ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか【完結】   作:畑渚

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最終戦

 朝、目を覚ますと一通のメッセージが入っていた。

 

『筑紫ちゃん起きた?今日は負けないからね。GLHF!』

 

 ララちゃんからだ。メッセージの時間帯を見ると、遅くまで練習していたらしい。きっと寝る前に送っておいたということなのだろう。

 

『はい、こっちだって負けません』

 

 私はメッセージを返し、布団から出る。今日は快晴で、室内でゲームをするにはもったいないほどだった。

 

「さて、私も準備し始めますか」

 

 PCを起動して、ゲームと配信ソフトを立ち上げる。カメラに被せていた布を取れば、私こと筑紫みやが動き始める。私が身体を揺らすのに追従して動く髪の毛が、なんともいえぬ可愛さを生み出している。

 

 自画自賛はこれまでにして、配信を準備する。もとから凝ったサムネイルや配信画面を使っているわけでもないので、数分もすればSTARTを押すだけの状態になる。

 

「さて、あーあー。マイクも大丈夫ですね。おっと、飲み物を先に取ってきますか」

<おっ?>

<こんつく~>

<画面まっくら?>

<休日やからといって朝はまだ眠いよ筑紫ママ>

<朝から練習とはやるなぁ>

<あれ?>

<画面真っ暗っておまかん?>

<いや、真っ暗やね>

<リロードしても治らないわ>

<お~い筑紫ちゃん?>

<音声もないな>

<てかこれ枠バグ?>

<わからん>

<いや、音あるぞ、かすかに>

<ホントだ、マックスにしたらかすかに聞こえるわ>

<なんかさ、水の音しない?>

<する。水というか、水の流れる音というか>

<これシャワーだよね……>

<ガタッ>

<ガタッ>

<REC●>

<あっ扉の音>

<お~い筑紫ちゃん>

<おはよ~>

 

「……」

 

<あれ?>

<まだ来てなかったか>

<帰ってきたらおこして>

 

「……」

 

<枠バグか>

<(でもシャワーの音入ってたよな)>

<(なんなら鼻歌までかすかに聞こえてた)>

<しっ言うな。アーカイブ消えるだろ>

<あっ>

<消せ消せ>

 

「……」

 

 しまった。やってしまった。

 帰ってきてみると明らかに異常な速度でコメントが流れているものだから、何をしてしまったのかと思ったら……

 

 飲み物を取るときに手が滑ってこぼしてしまい、服も濡れたためシャワーと洗濯をしていたのだが……どうやら配信がいつの間にか開始してしまっていたらしい。

 

「……えーっと」

 

<あっ筑紫ちゃん>

<こんつく~>

<何もなかった、いいね?>

 

「いや、その。完全に私のミスだと思うのでいいんですが、いや良くないですけど……」

 

<どうする?>

<アーカイブだけは!何卒!>

<切り抜き師~!!!>

 

「詳しくはマネージャーさんと話し合ってからにしますが、とりあえずアーカイブは消します。切り抜きもこの枠に限っては拒否しますので、無断で投稿されたものは通報しますね。それでは」

 

 慣れてきた頃だからだろうか、油断していた。

 もう一度配信を立てようとすると、画面端に小さく通知が表示される。

 

「配信サイトの仕様変更について……もう遅いですマネージャー……」

 

 その後のミーティングで聞いた話なのだが、私が配信枠を立てる5分前にアップデートが入り、運営陣も急いで仕様確認と通達に務めたらしい。しかし私の配信にはもちろん間に合わずといったことで……つまりは不幸な事故だったのだ。

 

「気を取り直して配信しますか……」

 

 今後は事故をおこさないよう、慎重に枠を取り直した。

 

 

❍✕△❑

 

 

「さあやってまいりました。KLM主催、ストリーマーカップ!今夜は豪華ゲストたちが集い最強の名を競い合います!」

 

 実況の声が画面から響く。数分遅延があるものの、まだ待機時間であったため、各々準備をしながら本配信を見ていた。

 

「うわぁ、緊張する」

 

「うちもこないな大会は初めてやさかい、緊張するわぁ」

 

「筑紫ちゃんは?緊張してる?」

 

「いえ、私は大丈夫ですよ」

 

「おーさすがやねぇ」

 

「頼りにしてるよ、筑紫ちゃん!」

 

 もちろん嘘だ。緊張はしている。しかし動きが固くなるほどではないし、むしろ集中力が高まって調子が良い。

 

「そういえば筑紫ちゃん……今日大変だったらしいね」

 

「ほんとうに、困りましたよ」

 

「マネはんも慌てとったもんね」

 

 すでに私の放送事故はVeG内で共有されており、ついでにSNSのトレンドにまで載ったらしく水城さんすらも知っているようだった。

 

「急な仕様変更は先に言ってほしいです」

 

「確かシャワー音も入ったんかいな?」

 

「……っ!先輩!」

 

「おちょくっただけやで~」

 

「もう……ほんとうに気づいた時は真っ青になったんですから」

 

「まあでも、おかげさまで」

 

「うん、緊張もほぐれてきたなぁ」

 

 それはなによりだが、後輩を出汁にしないでほしい。まったくこまった先輩だ。

 

「あっもう始まるみたいだよ!二人とも準備はできてる?」

 

「はい!」

 

「もちろんや」

 

「よし、それじゃあ一戦目、張り切って行こー!」

 

 筑紫みやにとっての初大会が、幕を開けた。

 

 

❍✕△❑

 

 

 各試合はあっという間に消化されていった。全5戦中、すでに4戦を終えた。

 

「うわぁ惜しかったね!」

 

「そやけど順位は伸びたで?集計はどうなってるんやろ」

 

「コメント欄の有志の方曰く、私達が現在7位だそうです。だけど2位まではたった3ポイント差、次の試合の結果では1位もありえるそうですよ」

 

「ほんまに?せやったら気合を入れ直さなね」

 

「よ~し、頑張ろう!」

 

 1位が少し抜けてはいるものの、10位以内のチームであればどこでも優勝が目指せる圏内、10位以下でも最終試合の結果によってはわからない、そんな状況だった。バランス調整が上手く言っている証拠だが、参加者側としてはソワソワとしてしまう最終戦だった。

 

「葵先輩、最後の試合のIGLなんですけど」

 

「うん?なんか気ぃつけななん?」

 

「はい。最終戦は『何が何でも』と上位を目指すチームが多くなる分、普段とは違う動きをするチームや強引な戦闘を仕掛けるチームが増えます。先入観にとらわれない指示が必要になります」

 

「なるほどなぁ。了解、気ぃつけとくわ」

 

「それと水城さん」

 

「ん?何かな」

 

「最終試合だけ、キャラクターを近距離戦のできるキャラに変えられますか?」

 

「うーん、できなくは無いと思うけど、ちょっと自信ないかなぁ」

 

「わかりました」

 

「ごめんね?変えたほうがいいよね」

 

「いえ、自信のあるキャラクターが一番です。ここ数日で今のキャラクターに自信を持てたのなら、それに勝る優位はないです」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

「それでは最終試合、集中していきましょう」

 

「了解だよ!」

 

「了解やで!」

 

 

❍✕△❑

 

 

 本当に楽しい数日間だった。

 私こと水城ゆずは、そう心の中でつぶやく。もう何度も降り続けた降下先を目指しながら、少しの間だけ過去を振り返っていた。

 

 この大会に呼ばれたときは、正直言って断ろうと考えていた。大御所という名は厄介なもので、こういったチームを組むゲームでは味方に重圧を与えてしまうことになる場合があるからだ。

 

「大丈夫です。絶対に水城さんが『楽しい』と思える試合にさせますから」

 

 最近伸びてきているVtuber事務所のVeG。その名は私の耳にも届いていた。そのCEOから直々にそう言われたのならば、私も首を縦に振らざるを得なかった。

 

 チームメイトを聞いた時に『接待』という二文字が頭の中に浮かんだのは、仕方のないことだろう。

 

 秋月葵。通称女将。普段はシミュレーションやストラテジーゲームをメインに活動しているが、そのゲームセンスは『いかに初見のゲームを早く理解するか』という点に長けている。

 

 そして筑紫みや。彼女のデビュー当時の騒ぎは私自身も観察していた。元プロゲーマーでその手腕は今も現役。そう言われている。

 

 そんな二人に挟まれてしまえば、たとえ私がいようと簡単に優勝できるだろうと思っていた。しかし、現実はそうではなかった。葵ちゃんはFPSの操作すらおぼつかないところからスタートだったし、筑紫ちゃんは難しいキャラクターしか使えないという縛りがあったのだ。

 

 そしてなにより、私はこのゲームを誤解していた。チームの平均値が高ければ勝てるわけじゃないのだ。

 

 そんな甘えが、私がこの大会のスタートダッシュを切りそこねた原因だったのだ。

 

「筑紫ちゃん!1パーティ来てる!」

 

「葵先輩!こっちに寄れますか?」

 

「水城さん?水城さん!」

 

「水城はんの方を狙い撃ちされとる!筑紫ちゃん、援護に行ける?」

 

「くっ、無理そうです」

 

 私達のチームは2チームから狙われていた。

 たしか筑紫ちゃんはこのランドマークを『キルムーブ前提の場所』だと言っていた気がする。最終安置から外れやすく、外側から安置内へと入っていくムーブをするためのランドマークだ。

 

「1パーティは倒しました!葵先輩!」

 

「ごめん筑紫ちゃん、私、限界やわ」

 

 葵ちゃんのキルログを眺める間もなく、前方から複数の射撃音が聞こえる。

 

「水城さん!」

 

「ごめん、筑紫ちゃん」

 

 油断?物思いに耽っていた?違う。私は……結局ずっと、味方に甘えていたのだ。

 

「絶対に蘇生しますから!」

 

 私はマイクをそっとミュートにして、声を噛み殺す。

 目の前には筑紫ちゃん一人が健闘している画面が、滲んで見えるのみだった。

 




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