ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか【完結】   作:畑渚

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その時までは

 俺の名は……やっぱり名乗るのは恥ずかしいから一般警備員と呼んでくれ。

 

 なに、これは俺のとある一日の話だ。

 

 

 俺の一日は昼の15時くらいに始まる。俺は夜勤族である。給料だけで選んだ警備会社なので、勤務時間以外に文句はないが、さすがに体が慣れるまではつらかった。

 その日の俺はいつもどおり音楽を聞きながら昼飯を作る。音楽なんて洒落てるだって?ちげぇよ俺はオタクだ。ただの音楽なわけがないだろう。いつもかける音楽は、推しのVの歌ってみたのマイリストだ。

 

 16時過ぎに家を出て電車に揺られ、17時に現場に着く。控室で警備服に着替える。

 警備って言ったっていろんな種類があると思うが、俺の警備はマンションの一階で座っとくだけだ。たまに監視カメラにも目を向けるが、ここの設備は一級品。俺が目で確認するよりも早く自動警備システムが反応してくれる。じゃあなんで俺がいるのか?知らない。なんかよくわからない仕事だが、座っておくだけで給料が入るのでラッキーである。なんだこのホワイト企業。

 

 だが、この日だけは少し違っていた。

 

「やあやあ。君が今日の夜間警備員くんかい?」

 

「……しゃ、社長!?」

 

「まあそう構えなくても、そんなに重大なことを伝えに来たわけじゃないさ」

 

 あぶねぇ。もう少しでいつものように推しの配信を見始めるところだった。本当にあぶねぇ。

 

「それじゃあ一体何の用でしょうか?」

 

「なに、簡単なことさ」

 

 社長の目がギラリと光る。

 

「どうやら妹の友達がストーカーに付きまとわれてるらしくてね。許せないだろう?女につきまとうストーカーだなんて」

 

「え、ええ確かに」

 

「というわけで君にはそいつを捕まえてほしい」

 

「で、でも私はただの一般警備員ですよ!?」

 

「なぁに。腕っぷしが強い連中を呼んどいた」

 

 そう社長が言うや否や、警備室に複数人が入ってくる。それは荒くれ者というより、訓練された軍隊のようで、皆、何人か沈めてそうな目をしていた。

 

「こいつらの指揮権を君にやる。だから早急に問題を解決したまえ」

 

「なっ……さすがになんでも」

 

「ああ、もし妹たちに危害を及ばせず、無事に解決できた場合……」

 

 社長は書類を一枚、机へと置く。それは給与契約書だ。簡単に言えば、給与がさらに上乗せになる。

 

「この契約書にサインしよう。それじゃあ任せたよ」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 たしか俺の実家の弟が高校受験のために塾に通い始めた頃だ。俺には金が必要だった。

 だから……死にものぐるいでストーカーを捕まえたときに思わずガッツポーズしちまったのは誰にも咎められないだろう。

 

 

❍✕△❑

 

 

 朝ごはんを終えた頃、兄さんから電話がかかってきた。

 

「おはよう、兄さん」

 

「うん、わかった。ありがとう。下の警備員さんのシフト教えてくれる?今度お礼を言いにいかないと。えっ?そんな必要はない?ダメだよ、ちゃんとお礼しないと。うん了解。じゃあ」

 

 どうやら無事にストーカーさんは捕まったようである。しかし一晩で解決してくれるとは、さすがの兄さんだ。多分酷使されたであろう警備員さんには、今度菓子折りでも持っていくことにする。

 

「電話、お兄さんから?」

 

「はい。無事?と言っていいかは分かりませんけど、ストーカーは捕まったみたいですよ」

 

「良かった……。本当にありがとう」

 

「いえ。別に私が動いたわけじゃないですし。お礼は今度直々に警備員さんに言いましょう」

 

「えっ?」

 

「安心してください。私もついていきますから」

 

「いや、ちょっと待って?捕まえたのって警察がではなく、ただの警備員さん!?」

 

「えぇ……まあ。兄さんのことですし多分無茶させたんでしょう」

 

「筑紫ちゃんのお兄さんいったい何者なの……?」

 

「私にも分かりません」

 

 兄さんは思いつきで行動するタイプだから、今何の仕事をしているのかすら私は知らない。ただ、大半の問題ごとは兄さんに相談すれば片付くと言う事実だけが存在している。

 

「とりあえずあと数日はここにいてください。正式な警察での取り調べ等もあるでしょうし」

 

「あーでも、学校には行かないと」

 

「ああ、そうですよね。自分が通信制なので完全に忘れてました」

 

 そうか。一般人には登下校っていうものがあるんだ。

 

「ちなみに学校はどの辺です?」

 

「ここからなら5〜6駅くらいかな。上り線」

 

「ああ良かった。それならしばらくは私が送りますよ」

 

「え?」

 

「ちょうど定期券の範囲内なので一緒に行けます」

 

「定期券?でも学校は通信制なんだよね?」

 

「あー何と言えばいいか」

 

 少し時間を置いて言葉を選ぶ。変に誤解されても嫌だし。

 

「姉さんの仕事の手伝いをしてるので、職場への定期券ですね」

 

「へぇ〜仕事の手伝いか。筑紫ちゃんってほんと兄姉孝行だよね」

 

「もらった恩を返そうとしてるだけですよ。まだまだ全然足りませんけど」

 

 実質的に私を育ててくれたのは兄さんたちだ。実際に今も世話になりっぱなしだから、恩を感じつつ働いて返してるというところもある。

 

「今度お姉さんにも会ってみたいなぁ。あのお兄さんと筑紫ちゃんという妹を持つ姉……多分後光差してるよ」

 

「後光は流石に差してないと思います、多分」

 

「そこは完全に否定してよ」

 

 姉さんも兄さんに負けず劣らずの自由人なので、完全に否定できない私がいた。

 

 

 電車で無事に移動し、ララちゃんの大学へ着く。

 

「今日は午前と午後の一コマずつだけだから、それが終わったら連絡するね」

 

「はい。それまでは私も姉さんの手伝いをしてるんで」

 

「了解。ありがとうね」

 

「いえ、いいんですよ」

 

 どうせ姉さんの職場への道がてらだったし、そこまで手間はかかってない。

 

「それじゃあ行ってきまーす」

 

 ララちゃんは、そう言って大学へと入って行った。元気なことは何よりである。あとはストーカー被害のことも忘れられるくらい日常に夢中になれることを願うばかりだ。

 

「さて、私も行かないと」

 

 手伝いとはいえ、内容が内容なので私も先を急ぐことにした。

 

 

❍✕△❑

 

 

 無事に今日の授業が終わり、ふぅとため息をつく。昨晩は色々あったものの、筑紫ちゃんのおかげで私は無事に今日を過ごせている。

 

 ただ、少し他人の視線に敏感になっている自分もいた。それもそうか。1日で癒える傷なんてない。筑紫ちゃんにも数日はついてもらえることだし、これを機にしっかり甘えさせてもらおう。

 ついでに、謎の多い筑紫ちゃんについても知れたら良いなぁ……

 

 

 

 なんて思ってる時期が私にもありました。帰りの駅の構内で人だかりができているのを見つけるまでは。

 




さすがに次話で現実パートを終わらせて配信パートに帰りたいです
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