ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~   作:弱音御前

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寒さにかまけて外に出なくなり、より一層ゲーム漬けな今日この頃。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

今週も懲りずに投稿させてもらいました今作。
中身の薄い前置きは前話までとして、今回からは本番! ・・・ってなればいいな~。
ともあれ、今週もどうぞごゆっくりお楽しみください~



ドールズ・スクールライフ 3話

 学園の正門からまっすぐに伸びる道路を進み、3つ目の交差点を左折。次に見える信号を左折。200メートルほど歩いて左手に見える黒い三角屋根の家の前で立ち止まる。

 4人で笑い話を交えながら歩き、およそ15分の道程だ。

 

「ここが私たちの家よ。ご感想は?」

 

「広そうな家だね。庭もあるし、2階には大きなベランダも付いてるんだ?」

 

 胸を張り得意げな45に率直な感想を告げると、満足そうに笑顔を浮かべてくれる。

 彼女が時折見せる、落ち着いた、澄んだ彩の笑顔を見ると、どうしても顔が熱くなってしまう。

 まだ会って数時間しか経っていないのに・・・と、自分の軽々しさに少しだけ自己嫌悪。

 

「さあ、突っ立ってないでお家に入りましょう」

 

「ゴーゴー!」

 

「ご~ご~です!」

 

 9と41に背中を軽く押されながら玄関にご案内される。

 

「ただいまー」

 

 45が扉を開けると、新築のなんともいえない良い香りが仄かに鼻をくすぐる。

 

「お邪魔します」

 

「指揮官、お邪魔しますじゃなくって、ただいまで良いんだよ? ただ~いま~」

 

「帰ってきましたよ~」

 

 脱いだ靴を玄関先にキチンと揃え直して置く45。

 脱ぎっぱなしのまま、靴を揃えようという気もないらしい9。

 靴の汚れを軽く払い、下駄箱にしまう41。

 姉妹の性格の差が、ここで如実に垣間見ることができる。

 

「お帰りなさい。あら? もしかして、その方が?」

 

 45達が帰ってきたのを察して、廊下の奥から女性が歩み出てきた。

 艶やかな茶色の長髪に、母性を感じる大人びた佇まい。45達よりも明らかに年上だろう女性である。

 

「そう、私たちのクラスに編入してきた指揮官よ。指揮官、この人は私のお母さん」

 

「初めまして。私はこの子達の母、スプリングフィールドと申します。どうぞよろしくお願いいたしますね」

 

 恭しくお辞儀をするスプリングフィールドを見ていて、出遅れてしまった指揮官も、慌てて頭を下げる。

 

「い、いえ! こちらこそ、ホームステイを了承してくれてありがとうございます。お手伝いできることは何でもしますので、遠慮なく言って下さい」

 

「あらあら、それは頼もしい限りです。みんな、手を洗ってお荷物を置いたらリビングに降りて

きて下さいね。お茶を用意していますから」

 

「やったー、ママの作ったマフィンだ~! フゥ~~~~♪」

 

 脱兎の如く、玄関傍の階段を駆け上がっていく9に41も続く。

 

「もう、あの娘達ったら。指揮官の部屋も私達と同じ2階だから、案内するね」

 

「うん、よろしく」

 

 45の後ろに付いて階段を上がる。

 階段に近い方から、45の部屋、41の部屋、9の部屋と案内され

 

「一番奥が指揮官の部屋よ。物置きに使ってた部屋だけど、ちゃんと掃除しといたから。たぶん、荷物も届いてるはずだから、時間をみて整理してね」

 

 一通り説明を終え、引き返していく45を見送って自室を覗いてみる。

 広さは6帖強。ベッド、机、クローゼットなど、真新しい家具類がきっちりと並べられている。

 

(ここまでしてもらったら、もうここの家族には頭が上がらないよな)

 

 カバンを机に乗せ、部屋の隅に置かれていたキャリングケースを開く。

 自分の生活に必要な物のおおよそが入っているのを確認し、一息ついてから部屋を後にする。

 1階に降り、階段の脇をグルリと回ってリビングへ。

 カウンターキッチン式の広いリビングでは、すでに4人が席に座り、見るも優雅なティータイムが開催されていた。

 

「紅茶は飲めますか? ダメでしたらコーヒーもありますよ?」

 

「紅茶で大丈夫です。いただきます」

 

 席につき答える指揮官に朗らかな笑顔で返すと、スプリングフィールドはカップに紅茶を注ぎ

始める。

 白いエプロンに緩い部屋着という恰好なのに、その一挙手一投足が、まるでお高いカフェの

マスターでもあるかのように洗練されていて、自然と目がそちらに向いてしまう。

 

「うちのママ、すごい美人でしょ? 好きになっちゃった?」

 

「ふぅえ!!?」

 

 隣に座っていた9が突然耳元でそんなことを囁いたものだから、普段は出ないような声が出てしまう。

 

「ひゃあ? どうしたんですか、指揮官さん?」

 

「い、いや、ちょっとシャックリが出ちゃって。あはは~」

 

 苦し紛れの言い訳をする指揮官に9はにやにやと笑みを向け、45はというと、素知らぬ様子で紅茶を飲んでいる。

 

「この家に居る間は指揮官さんも私達家族の一員ですから、自由に振る舞ってくれていいん

ですよ」

 

「お気遣いありがとうございます。・・・えっと、ご家族はお父さんも含めた5人なんですか?」

 

 まだ姿を見ていないが、一般の家庭であるならばと、ふと気がついた質問をしてみる。

 途端、みなが一斉に手を止め、空気すらもフリーズ。

 このリビングは、明らかに聞いちゃいけない事を聞いちゃった雰囲気に切り替わってしまう。

 

「あら? それ、もう聞いちゃう? うちに来て初日にもう聞いちゃうのかしら?」

 

「この紅茶、すごく香りがいいですね! アールグレイかな? マフィンの甘さと風味にベストマッチですよ!」

 

 闇を含んだ笑顔のスプリングフィールドに、被せ気味に話題を変える。指揮官決死の方向転換である。

 

「指揮官さぁ、さっきからな~んか様子がおかしいよね? 落ち着きがないっていうか、テンパってるっていうか、そんな感じ~?」

 

 静かにティーカップを置き、今まで黙っていた45がここで口を開く。

 向けられる眼はジトっと、なんだか不穏な視線である。

 

「そりゃあまぁ、これからお世話になる家にお邪魔して初日だし、さすがに緊張くらいはするよ」

 

「それに、周りは女の子ばっかりだし。指揮官も少しは慌てちゃうよね」

 

 イグザクトリー! と、9のナイスな援護射撃に乗っかっておく指揮官。

 それに、カウンターいただき! とばかりの不敵な笑みを合わせる45。

 

「でも、周りが女の子ばっかりの学園では堂々としてて、いかにも指揮官って様子だったのにね? この家に来てからっていうか・・・お母さんに会ってから?」

 

 45の発言に指揮官の背筋が凍り付く。

 

(っ! こ、コイツ、分かっててわざと言ってるのか・・・っ!?)

 

 確かに、スプリングフィールドに会った時にドキドキしてしまったのは事実である。優しく柔らかな佇まいで、おまけにスタイルも良い大人の女性だ。健全な年ごろの男性であれば、思わぬところが無いわけがない。

 しかし、まがりなりにもホームステイ先の家族のお母さんなわけで、そこは一線を引くのが道徳というものである。

 ・・・まぁ、つい聞いちゃった旦那さんの有無で勘繰られてしまったのであれば、それは指揮官の罪であると認めざるを得ないわけだが。

 

「ふふふ、指揮官さんはまだお若いのに。こんなオバさん相手でもドキドキしてくれるのかしら?」

 

 その後、スプリングフィールドも含めた4人にメチャクチャからかわれる羽目になった指揮官。

 ティータイムでぼこぼこにされつつも、なんとか凌ぎきり、その後は、しばし部屋の片づけで

精神力の回復に努める。

 夕食はティータイムの反省を踏まえて言動に細心の注意を払ったが、それでも、まるで薄氷の上を進むような苦しい戦いを強いられてしまった。

 果たして、これほどまでにシビれるお食事の時間を経験した人間が、長い人類史の中で何人いるのだろうか?

 

(かなり厳しいけど、これは俺が順応しなきゃいけない問題なんだよな)

 

 この家で暮らす期間は限られている。出来る限り早く順応し、ここの家族みんなと気兼ねなく話せるようになって、心から楽しめる時間を一日でも多く作りたい。

 そう心に決めると、気分が少しだけ持ち直してくれる。

 ついさっき、指揮官の恋愛経験について集中砲火を受けた時の事を思い出して、枕を濡らさなくて済みそうである。

 持ち込んだ荷物のほとんどを整理し終え、時計に目を向けてみると、時刻は8時を過ぎたところ。45達がお風呂に入り終えて、最後、指揮官の順番が回ってくるまで、あと30分もないくらいだろう。

 着替えとタオルを持って、リビングでスタンバイしておいた方がいいタイミングである。

 部屋を出て階段を下りる。41とスプリングフィールドが一緒にテレビを見ているわきに荷物を置き、ひとまずトイレへと向かう。

 

「女性ばかりだからな。お風呂とか洗濯物なんかも特に気を遣わないとだよな。あとは、どんな

危険予測ができるだろうか?」

 

 思案しながらトイレのドアノブに手をかけ、そのまま、考え無しにドアを開ける。

 

「? 指揮官、どうしたの?」

 

「・・・・・・へ?」

 

 きょとんとした表情でトイレに座っている9を見て、思考が一気に吹っ飛ぶ。

 数瞬だけ遅れ、ようやく脳みそがリカバリーを開始。

 まず、ノックをせずにドアを開けたという事に関しては指揮官の罪である。電気も付けっぱなしだったので、そこでも気が付けた可能性は大いにある。

 指揮官側、マイナス2ポイント。

 かたや、9はドアをロックしていなかった。ロックしていれば、指揮官の不意の侵入を防げた

はずである。

 よって、9側、マイナス1ポイント。

 以上の結果を以って、指揮官の有罪を確定とする。

 

「ごめんなさいごめんなさい! 本当にゴメンなさい!」

 

 超高速の回れ右。でも、ドアは丁寧かつ慎重に閉める。

 

「あはは、気にしなくていいよ。私もカギを閉め忘れたのがいけなかったから」

 

 異性に覗かれたというのに全く気にしていないのか、ドアの向こうから聞こえてくる声は軽々としたものである。

 焦りまくっている自分の感覚がおかしいのだろうか? と、それはそれで不安になってしまう

指揮官。

 

「いや、俺がちゃんと確認してなかったから。次から気を付けるよ」

 

「じゃあ、私も気を付けるから、お互いさまってことにしようよ」

 

「はい・・・ありがとうございます」

 

「もうすぐ出るから、ちょっと待っててね~」

 

 嫌われてはいなそうな事に安堵しつつも、脳裏に浮かぶのは、トイレに入った刹那に目に焼き

付いた9の細く真っ白な足と太腿で・・・

 

「~~~~~!」

 

 邪な想像を追い出すために、両手で左右のこめかみをグリグリと押し込む。

 鈍い痛みに押しやられ、ちょっとはまともな思考が戻ってきてくれる。

 

「指揮官さん、調子が悪いのですか?」

 

「いや・・・ちょっと眠気覚ましにやってみただけデス」

 

 指揮官の奇行を見て不安そうに声をかけてくれる41。あまり不信感を持たれないよう、努めて冷静に言葉を返す。

 でも、内心はまだだいぶ散らかりまくっている状態だ。

 

「45お姉さまが、もうお風呂を使って良いよって言ってました。お風呂でスッキリすると疲れもとれると思いますよ?」

 

「うん、ありがとう、41」

 

 言って、頭を撫でてあげる。鮮やかなブロンドのもふもふ耳がパタパタと動いて、気持ちよさげな表情を浮かべている41を見ていると、心が和んで浄化されていくかのような心地だ。

 9と入れ替わりでトイレを済ませ、お風呂へと向かう。

 草の根も乾かぬうちに同じ轍を踏んでいるようでは、指揮官としては下の下。浴場に入る前に

一旦足を止める。

 コンコン、とドアをノック。しばらく待ってみても、中からの反応はない。

 次いで、電気のチェック。スイッチはオフになっているので、この中は真っ暗だ。誰かが使っているという可能性は大幅にダウンする。

 

「入りますよ~」

 

 声をかけつつドアの隙間から覗き込んでダメ押し。

 脱衣場は真っ暗で、人の気配も無ければ物音ひとつ聞こえない。

 不手際は100%無い、と確認できたところで電気をつけて脱衣場に入る。

 ・・・今後、これだけのプロセスを経て家の中を移動しなければならない、と考えると神経が

もちそうにないので、この件に関しては要改善である。

 

「はぁ~・・・さすがに気疲れしたな。でも、みんな良い人でホントありがたい」

 

 気が抜けた事で、45達の家族に対し、素直な感謝が自然と口から零れる。

 さっさと服を脱いで脱衣籠へ。浴場の電気をつけ、ドアを開ける。

 うっすらと湯気の漂う真っ白な浴場には・・・

 

「いやん。指揮官のえっちぃ~」

 

 タオルすらも持っていない、文字通り、一糸纏わぬ姿の45がペタンと座り込んでいた。

 

「・・・・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 本当にゴメンなさい!」

 

 まるで、ついさっきの焼き直しのように回れ右してドアを閉める。

 女性の、しかも、ホームステイ先の家の子の裸を見てしまった事で、指揮官のパニックゲージが限界を振り切る。

 不幸中の幸いだったのは、45が入り口に対して背中を向けて座っていた事と、指揮官がタオルで下半身を隠していた事である。

 誰もいない状況だったのだが、なんと無しに巻いていたこの薄い一枚が無ければ今頃どうなっていたことか・・・。考えるだに恐ろしい事である。

 

「指揮官にはだか見られちゃった~。もうお嫁にいけないよ~。せきにんとって~」

 

 ドアの向こうで嘆く45。それにどう返してあげたら良いものか、頭を痛める指揮官。

 と、そこで根本的な事実に気が付く。

 

「・・・っていうか、電気ついてなかったし、声かけても返事なかったし、そんなの絶対おかしいでしょ!?」

 

 今日1日でUMP45という女の子の性格は大体把握できている。つまり、これは指揮官を嵌める為の巧妙なトラップだ。

 

「だって、夜戦に備えて夜目を鍛えなきゃいけなかったから。暗い中でお風呂に入るのは良い訓練になるんだよ?」

 

「なるほど、それは確かに訓練としてはやりがいのある・・・いやいやいや! だからって、そんなところでやる必要ある!?」

 

 どうにも、45と話しているとペースを崩されて、そのまま丸め込まれそうになる指揮官である。

 今回は寸でのところで踏みとどまり、ドア越しに45に抗議を続ける。

 

「もう、分かったわよ。私が41に言って指揮官を呼び寄せ、暗くした浴場にのこのことやってきた指揮官を驚かしました~。私が悪ぅございました~」

 

「なぜそこで逆ギレする・・・」

 

 まったく誠意の籠っていない謝罪であるが、今回の指揮官は45の自白によって完全無罪だったのが救いである。

 もし、彼女の裸を除いてしまった罪を指揮官が被ることになれば、もう指揮官は自爆して詫びるしかなかったところだ。

 

「そっち行くから、そこどいてくれる?」

 

「え!? 俺が服着て外に出るまで待って!」

 

「体が冷えちゃって寒いの。そこで後ろ向いててくれればいいから」

 

 寒いのを我慢してまでやる事か? と疑問に思うが、もう、45がこちらに来ようとしているので口に出す暇もない。

 バスタオルで身体を覆い、後ろを向いたところで45が浴場から出てくる。

 少しも躊躇う様子も見せず指揮官の背後に立つと、どこからか自分の服を引っ張り出しているのが音で分かる。

 顔は反対に向けているが、脱衣場には大きな鏡付きの洗面台がある。視線の端にその鏡が入り

込もうものなら、45の裸が丸見えになってしまう。

 それはダメだ。絶対にダメだ。と言い聞かせ、自分の中の悪魔を天使と協力して必死に抑え

込む。

 

「ふん、ツマんないの」

 

「キミにはもうちょっと恥じらいとかないのかい?」

 

「なによ、いくじなしのくせに」

 

 不条理にも拗ねながら着替えを終えると、45はさっさと脱衣場から出ていってしまう。

 山場を乗り切り、大きく溜め息。

 念のため、他にトラップが無いか浴場を確認してからゆっくりと体を休める。

 しばらくお湯に浸かり、気分も切り替えたところで脱衣場で楽な服装に着替える。鏡に映った

指揮官自身の表情も、先ほどの疲れ切っていたものとは大違いである。

 

「飲み物もらってから戻るか」

 

 キッチンでお茶を頂こうと、リビングに入ったところで

 

「きゃ~、しきかんさん、えっちですぅ~」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい~~~!」

 

 いきなり飛んできたセリフに対し、条件反射で謝罪を連呼してしまう。

 

「・・って、何でさ・・・?」

 

 しかし、指揮官の目の前に居るのは、モコモコした寝間着姿の41。別段、エッチだなんだと

批難されるようなこともない、至って可愛らしいお姿である。

 

「お姉さま達が、指揮官さんと出会った時にこう言うと喜んでもらえるって言ってました。どうでしたか?」

 

 屈託のない笑顔でそう言われてしまっては、指揮官は何も言う事は出来ない。

 悪いのは、41を騙した悪姉2人であり、ついでに、そんな簡単な手に引っ掛かってしまった

自分も少しだけ悪いのだと。そう結論付けておく。

 

「そっかそっか。ありがとう・・・ありがとうね」

 

 感謝の言葉を絞り出し、41の頭を撫で撫で。

 気のせいか、視界が霞んで見えるような気がする。

 

「ふぇ!? 指揮官さん、泣いているんですか? そんなに嬉しかったですか?」

 

「これは欠伸が出たから目が潤んでいるんだよ。あと、今のはたまにやってくれるぐらいでいいからね?」

 

「はい、分かりました!」

 

 軽くクギを刺したのを理解してくれたのかはさておき、41は満足そうに耳をパタつかせて自室に戻っていく。

 ジワってしまった涙が引っ込んだところで冷蔵庫から飲み物を頂き、指揮官も自室へ戻る。

 途中、45達の部屋の前を警戒しつつ通るが、今日はもう仕掛けてくる様子はない事に安堵。

無事に自室へたどり着く。

 

「はぁ~、色々あったけど、なんとか無事に終わりました、と」

 

 本日何度目か分からない溜め息をついて、ベッドの淵に腰を降ろす。

 ペットボトルの蓋を開けて、お茶を一口。蓋を締め直して、小さく息をつく。

 

 (ちょっと本でも読んでから寝ようかな)

 

 愛読書を入れたキャリングケースに目を向ける。

 

「慣れない環境は大変ですよね。お疲れ様です」

 

 刹那、背後からの言葉と共に、腹部に両腕が回された。

 

「ぎゃああぁぁあぁぁ~~~!!?」

 

 指揮官自身、客観的に聞いたらビックリするだろう悲鳴と共に身体を前方へ投げ出す。

 ゴロゴロと床を転がって距離をとり、ベッドの方に視線を向けて、そこでようやく、一体何が

起こったのかを把握できた。

 

「す、すすすスプリングフィールドさん!? なにやってんスか!?」

 

 毛布の中から、もぞもぞと這い出てきたのはスプリングフィールド。

 指揮官的にトンデモナイ事をやらかしてくれた張本人は、しかし、まったく悪びれた様子もなく優美に微笑んでいる。

 

「ふふふ、指揮官さん、お疲れかなと思って様子を見に来たのですが、お留守だったもので。代わりに、ベッドの具合はどうかしら? と思って確認していたんですよ」

 

 だから、それでなんで部屋の電気を消して潜む必要があるんだ! と、45の時と同じ抗議は

もう指揮官の頭には浮かばなかった。

 すでに指揮官はあまりにも疲れ果て、そして、スプリングフィールドに抱き付かれたという気恥ずかしさが、思考能力を完全停止させてしまっていたのだ。

 

「お疲れのようなら、ベッドの上でマッサージしてあげましょうか?」

 

 ベッドの上で手招きするスプリングフィールドの姿はパジャマ・・・というか、ネグリジェというのが正解なのだろう。やたらとフリフリ、ややスケスケな黒色で、どうしたってアレな見た目だ。

 

「いえ・・・今日は大丈夫っス。平気っス・・・」

 

 緊急回避で残りの体力も使い切った指揮官は、そう力無く答える。

 据え膳も、食べるだけの生命力が無ければ食べたくたって食べられないのである。

 

「あら、そうですか? じゃあ、お休みの邪魔をしたら悪いので、下に降りますね。ごゆっくりとお休みなさい」

 

 しっかりとお休みの邪魔をしてくれたスプリングフィールドを見送り、ようやく、やっと1人

きりになれる指揮官。

 

「俺、ここの家族に嫌われてるんだろうか? ・・・あ、ペットボトル・・・蓋閉めてたんだった。零さなくて良かったよ」

 

 床にお茶をぶちまけなかったことにささやかな幸運を感じたところで、こうして、指揮官の

長く、厳しい1日がその幕を降ろした。




ベタですね。
本来、こういうベタなラブコメ展開はやらない性質なのですが、今回は特例としてやってしまいました。
後悔はちょっとだけしています。ほんのちょっと、ミジンコ程度ですけど。

本格始動した指揮官と戦術人形達の学園生活、次回もどうぞお楽しみに。
以上、弱音御前でした~
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