ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか【完結】   作:畑渚

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でもこの声

 今日の授業が終わり、駅の改札を通ると、謎の人だかりができていた。有名人でも来ているのかと人混みの間から中心を見てみれば、構内のカフェの前で、1人の美人な女性がコーヒー片手に佇んでいた。誰かを待っているようだが、その素振りが様になっており、ドラマかなにかの撮影かとカメラを探してしまう。

 

「ねえねえアレって」

 

「どこかで見たことあるかも。雑誌かな?」

 

「ってことはモデルさん?」

 

 近くの女子たちが騒いでいるのが耳に入る。確かにモデルをやっててもおかしくない。髪なんかもふんわりとセットされており、メイクも大人びている。年齢はあまり私と変わらないように見えるが、経験の差で圧倒的な敗北感を感じる。

 

『筑紫ちゃん、待ち合わせ場所あたりに人だかりができてて近づけないや』

 

『確かに人が多いですね。とりあえずわかりやすい場所にいます』

 

 SNSアプリで筑紫ちゃんに連絡を入れるも、それだけしか返信がこなかった。私は人だかりの中を探したが、筑紫ちゃんらしき人物は見つからない。確かにカフェの前で待ち合わせとは言ったが、この人混みだと見つけることすら困難だ。

 

 人混みをかき分けて最前列まで来たとき、人だかりが突然騒がしくなる。

 

「あの」

 

「えっ、私?」

 

 気がつけば、件の美人さんが私の目の前まできて、話しかけてきていた。なにか粗相でもしてしまったかと焦って、思わずそう聞き返してしまった。

 

「そりゃそうですよ。まったく、待ち合わせ場所にずっと立ってたのに」

 

「???」

 

 自分の頭の上にクエスチョンマークが飛び出る。何を言っているのだこの美人さんは?そっと手を取られるが、こうも自然に手を取られては抵抗すらできない。

 

「ほら、帰りましょう?」

 

「あ、うん……」

 

 それから電車まで、ずっと手をひかれるがままで、緊張して相手の顔すら見ることができなかった。

 

「本当にどうしちゃったんですか」

 

「いや、その。来たときとだいぶ雰囲気が違うからさ」

 

 電車に乗り込んでからようやく、その美人さんが筑紫ちゃんと同じ服を着ていることに気がついた。来るときと雰囲気が変わりすぎである。

 

「あー、まあ仕事でセットしてもらってからそのまま来たので」

 

「仕事?やっぱりモデルとか?」

 

「まあそんなところです」

 

 人ってメイクでここまで雰囲気が変わるのかと驚愕する。ただでさえスタイルが良いのに、醸し出す雰囲気まで大人びていて、隣にいる私がとても子供っぽく感じて恥ずかしくなる。

 

「そうだ。よかったら今度一緒に行ってみませんか?姉さんも是非会ってみたいと行ってましたし」

 

「えっ本当に?でも場違いじゃないかな私」

 

「良いじゃないですか可愛らしいのも。私はそういった可愛い系はさっぱりさせてもらえなくてですね」

 

「そりゃそうだよ。だって大人っぽいのすごく似合ってるもん」

 

「似合ってますか?」

 

「そりゃもう、鬼ほど」

 

「鬼ですか?」

 

 こてんと首をかしげる筑紫ちゃんは、たしかに話してみれば普段通りの筑紫ちゃんだが、しかしその仕草がいちいち惚れ惚れする美しさをもっていて目に毒だ。

 

「ほんと、どうしてVtuberなんてやってるの」

 

 ポロッと心からの言葉が漏れ出てしまった。

 

「あっゴメン!今のは違くて!」

 

「うーん、そうですね。答えるなら」

 

 筑紫ちゃんは顎に手を当てて考える仕草をする。

 

「Vtuberの方々が楽しそうだったからですかね。ゲームをしている姿とか」

 

 私は確信した。筑紫ちゃんもまた、あのお兄さんやお姉さんと同じ家系のものなのだと。

 

 

❍✕△❑

 

 

 俺の名は一般警備員。今は少し昇格して警備主任とかなっているけれど、肩書ばかりで仕事内容は変わらないので一般警備員と呼んでくれ。

 

 俺の一日のルーティンも変わらずだ。今日も職場に行って、推しのVtuberのアーカイブを流しながら制服に着替える。いや、もうね。推しのために生きてるような俺なので、推しが少しつらそうな声とかしてるともう泣きたくなるんだけどね。それでも、先日のゲームのカジュアル大会は最高だった。大会当日なんかは、無理やり休日を貰って酒を片手に叫びまくった。それだけ楽しかったし、推しも楽しんでた良い大会だった。

 

 あのときの切り抜きを聞きつつ警備室に行くと、見覚えのない二人組の女性がいた。

 

「あっ筑紫ちゃんもしかして」

 

「昨晩兄さんの対応をしてくれた警備員さんで合ってますか?」

 

 突如脳裏に浮かぶ社長の姿。そして社長のことを兄さんと呼ぶ眼の前の美女。そしてその隣の美少女。脳の中を電気が走り、その答えを導き出す。

 

「お嬢様、何かご用でしょうか」

 

 耳につけていたイヤホンを雑にとっぱらって、深々と頭を下げる。

 俺の前任者が言っていた、社長一家には逆らうなと。逆らわなければいつまでも甘い蜜を吸えるから、知らずともお嬢にナンパしかけた俺のようにはなるなよと……。

 

「まったく兄さんはこういう連絡だけはしないんですから」

 

 そう言いつつお嬢が友達へと目配せすると、お友達さんが小包を手渡してくる。

 

「今回は私のために動いてくれてありがとう。これ、少ないけどお礼です」

 

「そんな。自分は職務を全うしただけですよ」

 

「でも大変だったでしょ?本当にありがとう」

 

「私からもお礼を。兄さんの無茶につきあってくれてありがとうございます」

 

「そんな!お嬢様頭を上げてください」

 

「礼儀ってものは誰に対しても必要ですから」

 

 死にものぐるいで働いた昨晩の俺、本当にグッジョブ。ありがたく小包を頂き、自分の部屋へと帰っていく二人を見送る。

 

 ふぅ、あぶないあぶない。推しの配信を聞いてることはバレなくて済んだみたいだ。

 でもなんだかあの声を聞いたことがある気がするんだよな……。

 

 俺はイヤホンをつけ直し、椅子に座る。そして先程の二人を思い浮かべながら、再び再生ボタンを押した。

 

『ねえ筑紫ちゃん!』

 

『ララちゃん、どうしました?』

 

 俺は椅子から転げ落ちた。

 

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