エロゲ世界観に転生したのに、なんか俺が思ってたんと違う。   作:胡椒こしょこしょ

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物語が始まったけど、なんか思ってたのと違う
1話


神は俺にどんな世界で二度目の人生を送りたいかと聞いた。

そんな言葉に、俺は臆面もなくこう祈ったのだ。

エロゲな世界観の世界でヒロインとかに囲まれておもしろおかしく主人公みたいに生きていきたい。

 

俺は生前、童貞だった。

だからこそ、今度の人生では女の人に不自由しない生活を送りたいのだ。

それにエロゲの世界と言えばラブロマンスだけでなく冒険などそういう活躍できそうな場面が沢山あるだろう。

そんな中で主人公みたいに活躍出来たらどれほど楽しいだろう。

そう思っていたのに......。

 

暗い夜。

時刻は既に午前3時を回り、極端に人の気配がない。

そんな路地をライフルを持って必死に走る。

息も切れ切れ。

生前運動してこなかった人間が、こんな重い物を持って走っているのだ。

そりゃこうなるわって感じである。

 

「....まったく、またですか。体力を付けなさいと私はいつも言っているはずですよ。なんて、体たらくだ。見るに堪えない。改めなさい。」

 

「す、すいません...ホプキンス先輩。」

 

隣で息も切らさず、顔色も変えずに走っている少女が俺を咎めた。

白い修道服ごしにその豊かな身体を浮かび上がらせている金髪の少女。

ミーシャ・ディル・ホプキンス。

俺の所属する『全き献身の会』の先輩である。

腰には刀身の部分が何か文字の書かれた布にグルグル巻きにされた剣を差している。

 

俺は彼女の姿を、生前の時から何故だか知っていた。

それもそのはず彼女は俺がやったエロゲ、その登場キャラだったのだ。

そのことからもこの世界は『絞首と魔女のセレナーデ』という作品の世界であると分かった。

 

5人居る魔女と、それをとある事象を引き起こす人類の敵であるとして追う教会勢力。

一人の聖女に追い詰められた魔女を庇って、主人公が首を絞められたことで物語が幕を開ける。

魔女ルートと聖女ルートでかなり主人公の印象が変わる作品である。

そういう感じのどっちかって言ったらシリアス臭が強い。

そして俺の所属している全き献身の会は教会勢力である。

どう見ても敵です、本当にありがとうございました!

 

なんか...エロゲの世界感ではあるけど、求めている物とは違うんだよね....。

俺、神様におもしろおかしく主人公みたいに生きていたいって言ったんだよなぁ....。

今現時点では俺、敵側の平戦闘員みたいなものだぞ。

しかも世界観もどことなくシリアス入ってるしよぉ...詐欺じゃねのかこれ?

唯一の救いは聖女側のヒロインであるミーシャと行動を共にしているということだろう。

それも、彼女のキャラクターを知ると救いとは言い切れないのだが。

 

内心ぼやいていると、遂にはミーシャは足を止めた。

それは盆地になっている自然公園。

野原や小規模であるが池もあって自然豊かである。

そんな中、煉瓦の遊歩道にてしゃがみ込み女性が一人。

髪の色はまるで血で染められたかのように艶やかな紅。

髪は腰のあたりにまで伸びており、跪いている今は地面に散華のごとく広がっていた。

紅い魔女、三司朱音。

 

そして彼女の前に跪いて、頭を撫でている少年。

主人公である三司白夜。

二人には見覚えがある。

いや、それどころか....この光景にも見覚えがある。

 

一番最初のCG。

彼が魔女と教会の騒動に関わるきっかけ。

物語の始まり。

これから、主人公がメインヒロインである魔女を庇ってミーシャに首を絞められるも見逃されるシーン。

聖女ルートに入ると、ミーシャが主人公を見逃した理由などが分かったりするものである。

 

ようやくである。

俺は、この日が来るのをどんなに待ち焦がれていただろうか。

この日をきっかけにして、他の魔女が訪れるなど沢山のイベントが発生するのである。

ヒロインが一気にこの街に集まる。

この場面に居合わせれば、俺はきっと物語に関わることが出来る。

少なくともモブキャラのようにはならないはずである。

だからこそ、性格がきつい先輩についていったのだから。

 

「見つけた....魔女。」

 

ミーシャが隣で目を見開く。

その目には目の前の相手に対する憎悪と嫌悪が籠った剣呑な光を宿している。

さっきまでの冷静な様子はどこへやら、まともではない様子で彼らを凝視している。

これがミーシャ・ディル・ホプキンスのキャラクター。

彼女自身は自分が正しく、周りの人間に対して間違っているとマウントを取るのが好きなタイプの人間である。

過去の魔女の脅威と生来の過剰な正義感から異常に魔女を敵視しており、クソコテとも言えるほどに執念深く魔女を抹殺しようと動いている。

...まぁその過去の魔女の脅威とやらも教会の誇張が入っていたんですけど。

聖女ルートでの教会の裏が露見した時のミーシャの様子は魔女ルートをやった人間にこそ必見だったりする。

そこは好き。

 

「何を呆けている。準備をしなさい。」

 

「あっ、すいません....。」

 

どやされて持っていたライフルを構えて、腹ばいになる。

そして、スコープで女の方に照準を合わせる。

まぁ正直風向きとは本来は考えないといけないんだけど、そこらへんは既にやる気がない。

だってほら....どちらにしても、このシーンではあの二人は助かると決まっている。

そう決まっているし....あの二人には生きていてもらわないと困るのだ。

ほら....メインヒロインと主人公死んだらその時点でENDだし。

そもそもそうなると、敵の思う壺になって詰みだしね。

 

俺はポケットから聖書の一ページを取り出す。

そしてそのページにキスをする。

ほんのりとページが霧散して、光の粒へと変わる。

光の粒が着ている白スーツに纏わりつく。

そして、白スーツに十字架や植物の蔓の紋様が現れる。

...いつ見てもだせぇ.....。

 

陪審礼装。

簡単に言ったら使い捨てのバリアー。

国民的アニメで言うところの戦闘服みたいなものである。

俺みたいな下っ端には聖書を素材とした使い捨ての物しか渡されず、性能も低い。

その点、隣の先輩は教会の執行官とかいう偉い立場に居るので性能の良い礼装を渡されているのだ。

その証である白い修道服、それを着た人物は「裁白」と特別視される程だ。

簡単に言えばくっっそエリートなのだ。

...まぁ、真相を知っている我らプレイヤー側からしてみれば皮肉な話なんだが。

 

「えーと、合図とかっていうのは....。」

 

「...合図は送れないかもしれない。私の通信機をオンにしておきますのでそちらでその音を聞いて状況を判断して私を援護しなさい。...私の弟子であるなら、そのくらいのことはこなしてもらいますよ。」

 

「りょ、了解っす....。」

 

無茶を言うなよ....。

無茶苦茶なオーダーを出してくる自称師匠サマことミーシャにペコペコしながらも通信機を耳に当てる。

まぁ、結局のところ取り逃がすんだから聞く必要すらないんだけど。

 

従順な俺の様子を見て、満足そうに頷くと二人の方へと向き直る。

助走をつけると跳躍。

そして、彼らの近くに着地する。

どんな脚力してるんだ....超人か!

超人だったわ....。

 

表向きはまともにやってますよ感を出す為に、スコープを覗く。

しかし、集中するのは通信機である。

あの場面を音声とはいえ、実際の臨場感込みで聞くことが出来るからな。

既プレイ民にとっては貴重な体験だ。

 

スコープ越しでは、ミーシャが降り立ったことに気づいたメインヒロインの朱音が慌てた様子で立ち上がって主人公である白夜君の前に立つ。

そして通信機越しに先輩の声が遠巻きではあるものの聞こえてくる。

 

『我は糾弾す。...主を謀る奸佞邪智の魔女よ。絞首斬首鋸引き薬殺串刺し火あぶり石打ち...我は振り下ろされる鉄槌が一つ、断罪の炎そのもの。罪を背負って、塵へと還りなさい。...神明裁判、開廷。』

 

それはゲームをやってていても度々見るミーシャの詠唱。

彼女自身の礼装を起動するための詠唱文だった。

その詠唱と同じく彼女の持っていた剣に巻き付いていた布、聖骸布がほどけて彼女の体に巻き付いていく。

それは形を変えると籠手や胸当てへと変化する。

そして彼女は波打った刀身の剣を持って、彼らに構える。

 

『...丈夫、大丈夫...から...。....いちゃんは...逃げて....』

 

微かに朱音ちゃんの声が聞こえる。

その直後、二人の戦闘は始まった。

紅い魔女服をたなびかせて手を突きだす朱音ちゃん。

すると、背後の魔法陣からバラの茨のような物が幾重にも弾幕のようにミーシャに襲い掛かる。

 

通信機はすげぇ破砕音が鳴り響いて滅茶苦茶うるさい。

正直、なんも聞こえない。

しかし地面を貫くほどの威力を持つ茨が自分に殺到しているにも関わらず、先輩は未だ生きていた。

 

茨を切り払い、足場にして飛び退く。

着られた茨は瞬時に炎上して、燃えカスになってパラパラと地面に落ちる。

表情は険しく、目の前の魔女を睨みつけている。

そりゃ親の仇みたいに睨みつけている。

はえ~実際、こんな感じなんだおっかな。

俺、あんな目向けたらちびっちゃうよ.....

 

すると、朱音ちゃんの方も分が悪いと感じたのかマントを振り払ってそこからバラの花弁のような物を花吹雪のようにまき散らす。

その花弁はミーシャの修道服に触れた瞬間、その修道服に小さな傷を作り出す。

 

『...癪な....。』

 

ミーシャの声が環境音に邪魔されながらも聞こえている。

これは小癪な...って言ってるな。

花吹雪はミーシャに集中し、段々と修道服が破けていく。

花弁自体が刃のようになっているのだ。

それに気づいたミーシャは後退する。

 

逃がさないと言わんばかりに殺到する花弁。

それを見て、ミーシャの忌々し気な声が聞こえた。

 

『うざったい....決まった。貴様は....火刑だ!』

 

そう言うと、力任せに剣を地面に付きたてる。

突き刺さった周辺の地面が赤く光った瞬間、眩い光と共に爆発音の後に、轟轟と音を立てて周辺が焼け野原と化す。

十字架が何本も突き刺さった炎の原。

それは茨だけでなく、花弁すらも燃やし尽くす。

 

懲罰領域。

白裁と呼ばれる執行官が使う技みたいなもの。

なんか簡単に言うならば固有結界的な奴。

ミーシャの場合は持っている並々の剣がフランベルジュ(フランス語で炎)の意味のまんま、火刑を司る。

断罪の炎とはよく言った物で、魔女だけを焼き尽くす魔女にとっては天敵のような技である。

火刑にしてはどう見ても爆発してるんですがそれはどういうことなんだろうとは思うけど。

 

俺が首を傾げている間にも、炎は全てを焼き尽くす。

そして遂には朱音のマントにまで燃え移る。

瞬間、炎に包まれる少女。

その光景はあまりにもむごい。

 

「朱音ぇぇぇぇえええ!!!」

 

うおっ、びっくりしたぁ....。

白夜君の叫びここまで聞こえてきたんじゃが。

まぁ、そりゃ義妹が焼けたらそうなりますわね。

当たり前か。

 

ミーシャが剣を払うと、周辺の炎が掻き消える。

残るのは炭化した花弁や焦げた茨。

唖然として、膝を突く白夜君。

しかし、彼の頭上から舞い落ちる一つの花弁。

それは彼の前にひらりと落ちると光を放つ。

そして、そこから煤塗れの朱音ちゃんが現れる。

 

驚愕して、彼女に駆け寄る白夜君。

しかし、すぐに安心した様子で涙ぐむ。

...まぁ俺としてはそんなことよりも朱音ちゃんの煤塗れの裸体にしか意識がいかないんですけどね。

確か魔女服が全ての炎を引き受けて焼失したんだっけ?

うっひょ~~~、大きくはないけど綺麗な形してるぅ~~~!

ライフル持っててよかったぁって思うわけぇ!

 

一人だけスケベ心発揮している間も、現場はシリアス一色だ。

ミーシャが剣を持って、彼女へと歩みを進めている。

 

『なんて生き汚さ、見るに堪えない。...首を置いていきなさい。その命と共に、私がもらってあげましょう。』

 

満身創痍の朱音ちゃんにゆっくり近づいていく。

朱音ちゃんの方は満身創痍だからか、歯噛みしているな。

まぁ、ここで白夜君が出て来て丸く収まるんですけどね。

 

すると、膝を突く魔女の傍らに居た少年はまるで彼女を守るかのように彼女の前に出た。

剣を持つ金髪の女と対峙する。

そして、手を広げて通せんぼをした。

 

『頼む!やめてくれ!!確かに、俺の妹は魔女?の素質が開花してそうなってるんだろ!?でも、知らなかったんだけだ!今までだって普通に暮らせてこれた!きっとこれからだって.....。』

 

「...はっ、今までが大丈夫だったから大丈夫?そんな根拠がどこにある?無責任なことを言うのはやめなさい。」

 

必死に訴えかける白夜。

しかし、その言葉を聞いてミーシャは笑った。

そしてさらに言葉を畳みかける。

 

『君は知らないかもしれないが、魔女という存在は災厄を引き起こす。君の妹が今代の紅の魔女として覚醒したのであれば、君の妹のせいで家族を失い、悲しむ人間が生まれるかもしれない。....君が人間であるなら、退かなければいけない。そこを退きなさい。』

 

有無を言わさぬ口調で一歩踏み出すミーシャ。

相手は武器を持っている。

ここ、白夜君の立場だとくっそ怖いよなぁ。

俺だったら失禁しながら退いてるわ。

まぁ、ここで退かないのが主人公たる所以なんだろうな。

 

案の定、それでも白夜君は退かない。

まぁ、そりゃそうですよね。

 

『だとしても、そうだとしても...ここから先は一歩も譲らねぇ。俺は、正直人間がどうとか魔女がどうとかまったくピンと来ねぇ!ただ一つ分かってることは...ここで退いたら兄貴失格ってことだ。』

 

『...理解できない。愚かとしか言いようがない。』

 

『悪いな、兄貴って生き物は理屈で生きちゃいねぇみてぇだ。』

 

苦悶するような声で言葉を吐くミーシャ。

そんな彼女に半ば投げやりにも見えるほどに口元に笑みを浮かべてそう答える白夜君。

いいね、アニメとかマンガで妹なんかどうでもいいとか真面目に言っちゃう兄貴とか見たくねぇもんな!

 

でもこの行動が功を奏すんだよな。

この行動によってミーシャが白夜君と死んでしまった兄の姿を重ねて見逃してくれるっていう....。

ここで『消えなさい...さっさと目の前から消えなさいっ!』って言って見逃がしてくれ....

 

『そうか...魔女を庇う。それは罪だ。今代の魔女として覚醒することは誕生罪、兄貴という生き物として生まれたことも誕生罪!真っ向から切り捨てて兄妹一緒に地獄に送ってやる!!』

 

「....は?」

 

えっ...何言っちゃってんのこの人?

ち、違うだろ!アンタはこの後見逃さないと....。

 

俺の動揺を他所に、ミーシャは剣を振り上げていた。

フリでもなんでもなく、容赦なく目の前の少年を切りつけようとしていることが分かる。

はぁぁぁ!?どうしてこうなったんだよ!!

原作展開と全然違うだろ!?

...まさか、もしかして俺か?

本来存在しない俺が関わったから?

 

確かに俺が居ることでなんか原作とは違う展開とかあり得るだろうなっ!とか思ってはいた。

事実、この場面に居るのは本来は朱音ちゃんと白夜君とミーシャの3人だ。

そこに俺が加わったからこうなったのだろうか?

...いや、それにしたって致命的に変わり過ぎじゃない!?

俺にはまったく心当たりがないぞ!!

 

戸惑っている間にも、ミーシャは一歩踏み出す。

どうしよう!どうしよう!!

ここで主人公とメインヒロイン死んだらもうその時点で人類オワタなんだよな!

だって極論協会側が悪みたいな物だからね!!

いやだよ、展開知っててただずっと人類の終焉を待つとか!

でも、どうすればいい...つーか俺に出来ることってあんのかよ!!?

 

そう思って手元を見る。

スナイパーライフルあるやん。

...これでなんかミーシャの近く弾を通過させたら流石にびっくりしてこっち見るんじゃね?

ほら、味方に背中から撃たれたわけだから。

それでなんか言われたら、ブレて誤射しましたって謝ろう!

 

そうと決まればさっさと狙撃だ!

時間は待ってくれない。

このままボッーとしていればみすみす白夜君を斬らせてしまう。

味方をスナパで撃つとか本当はいけないことだし、負傷するかもだけど世界の為だからな。

ミーシャ、悪く思うなよ。

 

スコープを覗く。

うわぁ...やっべぇ....こんなことになると思ってなかったから風とかの計算出来てないぞ....。

いや、大丈夫だ...出来る。

お前は、第二の人生で一体何をやってきた。

物語に関わりたいからと言ってこんなことになったのだ。

ならば、その分は今まで積んできた訓練、人生経験で償うしかないだろう。

今まで生きてきたすべての時間をこの狙撃に賭けろ......!

 

俺の人生、生まれは確か赤ん坊の頃に修道院の前に捨てられたところから始まった。

多分主人公みたいに生きていきたいと願ったことから神が忖度なりなんなりしたのか、割となんでもやればできた。

だからこそ、修道院から教会預かりになったのだ。

その時は、『あっ...こういう組織があるってことは、やっぱりこの世界はちゃんとエロゲだったんだな....』って安心したくらいだ。

 

今まで辛い訓練があった。

FPSとかサバゲとか嗜んでいたから銃を使えたりするのは嬉しかったけど、体術とか地獄でしかなかった。

出来るからと言ってやりたいこととは違うということは自明の理だし、そもそも運動は嫌いなのだ。

そんでやっと頑張って訓練を終えたと思えば、『全き献身の会』に送られる。

そして、クソコテヒロイン居るやん!っとこの世界がどういう世界か知ったかと思えばいきなり『部下ということは私の弟子か』とか言い出すんだもん。

そこから訓練時代が優しく思えるほどの、修練という名のパワハラ。

でも、それを経験したから今があるんだ。

 

こんな不安定な状況でも、俺はスナイプ出来る!

大丈夫、今までの訓練を...辛苦の時を信じろ!

確かに銃口を向けるが、これはあくまで驚かし。

直撃はさせない!

 

おしっ、今だっ!!

 

彼女の横の空間に照準を合わせて撃つ。

これで弾の軌道は彼女の向きだけど当たらない、ただ驚かせるだけの誤射が完成だ!

 

俺の持っていたライフルから放たれた弾丸は、凄まじい速さで空気を切り裂いていく。

おしっ!いいぞいいぞ!

なんかわかんないけど手ごたえがある!!

そして.....。

 

『あぐっ...ぎゅっぎぃ!?!がっ...!!!?』

 

そして弾丸はミーシャの肩の装甲を的確に捉えていた。

礼装が受け止めたことで、弾丸はゆっくりと地面へと落ちる。

しかし、身体に伝わった衝撃は大きく彼女の体は不意の衝撃に硬直してしまう。

突如背後から襲う衝撃を受けたミーシャの声にもならない苦悶の呻きがインカム越しに聞こえてくる。

 

やっべ、.....やらかした。

当てちゃったよ....。

どうしよどうしよ...ミーシャ撃っちゃった....。

うっわぁ....殺されちゃう.....。

 

と、取り敢えず負傷してないか確認行かないと....。

俺はスナパを放っておくと、彼女の方へと駆け寄る。

 

坂を下りている間に、白夜君が急に倒れるミーシャに面食らっているのが見えた。

しかし、そんな彼を朱音ちゃんが後ろから引き寄せると彼女を中心として魔法陣が形成される。

噴き出すバラの花びら。

噴き出し切って花びらがハラハラと振り散る時には、既に彼女たちの姿はなかった。

逃げたか....。

ホッと胸を撫で下ろす。

なんにせよ、ここで世界を終わりにすることだけは避けれた。

 

『待て!逃げるな、待ちなさい!!クソッ、こんな邪魔が入らなければ....ふざけるな!!私は負けてないぞ!!逃げるんじゃない!魔女、魔女ぉぉぉぉ!!!!』

 

彼女の怒号がインカムから耳をつんざく。

その声を聞いて、心拍数が上がった。

どうしよ...めちゃくちゃ怒ってる。

魔女仕留めきれなかったからひとしおだよ....。

 

ミーシャの元に辿り着くと、ミーシャは既に立っていた。

...が、表情を歪めながら自分の右肩を抱いている。

ま、まずは謝りながらもわざとじゃないよってことをアピールしないと!

 

「せ、先輩すいません!そのっ、先輩が邪魔されていたので俺が魔女を撃とうとしたらブレてしまって....!その肩だいじょ...がはっ!!!」

 

「黙れ!!私の肩はこれくらいのことでは動じない!!私を軽んじるつもりかっ!!!!」

 

謝りながら肩を訪ねようとした瞬間、鼻をぶん殴られた。

嫌な音が鼻から鳴り、生暖かく鉄臭い液体が口元まで流れる。

そしてミーシャはそんな俺のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、馬乗りになると両腕で俺を殴りつけ始める。

全然肩動くじゃん、やっぱり白裁の礼装って優秀なんだなぁ....。

 

「このっ、貴様が邪魔さえしなければ!!私は、あの魔女を八つ裂きにすることが出来たんだ!!この世界の為に、正義を体現出来ていたんだ!!分かっているのか!!これは背信行為だぞ!!味方を撃って...私はそんなことの為に銃の撃ち方など教えてないっ!!この味方殺しがっ!!撃っていいか私に判断を仰げ!!!この愚か者がっ!!!貴様は今後一切スナイパーライフルを使うな!!!」

 

「撃ったのとかは、ぐほっ!僕が悪いのは...がはっ!分かりますけど!!そっちで判断して撃てって言ったのはせんぱぁっ!!いだし、そもそも私の邪魔にならないように離れからスナイパー持って構えてろって僕の装備決めたのも先輩じゃないですか...ごぼぉっ!!?」

 

確かに俺が結構な割合で悪いとは思う。

正直、あの二人がやられると将来的に困るのは僕らだけどそんなこと先輩はまだ知りようもないし、そもそも的確に撃てるという自信もないのに味方に撃つのは先輩のように白裁でなければ命に係わる問題だ。

ここら辺は、俺の認識の甘さが全面的に悪い。

でも俺はアンタに銃の撃ち方なんか教わったことなんかないし、そもそも俺は嫌だって言ったのにスナパ使わせたのアンタだし、判断して撃てって通信機渡してきたのもアンタだしな!!

そこらへんで殴られるのはちょっと理不尽じゃないか!?

 

しかし、言い返したのが気に食わなかったのかミーシャの怒りは最高潮に達したようで全身をわなわなと震わせている。

そして、さらに激しく俺を殴打してきた。

 

「黙れ!!貴様に何が分かるっ!?私に逆らうな!!私は常に正しい!!私が間違うことはない!!!それを分かれ!!私は正しい!正しいっ!!正しいっ!!!!ミスは罪だ、罪は許されないっ!!そもそも罪を犯した貴様が正しい私に、偉そうに反論するなぁぁぁ!!!」

 

ただひたすら重い拳が顔面に振り下ろされる。

口の中は切れたのか鉄の味がすげぇするし、意識もクラクラしてきた。

おかしいだろ....このままじゃ、殴り殺される。

多分これ八つ当たりでもあるだろ。

もう....適当に謝っておこう。

もう無理ですわ....。

 

「しぇ、しぇんぱい..しゅ、しゅいませんでしたぁ....しぇ、しぇんぱいがただしいです...ぜんぶ僕がわるいんです...おねがいしましゅ...ゆるじでくだしゃい...ゆるじで...えへ、えへへ....。」

 

もう降参と言わんばかりに、めっちゃ媚びへつらって言葉を口にする。

すると、先輩は息を切らしながらも腕を止めた。

 

「はぁ....はぁ.....分かれば、良い...生まれ変わりなさい。今日の事を...はぁ....心に留めてきちんと挽回に励めば、貴様にもまだチャンスがある....。人間には無限の可能性があるのです.....。」

 

そう言いながら、俺の上から退くと手を差し伸べる。

その手を恐る恐る取ると、立ち上がらされる。

やっべ...まだふらつく....。

 

ふらつくと、先輩は俺の手を強く握ってそばまで引き寄せる。

そして、俺の顔に手を触れた。

 

「すまない...痛かっただろう?」

 

「は、はぁ...今でもちょっとふらつくんすけど....まぁ俺が悪いんで....。」

 

「そうだな。その痛みは罪の現れだ。今日のことを傷と共に心に刻み込んで覚えておきなさい。そうすれば、君はまた一段落成長するというものだ。」

 

微笑を湛えて、そう答えるミーシャ。

何だこの女、イカレてんのか...。

流石はネット上で『ルート入るまでサイコ』、『民度が便所に履き捨てられたタンカス』『クソ女』『魔女ルートと聖女ルートでは別人』とまで言われたヒロインだけある。

完全に善かれと思っている感じが怖すぎてブルっちゃうよぉ....。

こんなのが上司とか、俺ヤバスギでしょ....。

 

「しかし、このまま逃がしてしまうわけにはいかない。他の修道女に周辺を警戒しておくように伝えておきなさい。」

 

「えっ...フラフラなんですけど僕....。」

 

「伝えておきなさい。...私に、同じことを二度も言わせるな....。」

 

「ハイ。」

 

ふらつく頭をなんとか保ちながらも、携帯で周辺の修道女の人のグループにメッセージを送る。

大丈夫かな...文体とか崩れてないかな....。

俺が送信したのを確認すると、ミーシャは見兼ねた様子で俺の肩を取った。

 

「私も君のせいで肩が痛むのだが、これでも師匠だからな。肩を貸してやろう。つかまりなさい。」

 

「あ...ありがとうございます....。」

 

いや、それを言ったらアンタにぶん殴られまくって無傷だったのがここまで負傷してるんだからな俺。

俺もスナパの件とか悪いところはあるわけだから、言葉にしないが。

先輩の肩を借りて、坂を上って元来た道を戻って『全き献身の会』のロビーへと帰ろうとする。

 

風が不意に吹き込み、先輩の金糸を束ねたかのような綺麗な髪が揺れる。

ほんのりと甘い良い匂いがした。

 

「私は、君に期待しているんだ。」

 

「期待...ですか?」

 

そう言われても、正直期待される材料が思い当たらないのだが。

しかし、ミーシャは夜空を眺めて話を続ける。

 

「あぁ。君という弟子を得て更に私の正義が完成に近づいている。だからこそ、私は弟子である君に私の正義が絶対正義となる瞬間を見ていて欲しい。その役目を果たすことを君に期待しているんだ。」

 

「それっていつですか....?」

 

正直それは期待していると言えるのか疑問だし、どこまで行っても自分本位な女だと呆れるものだが一応上司であるので質問はしておく。

 

「世界を犯す大災厄《ヘクセンナハト》。教会の記録では不完全な物であっても10の街が腐海に沈んだ。そんな悪夢を引き起こす5人の魔女を殺して、教会の掲げる世界平和を実現する時だな。私であれば、それが成し遂げられると確信している。」

 

「...そうですか、ミーシャ先輩は流石ですね。」

 

「よしなさい。言われなくても分かっている。」

 

真横で彼女が得意げな表情を浮かべていた。

それを見て、つくづく痛感した。

彼女は教会の課された役目を果たすことが正義であると考えているのだろう。

 

まぁ、実際のところは魔女はそもそも5人じゃなくて7人だし。

しかもヘクセンナハトを引き起こしたのはそのうちの一人であとの5人が自分ごと封じ込めているし、なんなら『全き献身の会』を統率しているのがそのヘクセンナハトを引き起こした魔女であって他の5人にその罪を擦り付けて次代の5人を殺すことで今度こそヘクセンナハトを成功させようとしているのが真実なんだが。

なお白夜君の体内には6人目の魔女である白の魔女とやらが居て、他の魔女たちの内部に眠る先代に接続して彼女たちの真の力を発揮することが出来るとかそんな設定だったはず。

やっぱ主人公だけあって秘めたる力とかあったんだなって。

 

まぁ結局一番言いたかったことは、ミーシャが正義と信じていることはただの偽りでしかないということ。

彼女が毛嫌いしている悪そのものであるということだ。

5人の魔女や主人公を傷つけることは却ってヘクセンナハトを引き起こそうとしていることに他ならないのだから。

まぁ、どのルートでもそれを知って一度心が折れちゃうんだけど。

それを分かっている上で、今の彼女を見ているとどこか哀れに思えてならなかった。

 

隣の彼女に哀れみを覚えながらも、俺は帰路に就く。

今だ口の中や顔が痛む。

やっぱエロゲ世界とはいえ、思ってたのと違うんだよなぁ...。

俺はなんというかこんな入り組んだ設定のシリアス入った世界観なんかじゃなくて、もっと軽くて緩い作風のバンバンエッチできるような環境が良かったのに....。

今のところ、おもしろおかしい要素も主人公要素も俺の生活には皆無なんだけど....。

まぁもうこの世界に居る時点で文句すら言えないからなぁ....

思ってたのと違うなら違うなりに、頑張って生きて行かないとなぁ....。

 

こんなはずじゃなかったと溜息を吐いて、肩を竦めた。




諸悪の根源は全き献身の会のリーダー。
絞魔セ未プレイ勢、ネタバレすまん。


※ハーメルンエロゲ世界観交流会の参加条件や要項は私のTwitterアカウント、もしくは活動報告にて明記しています。
キミも...一緒に架空エロゲを世界観とする小説、書こっ?
俺もやったんだからさ(同調圧力)
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