活躍を期待している。
SCP-████-JP-2:初期艦Gotland
そうだ。実家にあるアルバムの写真に写っていた少女の名は『ゴトランド』だ。なぜ忘れていたのか――久々に声が聞きたくなり電話をかけた。
《名前を忘れてた!? うわっ、ひどい人。――なんてね。私も竹櫛くんの声が聞けて嬉しい。――なあに、その反応? 私とあなたの仲じゃない? そうだ。今度の連休、お休み作れる? 二人で何か食べに行きましょう》
SCP-████-JP-3:『 !? 』
霧島の頭上に現れる記号は物理的な衝撃での破壊が可能であることが判明した。破壊すると『圧』も消失し、またそれ以降『 !? 』は発生しなくなった。
SCP-████-JP-4:そんなことより金剛が紅茶でなくコーヒーを飲んでいる
知らないふりをするよう叢雲たちに命令した。
SCP-████-JP-5:零式艦戦52型(烈海王)
僚機の妖精は言った。あんなのは空中戦闘機動と呼べない、でも強いて言うならば――『中国拳法』、と。
意味が分からない。
~ つづく ~
SCP-████-JP-6:気合計測器
どこかで見た覚えのある機器だが……手に取ると赤い針が振れた。分解してみると、箱の中にはバネ、コイル、知らない素子、金色の円盤、ホットドッグの形をした消しゴム、この臭いは正露丸、他多数の何かがすべて両面テープで固定されていた。
無論、捨てた。
SCP-████-JP-7:海の上に立つ人
営倉でしょんぼりしていた時津風、売店のアルバイト磯風も含む陽炎型駆逐艦をこっそり集めて、私は任務を与えた。
「夢の国強行偵察作戦を極秘に実施せよ」
これは極秘の作戦だ絶対に絶っ対に他言無用、とまで言ったのだが、奴らにとって作戦とはSNSに楽しかったことを逐一投稿することや帰投後に土産物を配って回ることまで含まれるらしい。
構わない。どうせこう(陽炎型以外の艦娘たちから「ずるい!」のシュプレヒコール)なることは経験から予想していた。だが、この程度で時津風たちが天照大艦隊七不思議を綺麗サッパリ忘れてくれたのなら――……一ノ傘に資金援助を……何から説明したものか。