エロゲ世界観に転生したのに、なんか俺が思ってたんと違う。 作:胡椒こしょこしょ
シャワーを浴びる。
戦いで掻いた汗や付いた汚れを身体から流して、身を清める。
人として正しいあり方、素晴らしく文化的な生活だろう。
自分の目の前に対峙した男。
凶器を持っており、圧倒的に強い私を前にして彼は膝を震わせていた。
それでも、私の前を退かなかった。
ただ“兄”であるといった理由で。
『ミーシャは、良い子だから....正しい子だから、私が居なくても大丈夫...だよな。』
そんな姿が、兄の姿という物が記憶の片隅に大事に仕舞い込んだ笑顔と被って....。
「っ...!!」
気づけば、目の前の鏡を殴っていた。
まるで頭の中で顔を覗かせた邪念を振り払うように。
拳が少し痛む。
「....鏡が...ダメだダメだダメだ!!こんな入浴中に鏡を割るようでは正しくない!正しいあり方じゃない!!!」
殴ってしまった部分を中心として罅が入る。
何に思考を持っていかれたミーシャ・ディル・ホプキンス。
まさか、あの男と兄の姿を重ねていたというのか。
「....バカバカしい、第一全然違うじゃないか。」
私のお兄ちゃんは教会での役目の後に魔女から私を庇って殉教した。
逆に奴はその魔女を庇っている。
正しくない、許されざる大罪だ。
私の兄とは全く及びもつかない人類への裏切り者め....。
共通しているのは妹を持つ兄という点と妹の危機に退かずに対峙し続けた。
それだけだ。
「罪はどのような形でも罪、正しくなければ生きる価値はない。魔女に絆されたのであれば一般人であっても....。」
自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
必死にあの時の事を振り払おうとして。
あの時、私は一瞬躊躇ってしまった。
...後ろには、私の弟子であり志を同じくしている渡瀬朔太が居る。
師であり、上司である者としてあるまじき姿は見せられない。
そう思うと、自然と正しいことが出来たのだ。
仮に...そう仮に!完璧だからこそあり得ない話ではあるが兄の幻影が私の弱さだったとして、私はそれを振り切ることが出来た。
負けなかったのだ。
「...大丈夫だ。私は成長している。ふふ...やはり、教え導く対象が出来るということは私の威信を示すと共に、私の糧となっているということか。」
笑みを浮かべる。
弟子という物が居てよかった。
肩を撃ち抜き、完璧な私の討滅の邪魔をしたがそれでも許そう。
今でも肩が少し痛むが許そう。
私は完璧で、私は正しく全ての人の模範となり得る存在だ。
彼も泣いて許しを乞うていたし、許してやるのだ。
なぜなら私は寛容な人間だからな。
しかし、それだけに奴ら二人を逃がしてしまったこと。
裁くべき罪を裁ききれなかったことは明確な私の汚点だ。
白いキャンバスのごとく清廉な私の経歴に黒いシミを奴らは付けたのだ。
その代償、どんな手段を以てしても払ってもらう。
「魔女...、魔女の兄...貴様は必ず私が殺す....。」
決意を新たにすると、シャワーを止める。
そして、浴室の扉に手を掛けた。
◇
「いってぇ....。あぁぁ、マジで痛い....。」
「はぁ~い、染みるねぇ~ちょっとの我慢だよ~。もうすぐ終わるからねぇ~。」
主人公クン達と邂逅するイベントを終えた俺達は『全き献身の会』の会館に戻ると執行チーフに現状を報告して宿舎の方へと戻っていた。
俺は顔中血とか出てたりしたので医務室で治療を受けていたのだ。
原因であるミーシャは先に簡単な処置を受けてシャワーを浴びに行った。
優雅な物である。
口の中の血を綿で吸ったり、結構治療に手間がかかっている。
あの女....どんだけの力で人殴ってんだよ...。
しかもコレ半分は折檻でもう半分は八つ当たりだよ?
こっわ....、そんな女が自分の上司とかやめたくなりますよ~仕事。
「...はいっと。これでぜぇーんぶ終わり♪いやぁ~それにしたって派手にやられたねぇ?」
目の前の女医、相崎楠葉はクスクスと笑う。
悪戯っ子な笑みを浮かべながら、こちらに聞いてくる。
「まったくすよ....まぁ俺が悪い面もあるんで一方的に文句は言えないんすけどね。」
そりゃ後ろから彼女を撃ってしまったのだからこちらは一方的に文句は言えないであろう。
でも、それにしたって相手側にも過失はあると思うのだ。
それにあの時に殴ってきたのは半分くらいは八つ当たりがあったしな。
それでここまでボコボコにされるなんて理不尽と思ってしまう。
そんな俺の言葉におかしそうに笑う楠葉女医。
「あはは~、私も最初ミーシャちゃんから聞いた時は味方を撃っちゃったんだから多少のおしおきは居るかなって思ったんだけどさ、流石に渡瀬くんの顔を見たらやりすぎでしょ~って思っちゃったねぇ~。そもそも、君と白裁であるミーシャちゃんは体の頑丈さが違うんだからさぁ~。」
「そうなんすよ!!同じ基準で語ってほしくないっていうか...俺はアンタよりもか弱いんだっつーのって話なんですよね!!」
そこらへんをちゃんと言ってくれる人は初めてで、俺は前のめりになってしまう。
いや、本当にそう!
あの人鍛錬という名のパワハラの時も、滅茶苦茶頑丈なくせして俺に同じ水準を求めてくるのだ。
潰れてしまうわ、寧ろ毎回ノルマ達成できてないわ!
日頃から無理難題ぶつけられる方の身にもなってほしい。
「まぁでも、結局のところ渡瀬君が誤射しちゃったのがそもそも悪いんだけどね。味方に背後から撃たれるのってわざとじゃなくても結構ショックだったりするものよ?」
「そうっ...すよね。いや、分かってはいるんすよ大部分俺が悪いってことは。」
まぁ、テンパっていたとはいえ白夜君を逃がすのにもっと別の方法があったかもしれないしな。
それに傷つけてしまったことは事実だし、そもそも怒り狂うだろうことは予測できていたしな。
今更グチグチ言ったところでって感じはあるな。
...それにしたって現在、口の中痛すぎて飯食えなくなっている時点で少し言いたくなってしまうのだが。
「まっ、次はしないようにしよう!そのくらいの軽さで考えれば大丈夫かなって。ほら~ここに居る人ってみんな重く考え過ぎじゃない?確かにそのくらいの責任感は必要かもしれないけどさ、いつもそれじゃ疲れちゃうでしょ?」
「そうですね。...手当、ありがとうございました。」
「私の仕事だもの。お大事に!あっ、それと任務になるまでは安静にしとくように。以上!」
楠葉女医は気さくに笑うとひらひらと手を振る。
そんな彼女に対して、微笑を見せると頭を下げると医務室を出る。
時刻は午前5時。
滅茶苦茶眠い。
「10時くらいまで眠って、その後は色々買うかな。」
この仕事をやっていると、いつ駆り出されるか分かったものじゃない。
だからこそ、買い物は出来るだけ早い時間に行う必要があるのだ。
それに、久しぶりに羽を広げてゆっくりしたいもんな。
せっかく安静になるかもしれないのだ。
休みを楽しみたい。
◇
会館の外。
予定通り10時に起きた俺は買い出しに繁華街へと出向いていた。
もう既に疲弊してへとへと。
朝に仕事が入っているシスターの子達などから頼まれた買い物。
量が多いがそれでも問題なく買い物は出来たし、それに関してはそこまで負担は感じていなかった。
「前の世界じゃ腐る程あったけど、こうやってゆっくりする時間も悪いものじゃなかったんだなぁ。」
この世界じゃ、どことなくそこまで気を置いて落ち着く暇などなかったからな。
いや要所要所ではあったものの、どっちみち献身の会に入ってからは慌ただしかったからな。
なんというか、どことなく懐かしさを感じてしまった。
今は適当に見かけたカフェの椅子に腰を掛けてアイスコーヒーを飲んでいた。
ゆったりとうららかに過ぎていく時間。
この裏では教会が魔女を追いかけ回しているなんて、誰も信じないんだろうな。
服装も白スーツではなく、ラフな白いパーカーに袖を通していた。
タンスには入っていたけど、着る機会があまりなかった服だ。
せっかく買ったのだからこういう日くらいには日の目を浴びせてやりたい。
「ミルフィーユ遅いなぁ。」
ぼやくようにそう呟く。
....いかんいかん、ゆっくりとするんだろ?
待つ時間も、きっと楽しめるさ。
「....まだかなぁ。」
ダメだ....やることがないから間が持たない!
スマホを見ても、この世界のエンタメについては何も分からない。
しょうがないだろ。俺の人生捨て子から孤児院で教会直送なんだから。
流行りものとかそういうこと分からないんだよ....。
「はぁ....。」
溜息を吐きながら、掲示板で犬猫などの動物の画像スレを開く。
犬や猫なら可愛いし、そもそもよく分からないサブカルのスラングも少なめで俺の居た世界と内容が似てるのだ。
暇を潰すにうってつけだろう。
そう思って普段は連絡用にしか使わない携帯へと視線を落とそうとする。
すると、不意に耳に一人の少女と少年の声が入ってきた。
「朱音!?そ、そんなに引っ張ってどこに.....!!?」
「いいから!!お兄ちゃんは私の言う通りにしていたら良いのっ!!」
その声、そして朱音という名前。
それは聞き覚えのある...なんなら昨日聞いた声だった。
声のする方向に目を向ける。
するとそこには赤い髪の少女に腕を引かれている少年。
それは、先日ミーシャと接敵してた白夜君と朱音ちゃんだった。
なんでこんなところに....ていうか、ヤバイヤバイ。
少なくとも俺はあの時に顔を見られている。
万が一目が合ったりすれば、面倒くさいことになりそうだ。
咄嗟に目を逸らして何食わぬ顔でアイスコーヒーを喉に流し込む。
「お待たせしましたぁ~、ミルフィーユでございます。」
「あっ、ありがとうございます...。」
目を逸らしてコーヒーを飲んでいると、丁度良く店員さんが来ていた。
タイミングが良いな。
ケーキに意識を集中しよう。
そうすれば、俺に気づいたところでケーキに熱中する無害なお兄さんにしか見えないハズだ。
...クリームが甘くておいしいな。
お菓子なんか普段あんまり食べる時間ないからな。
時間が出来ても、ミーシャに修練とか言ってボコボコにされるし。
今回ここまでゆっくり休めているのは顔面の怪我的にも修練に耐えられるか分からないとして任務になるまで安静にしてるように言われたのだ。
ミーシャのことだから聞き入れるか不安だったか、どうやら聞き入れてくれたようだ。
だからこうしてつつがなく休みを満喫しているのだ。
それにしても....朱音ちゃんの様子はどこか鬼気迫る様子だった。
焦燥感を露わにしていたと言っても良い。
白夜君の手を彼の事を顧みずに引っ張っていったな。
はて....そんなイベントあったっけ....?
「あ!あれか。」
確か自分の大好きな兄を戦いから遠ざける為にも、この街から離れようとしていたんだっけ?
それでも色々あって白夜君に説得されて、ちょうど他の魔女にも会うことで白夜君にも出来ることがあるってことを二人が知って、逃げずに立ち向かいことにしたんだっけ?
だとすれば、今は朱音ちゃんは白夜君を避難させているつもりなのか。
それなら、そりゃ必死なはずだ。
「...まっ、なんにせよ関係ないわな。」
全き献身の会が動くわけでもない。
それならば、俺が関わる必要性もないだろう。
...というか、関わりようもないしな。
黙ってケーキでも食べておくか....。
そう思って、ケーキを口に運んだ瞬間。
「すみません、相席よろしいですか?」
少し低音で、それでいて深みがあるようなハスキーな女性の声。
どうやら相席してもいいか尋ねているらしい。
....とはいっても、席って結構空いていたような気が....。
「え~っと、別に良いですけど...他のせ、き.....。」
声の方向へと顔を向ける。
瞬間、言葉を失った。
そこに居たのは一人の高身長の美女。
緑色の髪に、整った容貌はこちらに威圧的な視線を送る。
口元に刻まれた嘘くさい笑み。
そしてパツパツなセーラー服はそれが学生の制服ではなく、コスプレであるということをありありと物語っており、あたかも一種のイメクラのようになっていた。
その姿には覚えがある。
いや、覚えがあるなんてものじゃない。
ありありと、脳に刻み込まれている。
魔女の一人、『緑の魔女』。
サブヒロイン的な立ち位置のキャラ、上喰巴その人だった。
性格はどこか姉御気質で大雑把、コスプレが趣味のノリの良い女性。
しかし、敵対者には容赦なく扱う力は毒。
主な出番は魔女ルートで、選択肢によってはヘタレた主人公の背中を叩いて奮起させる魔女の内の一人だった。
ちなみにセーラー服に袖を通しているが、大体彼女の年齢は20後半くらいだった気がする。
そう考えると、ガチイメクラでキツイなぁ....。
しかし、言葉が出ないのはそれがこの世界におけるサブヒロイン...仮にも主要キャラに遭遇したからではなければ、彼女の痛さにドン引き故に言葉を失ったからでもない。
そんなこと言ったら俺はミーシャというメインヒロインの弟子を成り行き上やらせてもらっているからな。
一番ヤバいのは、彼女が敵対者には容赦ないという設定。
...そして、俺は教会勢力。
つまりは彼女の敵対者ということである。
そんな彼女とこんなところで鉢合わせ。
悪い冗談としか思えない。
なんで、こんなところに彼女は居るんだろう....?
危機的な状況だった。
こんなの避けようないじゃん。
理不尽過ぎて泣きたくなってくる。
「ありがとうございま~す。」
彼女はまるで営業のように声を高くして俺に敬語でお礼を言う。
しかし、敬語というのは彼女に関して言えば危険な合図である。
彼女は表向きを取り繕う時に、敬語を用いるキャラ設定がある。
....つまり、今彼女は敵対者である俺に自分から接触した上に取り繕っているのだ。
えぇ....こわぁ.....。
頬に嫌な汗が浮かび上がってくる。
すると、彼女は椅子の背もたれに背中を預けて口を開く。
「いやぁ~ガキの見守りとかいうかったるい仕事してて、退屈でおっ死んじまいそうだったんですよぉ~。」
「へ、へ~なんだか分からないですけど大変ですねぇ~。」
俺はなんとか笑顔を作りながら、話を合わせる。
もしかすれば、マジで普通に相席しに来たのかもしれない。
....周りの席結構空いているけどな。
これが絶望か.....。
「えぇ。でも良かったです、ここに居れば退屈とは程遠いでしょうから。...だろ?教会住まいの犬っころ。」
さっきとは一変、低く落ち着いた声音のハスキーボイス。
そして、嘘くさい笑みはまるで獰猛な肉食獣が口元に浮かべるような凄惨な物へと豹変した。
それは、あたかも気合の入ったはみ出し者のよう。
笑顔とは本来攻撃的な意味を持つと聞く。
その言葉が本当であると俺は今身をもって痛感した。
その笑みは俺に、今すぐ生まれたことを後悔するほどに嬲り殺しにするからなと言っているかのようだった。
笑いかけられているだけなのに、チビりそうだ。
つーかチビった。
マズイ。
マズイマズイマズイ。
昨日のミーシャを撃ち抜いた時なんかまるで児戯と思えるほどに洒落にならない状況である。
彼女達魔女はあまり命を取ることはしない。
とはいえ、それが白の魔女の安全の是非に密接に関わる場合は話が別だ。
少なくとも楽観的に考えても再起不能は丸いだろう。
そして手元には非常用の装備として聖書のページ...所謂使い捨ての『陪審礼装』はある。
しかしそれ以外は十字架を象った折り畳み式の銀ナイフである。
こんな物で太刀打ちできるほどに目の前の存在は甘くない。
少なくとも俺の実力でも朱音ちゃんや目の前の彼女以外の魔女には食らいつけるかもしれない。
しかし、こと彼女に関しては別だ。
彼女の魔法は毒。
俺の礼装の耐毒ではすぐにダウンしてしまうだろう。
俺のは他の平構成員...『黒礼』と同じなのだから。
その点、ミーシャの礼装は特別なだけあって本編中でも毒の効果を戦闘に問題ないレベルにまで軽減していた。
つまりはこの魔女に関してはミーシャでなければ勝つことは不可能だ。
そして今、先輩は居らず手の中には貧弱な装備のみ。
これは終わりかもわからんね。
つーかそもそも目の前の彼女が二人の安全をずっと見張るのが仕事ならば、俺はもしかすれば彼らが店の近くを横断した際に居たから目を付けられてしまったのかもしれない。
そうだとしたら、救われない。
青信号を横断してる途中で車に轢かれたようなものじゃないか。
理不尽にも程がある。
まぁ、今の状況に悲観的になる前に落ち着いて情報を集めないと。
でないと、助かる者も助からない。
「と、とぼけても無駄でしゅよね?」
無茶苦茶噛んだ。
お、落ち着け!
相手に弱みを見せるな!!
ポーカーフェイスとかの訓練も一応受けてきたはずだろ!?
しかし、身体からは脂汗が浮かび上がって膝は笑ってしまっている。
しょうがないじゃないか、事実上現時点で活動できる中で一番強い魔法使いが退屈しなそう(意味深)と言っているのだから。
いつ魂取られるのか気が気でない。
すると、右足に痛みが走る。
視線を向けると、目の前の彼女のすらりとしながら肉付きの良い足が俺の足を靴でゴリゴリに踏みにじっていた。
折れる折れるって!!
しかし、彼女の行動と変わることのない笑みでどうやら彼女は俺が教会関係者であるということを確信しているということが分かる。
「面白いな、お前。おもろいけど....それはいけねぇよ。そんなことされたらオレ、我慢できずに周りの目憚らずテメェをばらしてしまうかもしれねぇ....。」
威圧的でガラの悪い口調を振るう彼女。
かなり物騒なこと言ってるよ....。
バラすってなんだ....解体ってコト!?
ここまで言われて言い続けるほど、俺に勇気はない。
俺は絞り出すように口にした。
「それじゃ、どうして俺が教会関係者だって分かったんすか?」
「そりゃ、オレは感覚が鋭いからなぁ?教会のきっしょい気配がそこからするんだよ。」
そう言って彼女は俺のポケットの内の一つを指さす。
そのポケットには聖書のページが入っているポケットである。
実際に彼女はなんかピット器官的な超感覚の持ち主だったから不思議ではない。
まさか緊急時用の装備が足を引っ張るなんて....!
「それで?お前はあの白いののガキの動向をテメェも見張っていたのか?虫みたいにシコシコ密偵ご苦労様。」
どうやら彼女は俺が白夜君たちの動向を探っていたからこそ、ここにいたと思っているらしい。
冗談じゃない、今日はただの休日なんだ!!
こんなのただの当たり屋じゃないか!!
「しょ、そのっ....俺、今日は休日で...仕事じゃないので全然そんなつもりないんですよぅ....。ここでお茶していたらそちら側の男の子が横を横切っただけで貴方が声を掛けに来たって言うか....。」
「どちらにせよ、教会という脅威があの子の動向を知っている。ここで帰せば数引き連れてくるかもしれねぇだろ。その理屈は通らねぇんだよボケ。」
グリグリと俺の足を踏みつける。
痛い。
やっぱりダメか.....。
そりゃそう思うのも無理はないよなぁ...。
そんなつもりは本当にないと言っても信じてもらえるわけもないし。
めちゃくちゃ睨まれているし、正直またチビッた。
身体中ガクガクだ。
何気にこの世界で生きて来て一番の危機だった。
こんなカフェでそんなものに直面するなんて、朝の俺が聞いたら信じられなかっただろう。
どうしよう....どうしよう.....、相手聞く耳持ってねぇよ.....。
毒とか死ななくても絶対に苦しいんだろうなぁ....。
本編中でも聖女ルートで呼吸が出来なくなるって言ってるし....。
冷や汗を浮かべながら目の前の彼女にまなざしを返していると、彼女が不意におかしそうに噴き出した。
そして、ゆっくりと席を立つ。
「なんだテメェ、ビビり過ぎ。わりぃわりぃ、驚かせすぎちゃったかな?落ち着けよ....。」
ゆっくり宥めるような口調で俺に言葉を掛けながらも、俺の背後へと回る。
ここで振り返る勇気は俺にはない。
それどころか武器を持って戦う勇気もなかった。
まぁ、勝てないと分かっている以上はその勇気は蛮勇としか呼びようがないが。
彼女の吐息が耳にかかる。
かなり、距離が近い。
「安心しろよ。オレは男大好きだからさぁ....特にお前みたいな年下の男が大好物なんだ。そんなすぐにぶっ殺すような勿体ない真似はしねぇよ....。そうだなぁ...言うたらこれは逆ナンだ...。」
「逆ナン.....?」
この状況に全く似つかわしくない浮ついた単語。
しかし、その単語の通りであるとは思えない。
思考の渦へと囚われる、その瞬間....肩に少し硬い何かが乗った。
息遣いと体温を感じる...そして背後からを抱きしめられた。
これは....顎を載せられている。
まるで恋人のような体勢。
しかし、その実彼女が気まぐれを起こしてベアハッグしようものなら抗うことは出来ず、そして今俺は逃げられない。
さながら蛇に巻き付かれたと言ったところか。
「あぁ。...オネエサンとデートしようやぁ...小便小僧クン?」
....どうやら何度かチビったことがバレているようだ。
彼女の髪が頬に掛かり、ハーブ系の香水でも使っているのかほんのり爽やかな良い匂いがする。
しかし、それが俺には濃密な死の匂いに感じられてならなかった。
蛇に睨まれた蛙のように、強張る身体。
だがこの状況で待たせてしまえば、表向きとはいえ友好的であると示している彼女の態度が変わってしまうかもしれない。
そうなると、ここで終わってしまう。
それは避けたい。
「ひ...ぁ...はい.....是非、おねがいしま...す。」
声を震わせながらも、言葉を口から紡ぎ出す。
首をゆっくりと、だが確かに縦に振った。
「っクク...決まりだなぁ?それじゃ、ここはさっさと出ようぜ。なぁ?『ダーリン』。」
愉快そうに笑うと、嘲るように俺の呼称変えた。
背後に張り付いていた彼女が離れる。
俺はそれを感じると、彼女に言われるがまま会計の紙を持って立ち上がった。
....どうして、毎度毎度こんなことに......。
ミーシャ...助けてくれぇ....!
未だかつてない程に、あの理不尽で性格の悪い師匠に来て欲しいと思った瞬間だった。
主人公は年上のヤバげなお姉さんに引き連れられる運命の星にでも生まれたんですかね?