ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
ドールズスクールライフ、ようやく終わりが見えてきました。
あと少しだけお付き合いいただければ嬉しく思います。
それでは、今週もごゆっくりどうぞ~
・・・2週間後 (指揮官の見立てによる)
ビジネスホテルの一室のようなその部屋には、時計が存在しない。この部屋で目を覚ましてから、体感時間で2週間が経過していた。
食事は朝昼夜の三食、決まったようなタイミングで受け取り口に置かれる。真新しいユニット
バスとベッド付き、とそれなりに不自由のない日々を過ごしていた。
とはいえ、指揮官を拉致軟禁した謎の部隊の思惑は全く分からないので、不安の尽きない時間だったのは言うまでもない。
もともと窓だった場所はコンクリートで埋められ、ドアは電子式ロックでビクともしない。脱出するための手は、目が覚めてから数時間で全て試し尽してしまったので、あとは、相手側のミスに期待するのみである。
ミスといっても、相手は指揮官に何かをするわけでもなく、部屋にほったらかしのままでなんの接触もしてこない。そこがまた不気味で、指揮官の不安を一層に煽ってくる要因にもなっている。
そんな指揮官になんの前触れもなくチャンスが訪れる。
「? 今の音は・・・?」
甲高い電子音が聞こえ、ベッドに寝転がっていた指揮官が身体を起こす。
音の出所は、入り口の方向である。ドアのロックが解除されたのか、と指揮官に緊張が走る。
立ち上がり、身構えながら様子を見るも動きは全く見えない。
そうして数分間、何も起こらない事にしびれを切らせた指揮官が動き出す。
ゆっくりとドアに歩み寄り、手をかける。どれだけ試してもビクともしなかったドアが、少し力を入れただけで開いてくれた。
「ほんと、何が目的なんだろう?」
ドアの向こうを覗き込んでみる。
左右にまっすぐ伸びる廊下には人影は見当たらず、静かなものである。
およそ2週間、ずっと閉じ込めていた割にはあまりにも簡単に外へ出られた。もしかしたら、これも指揮官を拉致した集団の思惑通りなのかもしれない。
「罠・・・といっても、進むしかないよな」
リスクはあれど、このまま部屋の中で手をこまねいていても仕方がない。
意を決して、指揮官は廊下を慎重に進んでいく。
廊下の途中、エレベーターフロアに差し掛かる。プレートには5Fの表記。今、指揮官がいるのは建物の5階であるらしい。
エレベーターは稼働しているようだが、万が一の際に逃げ場がなくなってしまうのはマズイ。そんな考えから、指揮官は廊下の端、非常階段へと向かう。
薄暗いシャフト内を、先を確認しながらゆっくりと降りていく。
5階、4階、と特に問題なく下り、1階に到着。扉を開け、フロアの様子を確認して・・・思わず絶句してしまう。
指揮官がいた上階は何ともなかったのに、1階は大規模な戦闘でも行われたような有様である。
壁は無数の弾痕でハチの巣が出来上がり、ドアは榴弾でも使用したのだろう、粉々に吹き飛ばされている。
白く、清潔感のあった壁は大量の血飛沫で彩られていることからも、どれだけ凄惨な有様だったかが読み取れる。
(俺が閉じ込められている間に何があったんだ?)
足元に転がっていた、真鍮製の手すりを拾い上げる。短めで振るいやすい、無いよりはマシな
武器というやつだ。
より一層慎重に、五感を澄ませながら廊下を進んでいく。
もう、戦闘が行われてからだいぶ時間が経っていたのだろう、辺りは耳が痛くなりそうなほどの静寂が漂っている。
上階の倍以上の時間をかけて進み、廊下を抜けた先は、この建物のエントランス。装丁を見る限り、この建物はどこかのビジネスホテルだったようである。
ただ、この有様ではもうホテルとしての営業など不可能だろうが。
(あれは・・・人?)
ロビーを通り過ぎ際、カウンターの反対側に人影が見えた。
「そこの人、聞きたいことがあるんだけど」
カウンターを背に座り込んでいるその人影は指揮官の問いかけに応じることが無く全く動くような素振りもない。
少し早足に、その人物のもとへと近づいていく。
黒いロングコートにガスマスク。指揮官を拉致した部隊と同じ装いの人物は、ライフルを手にしたまま、こと切れていた。
死因は腹部からの出血によるものか。防護性能の高そうなコートの上から、腹部をバッサリと切られている。
「すごい傷だな。どれだけ大きな刃物で切られたんだ?」
ただでさえ不可解な状況だというのに、謎の部隊の死体が状況を一層複雑に仕立てあげている。
しかし、情報を得られるモノがここには何もない。ひとまず、目指すはここからの脱出。45達のもとへと帰ることだ。
黒コートの人物から拳銃と弾薬を拝借し、エントランスから外へと出る。
(外は・・・戦闘の形跡はないのか。まだ明るい時間なのに人がいないのは、そういう場所だからか?)
どこかの繁華街だろうか、見たことはない場所である。携帯端末があればマップで
居場所を調べられるのだが・・・現代生活に馴染んでしまっている指揮官には困った状況である。
どうしたものか、と周囲を見回すと、ホテル前の路肩に件の武装集団が使っていた車両が停まっているのが目に付いた。
「鍵が開いているなんていうラッキーは・・・あるんだなこれが」
ドアを開け、スタートスイッチを押すとすんなりエンジンが掛かってくれた。
センターパネルのナビゲーションを起動して現在地を確認すると、どうやら、指揮官がいた町から2都市ほど離れた場所にいるという事が分かる。
「端末があれば45に電話をしたいんだけど、流石に転がってないか」
車内を一通り探り、必要になりそうなものをピックアップ。
そうして、目的地を45の家があるエリアに設定し、ハンドルを握る。
(たぶん怒られるんだろうな。俺のせいじゃないんだけどさ・・・)
心の中で一人ごちて、指揮官は車を発進させる。
目的地まで数十キロに及ぶ道のりは、それこそあっという間のことだった。海外製高級車の噂に違わぬ乗り心地とスピード&パワーのおかげ、というのもあるが、一番の理由は、他の車両が一台も走っていないから。
町に戻ってくるまでの道中、車両と出くわさなかったどころか、人の姿すらも見かけなかったのだ。
脱出に成功したという喜びは、この不気味さによってすっかりと塗りつぶされてしまっていた。
それでもきっと45達だけは、という淡い期待で不安を押し込み、指揮官は車を急ぎ走らせる。
見慣れた住宅街を抜け、懐かしの我が家に到着。ドアを蹴とばすような勢いで開けると、玄関へ向けてまっしぐら。
「45~、9~、いるか~!」
家の中に指揮官の声が溶け込んでいく。いつもなら、スプリングフィールドが優雅に午後の
ロードショーでも楽しんでいるだろう時間だが、1階には人がいる気配すらもない。
「41~、スプリングフィールドさん~、いますか~!」
2階に上がり、姉妹の部屋だというのもお構いなしに覗いて回る。
結局、誰も見つけることができず肩を落としながら車へと戻る指揮官。
(それなら学校か。この時間なら必ず誰かいるはず)
一縷の望みを胸に、学校に向けて車を走らせる。
人の足で15分ほどの道のりだ。人通りの無い中を車で走れば数分の道のりである。
正門に車を止め、車を降りる。
外から校舎の様子を見て、指揮官は自然と銃のグリップに手をかけていた。
「なんで学校だけこんなになってるんだ?」
思い出すのは指揮官が軟禁されていたホテルの1階。いずれの窓ガラスも割れ、壁は、無数の銃弾が撃ち込まれた痕と乾いて赤黒く変色した血痕に塗れている。
校舎へと続く石畳の上には、黒コートの武装員が幾人も倒れている。
これも不思議な光景で、彼等が争ったであろう相手というのが欠片すらも見当たらないのだ。これだけの装備をしている集団との戦闘だ。無傷で済む筈はなく、犠牲が出て当然である。
明らかに異様な世界の中を、それでも指揮官は進んでいくしかない。
拝借した銃を構えつつ、校舎に足を踏み入れる。中の状況も、ホテルの時と大差はない。
いつ何者が襲い掛かってきても平気なよう、慎重に捜索を進める。
各階、1部屋の漏れもなく見て回るが、いつも顔を合わせていた娘達の姿は見当たらない。
誰もいない。出会うことは出来ないが、亡骸として見つけてしまう事もない。その事実は、むしろ指揮官にせめてもの安堵を与えてくれた。
(やっぱり誰もいない。あとは・・・屋上か)
屋上へと続く階段は戦闘の後は見られない。
ようやく、自分がいた世界へと戻ってこれたような、微かな安息。
緊張も緩みつつ、階段を上りきる。
ドアにカギは掛かっていない。
キィ・・・と微かな軋み音を上げながらドアが開く。
その先では、雲一つない蒼天から降り注ぐ陽光を浴び佇む女性が一人。何をするわけでもなく、ただ、佇んでいた。
銃をしまい、指揮官はその女性に歩み寄る。
指揮官よりも頭一つくらい背の高い、その女性が指揮官に向けて振り返る。
銀糸のように美麗な長髪がサラリと空気を薙ぐ。
「グリジョの指揮官。また会えて嬉しいよ」
「キミは・・・アルケミスト、だったよね。無事で良かった」
大人びた微笑みを浮かべるアルケミスト。彼女に、指揮官もまた笑顔で返す。
立ったままでの話もなんだから、と2人は屋上の手すりに背中を預けて腰を下ろした。
「街には誰もいないし、校内には銃撃戦の跡。一体、何があったんだ? この学園の生徒たちはどこに行ったの?」
「彼女たちは、各々の使命を果たしに行った。もう、ここに戻ることはない」
彼女たちの使命。グリフィン女学園の生徒たちの使命とは、一体何だっただろう?
指揮官という立場であるにも関わらず、それが思い出せずにいる。
・・・故に、彼にはもう、この出来事の真相を知る資格はないのである。
後は、只、終わりまでの時間を怠惰に過ごすのみ。
「キミは、その使命には従わなかったの?」
グリフィン女学園と同様の使命が鉄血学院の生徒達にもあったはず。ならば、なぜアルケミストだけはここにいるのだろうか?
「ああ、私は違う使命ができたから残ったんだ」
違う使命? と小首をかしげる指揮官。そんな仕草を見て、やや顔を赤らめるアルケミストに指揮官は気が付いていない。
「ぁ、アナタに会いたかったから、この街に残った。グリジョの校舎にいれば、会えると思って、ずっと待っていたんだんだ」
待っていた。その言葉が今の指揮官にとってどれだけ嬉しい事か。
これまで、ずっと張り詰めていた糸が緩み、ちょっと涙が出そうになったくらいである。
「そっか、ありがとう。俺も、キミに会えて嬉しいよ」
傍らに置かれた彼女の手に自分の手を重ねる。陶磁器のような彩の無い肌とは裏腹に、彼女の手は温かく柔らかく、心の優しさまで伝わってくるかのよう。
「それじゃあ・・・ずっと、私と一緒に居てくれるだろうか? この、世界が終わる時まで。
ずっと、ずっと」
「うん、約束するよ。ずっと、キミの傍にいる」
言って、身体を寄せてくるアルケミストをそっと抱き寄せる。
視界の端、この街よりもはるか先のどこかでオレンジ色の光が明滅したのが見える。
その戦火が広がり届くその日まで、2人は交わした約束の通り、共に寄り添い、束の間の安息に身を委ねていた。
END
*Eエンディング*
この世界の真実を知ることなく、結末を迎えました。
グリフィン女学院の生徒と仲良くなると、違う結末に辿り着けたかもしれません。
真相を知るために、色々な場所に足を運んで、女の子達と仲良くなりましょう。
ゲームみたいな終わりになった、という点に関しては次回にご説明するとして、本編はここまでになります。ひとまずは、長々とお付き合いありがとうございました。
次週のエピローグもどうぞお楽しみに~
以上、弱音御前でした