ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~   作:弱音御前

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季節は秋に入り、涼しいっていうか寒いくらいになってきました。
パソコンのオーバーヒートを気にする頻度も減る、良い時期ですね。
ご無沙汰しております、弱音御前です。

タイトルの通り、学園モノを引っ提げて戻ってまいりました。
自分で作っておいてなんですが、非常にデキの悪いギャルゲーみたいだなと・・・
まぁ、出来が悪いのはいつもの事なので、今回も何かの片手間にお付き合いいただければ幸いです。

それでは、はじめましての方も常連さんも、どうかごゆっくりお楽しみ下さい~


ドールズ・スクールライフ 1話

 

「よし、これで終わり・・・と」

 

 グリフィン本部に報告書を提出し、今日一日の業務を終える。

 就業規則による定時時間30分前。ネゲヴの言葉を借りれば、スペシャリストと呼ぶにふさわしい仕事ぶりである。

 

「はい、一週間お疲れ様でした」

 

「ん、サンキュー」

 

 大きく伸びをして体を解す指揮官の前に、副官であるUMP45が飲み物を持ってきてくれる。相変わらず、惚れ惚れとするくらい気の利く優秀な相棒だ。

 

「今週は落ち着いた日が続いてくれて良かったわね。休日も気分よく過ごせそう」

 

「そうだね。明日はマーケットに買い物に行くのも良いかなって思ってるんだが、予定がなければ45も一緒に行く?」

 

 ここ数週間、休日は各々別に過ごすという状況が続いていたので、さりげなく休日デートに誘ってみる指揮官。

 口に出しては言わないが、流石にちょっと寂しくなってきちゃったのである。

 

「予定が無ければご一緒しても良かったんだけどね~。残念ね~」

 

 でも、45はそれを取り付く島もなく、あっさりと断ってみせる。

 そっか、と平静を装って返すが、内心ではかなりヘコむ指揮官。

 今夜は久しぶりにお酒が捗ってしまいそうである。

 

「っていうか、指揮官も明日は予定アリでしょ? マーケットなんて行ってる暇ないでしょ?」

 

「え? 明日・・・何かあったっけ?」

 

「それ本気で言ってるの? うわぁ・・・マジでないわ。さすがの私もドン引きするレベルなんですけど」

 

 指揮官をからかっているようには見えない、割と本気で引き攣った表情の45を見て、指揮官の背筋が急速に冷え込んでくる。

 まさか、休日に仕事が入っているのに気づいていないわけはない。そういった類の通知は社内メールで送られてくるものだし、メールボックスは定期的にチェックを癖つけている。

 ならば、45との何らかの約束を忘れているというのが有力であり、正直、これはマズイ。仕事を忘れる、よりも百倍以上マズイ由々しき事態である。

 

(なんだなんだなんだ? 俺は何を忘れているんだ? デートの約束は・・・してないよな?

たぶん、絶対にしてないはずだ。じゃあ、記念日とか? 45もああ見えて乙女チックなところあるから、そういうのも気にするのかもしれん。誓約か? 誓約から何日記念日とかいうやつか? 明日で10ヵ月と4日。つまり、309日。・・・スゲェ半端な日数だけど、何かあるのか?

例えば、旧暦において縁起の良い日数。もしくは、神代に由来する何かスピリチュアルな

エンチャントを宿した数字の羅列?)

 

 シナプスが焼き切れんばかりの勢いで、指揮官は思考をレッドゾーン付近までブン回し続ける。

 思い出せなければ、45が激怒するのは請け合い。怒鳴られたり、殴る蹴るの暴行を受けるのならまだマシで、経験上、45はそれでガチ泣きする場合もある。

 ちょっとした行き違いが重なって誤解を招いてしまい、45を泣かせてしまった時の事は、いま思い出しても胃がキリキリと痛くなってくるほどである。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫? 顔が真っ青になってるけど」

 

 頭を抱え、よく分からない言語の言葉を発し始めた指揮官を見て、ちょっとたじろぐ45。

 

「ごめんごめん、おふざけが過ぎたわ。ほら、明日は〝レクリエーション〟の日。思い出した?」

 

「れくりえーしょん・・・・・・あぁぁぁぁ~~~~~、そっか、レクリエーションの日か。

良かった~・・・いや、忘れていたのは良くないけど、いちおう良かったよマジで」

 

 安堵から体の力が抜け、デスクに突っ伏す指揮官。ぷしゅ~、と音をあげそうなくらいに火照ったおでこが、金属製のデスクで冷やされて心地良い。

 レクリエーションというのは、名の通り、指揮官も含めた戦術人形達の交流の場として設けられる催しの事である。

 基地に所属している人形達をグループ分けして、どんなレクリエーションをしたいか意見を出し合ってもらう。そうして、纏めた内容を指揮官に提案し、休日を使って内容を実施することができる。

 この制度を始めてからまだ間もなく、指揮官の思考に定着していなかったというのもド忘れしてしまった原因の一つなのだが、言い訳は見苦しいので心の内に留めておく方向でひとつ。

 

「今回は私がいるグループの番なのに、指揮官ってば本気で忘れてるんだもん」

 

「悪かった。今度は忘れないようにするから、許して」

 

 ぷくー、と可愛らしく頬を膨らませて拗ねる45に謝り倒して、ひとまず矛を収めてもらう。

 

「それで、今回はどんなことをするんだ?」

 

「私も知らない。まとめ役は他の娘に任せてたし、会議に参加したの飛び飛びだったし。そろそろまとめ役の娘から招待状が来るんじゃないかな?」

 

 招待状というのはレクリエーションの内容諸々が書かれたお知らせメールの事だ。パーティーの招待状風だったり、友人への手紙のような気軽なものだったりと、毎回どんな装いなのか見るのが楽しみなものである。

 

「基地の全施設を使ったハイド&シークは楽しかったなぁ。前回のグループが企画した洋菓子作りも美味しかったしいい経験になった」

 

「アナタ、さりげに趣味が子供っぽいっていうか、女の子っぽいところあるわよね」

 

 などと、お茶を嗜みながらまったりしていた空気の中に響くピロン、という軽やかな着信音。

PCへのメール着信を知らせるものである。

 

「きたきた。さて、今回はどんなオモシロ企画かしらね?」

 

 楽しそうにメールを開く45の傍に寄って、指揮官もディスプレイを覗き込む。

 メールの文面は友達を遊びに誘うような装丁のもので、遊び心のある内容に、でも、しっかりとレクリエーションの概要が載せられている。

 

「・・・・・・なるほど。つまり、〝以前にやったアレ〟ってことなんだろうな」

 

 メールに目を通し、レクリエーションの内容を把握した指揮官。その表情はいささか硬めである。

 

「でも、内容は全く違うものみたいだから、新鮮味はあるんじゃないかしらね。私はけっこう楽しそうに思えるけど、指揮官は気がノらない?」

 

「いや、俺も楽しそうだと思う。思うんだけど・・・これ、メールを見た限りだと、俺がかなり

苦労しそうじゃないか?」

 

「そうかしら? むしろ、私達の方が大変よ。バトルロイヤルみたいなもんだから、常に気を抜けないし。指揮官の立ち位置だったら、隅っこの方で眺めてればいいだけじゃん」

 

 45は軽く言うが、それができれば指揮官とて、ここまでマジメに悩んだりはしない。

 今、この現実において気疲れを感じるからこそ、レクリエーションの内容に対して言い知れぬ

危機性を感じてしまうのである。

 

「んじゃあ、私は9達と明日の話し合いしてくるから。また明日、現地でね~」

 

 終業時間ジャストで、そそくさと執務室から去っていく優秀な副官。

 部屋に1人ぽつんと残されると、さっきまでの不安がどんどんと増してきてしまう。

 

「考えても仕方ないか。レクリエーションなんだし、無理な内容のモノは選ばないだろうし。

もう、明日の事は明日考えよう」

 

 自分を慰めるように言って立ち上がる。

 向かうは食堂。美味しい食べ物を食べて気分を切り替えて、それから、久しぶりにお酒でも嗜むのもいいか、とやはり1人ぼっちの寂しさは拭い去れない指揮官であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月2日(水) はれ

 

「すでに知っている者もいるだろうが、今日からお前たちと学ぶ者が1名増える」

 

 担任の言葉を聞いて教室内がざわめき立つのが、廊下でもハッキリと聞こえる。

 もう1分の後には自分があの喧騒の真ん前に立ち、自己紹介をするのかと思うと、楽しみなんだか怖いんだかよく分からない感情に駆られてしまう。

 一旦、窓の外に視線を向けて、静かな呼吸を意識する。

 雲一つない蒼天の下、うっすらと黄色に染まった木々が風にそよそよと揺れている。

 

「おい、新入り。入ってきていいぞ」

 

 かけられた声に一拍遅れ、教室の扉を開ける。

 教室に足を踏み入れれば、そこにいた生徒たちのどよめきも一層大きなものに変わる。

 担任を含めて30人弱。全員が女性のその教室にたった1人だけ男性が入り込めば、まぁ、こういう騒ぎになるのも当然である。

 

「ほら、続けて自己紹介だ」

 

 担任の招きに従い、教壇のセンターに立つ。

 水を打ったかのように、一斉に静まり返る教室。幾つもの視線が向けられる中、けれども、もう先ほどまでのような緊張は無かった。

 いざという状況になれば、案外すんなりと割り切れてしまうものなのである。

 

「はじめまして。指揮官の見習いという事で、みなさんと一緒に過ごさせてもらいます。こういった場で生活するのは初めてで、分からない事も多いので、色々と教えてもらえると嬉しいです。数ヵ月間という短い間ですが、よろしくお願いします」

 

 廊下で何度も繰り返し確認していた挨拶を見事に言い切り、ペコリと頭を下げる。

 途端、教室が割れんばかりの拍手と喝さい、口笛に包まれる。

 歓迎してもらえているようで安心する指揮官だが、さすがにこれだけ盛大な歓迎は、少し恥ずかしさを感じようというものである。

 

「静まれ静まれ。おい、落ち着けお前ら。・・・頭に鉛弾をくらいたいか?」

 

 担任、SVDの言葉で再び教室が静まり返る。

 その鋭い瞳は猛禽を連想させるが、背は小さめで見た目にどこか可愛らしさを感じる先生で

ある。

 

「当人も言った通り、彼はまだ見習いだ。なので、立場はお前達と同等と考えてくれて構わない。気兼ねなく、同期として仲良くしてやれ。・・・とはいえ、もしかしたらお前達の指揮官に

なる可能性もあるからな。そこのところは、まぁ、よく考えて上手くやるといいさ」

 

「いやいや、そういうのはちょっと・・・」

 

「冗談だ。これくらい笑って流せなくてどうする?」

 

 SVDの返しで教室内が笑い声で満たされる。

 とても良い雰囲気のクラスに編入されたことに感謝の気持ちで一杯な指揮官である。

 

「お前の席は・・・UMP45、UMP9、手を上げろ」

 

 は~い! と、元気の良い返事をしながら2人の女の子が手を上げる。

 教壇真正面の列の後ろの方である。

 

「あの2人の傍で空いている席だ」

 

「わかりました」

 

 教壇から離れ、指定された席へと向かう。

 手を上げた2人は指揮官の左隣と後ろの席だ。

 

「初めまして。私はUMP45よ。お隣同士よろしくね、指揮官さん」

 

 隣の娘、UMP45は片側だけ結わいた麻色の長髪が落ち着いた笑顔にとても良く似合う娘。

 

「私はUMP9。分からないことがあったら何でも聞いてね、指揮官さん」

 

 後ろの娘、UMP9は屈託のない笑顔に栗色のツインテール、と見るからに元気いっぱいといった様子。

 性格は全く違う感じだが、初対面の指揮官でも感じるくらい、2人の雰囲気は似通っている。

あと名前も。

 

「よろしく。俺の事は指揮官って呼び捨てていいよ。君達は姉妹・・・なのかな?」

 

「そうよ。UMP姉妹っていえば、この学園じゃあ有名なんだから。ちゃんと覚えておいてね、

しきか~ん」

 

 ウィンク交じりに言う45に苦笑を返す指揮官。

 友好的ながらも、ちゃんと自分の存在感を相手に誇示する。抜け目のない娘だと、今のやり取りで指揮官は簡易的に分析する。

 

「では、このまま授業を始めるぞ。新入り、物理のテキストは持ってきているな? 授業範囲は

隣の奴に教えてもらえ」

 

 涼やかな秋風が吹きすさぶ頃、私立グリフィン女学園に編入してきた指揮官の新しくも騒がしい生活が始まったのである。




タイトルにもあるように、正統派(?)学園モノです、はい。
もう、ドールズフロントラインの世界観まったく関係なくなってますが、キャラだけは立たせているので、それでどうかご容赦を。

話全体を長くしすぎてしまったせいで、内容の薄いパートもあろうと思いますが、どうかいつも
通り生暖かい目で見ていて下さいな。

それでは、次週の更新時にまたお会いしましょう。
以上、弱音御前でした~

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