ドールズフロントライン ~ドールズ・スクールライフ~   作:弱音御前

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虎に追いかけられる夢を見ました。夢で良かったな~、と本気で安心したような今日この頃、
皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

まだまだ、折り返しにも差し掛かっていない今作ですが、定期的に更新していきますので、どうかお付き合いいただけたら幸いです。
それでは、今週もどうぞごゆっくりと~


ドールズ・スクールライフ 5話

 すでにチャイムが鳴ってからの数分間、時計の秒針の進む速度がやけに遅く感じる。

 それは、待ち焦がれた時が訪れる前のじれったくて仕方のないアレ。ちょっと頭が良さそうに

言うのなら、相対性理論というやつである。

 

「指揮官、そんな畏まっちゃって、どうしたの?」

 

 本日最後の授業。机の上にテキスト、ノート、筆記用具をビシッと並べ、背筋を伸ばして席につく指揮官に言い知れぬものを感じた45が問いかける。

 

「次の授業はすごい楽しみにしてたんだ。だから、醜態を晒したくない」

 

「しゅ~たい、って何? 45姉」

 

「ミスりたくないって意味よ。そんなに楽しいものかしら? 次の授業って・・・」

 

 45の言葉を遮るようなタイミングで教室の扉が開かれる。

 

「遅れちゃってゴメンね~」

 

 ふんわりとした口調と共に教室に入ってきたのは、ふんわりとした銀色の巻き毛にふんわりとした体つきの女教師。

 教壇に向けて歩く教師を見つめる指揮官の眼は、まるで、憧れのヒーローを前にした子供のそれである。

 

「おぉ~! あの人が・・・あの人が、名匠スパス!」

 

 グリフィン女学園、銃器構造担当教師スパス。彼女の登場は、クラスメイトにとってみれば退屈な日常だが、指揮官にとっては、隣に座っている45が若干ヒクぐらいテンション爆アガリな

一大事らしかった。

 

「えっと~、授業を始める前に。編入してきた子がいるんだよね? 自己紹介をしてもらってもいいかな?」

 

「はいっ!」

 

 勢い良く立ち上がり、直立不動の姿勢をとる指揮官。そんな彼の様子を見て、クラスメイト達は何事かとざわめきたっている。

 

「お初にお目にかかります。見習い指揮官という立場ですが、数ヵ月間ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」

 

 挨拶をキレのあるお辞儀で締めくくる。

 そんな指揮官に、教壇にいるスパスはほわほわとした笑顔を向けている。

 

「そこまで緊張しなくてもいいよ~。私は銃器構造のスパス。こちらこそよろしくね指揮官さん」

 

 温度差の激しい不思議な2人のやり取り。そこに斬り込むのは、彼の一番傍にいる相方である。

 

「ねえ、なんでそんな気合入ってるの? かなりキモイよ?」

 

 ド直球な言葉は、けれども、この教室にいる指揮官とスパス以外の全員総意の言葉に違いなかった。

 

「いやいや、むしろ、あの人を前にしてそんな緩い雰囲気でいられる意味が俺には分からない」

 

 ド直球の質問をフルスイングで打ち返し、指揮官がさらに続ける。

 

「あらゆる銃器におけるカスタムコンテストでの優勝歴数知れず。年2回行われるショットショーでは常に壁サーの座につき、開場から僅か1時間で売り切れなんて日常茶飯事の超人気サークルのプレジデントだぞ? 〝スパス完売!〟って謳い文句、ネットで見た事ない?」

 

 口をぽかんと開けたまま、45が首を横に振る。

 

「人類史上最高のガンスミス。シューター達のもとに舞い降りたナイチンゲール。名匠スパス、

お会いできて光栄だ」

 

 若干、息があがった指揮官の演説が区切られると、ちらほらと拍手があがる。

 人によっては、まぁ、そうなるような雰囲気なのだろう。

 

「えへへ~、そこまで褒められると照れちゃうなぁ。でも、私の事を良く知ってくれているみたいで嬉しいよ」

 

「それはもう、ショットショーは夏も冬も毎年欠かさずに伺っていますので! ああ、もちろん

徹夜で並んだりしませんよ? マナーはしっかり守るのが参加者としての義務ですから」

 

「そっかそっか。毎回来てくれているのに、ちゃんと顔合わせできなくてゴメンね。私、サークルにはなかなか顔を出せないんだ」

 

「仕方ないですよ。スパスさんが来たら会場大パニックですもん」

 

 教室内、30人弱が完全に置いてけぼりをくらってしまっているこの状況。

 しかし、忘れてはいけない。今はれっきとした授業時間の真っ只中なのである。

 

「せんせ~い。もう授業時間5分過ぎてま~す。そろそろ授業を進めた方が良いと思いま~す」

 

「UMP45の意見に賛成です。授業はしっかりと受けるのがスペシャリストとしての務めですので」

 

 指揮官を挟んだ左右、45とネゲヴから抗議の声があがる。

 余談だが、この2名は普段は特に授業に対してのヤル気が無い筆頭である。

 

「俺がこれだけ説明したのになぜそんな冷めてる? 銃キライなの?」

 

「少なくとも、アンタほどの熱量が無いのは確かね」

 

「ごめんごめん、ちょっと話が逸れすぎちゃったね。それじゃあ、授業を始めるよ。テキストの

80ページを開いて~」

 

 教師然としたスパスの言葉でこれまでのざわめきは一旦リセット。指揮官も腰を降ろす。

 そうして、指揮官お待ちかねの授業がスタートする。

 

「指揮官さんは分からないことがあったら遠慮せずに質問してね。隣の席にいる45ちゃんも、

指揮さん官が困っている様子だったら教えてあげて」

 

「大丈夫です。予習はしっかりとやっていますので」

 

 ビシッと答える指揮官を見て、スパスはにこにこ笑顔のまま頷き、45は面白くなさそうな表情を浮かべている。

 まがりなりにも、この教室でこれまで授業を受けてきた身だ。新顔に学力で負けたくないという思いもあろう。

 

「前回は弾丸についてのお話をしたよね。弾丸の威力を決める要因2つはなんだったかな?

・・・ガーランドちゃん」

 

「はい。火薬量と口径です」

 

 スパスの質問に対し、すんなりと答えてみせるガーランドは、このクラスの委員長である。彼女自身の真面目な雰囲気も、委員長のそれにふさわしいと指揮官はつくづく思う。

 

「うん、正解。でも、私が説明した2要因の他にも細かい様々な要因が絡んでくるんだよ。例えば・・・」

 

 ゆっくりとしたテンポで分かりやすい例えを交えながら授業を進めていくスパス。声色も柔らかなので、それが良い子守唄代わりになるのだろう。すでに夢の世界に連れていかれている者も何人か出ている。

 指揮官は言うまでもなく超集中。45とネゲヴは普段だったらそろそろ寝ている時間だが、

今日は寸でのところで踏みとどまる。

 

「拳銃弾においては、〝ホローポイント〟っていう特殊な形状をした弾丸があるんだよ。FALちゃん、どういう形状か分かるかな?」

 

「分かりません。私、フルサイズ弾を使っているので、興味が無いです」

 

 頬杖をつき、ペンをクルクルと回しながらFALはつまらなげに答える。

 

「もう、自分が使わない弾丸でも、ちゃんと特性を把握しておかないとダメだよ?それじゃあ、

拳銃弾を使う・・・45ちゃんはどうかな?」

 

「ふぁい!?」

 

 気を抜いていたところで指名されたものだから、奇妙な返事をしてしまう45。

 その様子を、指揮官は視界の端でチラリと見やる。

 

「ホローポイントはどういう形状の弾丸かな?」

 

「あ~、えっと・・・形状ね? どんな形かっていうと・・・」

 

 テキストをペラペラと捲って答えが無いか探る45だが、これはテキストの最終章で説明される内容である。

 今の授業では範囲外の明らかな余談。気の無い生徒にクギを刺す為のスパスのしたたかな策だ。

 

「・・・」

 

 何気ない風を装いつつ、掌大の紙にペンを走らせる指揮官。

 書き終えると、前の席に座っている生徒の影になるようにコッソリと紙を45の前に置いてあげる。

 

「え・・・? えっと、先端にクレーター状のヘコミがついている弾丸・・・です」

 

 45の答えに、満足そうにうなずくスパス。

 苦境を乗り越えたが、それは指揮官の助言があったから。素直に喜べず、でも、指揮官が助けてくれた、という事実はちょっと嬉しくてこそばゆい45である。

 

「では、先端がヘコんでいることによって、どういう現象が起こるかな? これは、ネゲヴちゃんに答えてもらおうかな」

 

「軽量化されて、弾速が上がる。ついでに、製造コストも下がる」

 

「あはは、面白いところに目をつけるね。両方とも正解だといえるけど、それとは別に、狙った

効果があるんだ。分かるかな?」

 

「む・・・他の効果・・・」

 

 すんなり答えて得意げだったネゲヴだが、あっさりと返されて眉をしかめている。

 45と同じくテキストを捲っているが、それもやはり、すぐに見つかるものではない。

 さっきよりも厚めの紙を取り出し、指揮官が再びペンを走らせる。

 ネゲヴとの机の間には人が通るだけの間が空いているので、今度は手を伸ばして机に置くことはできない。

 厚めで硬さのある紙を指で挟み、手裏剣を投げる要領でネゲヴの机に向けて飛ばす。

 絶妙な力加減で宙を舞う紙が、見事にネゲヴの真ん前に着陸。

 

「・・・衝撃に弱くなるので、着弾時に弾が潰れます。結果、弾痕が口径以上に広がります」

 

「お~、完璧な答えだよ! 実は、今のはもう少し先で習う事だったんだけど、2人ともよく予習していて偉いね!」

 

 ぱちぱち、と拍手を交えて褒めるスパスだが、ネゲヴは澄ました表情を崩さない。

 努めて冷静を装っているが、45と同じような心境でいるのは本人のみぞ知るところである。

 そうして生徒達は、気を抜いてたら指されるという適度な緊張感を植え付けられ、全員がスパスの声にしっかりと耳を傾けるようになる。

 

(やっぱすごいよな~。指揮官として見習うべき事も多いよ)

 

 心の中で絶賛しているうちに授業は進み、チャイムの音が終わりを告げる。

 楽しい時間が過ぎるのは、まさにあっという間の事だ。

 

「私の授業はどうだったかな?」

 

 挨拶を終えると、スパスが指揮官のもとにやってくる。

 指揮官も彼女ともう少し話をしたかったところなので、願ってもないことだ。

 

「すごく分かりやすくて楽しかったです。知らないことも色々教えてもらえたので、とても勉強になりましたよ」

 

「普段通りにやっただけなんだけど、素直にそう言ってもらえると嬉しいな。頑張って授業を

やった甲斐があったよ~」

 

 髪先を指にくるくると巻きつけながら、スパスは恥ずかしそうに笑う。

 子供っぽさを感じる可愛らしい仕草だ。

 

「初めての授業だったから、聞いててもらうだけにしたんだけど、ちょっと物足りなかったかな? 隣の娘達に教えちゃってたものね」

 

 その言葉にギクリとしたのは指揮官ではなく、帰り支度をしていた45とネゲヴ。

 ちゃっかりと聞き耳をたてていた2人である。

 

「やっぱり、バレちゃってましたか。ごめんなさい。良くない事だと思ったんですけど、仲間を

助けるのも大切な事だと判断しまして」

 

「ううん、そのとおりだよ。助け合いはこれから先、とても大事になる。でも、自分の力で知識を育んでいくというのも、先生は重要なんじゃないかって思うんだ。ね?」

 

「「はい、次は頑張ります」」

 

 45とネゲヴが仲良くハモったのを聞いて楽し気に笑うと、スパスは踵を返して

教室から出ていった。

 

「いや~、緩そうな性格だけど、見るところはちゃんと見てるんだもんな。流石は名匠。

タマんねぇや」

 

「なによ、さっきからスパス先生のことばっかり。そんなお気に入りなら、先生の家に寝泊まりすりゃあいいのよ」

 

 うっとりとした表情でスパスをベタ褒めしている指揮官が気に入らず、45が頬をぷくりと膨らませて拗ねる。

 

「45姉、とーとーい」

 

「とーとーいー、ですぅ」

 

 そんな45に9と41が声援を送って、そこでやっと現実に戻ってくる指揮官。

 

「とーとーい? ・・・もしかしてそれ、〝尊い〟って言いたい?」

 

「そうだよ。すっごくカワイイ時に使う言葉なんだって。ネットでみんな使ってた」

 

「使い方おかしくない、それ?」

 

 9にツッコミを入れている最中、ズボンの後ろポケットに違和感を感じる。

 背後からポケットに何かを差し込まれた感覚である。

 

「?」

 

 振り返るも、そこには誰もいない。

 つい今さっきまで帰り支度をしていたネゲヴの姿も、いつの間にか消えていた。

 

「今度は自分で考えるから、さっきみたいにしなくていいから。でも・・・教えて

くれてありがとう」

 

 俯きがちに言う45に、再び9と41が声援を向ける。

 

「もう! 授業終わったんだから、さっさと帰るわよ!」

 

 恥ずかしさを振り払うように、カバンを抱えた45が3人を置いて歩き出す。

 

「待ってよ45姉ぇ~」

 

「お姉さまとーとーい、です~」

 

 パタパタと45をおう2人に指揮官も続く・・・その前に、違和感のあったズボンポケットを

手で探ってみる。

 

「紙?」

 

 それは、さっき指揮官がネゲヴに答えを書いて渡した紙だった。

 丁寧に4つ折りにしてある紙を開くと、指揮官が書いた文字の下に違う筆跡の文章が書き加えられている。

 

『いい気にならないで。ありがとう』

 

 捨て台詞なのかお礼なのかよく分からない文章を見て、思わず吹き出してしまう。

 折り目に沿って紙を畳み、カバンにしまってから教室を後にする。

 帰り道、あわよくばネゲヴに会わないかと期待した指揮官だったが、結局、彼女の姿を見つける事は出来なかった。




今回はガンオタ回ということで、スパス先生にご登場いただいました。
作品ごとに1話くらいは、このような無駄知識を織り込んでいけたらな~、と思ってるので、
その際はどうか温かい目で見守って下さいな。

それでは、来週もどうかお楽しみに。
以上、弱音御前でした~

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