ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
指揮官と人形達の学園生活な本作ですが・・・もう、前書きのネタも無くなってきてしまったので、とにかく今週もごゆっくりとどうぞ~
10月11日(金) はれ
「俺が持ってる銃はこんな感じです」
ホルスターから取り出した拳銃を机の上に置く。
「へぇ~、カスタムのガバメントなんだね。触ってみてもいいかな?」
「どうぞどうぞ。スパスさんに愛銃を見てもらえるなんて、こんな光栄な事ないですから」
スパスが指揮官のガバメントを手に持つ。銃を労わっているのが傍目にも分かる、優しい持ち方である。
「シルバーフレームにマッドブラックのスライド。わざわざ銃身を切り詰めて、ツインポートの
コンペンセイターを取り付けてるんだね。この仕様ってもしかして、有名な海外ドラマがモデルかな?」
「流石です。あの海外ドラマが好きで、このモデルを持つのがずっと夢だったんですよ」
授業中だというのに、一度脱線してしまったガンマニア2人の話はスピードを落とすどころか、ますます加速して突き進んでいく。
「これ、自分でカスタムしたのかな?」
「いえ、そんな設備も技量も無いので、厚意にしてるショップでオーダーしました」
「なるほどね。・・・ちょっと気になるところがあるんだけど」
「遠慮せずなんでも言って下さい!」
一語一句を逃すまいと、速攻でポケットからメモ帳とペンを取り出す指揮官。
スパスはやんわりと微笑んでいるが、果たして、そんな指揮官をどんな風に思っているのかは
本人のみぞ知るところである。
「コンプとスライドの接続にガタが出てるね。多分、あまり発砲してないと思うんだけど、それでこれだけガタついてるとなると、強度が心配だね。あと、スライドとフレームの勘合もちょっと甘い。もしかすると、ジャム率が高いんじゃないかな?」
スパスの診断を聞き、指揮官はメモすることも忘れて嘆息を漏らしている。
もう、本当にスパスを崇め奉らんばかりの表情である。
「おっしゃる通りです。そこのところは覚悟のうえでカスタムをお願いしたんです。メンテナンスで誤魔化しながら使ってたんですけど、やっぱり少しづつボロが出てきちゃって」
「拳銃はいざという時に自分を守ってくれるものだから、常に最大限の信頼性を維持しておかないとダメだよ。カスタムっていう趣向も良いけれど、まずは自分の命を第一に置かないと」
「はい・・・すいませんでした」
敬愛するスパスからお叱りを頂き、目に見えてヘコむ指揮官。ようやく先生と生徒らしい構図になってきた次第である。
「ふふ、じゃあ、そんな素直な指揮官さんには特別サービス。実は、私もこのモデルが好きで、
コンバートキットを密かに試作してたの。それを指揮官さんにあげるね。試作っていっても、ちゃんと実用に耐えられるくらいの代物だから、安心して使ってくれていいよ」
「え!? だって、スパスさんのサークルで売り出す予定の試作品なんでしょう? そんなレアな物を頂くなんて、申し訳ないですよ」
「いいのいいの。本当はドラマと全く同じ.38スペシャル弾にコンバート出来たら売り出そうかなって思ってたんだけど、断念しちゃったから、もうお蔵入りなんだ。私の家で眠らせておくよりも、指揮官さんに使ってもらえた方が嬉しいよ」
「おぉ~、そこまでのこだわりをもって設計していたなんて・・・スパスさん、流石っス! ありがたく使わせてもらいます!」
いうなれば、神にも等しい存在であるスパスからの贈り物に、完全にのぼせ上っている指揮官。
なので、周りの状況になど全く気が付いてやしないのである。
「ところで、指揮官さんはみんなの後を追わなくていいの?」
「へ? みんなの後?」
そうスパスに指摘されて、ようやく教室中に視線を移す。
今は授業中だというのに、教室にはいつのまにか指揮官以外の生徒はいなくなっていた。
ほんの数分前、指揮官が授業を完全脱線させる前までは、間違いなく全員着席していたはずである。
「あ、あれ? みんなどこに行ったの??」
「外のグラウンドまで降りて行っちゃったみたいだね」
どうやら、スパスはその様子をちゃんと把握していた様子だ。
「グラウンドって、なんで?」
生徒全員が出ていったのを知っていて、何も言わなかったスパス先生に疑問を感じつつ、指揮官は窓際へと歩み寄る。
窓から外を見下ろすと、グラウンドに描かれた400メートルトラックの中央に集まる生徒の姿が。
数十人ほどが集まるその中で、グリフィン学園の制服が半数。もう半数は、外部の学園のものである。
「あの制服は・・・?」
「聖鉄血学院、通称テツガクの子たちだね。また殴り込みに来ちゃったみたい」
殴り込み、という物騒なセリフをほわほわとした感じで言うスパス。
「分かっていて行かせたんですか? へ、平気なんです?」
「そんなに心配しなくても平気だよ。殴り込みっていっても、両校の交流会みたいなものだから。ちょうどいい戦闘訓練にもなるし。みんな、ケガをしない程度にわきまえてるからね」
「はぁ~、そういうもんなんですね」
この学園の教師がそう言うのだから、そういう事なのだろう。
郷に入りては郷に従えの精神である。
「指揮官さんも行ってきていいよ。これも授業の一環って事にしておくから」
「そうですね。では、お言葉に甘えて」
彼女達と学園生活を共にする、というのが、指揮官がグリフィン女学園に編入した目的である。
早足に教室を出て、グラウンドへと向かう。
両校、かなりヒートアップしているようで、昇降口から出るところでもう言い合う声が聞こえてくる。
「みなさん、落ち着いて下さい~! たまには穏便に収めましょう! ね?」
両校の仲裁に入っている声はガーランドか。声を精一杯に張り上げているが、それでも、周囲の罵詈雑言でほとんど埋もれてしまっている。
「あらあら~? グリジョの生徒さんもやけにしおらしくなったものね。いいわよ~おでこ地面にこすりつけて懇願するなら、手を出さないで引き下がってあげる」
清楚な雰囲気の黒セーラー服を着た鉄血側の女生徒が、ケタケタと笑いながら言い放つ。
小柄な体躯に片側だけを結わいた、俗に言うサイドテールの黒髪。見た目には可愛らしい少女だが、その口汚さからなんとなく性格が見えてくる。
「は? 頭を下げるのはそっちの方でしょ? ってか、その頭を切り落として地面に落っことしてやるから、拒否権なんてないんだけどね」
片や、グリジョ側の戦闘に立つのはネゲヴ。偉そうに腕を組んで威風堂々と、いつものネゲヴ節炸裂である。
ヤル気満々でつっかかったネゲヴを見て、もう無理だとガーランドが諦めたのが確認できる。
「言うじゃない。学園ごとアンタ達を粉微塵にしてやったっていいのよん?」
鉄血生徒がパチンと指を慣らすと、どこからか機械の駆動音が響てきた。
不思議に思って視線を彷徨わせてみれば、敷地外のはるか遠く。立ち並ぶ建物の先に、頭一つ抜きんでた黒い建造物が稼働しているのが眼に入った。
「あれは、確か・・・ジュピター砲?」
長距離戦術級兵器であるジュピター砲ならば、彼女の言う通り、この学園を更地にしてもおつりが出るくらいの損害を与えられるだろう。
ちょっと、スパス先生が言っていた内容とは違った様相を呈しているようだ。
「アーキテクト、私たちまで丸ごと吹き飛ばすつもりか? ジュピターの運用はちゃんと考えて。そのように先生から教わっただろう」
「ぅ・・・分かってるわよ! ちょっと脅しただけだっての! だから、そんな怖い顔しないでよ、ハンター」
ジュピターを操っている女生徒、アーキテクトの背後からそう咎めたのは、スラリとした長身に銀色のショートヘアーが特徴の女生徒だ。
どの子も、グリフィンの生徒と比べて肌が陶磁器のように白いというのが、鉄血の特徴であるらしい。
「それに、一息に吹き飛ばしてしまったら面白みもないだろう? グリジョのガキ共が泣き喚く様をじっくりと見物するのが乙というものだ」
「前回、そのガキ共にやられて泣きベソかいてたのはどこの誰だったかしらね? デストロイヤー、とかいうチビっ子だったかしら? 確か、そちらの生徒さんでしょう?」
ハンターと呼ばれた娘がそう言って煽ると、今度はネゲヴの後ろから45登場。
普段はいがみ合う事の多い2人だが、こうして並び立てば、天下無敵! といった風体である。
「小物をイジメたくらいで調子に乗るか。流石は名門グリフィン女学園の生徒さん、ちゃんと分をわきまえていらっしゃる」
前線でのやり取りが双方の陣営に伝播し、全体が一触即発の空気に包まれていく。
「ちょっとゴメンね。通してもらって良いかな」
ヒリついている生徒たちの中をかき分け、指揮官が中心部へと進んで行く。
「は? なんでグリジョに人間の男がいるのよ!?」
そんな指揮官にまず気付いたのはアーキテクト。明らかに異質な存在である指揮官を見て、ちょっと動揺している様子だ。
「ああ、うちに研修に来てる指揮官だから気にしないで。それとも、人間が見てると恥ずかしくていつも通りに振る舞えないのかしら? お子ちゃまでちゅねぇ~」
「べ、別に、そんなんじゃないし!」
言って、ぷいとそっぽを向いてしまうアーキテクト。
向いた先にいたハンターとひそひそ声で何か話をしているが、さすがにそこまでは聞き取ることはできない。
「何しに来たのよ、指揮官。止めようたって無駄よ。スペシャリストの辞書に後退という言葉はないんだから」
「いやいや、止めるつもりはないよ。あまりにもヒートアップしてきたら話は別だけどね」
「よく分かってるじゃない。・・・さっきからあちこちを見回してるみたいだけど、何か探してるの?」
「ん~・・・ちょっとね」
テツガクの制服は、つい昨日の猫の女性が来ていたのと同じものである。それならば、もしかしたらこの場にいるのでは? ということで、指揮官は生徒達をかき分けてここまでやってきたのだ。
(とりあえずは見当たらない・・・かな?)
また会えなかった事は少し残念だが、逆に、この場に彼女が来ていなかったことで安心を覚える。
子猫を拾ってあげるような心優しい彼女に、殴り込みなんていう物騒な事に馳せ参じてほしくはなかった。
「まったく、このまま日が沈むまでお見合いでもしているつもりか、お前たちは?」
そんな最中、テツガク陣営の後方から声が飛んでくる。
「ちっ、アイツが来てたか。厄介ね」
「ふん、ちょうど良いわ。この前の借りを利子付けて返してやる」
堂々としたその声色を聞いて、思うところがあるのだろう45とネゲヴの表情がやや強張る。
そして、そのあまりにも身に覚えのある声に、指揮官の表情はやや引き攣る。
「何言ってんのよ。獲物を残しておかないと拗ねるから、アンタの到着を待っててあげたんじゃないの、アルケミスト」
アルケミストと呼ばれたテツガク生徒が姿を現す。
それは紛れもなく、先日、子猫を喜んで引き取っていた女性であり。
「ありがたい事だな。では、さっそく楽しませてもら・・・・・・」
ここで、指揮官とアルケミストの目が合ってしまう。
言葉を途中で止め、固まってしまったアルケミストに対して、苦笑を返す指揮官。
「? どうしたのさ、アルケミスト?」
「指揮官? なんでアイツ見たまま固まってるの?」
両陣営、2人の様子が明らかにおかしい事を察してしまっている。
昨日の事を言うか? いや、指揮官はなんとなく感じ取っている。殴り込みに来るようなテツガク生徒と密かに合っていたと分かれば、きっと、クラスメイトから怒涛のような質問攻めにあう事だろう。特に、45からの聴取は絶対にメンドクサイと断言できる。それだけはちょっと避けたい。
無理のない嘘でこの場を上手く切り抜ける。
指揮官にとって必須ともいえるスキル、〝アドリブ〟の見せどころだ。
「えっと・・・キミがテツガク側のリーダーなのかな? 今回はできれば穏便に済ませたいと思っていてね。向こうでちょっと交渉したいのだが、どうかな?」
「ちょっとちょっと、指揮官!? さっき、手出しはしないとかいってなかった?」
そう抗議してくるネゲヴはとりあえず無視だ。
「そ・・・そうだな。まぁ、たまにはそういうのもいいだろう。話に応じてやる」
「アルケミスト!? なんで今日に限ってそんな事を言うのさ? アンタ、昨日はすっごい良い事あったからって、今朝からやけにヤル気が」
「うるさいだまれスクラップにするぞ?」
殺気の込められたアルケミストの返しに、アーキテクトが言葉を引っ込める。
ひとまず、アルケミストは指揮官の考え同意してくれているようだ。
45とネゲヴをやり過ごし、アルケミストと共に一団から離れる。
数十人分の視線は感じるも、声までは聞こえないだろう距離まで歩いたところで、改めて彼女に向き直る。
「まさか、アナタがここにいるとは。なんだってグリジョなんかに?」
「指揮官としての研修の一環で、期間限定でここに編入してるんだ」
「なるほどな。道理で見かけない制服なわけだ」
指揮官の制服は士官学校で着ていたものである。グリフィン女学園とはデザインが全く違うものなので、予想できないのも無理はない。
「昨日は自己紹介もできなくてゴメン。改めて、グリフィンの指揮官だ」
「私はアルケミスト。聖鉄血学院の生徒よ」
お互いの為に、周りに気付かれないようひっそりと挨拶を交わす。
「猫は元気にしてる?」
「ああ、昨日、あんな寒い中で震えてたのがウソみたいにな。抱いたまま寝たら、今朝、手首を引っかかれて目を覚ましたよ」
「それはまた災難だったね」
「なぁに、引っかき傷は猫好きにとって勲章みたいなものさ」
このような場に来ていても、やはり彼女は昨日と変わらない。とっても猫好きなお姉さんである。
「さて・・・本当はグリジョの奴らにヤキを入れてやろうと思って息巻いていたんだが、すっかり興冷めしてしまったな」
「うん、そう言ってもらえると助かるよ」
指揮官はグリフィンの戦術指揮を執る身である。しかし、だからといって戦闘の全てを容認する性格ではない。月並みに言えば、彼女たちが仲良く笑顔で居てくれるのが一番だと考えている。
それは、決して戦闘の中で見られるものではない。
「でも、キミは向こうのリーダー格なんだろう? メンツとかもあるんじゃあ?」
「私たちの学院は〝力〟がモノを言う。私に喰ってかかるくらい根性のある奴は、あの中には居やしないさ」
「はは、やっぱりキミは優しいね。ありがとう」
サラリと口から出てきた指揮官の言葉。
それを受けて、アルケミストが視線を外す。
微かに頬が赤くなっているのは、指揮官の位置からは見る事ができない。
「と、とはいえ、これは私が若干のリスクを抱えるわけだ。つまり、私からアナタへの〝貸し〟だな?」
「そう・・・だね。あまり無茶でない事なら、すぐに返すけど」
まさか、そう返してくるとは思っていなかったが、アルケミストの言う事は正論である。
何を言われるかと、ちょっとビビりながらも肯定の意を返す。
「では・・・・・・ま、また、私と会って・・・いやいや! ルカに会いに来い!曲がりなりにも、アナタも世話をした身だからな。きっとルカも喜ぶだろうから」
ルカ、というのはきっと昨日の子猫の名前だろう。
それは指揮官としても願っても無いこと。心底安心して、自然と笑みが零れる。
「もちろん、お安い御用だよ」
言って、指揮官はポケットからメモ紙を取り出す。
サラサラ、と文字記号の羅列を書いたそれを、アルケミストへ手渡した。
「俺のアドレス。猫の事で何か聞きたいことがあったら気軽に連絡して」
「この私をナンパか? 随分と怖いもの知らずの人間もいたものだな」
「ナンパって、またそんな言い方を」
冗談めかして笑い合い、踵を返す。
キッチリと話は付けたぞ、と言わんばかりの様子を装って両陣営へと戻る。
「全員、撤収だ」
「えぇ!? このまま何もしないで? マジで言ってんの?」
「どうしたんだ、アルケミスト。お前らしくないぞ」
「人間の戯言を聞いて興冷めした。異論があるのなら、相手になるが。どうだ?」
やはり、アルケミストの実力は抜きんでているようで、それ以上に反論が出る事はなく、鉄血
陣営は速やかに正門へと進んでいく。
「本当にテツガクの連中を言いくるめちゃったよ。どんな魔法を使ったの?」
「ん~・・・まぁ、話だけで収めるのも難しいからさ、交渉材料をちょっとね」
「なるほど。さっき、アイツに何かメモを書いて渡してたものね。口座番号でも教えてあげたのかしら?」
「それは内緒ってことで」
どうやら、テツガクとの抗争を話し合いだけで収めるというのは珍しい事だったらしく、結局、クラスメイト達から怒涛の質問攻めにあう事に。
放課後になり、ようやく解放された指揮官のもとに届く一通のメール。
未登録アドレスから送られたそのメールが、疲れ切った指揮官の心にちょっとした安らぎになってくれた。
今回が2021年最後の投稿となりました。
新規投稿から週刊連載、という目標を掲げ今年の頭からやってきた当方。
今までちゃんと続けてこられたのは、泣きそうになりながらも〆切に間に合わせた当方の底力と、なにより、皆さんが閲覧に来てくれた嬉しさが大きな要因かなと思っています。
来年も相変わらずギリギリ崖っぷち状態で週刊連載していこうと思っていますので、また気が向いたら足を運んでやってくださいな。
それでは皆様、良いお年を。
以上、弱音御前でした~