ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~   作:弱音御前

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師走という事で、いよいよ仕事も差し迫ってきた今日この頃。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

ギャルゲーチックに長々と進んでいく今作、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~


ドールズ・スクールライフ 10話

 10月10日(木) あめ

 

 昨夜遅くから降り始めた雨は、下校時刻になっても止む素振りをみせていない。

 シトシト、と静かにすすり泣くかのようなそれは、秋に降る雨の特徴である。

 昇降口で傘を差し、1人、外に踏み出る指揮官。

 今日もまた、45は担任のSVDから呼び出しをくらって、9と41は例の如く巻き込まれて

しまい、指揮官単独での帰宅になった次第である。

 

「はぁ~。ちょい寒いな」

 

 吐く息は微かに白い。予報では、例年の平均気温を一気に下回り、11月中旬の気温に迫るとの事だ。

 制服の襟元を締め直し、指揮官は足元の水たまりに注意しながら正門へと歩み進んでゆく。

 

「・・・」

 

 正門からまっすぐに伸びる道を進むのが、本来の通学路だ。

 学園の塀に沿って進む、左と右の道は指揮官にとっては未知の領域である。

 あいにくの天候だが、この後、特に予定は無いので、まっすぐ帰ったところで時間を持て余す身である。

 気の赴くまま、帆先を左方向へと向けてみた。

 駅前から離れる方角だからということもあってか、この道は生徒の姿が見るからに少ない。傘を差しながらでも、人にぶつかる心配がないのは気楽である。

 

(なんだ、こっちのコンビニの方が近いじゃないか。45のやつ、わざわざ遠い方を教えて

からに)

 

 学園の塀が折れた先にコンビニを見つけ、心の中で愚痴る指揮官。

 個人経営の小さなパン屋に、やたらと安い値札が付いた怪しい中古車屋など、これまでとは違った光景に囲まれ、自然と目があちらこちらに釣られてしまう。

 周囲の人から見れば田舎者丸出しな様子だが、本当に他所から来た身なので、全く気にしない

指揮官である。

 そうして、ぼ~っと歩いていれば、いつのまにか住宅地の中を4区画ほど進んでいた事に気が

付く。

 これ以上、家から離れてしまわないうちに帰路を修正。次に差し掛かった十字路を右へ折れる。

 しばらく真っすぐに進んで行けば、家を確認できる位置に戻れる予想だ。

 時折、自動車が通過する程度の静かな道路。その端で、傘を差したまま屈みこむ人影を遠目に

視認する。

 

(また体調不良の416・・・ではないよな)

 

 傘の端から見えるスカートは指揮官が通っている学園のものではない。そしてなにより特徴的なのは、その女性は屈んでいても分かるくらいに身長が高いのだ。指揮官と同等か、もしくは上。

そんな女性を学園で見た事はなかった。

 近づくにつれ、穏やかな雨音に混じって女性の声が聞こえてくる。

 

「にゃあ~、にゃあ~。怖がらなくても平気だぞ~。だから、ちょっとだけでもご飯をお食べ~」

 

 女性は道路の端っこに置かれた小さな段ボール箱に向けて話しかけている。

 話の内容から、どういう状況なのかは想像に容易い。

 

「う~ん・・・寒さで体力も落ちてるだろうし、どうしても食べてもらいたいんだけど。どうしよう?」

 

 だいぶ困っている様子の言葉に釣られ、傍から箱の様子を覗き込んでみる。

 そうして・・・

 

「えっ!?」

 

「っ!」

 

 あまりにもな光景を目の当たりにして、つい声が出てしまう。

 指揮官の声を聞き、女性が眼を丸くして振り返る。

 

「何?」

 

 女性は訝し気な表情を隠そうともせずに指揮官に向けている。

 銀糸のように煌めく長髪に、艶やかな白い肌。大人びた美貌は、黒い眼帯を付けているおかげで少々威圧的な印象を受ける。

 

「この私に忍び寄ってくるなんて、良い度胸してるな」

 

「ご、ゴメン。驚かせるつもりはなかったんだ」

 

 声色からも、指揮官を警戒している様子がヒシヒシと伝わってくる。

 これ以上不審がられない為に、努めて慎重に言葉を返す。

 

「ただ、子猫にその餌はちょっとマズいかなって思ってさ」

 

 段ボールの中では、灰色の毛並みの子猫が小さな声で一生懸命に鳴いている。

 子猫の前には小皿が置かれ、中には黒い液体が注がれている。

 その液体が何なのかは、女性が手に持っているボトルを見れば明らか。みんな大好きコカコーラだ。

 

「何がマズい? エネルギー補給効率に優れた飲料だ。もちろん、炭酸を抜いて飲みやすくもしてある」

 

 指揮官に反論しつつ、女性が立ち上がる。

 指揮官よりもやや身長が高いせいで威圧感も数割増し。だが、この間違いは放っておけないので、怖くても退くわけにはいかないのである。

 

「補給効率も炭酸抜きっていうのも良いとは思うんだけど、そもそも、猫はコーラなんて飲めないからさ」

 

「猫は雑食性だろう? 何でも食べるって聞いている」

 

「確かに雑食性ではあるけど。さすがに限界ってものが・・・」

 

 小雨が舞う夕暮れ時。まさか、こんな道端で見知らぬ女性と論争をおっぱじめる事になろう

とは、誰が予想できただろうか。

 論詰めで真っ向から向かってくる女性は中々に頑固で、指揮官の言葉を聞いてくれない。

 さすがに困ってきた指揮官は次の手に打って出る。

 論より物的証拠だ。

 

「分かった。それじゃあ、俺が持ってくるのを子猫が食べてくれたら、俺の話を信じてくれる?」

 

「ああ、もちろんだ。やれるものならやってみろ」

 

 強情ではあるものの、物分かりが悪いわけではない様子。結果さえ出してあげれば、ちゃんと

理解してくれそうな女性だ。

 

「約束だよ。すぐに戻ってくるから、ここで待っててね」

 

 言って、指揮官は今しがた歩いてきた道を引き返す。

 向かうは、さっき見かけたコンビニ。そこならば、子猫でも食べてくれそうな物が何かしら置いてあるだろう。

 早足にコンビニへ向かい、手ごろな食べ物を買うやいなや、まっすぐに引き返す。

 また、ムチャな事をしてやいないかと、心配で仕方ない指揮官は自然と歩みも早くなっている。

 時間にしておよそ10分。指揮官が戻ってくると、女性は再び段ボール箱の前で屈みこんでいた。

 

「・・・ああ、命を預かる事の重要性は十分に理解している。途中で投げ出したりなどしない。

誇りにかけて約束するよ」

 

 女性は電話をしているようだ。

 話の様子からすると、子猫を連れて帰ってもいいか? といった内容だろう。

 

「・・・感謝する。それではまた」

 

 電話を終えると、女性は指揮官へ目を向ける。

 さっきよりは鋭さを潜めているが、それでも、プロの料理人が好んで扱う包丁くらいの切れ味は感じる。

 

「で? お前の持ってきたお食事とは?」

 

 指揮官がポケットから取り出したのは、小さな紙パック。

 白を基調としたそれを目の当たりにして、女性は鼻で笑っている。

 これで子猫を引き取ろうと考えているというのだから、指揮官も心配せずにはいられない。

 箱の中の皿を取り出し、中身を捨てる。さらに残った分も雨水で綺麗に洗い流し、紙パックの

中身、牛乳を注ぐ。

 その様子を、背後からジッと眺めている女性は無言のまま。

 でも、雨に濡れないよう、指揮官の上に傘を差してくれる気遣いは忘れていない。

 牛乳を入れたお皿を子猫の前に静かに置いてあげる。

 にゃぁにゃぁ、と雨に消え入りそうな小さな声で鳴いていた子猫だったが、牛乳の匂いに気が付いたのか、お皿に鼻を近づける。

 しばらく、お皿の匂いを嗅いでから子猫がペロペロと牛乳を飲み始めた。

 かなりお腹が空いていたのだろう、もう、指揮官達には目もくれず一心不乱である。

 

「私が間違っていた。すまなかった」

 

 子猫の飲みっぷりに見入っていると、背後から声が。

 振り向いてみれば、声色こそ変わらないものの、明らかにしょげた表情の女性の姿があった。

 多少なりとも困らされた相手だったので、ドヤ顔してやってもいいかと思っていた指揮官だったが、その表情を見たらそんなイタズラ心は引っ込んでしまった。

 

「いや、分かってもらえてよかった。たぶん、この子を引き取るんだよね?」

 

 しょぼんとしながら、女性が頷く。なんだか、身長も低くなってしまったような錯覚を抱いてしまうくらいの委縮っぷりだ。

 

「ネットなんかで調べれば、飼い方は調べられると思うから。それじゃあ、俺は失礼するね。新しいご主人様に可愛がってもらえよ~」

 

 子猫の額を指先で撫で、立ち上がる。

 自分の傘を差し直し、歩道を進んで行くと・・・

 

「ちょっとまって」

 

 背後から、再び女性の声が飛んでくる。

 

「?」

 

 もしかして、まだ納得いかないことがあったのだろうか? という考えは指揮官の取り越し苦労だった。

 

「あの・・・もし、よかったら、この子の育て方を教えてくれないだろうか?」

 

 子猫を胸にぎゅっと抱いて、女性は指揮官に言葉を投げかける。

 かなり大きなお胸に埋もれ、子猫が苦しそうな表情に見えてしまうのは、恐らく指揮官が健全な男の子だからだろう。

 

「へ? だから、ネットで検索すれば簡単に調べられるよ?」

 

「私、インターネットとか苦手で。相応の携帯端末も持っていなくて。周りの奴らも、こういうのは空っきしなんだ。それで、できれば・・・あなたに教えてもらいたい」

 

 言われてみれば、女性がさっき電話をしていた時に使っていた端末は、電話だけができる代物だった。今時の学生でスマホを持っていないというのはなんとも珍しい。

 

「・・・分かった。基本的な事だけなら、俺のスマホを使って一緒に調べてみようか」

 

「あ、ありがとう。よろしく頼む!」

 

 笑顔を浮かべつつ、キッチリとしたお辞儀を返す女性。

 話をしていて分かった事だが、かなり律儀な女性のようだ。

 黒いセーラー服、という制服もどことなく清楚な雰囲気を醸し出しているので、良い所の学生

さんなのだろうと指揮官はアタリをつけてみる。

 

「雨の中で立ち話というのも申し訳ない。あそこの喫茶店に入ろうかと思うのだが」

 

「うん。それじゃあ行こうか」

 

 歩道の反対側、少し戻った位置にあるチェーン店のカフェに向けて2人並んで歩き出す。

 

「っていうか、猫は連れて入れないんじゃあ?」

 

「そ、そうだったな。・・・しばし、この中に隠れていてくれ」

 

 女性はそう言って、タオルでくるんだ子猫を、自分の学生カバンの中へそっと降ろす。

 指揮官が気にするようなことではないが、結構、ムチャな事を考える女性である。

 思いのほか、子猫がカバンの中で大人しくしてくれていたので、飼育に関する勉強会はスムーズに進んだ。

 中には、指揮官にとっても勉強になるような内容もあったり、なによりも・・・

 

「ああ、私も寝転がっている上に猫に乗ってもらいたい。それで、顔をチロチロと舐めてもらうのが目標なんだ」

 

「それ、俺もいいな~って思ってたんだ。あいにく、猫を飼ったことないから憧れなんだけどさ」

 

「まさに、猫好きだけに分かる夢の瞬間だな」

 

 女性と意気投合して、話が盛り上がったのは意外な事だった。

 とても大人っぽい見た目の女性だが、猫の話で目を輝かせながら話すその姿は、まるで子供のよう。

 指揮官からも自然と話が進んで、カフェでの穏やかな時間が過ぎてゆく。

 ふと、我に返ったのは、2人でスマホを覗き込んでいた最中。メールの着信表示が現れた時

だった。

 

「ちょっとゴメン」

 

 メールの送り主は45。

 

『先に帰ってなかった? どこにいるの?』

 

 内容から察するに、先に帰った筈の指揮官が家にいなかったから確認してみた、というところか。

 ようやく時計に目を向けてみれば、カフェに入ってからいつの間にか2時間が経過するところだった。

 窓の外はもう真っ暗である。

 

「すまない。私としたことが、時間を忘れてしまっていた」

 

「いいんだよ。俺もつい熱中しちゃってたのが悪いんだし」

 

 すぐに帰る旨を45に返信。荷物を手に、2人して席を立つ。

 お代を仲良く半分ずつ支払って外に出ると、すでに雨は止んでくれていた。

 

「今日はありがとう。この子、大事に育てるから」

 

 女性が胸の前で抱えているカバンから、子猫が顔を覗かせる。

 

「帰り道は気を付けてね。暗いし、濡れてて滑るから」

 

「ああ、そっちも気を付けて帰ってくれ」

 

 最後に挨拶を交わし、女性と別れる。

 早足に歩く指揮官の後方で、女性の足音が離れていく。

 きっと、女性の家は指揮官が帰る方とは反対の方向なのだろう。

 

「・・・・・・あ」

 

 そう考えたところで足を止める。

 振り返った時には、もう女性の姿は遠く、交差点を曲がった先に消えるところだった。

 

「俺、あの人の名前も何も聞かずじまいだったな・・・」

 

 別に、ナンパとかそういうつもりではないのだが、あれだけ話が盛り上がった間柄なのだ。せめて、名前とか通ってる学校くらいは聞いておくのが筋というもの。

 加え、指揮官も自身の名前も何も彼女に教えていなかった。

 2人とも、それだけ猫話に夢中になってしまっていたのだ。

 

「まぁ、いっか。問題になるようなことにはなるまい」

 

 基本的な飼育方はちゃんと調べたし、彼女はそれを逐一、真剣にメモしていた。子猫の今後に

関しても心配はしていない。

 間違いなく、幸せな猫生をおくれることだろう。

 後塵の憂いも消えたところで、指揮官は温かい夕食が待つ家へと歩み進んで行くのだった。




鉄血を仲間にできるようになった記念、というわけでもないのですが、鉄血エリートの登場です。
このイベントが後に大きな展開をもたらすことになる・・・?

相変わらず、来週も定期更新の予定ですのでよろしければ足を運んでやって下さいな。
以上、弱音御前でした~

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