球磨の薬指   作:vs どんぐり

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【トリック・オア・ヘブンズ・ドアー!】はちょっぴり加筆して本編の後に収録していまする。


第84話 球磨争奪戦 ⑨ パラベラム

 潜水艦五人に友達ができたことを素直に喜べません。

 ドーモ。グラフィックが無いから存在に説得力が無いと酷い評され方をした、天照隊分隊のマルチロール空母、斑鳩です。

 

 本隊・南鎮守府の方で、球磨さんの偽物が現れて、竹櫛提督と一ノ傘副提督を殺害しようとしたそうです。悪夢です。悪夢としか言いようがありません。暗殺者がついにその渾名通りのことを始めてしまったのです。

 その偽球磨さんの危険度はというと――天龍・龍田・神州丸・大和・長月ちゃん・秘書艦叢雲さんが偶然近くにいてギリギリ凶刃を止められたと聞いています。天龍と龍田が重症、偽球磨さんは左手の薬指を指輪ごと切り落として逃走中。提督と副提督は動揺が見られるものの怪我はなし。……本物ならば、親しい提督と副提督の殺害なんてどれだけ不運だったら失敗するのでしょうか。いやしません。

 

 本隊の提督と副提督に死んで欲しいのなら、単純に考えて次のターゲットは分隊・北鎮守府の傘姫提督ということになります。なるそうです。なるらしいです。なんででしょうね、とは後で誰かが解説すると思うので僕はしません。

 分隊に来る予定が勘違い(?)で本隊の方へ行ってしまっていた神州丸から、分隊に居候中のあきつ丸に連絡があったのです。

 

《いま、球磨が一ノ傘提督――傘姫と呼ばれる提督を暗殺しにそちらへ向かっているはずだ》

 

 とのことでした。そんなことをいきなり言われてもなあ、という感じでしたが、神州丸をやたらと高く評価しているあきつ丸が言うには、神州丸がマジだと判断したものはマジなのだそうです。

 

《提督のスマホを鎮守府の隅にでも隠して、本人は逃がせ。隠せ。決して球磨を迎え撃とうなどとは考えるな。本艦も球磨を捜索しつつそちらに向かう》

 

 後で聞いたところによると、偽球磨さんの行動原理が分かる本艦が追うのは当然だろう、という建前で、神州丸は本隊・南鎮守府からの離脱に成功したっぽいです。

 

 傘姫提督は怖い場所、例えば番犬に吠えられる道や怒られそうな電話回線、などなどから逃げまくる大人の女性です。極楽さんの能力で作られたコピー人間だから提督なんていう仕事をスリル体験くらいの感覚でやっているのでしょう。

 僕が「マジで暗殺されるらしいよ」と言い切るより早く、傘姫提督はスマートフォンだけ残してボワッと青い炎となった後に消えました。コピー云々はあくまで極楽さんの能力であって傘姫提督はただのもやし人間です。ですが今やったように自分勝手に解除・消滅する権限があり、極楽さんの元へと戻り、再度極楽さんに適当な場所に具現化してもらえて記憶もちゃんと連続している便利人間モドキなのです。極楽さんが言うには「クソほど効率悪い」とのこと。

 

 神州丸の警告どおり偽球磨さん――本物とまったく見分けがつかない本物の暗殺者がやって来ました。僕と猫吊さん、あきつ丸がいる執務室に窓を蹴り破って電撃突入してきたのです。

 

「傘姫提督を出せ。出さなければ殺す」と偽球磨さんは、特徴的な語尾は真似ない方針みたいです。

「球磨さんが来ると連絡を受けていましたから、当然この鎮守府内にはもういません。タカの眼を持つ球磨さんならまず『傘姫提督は何処に行った?』と聞くだろうと思っていたのですが」

「…………」

 

 偽球磨さんは何もせず、同じ窓から出て行きました。

 

 10分くらい後。

 今度はまたも同じ窓からフードを目深に被った不審者、神州丸が執務室に入ってきました。この人らは何なのでしょう。鎮守府への入場許可は出せないと今朝(第76話 球磨争奪戦 ①)言いはしましたが、そんなのを無視して有刺鉄線など色々よじ登って窓から入るのが趣味なのでしょうか。あるいは出入口恐怖症とか?

 

「貴様らの間の抜けた顔を見るに、もう球磨が去った後のよう――……いや待て。あきつ丸、貴様は確か、今は提督業をやっていたな?」

「まったく呆れた部下でありますなあ」とあきつ丸は少し前まで褒めちぎっていた陸軍仲間に言うのでした。「集合場所の間違いに加えて大遅刻! ヤーナム泊地所属という意識が不足気味! であります!」

「は? ……ああ、そんな設定だったか。それより貴様、この部屋で球磨と相対しなかったのか? トイレにでも行っていてニアミスだったのか? どうして殺されていない?」

「どうして殺されないといけないのでありますか!?」

「んん? ――『自称』提督はリストに載らない?」

「斑鳩殿。この部下が自分をまったく敬ってくれないのでありますが」

「陸軍ジョークでしょ。知らないけど」

「少なくともヤーナム泊地は差し当たり気にしなくていい、か。思いがけず興味深い事例が手に入った。うん。あきつ丸、もう帰っていいぞ」

「泊地は黒風着任時にいろいろ破壊されて! 自分がヤーナム歌劇団を連れて今ここに場所を借りているのであります! だ・か・ら! 神州丸もここに呼んだのでありましょう! 【第76話 球磨争奪戦 ①】を暗唱できるようになるのが神州丸の初任務であります!」

「本艦の登場シーン以外どうでもいい。――挨拶が遅れたが、はじめましてだな斑鳩。聞いての通り本艦が神州丸だ。少々疲れたからシャワーとか借りるぞ」

「うちの潜水艦に案内させるよ」

「ん、頼む」

「左腕、怪我してるならそれも潜水艦に言うといいよ」

「……お気遣いなく」

 

 球磨さんと同類の人ならば潜水艦たちに任せるのが安全かなと思ったのですが、頭のおかしい人たちは混ぜ合わせるとどうなるか予想できないから困ります。

 潜水艦たちは目ざとく、壊れたアサシンブレードを欲しがりました。防潜「毛」を処理するのに便利そうだとか何とか。

 神州丸は、潜水艦たちがビビらせようと持ち出したトルピードランチャーに深い理解を示しました。

 で、なんか仲良くなりました。電話番号を教え合う程度には。

 もう帰ってきても良いはずの傘姫提督がビビって帰ってこれなくなりました。

 

「本艦はまだ何もしていないだろう」

「あきつ丸と同じこと言うけど【第76話 球磨争奪戦 ①】を読んで、自分が怖がられてるってことを分かって。僕から見てもちょっと怖い」

 

 

◆――――◆

 

 

 ごく一部の知る者らの助けを借りても、薄々「あの子なんかおかしい」と思われていたことを抜きにしても、長月はもう隠し切れなかった。

 

 専用装備もバレた。山城が放屁するほど気合いを入れてやっとコンマ5秒だけ持ち上げられ、長門ならばどうにか下段の構え……ではなく、ただそれより上に持ち上がらないだけだった。駆逐艦寮の意味不明なインテリアと思われていた巨大刀を装備するよりは戦艦長門を抱っこして出撃する方がまだ現実的。それが『猫爪(ネコノツメ)』。

 数値がカンストすると分かりきっている攻撃力は別の機会に見るとして、長門は防御力の方を聞いた。よりによって天照『大艦隊』がドレッドノートを保有するわけにはいかないと考えたからだ。

 

「射撃場は2キロしかないが――」

 

 射撃試験・演習場は、ご近所さんへの配慮が直線2キロメートルの防音施設(とても長い防音壁と天井が海に浮いているだけ。台風で折れそう)という形になって建設されたと第24話(R指定話)の叢雲が解説している。新北九州空港連絡橋とだいたい同じ長さである。

 鎮守府を含むこんな軍事施設ガー、環境ガー、平和ガー、と思われるかもしれないが、少なくとも6年前には地元住民の理解を得ていたらしいし、何よりこの世界の日本にはマッポー都市ネオサイタマが実際存在する。今更2キロの建造物くらい疑問に思うだろうか? 要はそういうことなのだ。

 

「何キロの距離があれば私の主砲を確実かつ完全に防げる?」

 

 ネコノツメを片手に軽々持つ長月は、なんと答えたら怒られないかとオドオドしながら言った。

 

「えっと……10……いや1メートル……の半分……の半分くらい?」

「仮に砲弾をその刀で止めたとしても、爆風で服が消し飛んで素っ裸になると思うが」

「あ……じゃ、じゃあ、20メートルで」

 

 射撃場で長門から20メートルの距離を取った長月は結局、大和型戦艦撃破50%Speedrun(RTA)のノリで長門の懐に飛び込み砲撃を避けた。戦艦の艦娘のほとんどが主砲を身体の左右に配置しているため真正面最接近位置が安全地帯となることを利用したのだ。……利用してしまったのだった。それも右手にはネコノツメ、超重量の金属塊を持ったまま。

 

「あ、ご、ごめん。つい避けて……次はちゃんと刀で防ぐから」

「もう十分だ。十分だとも」

 

 離れて見ていた提督・副提督も含む者らには、主砲発射と同時に長月がパッと消えて、どこに行ったか砲撃を食らってミンチになってしまったかと探せば長門の胸の前にいた、とだけしか分からなかった。スタートダッシュと急ブレーキで水柱でも立てば「わーすごい」くらい言えたのだろうが、それすら無いとなれば理解が追いついてなるものか。音の壁に馬鹿正直に突っ込むと長門が危ないから迂回した――と説明されても、逆に長月の方こそ世界を虚数的に勘違いしているとしか思えなかった。

 質問の土砂降りが長月を襲ったものの、どれもこれも長月が過去に聞かれ飽きたものだった。そのうち一つは一昨日、長月の力を既に知っているはずの木曾にも聞かれた。

 

「それだけ強いなら『本物の球磨姉を痛めつけた』偽物だって簡単に捕まえられるよね? ね?」

 

 それだけ強いなら。

 北上に、まるで責められるように聞かれた。

 長月は何も言わなかった。

 

 

◆――――◆

 

 

 良くも悪くも、とは言いたくないが、頃合いなのは間違いないと大和は見極めた。

 

「秋月型防空駆逐艦、初月」

「はい!」

「あなたの判断が正しければ敵が沈む。あなたの判断が誤っていれば味方が沈む」

「ですが、僕の判断が必ず作戦を成功に導きます」

「他艦隊への命令権限を与える。噛み砕いて言うと、あなたが過去に一瞬だけ世話になった天照大艦隊に『如何なる犠牲を払ってでもやれ』と言わなければならない」

「僕の信じる勝利は我々の信じる勝利です。噛み砕いて言うと、撃沈王が狂った作戦計画に従おうとするならば殴って気絶させて他の仲間たちと根本から練り直します」

「……え、私を殴るの? なんで? ここはもっとこう、信条を曲げないとか風のことを言って欲しかったのだけれど」

「でも実際、まず大和さんを殴ったほうが話が早いですよね。艦娘は操り人形ではないぞというお約束を示すために」

「……ええ、まあ、そういう場面が稀によくあることは否定しないわ。でもね初月」

「Si vis pacem, para bellum」と初月は妙に綺麗な発音で言った。「大和さんに教わったことです。深く胸に刻んでいます」

「教えてない。そもそも私がそんな英語(英語ではない)を知らない」

「実はヤーナム島にリベンジしたくてパラベラム・ピストルを通販で買ったのですが、何を勘違いしたのか長10cm砲たちが拗ねてしまいまして……」

 

 勘違いをしてるのはあなたじゃい、と、これが初月でなく武蔵だったら辛辣に指摘していた。

 

「ですが結果的により互いの理解が深まりました。僕は常に平和を求め、9ミリのジャブと10センチのストレートで殴ります」

「殴るって、深海棲艦を?」

「積極的に深海棲艦を殴りに行く防空駆逐艦など根本的に間違っています」

「じゃあ何を殴るのよ。サメの顔面とか?」

「ですから大和さんを。ところで撃沈王なら拳銃弾くらい大丈夫――いえ大丈夫だと信じています」

「考え方が照月に似てきたとは思ってたけれど……」

 

 その照月はというと、姉妹艦の成長が嬉しいらしく涙をハンカチで拭っていた。

 大和も泣きたかった。そんな子に育てた覚えはないと。

 

「ま、まあそういうことだから……扶桑、しばらく宜しく頼んだわよ」

「宜しく撃たれるよう頼まれるほど信頼されているのね……山城に手紙を遺さないと」

「もう、あなたまで!」

「冗談よ」と扶桑は分かりづらい顔で言った。「他の戦いは私たちが任された。大和は振り返らずに大和の戦いに勝利してきて」

「お互い約束よ。では皆、行ってきます」

「「「 行ってらっしゃい! 」」」

 

 冗談じゃあない、と叫びたい戦況で、ここから先は冗談が許されない。記録に残る。記録された冗談が未来に間違いを伝えてしまう。

 でも、まあ、だから、挨拶くらい気楽にしよう、と言い始めたのが撃沈王だった。

 ――ふと、前々から聞いてみたかったことを思い出した大和は、足を止めて振り返った。扶桑との約束をあまりにも早く破ってまで聞きたいこととは何か。

 

「私ってば今まで何度もハングド・キャットに足を運んでたわよね。今のような事態に備えての出張であって、でも取り越し苦労のまま戦争が終わって『撃沈王は税金で猫喫茶に通い詰めていた』って批判を受け止めることになればいいなと思ってた。……怒らないから正直に手を挙げて。まさか、あなた達まで『撃沈王は暇さえあれば武蔵のところに遊びに――」

「いいから早く行ってください。僕たちの方は仕事があるんです」

「あ、はい、すみません……」

 

 

◆――――◆

 

 

 ロイヤルが慌ただしくネオサイタマの外に作戦展開し、後に何か不穏な事件があったことは長門の耳にも入っている。具体的なことは赤城も知らない様子だった。

 お茶会……長門はとても楽しみにしていた。紅茶を優雅に飲む作法は知らない。二次創作における禁忌食品の一種スコーンなど無いなら無いで構わない。それでも美味しい飲み物や菓子を欲したのは、それらを『友達』と一緒に楽しみたかったからに他ならない。

 重桜の神子なら、まあギリギリ、ロイヤルの女王と釣り合わせてあげてもいい。そう偉そうに言ってくれたクイーン・エリザベス、彼女自身の都合によりお茶会をキャンセルとさせて欲しいと連絡が入ったのだった。今日の座布団はなぜか硬い気がした。

 

「江風、何か情報は――」

「ありません」

 

 長門はもうUNIXから隔離された少女ではない。

 大先輩は動画を作成して民たちに世界の艦船が如何なるものかを教えている。

 ユニオンのグレイゴーストは日誌として定例食糧調達について書き込んだだけなのにボロクソに言われた。

 長門もただ知らぬ分からぬと言っていれば「広報ですので」と私生活を丸裸にされる。「神子様を守る」と言ったはずの江風に。

 

「江風、何か――」

「ありません」

 

 ネオサイタマ鎮守府は尊いがために物理的・情報的に守られているものの、あまり尊くなければグレイゴーストのようにハッカー達の獲物にされる。ではどうするか? 簡単なことである。尊さを供給し続ければよい。アイドル活動とかやればよい。ステージに疲れた姉の爆睡する姿とかを撮影して晒せばよい。

 彼女らは、ネオサイタマ鎮守府は、誰が誰から誰を守っているのかもはや誰も分かっていない。

 

「かわ――」

「ありません」

「むう」

 

 それがどうだ、今日はロイヤルは勿論、他の陣営も空気を読んでのことか誰一人として個人情報や性癖などを晒していない。ただアカシマートの広告が鬱陶しく表示されるばかりだった。尊い中毒に苦しむネオサイタマの民たちがいつ公式SNSを荒らしはじめるか分からない。

 

「陸奥はどう思う? やはり、と、と、……友達に、なにか手伝えることがないか伺いに行くべきか」

「いくら長門姉でも『空気を読め』ってメイドさんにやんわり追い返されるよ」

「そうか……追い返されるか……」

「空気読んだほうがいいよ」

「余もそれくらい……! ……そうだな、うん……」

「おまんじゅう食べよ?」

「うん……」

 

 長門はもうUNIXから隔離された少女ではない。しかし、こんな時こそUNIXの出番であることまでは学んでいない。独力でそこに至ったとしてもUNIX端末アカウントを管理する江風が触らせてくれないだろう。

 IPアドレスの縁起の良し悪しが運命の分かれ目を捻じ曲げる――ここがマッポー都市、ネオサイタマだ。

 

 

◆――――◆

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

◆― 記録【第30話 叢雲の薬指 - 海花と海鳥 ①と②の間】より抜粋 ―◆

 

 

 鉄を舐めると血のような味がする。卵の腐ったような臭いはなるほど腐卵臭と呼ぶに相応しいと、腐った卵を見たことすらないのに納得する。強大な戦艦であった彼女にとっての呼び水はその程度の、自覚することすらなかったものだった。

 従って彼女はある日ある瞬間、まったく唐突に目を覚ました。

 居眠りを咎められたわけではない。一秒前までは事務仕事に追われていたはずである。室内の様子も、外の天気も、共に働いている提督も、何も変わらない。ただ彼女の意識だけが夢から現へと這い上がった。

 覚醒してしまったからには理解できない道理はない。即ち今までの『夢』が、彼女が戦ってきた何もかもが、覚悟を決めて臨んできた戦場が、悪い冗談であるように思えてならなかった。

 数秒前までの自分が作成していた記録が目の前のモニターに映っている。ルーチンワークではあるものの真面目に作成していたはずのそれを見て、彼女はボソリと呟いた。

 

「……何の遊びだ、これは」

 

 その声に反応した提督が何か言った。しかしその男は今の彼女の目には、ケージの中で回し車に夢中になるハムスターのようにしか見えなかった。いや、生きるための運動という意味のあるハムスターのほうがマシとすら思えた。そんな無意味な児戯めいた仕事を今すぐやめてしまえ、そう言いかけた言葉をすんでのことで飲み込めたのは、彼女も数秒前まで同じ児戯をしていたからだった。

 

 なぜ人間が戦車のような装備を担いで平然としていられる?

 なぜ人間が、いや何であろうと海面より下に没することなく立っていられる?

 訝しむ仲間がどのように装備し進水しているか、それだけはハッキリ理解できた。騙されているのだ。豚を煽てて木に登らせるように、事実、かつての彼女自身も欺瞞に煽てられるまま木に登った戦艦だった。騙されていることを甘んじて受け入れながらの出撃は常の幾倍もの精神的苦痛をもたらし、母港に帰る頃には天下無敵の大戦艦は見る影もなくボロボロになってしまっていた。

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 巫山戯た世界を変えようとして何もできず、結局、この巫山戯た世界に帰ってきてしまった。こんな事になるのなら何も知らないまま戦艦として戦っていればよかった。行動を起こして後悔するなど最悪の兵士の見本ではないか。

 

「……助けて、くれないか」

 

 涙をぽろぽろと流す彼女に茶猫はまた短く鳴いて、布団から飛び降り窓の外へと走っていった。

 

 その茶猫こそ、史上初めて全国に点在する炎に呼びかけた猫となった。

 腐った者共を尋常外の炎で燃やし尽くせ。

 武蔵と同じく道理を外れ、己を持て余していた艦娘達は茶猫の招待に喜んで応えた。

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 洞観者。それは艦娘とは言い難い尋常外の在り方を肯定する徴のようだった。

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

「『インガオホー』というコトワザ? を聞いたことある?」この日も見舞いに来ていた長月は尋ねた。週に一度の見舞いは彼女らの恒例となっていた。

「……『因果応報』という四字熟語なら知っているが」

「だよなあ。私も未だに意味は分かってないんだが、つまりアトモスフィアはそういうことらしい。マッポーの世はナムアミダブツ、慈悲はない。だがアイサツだけは忘れてはならない。古事記にもそう書いてある」

「ますます意味が分からんぞ」

「うん。言っておいて何だけど私も未だに分からない。……分からないまま作戦に駆り出された私も実際バカにされてたのか? あの時はバカバカし過ぎて逆に痛快だったけど、なんか今になって腹が立ってきた」

「私は洞観者そのものが心配になってきたぞ……大丈夫なんだろうな? まさか本当にアサシン伝説めいたオハギで頭をやられて……あれ? なあ私は今何か変な……?」

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

「もし私がちゃんとした武器を調達してやると言ったら長月、お前は深海棲艦を世界から一掃してくれるか?」

「無理だ。私は戦闘はできても戦争ができないお子様だと、あんたがさっき言ったんだろうに」

「だからあれは冗談だよ。金の話は艦隊の秘書とか総旗艦とかに任せておけばいい。任務を繰り返せばそのうち嫌でも覚える事さ」

「……ふぅん」

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

「……なんて言ってもあんたは納得しないだろうから一言で済ませると、私らがやったのは正しい意味での確信犯だ」

 

 道徳的・宗教的・政治的な信念に基づき、自らの行為を正しいと信じてなされる犯罪。

 

「それと皆、自分の手を汚したつもりもない。前に話しただろ、意味は分からないけどインガオホーってやつだ。マッポーな世の中はナムアミダブツ、深海棲艦と同じく人類に仇なす輩に慈悲はない。頭の良いヤツが確認までしたさ。撃沈王の姉妹艦とクズ共、天秤にかけるまでも――」

「もういい」武蔵は長月の話を遮った。「洞観者としてやるべきことをやった、つまりそう言いたいのだろ」

「そうだけど……理解はされないだろうなあと思ってたんだが」

「そりゃあ理解したくないが私とて洞観者だぞ。それに事の始まりは他の誰でもない私じゃないか。私が洞観者になって得た智見を研究者に提供しようとした結果がこれだ。そうだとも、やはり私が自分でどうにかすべきだったんだ」

「な、なあ。ちょっと落ち着いてくれ。あんたはまだ療養中なんだから」

「洞観者の秘密結社を作る話は今どうなっている、長月?」

「え? あ、ああ……それならぜんぜん進展はない、けど。拠点も名前も、どいつもこいつも好き勝手に注文と文句ばかりで」

「ならば私が今日からお前たちの纏め役だ。大和型二番艦に文句はなかろう。あったとしても言わせん。お前らには常識という手綱が必要だ」

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

「殴られた跡、まだ消えないのだが」武蔵の左頬は大きなガーゼで覆われていた。「ひしゃげたメガネも買い直した」

 

 仕事は仕事、それとは別に自分の喫茶店を持つことに武蔵が多少浮かれてしまうのも無理からぬことではあったものの、うっかり開店告知のチラシを大和にも自慢気に送ってしまったのだった。開店当日、並ぶ客を無視して店に踏み入った大和は武蔵に詰め寄り、オープニングスタッフとして駆り出されていた長月ら洞観者数名の制止を振り切って洗いざらい吐かせた。いくら姉妹艦とはいえ大戦艦である武蔵を殴り倒して何から何まで喋らせる様は、『撃沈王』の通り名は伊達ではないと長月ですら震え上がった。

 

「姉妹艦に今の今まで病気のこと隠してたおバカさんが悪いんだわ。ねえ猫さんもそう思うでしょ?」

 

 茶猫も同意するように「にゃあ」と鳴くものだから武蔵は苦笑するしかなかった。

 

「コーヒーを淹れる才能がないのはもう十分、分かったでしょ? ……普通の艦娘には戻らないの? 『ドーカンシャ』はそんなに大切なことなの?」

「いくら説明しても『そんな事は知りません』の一点張りなのはお前の方だろうに」

「この店とあっちの鎮守府、往復して働くなんてそのうちまた体を壊すに決まってるじゃない。おバカな姉妹艦を心配してあげてるの。い・ち・お・う・ね」

「今ちょっと手が離せないんだ。だが未知の敵陣深くに切り込むのが仕事のお前に比べちゃあ楽なものさ。大丈夫。同じ過ちを繰り返すつもりはないし、皆が私を気遣ってくれる。それに笑えない冗談ばかりの仕事が多過ぎて逆に笑えてくる程だ」

「下手の横好きって言うものね。コーヒー飲んだお客さんが泡吹いて倒れても知らないんだから」

 

「ところで大和。お前がこうしてタダで不味いコーヒーを飲めるのは、私がお前に頼み事をしているからだったはずだが。そろそろ良い返事を聞きたいものだな」

「あのねえ。バスタードソードみたいな日本刀を作れと言われて簡単にヨロコンデーって誰が言えると思う? 申請の理由をでっち上げてねじ込むだけでも三週間かかって、気が付けば大口径砲開発くらいのビッグプロジェクトになっちゃったわ。納期十五ヶ月とかふざけたこと言われて短縮するよう交渉中」

「そのでっち上げた申請すら甘い見積りになるぞ。三徳包丁ですらアレだったしなぁ」

「それもドーカンシャ?」

「そう。ドーカンシャ」

 

 

◆――――◆

 

 

 

 

 この世界には深海の闇ですら消せない炎が存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆――◆――◆――◆――◆

ここから本編と関係ないヤツ

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◆― トリック・オア・ヘブンズ・ドアー! ―◆

 

 

『貴方達は我々に自由を差し出すが、我々はただアイスクリームが欲しい』

【ドールズフロントライン】記憶の欠片のフレーバーテキストより

 

 

◆――――◆

 

 

 いくら綺麗だろうとも光、音、そして匂いが艦娘たちの心を無邪気にさせてくれない。それが花火。うーちゃんでさえ気分次第では「照明弾にもならないぴょん」と言い捨ててしまう。もう季節も過ぎた。

 

 さておき。

 

 手持ち花火を振り回すとその軌道がネオンサインめいて目に焼き付くアレ、輝きの落書きとでも言おうアレを見た秋雲あるいは秋雲を知る誰かは思った。

 

「中盤あたりの岸辺露伴みたく空中に絵を描いて、ヘブンズ・ドアー!(天国への扉)なんて、できてしまうんじゃあないの?」

 

 同じことを考えたオータムクラウド先生がこれで何人目になるか――烈海王ですら異世界に飛ばされる一人になった時代なのだ。もっと昔ならば幻想郷に入って紅魔館の門番と鎬を削っていたはず。

 つまり、いちいち気にするだけ無駄である。

 

 

◆――――◆

 

 

 約束された改二改造を記念して秋雲に贈られたのは、ペン先が光るペンだった。

 

「これが意外と探すの大変だったわけよ、安っぽいのばかりで」

「持っていて恥ずかしくないものを選んだつもりだけど、どうかしら」

 

 とは陽炎と夕雲。

 自分を名誉姉妹艦にしてくれたり猫の手も借りたい時に限って出撃で逃げられる多くの仲間たちに囲まれて、これが幸せでないわけがない。それはそれとして欲張っていいなら人手のプレゼントも欲しい。

 ペンも美しい。アンティークペンを意識高い系企業が近代化改修したのか、自然素材と強化ガラスが上手く融合している。

 

「いや~秋雲さんの方がペンに使われそうだよ。机に立てとくだけでも作業環境が映え――」

「『秋雲さんが持っている』姿、思ったとおり絵になるわね」と言いつつ夕雲はペンを秋雲に握らせた。力強く。

「ま、まぁほら、手に馴染ませるのに時間かかりそうだし、普段使いの方が――」

「『秋雲さんが肌身離さず持っている』と私たちが嬉しいの。専用の補強増設も要る?」

「……イエ、ダイジョーブデス」

「この絶縁シートを抜いてと、はい。バッテリーは半年も持つらしいの」

「……ワー、スゴーイ」

 

 今日から秋雲は、内なる悪魔に手を引かれて駆逐艦寮を抜け出してしまう心配をしなくてよくなった。大丈夫、げんこうしえんかんたいはいつもどこでも地の果てまでも秋雲を見守っている。だが手伝いはしない。

 

 

◆――――◆

 

 

 内蔵されている無線通信モジュールについては後で対策を考えるとして、光るペン先、これが秋雲の想像をはるかに超える強さで白く光った。指向性は皆無でハリー・ポッターの魔法もかくやとばかり。どの場面で使うのか分からないターボモードでは目映いにも程があり直視がキツい。……目潰しペン?

 今は日中、外は羽織るものが欲しくなる程度の晴れ具合で、部屋(ルームメイト募集中)はカーテンを開けていれば十分明るい。秋雲的には外からの光がディスプレイに反射するのでカーテンは閉めたいところだが、『どんな環境でも使えなくっちゃあ意味がない』。

 ターボモードで光らせたペンを空で振ってみると――いける。これはいける。

 それと丁度良いところに風雲も来てくれた。

 

「ん。そのペン気に入ってくれた?」

「風雲、秋雲さんのサイン欲しくない?」

「質問を質問で返すな」

「すんごく気に入った。で、欲しい?」

「いや別に」

「オーケー。だが断られたら押し付けたくなるのがこの駆逐艦秋雲ッ!」

 

 そして押し付けに問答など無用!

 

「ヘブンズ・ドアーッ!(天国への扉)」

 

 荷物の受け取りにサインを求められた時、うっかり『そっちのサイン』を書いてしまう程度には書き慣れている。風雲に見せるために鏡文字にするのも、初めてだったが難無くできた。

 空中に白色に輝く秋雲のサインは、はっきりと風雲の目に焼き付いたことだろう。何故なら指向性の無い白光線が秋雲自身にもダメージを与えたからだ。

 ヘブンズ・ドアー……なんと恐ろしい攻撃(?)か。それは熱意の奔流。まるでプロ中のプロ漫画家のような――締切だのコピー本だのに押し潰されているようでは三流。たとえ月刊が週刊に、週刊が日刊に、時間が加速しようとも描き切ってみせるのが本物だろう――と志そうとしてやめた。タバコを吸ったことはないが、禁煙とスケジュール管理は似ているなあと思うのだった。

 そして攻撃(?)を受けた風雲はというと、

 

「んが……っ!」

 

 秋雲と同様にダメージを受けていた。目に。

 

「見飽きたサインが……目を閉じても……」

「いやぁ、ついチョーシこいちゃって……申し訳ねっす」

「私たちが選んで渡したものだから。でも許すのは今回だけだから。いいね?」

「アッハイ」

「今から出撃なのに……ああ、それで秋雲を呼びに来たんだった。忘れてないでしょうね」

「だーいじょうぶ、ちゃんと働きますって。レベリングがてらに」

「ならよし。先に行ってるから」

 

 風雲が立ち去ったそこに、ヒラリと一枚のゴミ? レシート? いや回復しつつある目で見るとメモ用紙が落ちていた。出撃任務のメモかなと拾って見ると、こんなことが書いてあった。

 

《春雨の麻婆春雨、久しぶりに食べたいなあ……おのれ阿呆一番艦め》

 

 よく分からないので「おーい風雲―」聞いてみた。

 

「ちょい待ってー」

「あら。もう準備できたんだ」

「準備はまだだけど、風雲がどんだけ麻婆春雨が好きなのか気になってさ」

「は? マーボー?」

「このメモ、さっき落としてったみたいだけど」

「んん? 私のじゃあな――えっ、なにこれ」

「春雨にお願いすれば普通に作ってくれるんじゃん?」

「そうじゃなくて……これ、誰が書いたの? 秋雲?」

「風雲の白露殺害計画を、他の誰が書くってのさ」

「さつ……ち、違う! あの阿呆に文句は言いたいけど、春雨の麻婆春雨が食べたいとは思ってたけど……こんなの書いてないし誰にも言ってない」

「でも見たところ筆跡は風雲のそれですぜ?」

「……確かに……でも本当に知らない。気味が悪いし、私が捨てとく」

 

 メモを受け取った風雲はそれをすぐ握り潰して、行ってしまった。

 

「――ふむ」

 

 秋雲は光るペンをしげしげと見た。

 試さない、という選択肢はもちろん無い。

 

 

◆――――◆

 

 

「あーおーばーさんっ☆」

「おや? ついに新聞の4コマを描――」

「先手必勝! ヘブンズ・ドアー!」

「グワーッ目潰しサイン!?」

 

 重巡寮の前、屋外でもこの威力。ターボモードはこれを最後に封印しようと誓う秋雲だった。

 大袈裟でなく仰け反った青葉のどこかからヒラリとメモ用紙が落ちた。それにはこう書いてあった。

 

《足りないよぉ……古鷹のスケベなネタが足りないよぉ……》

 

「青葉さん、あんたさぁ……大天使になんちゅう劣情を抱いてんのさ……」

「え、なんですかなんか言いました?」

「これ」

「見えません。目を潰されたので」

 

 

~30秒後~

 

 

「ええ、ちょうど欲しかったところでした。ドスケベ大天使の良いところ」

「重巡洋艦の最悪なところを見せられた……」

「でも、このメモを書いたのは青葉じゃあないです。ネタ帳を落として他の誰かに読まれるなんて失態――秋雲さんに説明いります?」

「言われてみれば……確認するけど、この字は青葉さんのものなんだよね?」

「みたいですね」

「なら、このメモ用紙は?」

「さあ、なんでしょう?」

「ネタというかリビドーが漏れ出してるけど、いいの?」

「誰だって一度は思うことですし。ドスケベ大天使、見たくないです?」

「ものすんげー見たい」

「ならば同士よ、ここは任せました。さらばです!」

 

 取材屋さんの陸上機動力も凄いが、それもこの嗅覚があってこそなのだろうと秋雲は舌を巻いた。青葉が重巡寮の隣にある軽巡寮に飛び込んだ直後、重巡寮の中から左目をターボモードで光らせた大天使が出てきた。

 まさかペンよりも強力な光でヘブンズ・ドアーを妨げられるとは、思わぬ弱点が見つかった。やはり無敵の能力など存在しないらしい。さらに、もしヘブンズ・ドアーが通ったとしても……大天使が右手に持っているバドミントンのラケット(何かおかしい)が怖くてメモ用紙を拾うどころではないだろう。

 

「気の所為だったかな……秋雲ちゃん、青葉を見なかった?」

「さっき総合棟の方に用事があるとか言ってたよ」

「それ以外に何か――変なこと、言ってなかった?」

「普段通り、誰かを取材するとかどうとか」

「そう。ありがとう」

 

 大天使古鷹も別種の嗅覚を持つのか、それともただの慣れか、ラケット(ガットが無い)を握ったまま軽巡寮に入っていった。

 

「同士青葉さん、あなたの記事はいつも興味深かったよ――さて次の獲物を探しますかぁ」

 

 

◆――――◆

 

 

「ヘブンズ・ドアー!」

 

卯月

《うーちゃんだって電球の交換くらい楽勝ぴょん! なんでやらせてくれないぴょん?》

 

 

◆――――◆

 

 

利根

《筑摩は吾輩を阿呆と思うておるのか? 貸した鬼滅が全巻行方知れずになることくらい最初から予想しておったのじゃ! ――で、重巡寮に一冊も無いことは確認できたのじゃが、はて?》

 

 

◆――――◆

 

 

金剛

《今の気分? もちろん紅茶デース》

 

 

◆――――◆

 

 

伊勢

《誰か、誰でもいいから教えてほしい。私は日向をどうすればいい?》

 

 

◆――――◆

 

 

川内

《あああああの時あの人の「月が綺麗ですね」ってそういう……あああああ! ……でも、いや、落ち着け私。もし下手に勘付いてたらどうなってた? 夜戦だよね? 追撃されるよね? ――ならヨシ! 夏目漱石って誰? 餅つきウサギ可愛いよね、ってちゃんと返事したよね私! ブロックする権利あるよね私! そもそも、どうして夜中に起きてるんですか? 私の夜戦はお仕事ですから! ……もう仕事できなぃょぉ》

 

 

◆――――◆

 

 

初雪

《ふつう》

 

 

◆――――◆

 

 

分隊から来てた斑鳩

《ほらニュース見て! やっぱりイージス艦に次のステップが求められてるよ! インフレする攻撃に対する、インフレする要求! 千年続く終わりのない競争! つまり僕のようなマルチロール空母こそ顧客が本当に必よ……レーダー? ネットワーク? 艦娘は気にしないほうがいいよ。次の敵が『カロウシ』になるから》

 

 

◆――――◆

 

 

長良

《あのハイヒールで三年前の私より速いって、島風ちゃん……滾るね!》

 

 

◆――――◆

 

 

那珂

《アイドルはオーディションも目安箱への投書も、あとこーゆーのも家族に勝手に書かれるものなの》

 

 

◆――――◆

 

 

白露

《たまには一番をゆずってあげるのも一番のつとめ――そうでしょ?》

 

 

◆――――◆

 

 

高雄

《████████████████████████████》

 

 

◆――――◆

 

 

山城

《へえ、あの時の子(※)がなんかすごい航空団の一員に。また会えたら話を聞きたいわね》

※【第06話 ラックレッサー山城】で出会った服部静夏さん

 

 

◆――――◆

 

 

親潮

《あっ、単三電池を買わないといけないんだった》

 

 

◆――――◆

 

 

朝潮

《あっ、単三電池を買わないといけないんでした》

 

 

◆――――◆

 

 

春雨

《今週末ノ黒風チャンノ服選ビ……ソノ前ニ黒風チャン、ドンナ格好デ本土ニ来ルンダロウ。ココハ先輩トシテ、アドバイスシタ方ガイイカナ。私、先輩ダカラ!》

 

 

◆――――◆

 

 

瑞鶴

《改二の写真栄えのために両面テープで矢をくっつけた空母がいまーす》

 

 

◆――――◆

 

 

加賀

《ハロウィンで狩った七面鳥、クリスマスまで冷凍保存でいいのかしら》

 

 

◆――――◆

 

 

日向

《いや、そうはならないだろう》

 

 

◆――――◆

 

 

 秋雲さんもそう思う。

 ヘブンズ・ドアー……って違う、そうじゃない。

 

 

◆――――◆

 

 

 秋雲は鎮守府内を適当に歩き回るって追加で数名のメモ用紙を獲得した。

 試しに竹櫛提督にヘブンズ・ドアーを仕掛けて、あまり面白くないメモ用紙を獲得した。

 少しだけ勇気を出して一ノ傘副提督にヘブンズ・ドアーを仕掛けて、もっと勇気を出すよう煽ってくるメモ用紙を獲得した。

 上等だやってやろうじゃあないかと、即土下座できる気構えで売店のお姉さんにヘブンズ・ドアーを仕掛けて、

 

「………………ああん?」

 

 土下座しようとした秋雲を、背後から磯風がハリセンでどついた。

 

 

◆――――◆

 

 

「ありがとうマイシスターズ。超面白かった。まさか秋雲さん一人のために艦隊全体に仕込んでくれるなんて感激するっきゃあねーですよ。それと雪風も改二改造おめでとう。台湾どうだった?」

「グーグルアースってすごいなーと改めて思いました」

「そっかー……」

 

 このあと滅茶苦茶タンヤオした。

 

「秋雲さんはまだまだヘブンズ・ドアーしまくるよ。せっかく用意してくれたメモ用紙だし艦隊全員分コンプしたいし。――さて陽炎型と夕雲型の淑女共、集まってもらったのは他でもない、このメモ用紙についてだ。陽炎おねーちゃんと夕雲おねーちゃんに念の為に確認するけど、このメモ用紙を皆に書いてもらう時に『秋雲に見せるもの』以外の条件を付けた?」

「いや別に」と陽炎。

「いえ特に」と夕雲。

「じゃあ秋雲以外に見られるのは嫌だ、って言った人はいた?」

「誰かいたー?」と陽炎が聞くと、陽炎型の皆は首を横に振った。

「誰か、いた?」と夕雲が聞くと、夕雲型の皆は首を横に振った。

 

 そして全員が察して、秋雲にズゾゾゾ! とすり寄った。

 

「いい野次馬根性だぜ淑女共。次のネタはこの人だ!」

 

 

 

高雄

《████████████████████████████》

 

 

 

 全員が秋雲からズゾゾゾ! と離れた。

 

「間違えた。高雄さんは天照隊の総力でね、うん。ネタにしやすい人をネタにしよう」

 

 

 

川内

《あああああの時あの人の「月が綺麗ですね」ってそういう……あああああ! ……でも、いや、落ち着け私。もし下手に勘付いてたらどうなってた? 夜戦だよね? 追撃されるよね? ――ならヨシ! 夏目漱石って誰? 餅つきウサギ可愛いよね、ってちゃんと返事したよね私! ブロックする権利あるよね私! そもそも、どうして夜中に起きてるんですか? 私の夜戦はお仕事ですから! ……もう仕事できなぃょぉ》

 




予定では、この話は投稿せずさっさと先に進んで
「何があって何が変化したかは読者様方のご想像に委ねます」
となっていました。
ですが、あまりに投稿間隔が開きすぎましたが故……。
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