当然ながら坂崎中隊長視点です
私の名前は坂崎都
「今月もキツイな…生活出来るか心配だ」
見ての通り寒風が吹く自分の懐に震える日本帝国軍に属する女性衛士だ。
私が中学の頃、筋金入りの正義感溢れるただの学生だ
拳だけは人一倍固くてな
「なんだ。一発で終わりか?」
「う……うわあ!?顔が凹んでる!」
「だから言っただろ!狂犬坂崎はダメだって!」
それで付いた仇名が……『青鬼』と『狂犬坂崎』、『狂犬』
そんな正義感を持つ私だが、曲がった事が嫌いだ
正規兵に任命されても変わらなかった
「そしたらその女がよぉ。突然脱いだんだよ」
「サイコ―じゃん」
「…フゥ」
電車の中で優先座席を座ってる学生…見たところまだ15か
お婆さんが困ってる姿を見て放って置けない私は優先座席に座ってるアホ学生に近付く
「おい、カス野郎。死にたくなかったらお婆さんに席譲れ」
「ああああん!?何だおばさん」
「もう死ぬババアより若い人間の方が大事なんだよ!消えろボケ!」
「何このおばさん、やっちゃおーよ?」
でも残念なくらいに世の中は曲がった奴だらけだ
私はアホ学生の一人に拳を直線的に突っ込んだ
「ゴラァ!」
ドガァ
「グエエエエエ!」
「か、顔が凹んでる!」
「年寄りには席を譲れ。あとおばさんじゃない…訂正しろ」
「はい!わかりましたぁ!」
弱き者を助けるのが強く生まれた者の責務…私のお婆さんが言ってたな。
だが、ある出来事で帝国陸軍白陵基地に左遷され現実を知った
私みたいな衛士にとって、世の中は厳しい
今日は休暇だ
と言っても一日だけだが…
「拙いな……仕事がない。完全に干されてる」
と不満そうな顔で呟くが腹が減った
「はあ……今、金がないのにお前は元気だなぁ」
悲しいかな……この体は燃費が悪い
幾ら女とは言え、腹が減っては戦が出来ぬ
まさに死活問題だ。
「また、おばさんに頼んでみるか」
そう言って見覚えがある定食屋を偶然見かけた
京塚食堂って名前で、名前の通り京塚のおばさんが切り盛りしてる店だ
私は食堂に入る
「ゴメンよ、やってるかい?」
「いらっしゃい!」
毎度毎度、本気で申し訳ないが背に腹は代えられない
この定食屋は私が中学の頃から世話になっている店でもある。
「なんだ、都ちゃんじゃないか!ほら遠慮せずに入んな!」
「へへ…ありがとう」
京塚のおばさんは相変わらずで元気で一杯だ。
「どうせ金がないんだろ?出世払いでいいよ!いつもの定食でいいかい?」
「おばさん…ホントありがと」
見た目は少々古いが、安くて美味いと近所でも評判の隠れた名店だったりする
そんなおばさんの店の最大の特徴は
「ふふ…来た来た」
「へい!お待ち!!」
誰でも満腹にしてしまうこの超特大ボリュームだ
私が頼んだのはカツ丼定食だ。
ガツガツとカツ丼を食べる私は満面の笑みを浮かべる
「かぁ!美味いな!生き返る!」
普通の人だったら、これ一食食えば一日は大丈夫ってくらいに腹持ちが良い
おばさんが採算度外視でこんな特盛料理を出すのは
「ありがとうおばちゃん!腹いっぱいだ」
「ああ、また来なさいな!」
お客さんに飯を腹いっぱい食って貰いたいからだ。
おばさんの子供の頃は戦後間もなくて食べる物もロクになかったらしい
配給制とは言え、国民全員に配られないほど深刻な状況だったんだろう
そして食料の奪い合いが頻繁に起き、毎日が腹減って極限状態で何とか餓死せずに済んだ。
「腹がいっぱいになるって事は幸せになる事なんだよ。今の日本人はそれを忘れてしまったね」
「おばさん、苦労したんだな」
子供の頃からこんな事を聞かされ続けたから、飯だけは残そうなんて気は無くなるさ
そんな思い出に浸りながらカツ丼を半分以上制覇した時だ。
「ここがそうなのか」
「そうそう、バカみたいに量があんだよ!」
チャラそうな男2人が店に入って来た
BDU(戦闘服)を着てる帝国軍の衛士…ウイングマークが付いてるから間違いないだろう
定食屋には何とも似合わない客なので思わず目で追いかけたが
「他人の事なんて気にしてる場合じゃないな。さっさと食おう」
そうして飯が一段落して食後のお茶を楽しんでいると…
「おいおい、本気か?」
おばさんが運んでいる料理を見て私は我が目を疑った。
あれはボリューム自慢なこの食堂の中でも一番の量を誇るスペシャルセットだ。
「飯大盛りに豚と鶏のカツ3枚、あとはスパゲッティ1人前だったな」
しかもそれを頼んだのはさっきのチャラい衛士だ。
「ほぇー」
「すっげー」
「おいおい食えるのか」
二人で一つを分けるならまだしも2人前だぞ
彼奴等、大食い選手か何かか?
そういや、このメニューが開発した時おばさんがこう言ってた
「これはね赤字メニューなんだよ」
「凄い量だ、これ…でも何で赤字なのに作るんですか?」
「そりゃあ決まってるじゃないか。若いもんが腹いっぱい食う所みたいんだ」
その時、おばさんは腹一杯食えば残していい………と言ったのだが
「腹が破裂しそうだ……もうお腹いっぱいだ」
「ははは!大きくなりなさい!」
無論、私は残さず食った……あんな話を聞かされてはな
どう食うのか気になっていたのだが…
「な?すげえだろ」
「おお、これ絶対みんなに自慢できるな!web日記で書くぞぉ」
彼奴等はインスタントカメラで飯の写真を撮り始めた
web日記と言っていたな…今食べてるスペシャルセットの事を書くのか?
「都ちゃん、あの人達何やってるんだい?」
「写真撮って何やらweb日記で食べた物を自慢したいそうですね」
おばさんは物珍しそうに見ていたが、私は嫌な予感が拭えなかった。
ああいう輩が名物料理を頼むのはあくまでweb日記を書いて自慢する事が目的だ。
「ヒャハッハ」
「いいねーいいねー」
「(頼むからちゃんと食ってくれよ……おばさんの思いを台無しにしないでくれ)」
しかし、現実は非情だ。私の願いは叶う事は無かった
「よし、写真撮ったから行くか!」
「おう!次だな!」
なんと奴等は写真撮っただけで一口も食わず大半が残して席を立った。
そして会計に入る
「おい、お会計!」
「つーか、一口も食ってないから半額にしてよ」
しかも唖然としてるおばさんにこんなふざけた事まで言い出す始末だ
これは客とおばさんの問題だ。口出しすべきじゃないと理解している
だが……これには流石に我慢できなかった
「なあ、お前等。一口くらい食え」
「はぁ?」
「何だお前?」
始めて来た此奴等におばさんの思いを理解しろというのはお門違いだ
分かってる…分かってる。けど
頼んだ料理を一口も食わないのは人としてどうしても納得いかなかった
「何?俺等に文句あんの?お前」
「そうじゃないが、せっかく作ってくれたんだ。少し味わうくらいには……」
「俺等が頼んだもんどうしようが俺等の勝手だろ?」
私は食って欲しかった。
それを止めたのはおばさんだ
「都ちゃん、もういいよ。失礼しました、1800円になります」
「おばさん……」
そうやって頭を下げるおばさんに私は情けない気持ちでいっぱいだった。
しかし調子に乗った奴等はさらにとんでもない事を言い出した。
「何言ってんだおばさん。アンタの知り合いが迷惑かけたんだぜ」
「ここはタダにするくらいの誠意を見せて貰わないとな」
此奴等……完全にこっちを舐めてる!
けど、おばさんの態度は変わらなかった
「わ、わかりました。お代は結構です」
「最初からそう言え」
事を荒立てないように不満や怒りを押し殺す
それは私にない強さだった
それならせめて奴等が残していった料理は私が食おう―――そう思っていた時だった
「へっ!」
ガシャァ
「こんなモンが何だってんだよ!!」
なんと奴等は料理が乗ったテーブルを蹴り倒していった
怒りを通り越して脳が沸騰するような感覚。
「ぐうううううううう………!」
あまりの腹立たしさに吐き気すら感じた
でも暴れて穏便にしようとしたおばさんの思いは裏切れない
その後、私が店を出ると…突然声をかけられた
「おい、ちょっと待て。テメエ―――お前ムカついたしヤッちゃう事にしたんだー」
「まぁ、運が悪かったと思って諦めな」
「ああ…」
それはさっきの2人組だった
「嬉しいよ…自分から戻ってきてくれるなんて」
「なんかカッコいい台詞」
「ビデオカメラ回しときゃよかった!」
喧嘩売ってきたのは貴様等だぞ
こんな腐った奴等はweb日記で書くなんて害悪に過ぎない
此奴等には相応な制裁が必要だな……………。
「食べ物を大事に出来ない貴様等に……前歯、全部不要だな」
貴様等の行為は他の者は許しても私は絶対に許さない!!
「おい!雑魚!良い泣き顔にしてくれよ!」
「俺達喧嘩強いから逆らわない方が痛くねーぞ!」
此奴等は私が衛士だってことを知りつつこんな事言ってるのか?
泣き顔になるのは貴様等2人だ!!!
「でやぁッ!」
ガンッ
「え?」
隙だらけだったからまずは一発くれてやった
「金を払ったら何をしてもいいわけないだろ……!このカスが!」
「グエエエ…歯が」
「うわああ!顔が凹んでる!」
今の一発で殆どの歯が折れただろう
「定食屋は飯を食う所だ。その気がないなら来るな」
「すいません…許して…」
「ダメだ、男なら掛かって来い」
拳を強く握り…
「食べ物を粗末にするな!大馬鹿者が!!」
ボガァ
「ブエエエ」
続いて私はアホ衛士その2の歯もへし折った。
こうしてチャラ男共を鉄拳制裁した後、おばさんに連れられて自首した
「と言う訳なんです。本当馬鹿でして…」
「すみません……」
「分かりました。坂崎、お前今日は一日泊っていけ」
やり過ぎだな……留置所行きだ。
すぐにカッとなるのは要反省だが、今回の事に後悔はない
「おばさん、辞めないで欲しいな」
あの店の料理はみんなの活力なんだ。このくらいでなくなるなんて悲しいものだ。
翌日、留置所から出た私は何事もなく白陵基地に戻ったが正門前に鈴乃が仁王立ちして鬼みたいな形相で怒った
「みんな都の事を心配してたのよ!一体何やらかしたの!?」とな
私が基地に戻っていないと心配した鈴乃は一晩中泣いてたそうだ。
声を押し殺して……すまない鈴乃、心配かけてしまって。
干されてるとは言え、鈴乃達に迷惑かけてしまったことは事実だ。
私が資料室で過去のBETAとの戦闘での記録を確認していた時、鈴乃が声をかけた
「都、少しいいかしら?」
「あ、あぁ鈴乃。すまないな迷惑かけて」
「全く…私は心配してたのよ。それより鍛錬付き合ってくれないかしら」
鈴乃からの頼みだ。断る訳がない
鍛錬か…そう言えば戦術機の模擬戦やシミュレーター訓練ばっかりで体が鈍ってきてる
白兵戦や格闘戦での訓練は久々だ
「分かったよ鈴乃」
そう答えると鈴乃は優しい笑みを浮かんだ
「ふふ、訓練学校以来ね」
笑みを浮かべたまま鈴乃は私を抱き締めた
「お、おい鈴乃?!」
私は戸惑いを見せたが鈴乃は妖艶な笑みで私の顔に近付き唇を重ねる寸前で色っぽい声で呟く
「都…私、貴女の事が好きなのよ。ダメかしら?」
「………」
「都の傍にずっといたい……おかしいよね。私達親友なのに女同士でキスだなんて」
鈴乃………。
私は鈴乃を抱き締め返し、顔を近付き目と目で見つめ合う
「鈴乃……私も鈴乃の事が好きだ」
と告白を添えた私だが、鈴乃は笑みを浮かべたままだ
「本当に?」
「本当さ」
互いの唇を重ねようとした次の瞬間、久我が資料室に入り私と鈴乃が抱き締め合ってる所を見られてしまった
「おいおい、お二人さん。そんな趣味あったのかよ」
久我は嘲笑いつつ揶揄う
私は開き直る
「ただの親友同士で抱き合うのが悪いと言いたいのか?」
鈴乃は頬を赤らめ照れる
私と鈴乃は親友同士…そう親友同士なんだ
だが、親友としての一線を越えてしまった
情けないな、私……。
でも好きであることは変わりないんだ。
「あー、お楽しみ中の所悪いが単刀直入で言うぜ」
私は久我の顔を見つつ鋭い目線しながら威圧をした
そして鈴乃も軽蔑した目で久我に向けた
「何だ?くだらない頼みなら断るぞ」
「グウウ…(クソ、なんちゅう威圧だ……だがここで怯んでは志願した意味がねぇ!)」
日本は徴兵制度がある
華太や久我みたいなヤクザが積極的に志願する衛士は珍しくもない
上は使えるだけ扱き使うからな……反社だから衛士になれないというのはそもそも古い考えだ。
あとは衛士の心得を勉強し常識を身に付けるだけ。
久我は私の威圧を怯まずハキハキとした声で言い放った
「リターンマッチで坂崎の姐さんと俺の勝負だ!」
ほぅ、私と再戦か。
1対1の鍛錬なら問題ないが
「………」
鈴乃の鍛錬と付き合わなければならない
参ったな…ならば
「久我、私から条件がある」
「何でも聞きますぜ」
「2対2で勝負だ。そうだな……」
何処でやるか………?
私は考え込む
「……折角基地にいるんだ。射撃場でやらないか?」
私はそう言い放ちつつ笑みを浮かべる
そして久我はニヤリと笑みを浮かべ言い返す
「クク、射撃勝負ですかい?いいぜ。受けてやる!」
決まりだな
「では私と鈴乃のペアで行こう。お前は誰とペア組むんだ?」
「何言ってんすか坂崎の姐さん、俺は大倉大尉とペアを組む」
「え?!」
ほぅ、そう来たか
鈴乃も私と鍛錬したかったし一石二鳥だ
「久我……」
鈴乃は不満そうな表情を浮かべるが私は誇らしげな笑みを浮かべた
久我は私に言い放つ
「坂崎の姐さんは誰とペア組みます?」
誰と組もうか………?
私がそう悩んでいると…
「ん?」
「あ…」
先端のみが黄緑色となった青緑の髪の毛を持ち、帝国軍のBDU(戦闘服)を着用している前髪のみを赤いピンで留めてバックにしたおかっぱの髪型の男性が現れた
「里中か。丁度いい所に来たな」
「な?!里中だと!?」
おや?久我の知り合いか。
「ん?知り合いなのか」
「え?いや俺の1年先輩っス」
何という境遇なんだ
これは逃げられないな……。
里中は嘲笑いつつ久我に言い向ける
「久我、調子に乗ってんじゃねえぞ!テメエより俺の方が上だって事を証明してやる!」
ほぅ、上に上り詰めたいのか。
ならお手並み拝見させて貰うよ
「徴兵されたのか…?里中」
「ああ、そうだ。今の世の中は反社の人間を徴兵し戦力を増強してるからな」
「そうなのかよ……」
これは面白くなりそうだな
「都、この人って」
「言うな鈴乃、軍の上層部は戦力増強する為に手段を選ばないからな。何としてもこの戦いを終わらせたいのだろう」
衛士界隈は人不足だ。どの国の軍隊でも戦力を欲したいのだろう。
それが反社の人間だろうがなかろうが無関係だ。
と言う訳で話が纏まったところで私達は射撃場へ移動した
射撃場に入った私達は2人ペアを組み、所定の位置に着く
久我は嘲り笑いで私にこう言い向ける
「坂崎の姐さん、俺が勝ったらデートに付き合って貰うぜ」
「勝てたらの話だがな。生憎私は好きな人いるんだ」
里中は久我に嫉妬し見栄を張る
「お前な…どさくさに紛れてデートのお誘いするな!」
「笑わせるな雑魚が。テメェなんか欠伸より遅いスピードだろうが」
「へッ、俺はな坂崎大尉に気に入られたい為に今まで以上鍛錬してたんだよ!」
「へぇー、そうなんだ……だってよ坂崎の姐さん」
私に振るな!
だがこう言われては引き下がるわけにはいかない
私はニヤリと笑みを浮かびこう言った
「では3回、的の真ん中に当てれば私とのデートする権利を与えよう」
久我は調子に乗り凄みある笑みを浮かぶ
「よっしゃ!そう来なくては盛り上がれませんぜ」
「先攻後攻決めるのはじゃんけんで決めよう」
久我と里中の2人でじゃんけんで先攻後攻決める
互いに「最初はグー!じゃんけんぽん!」と言葉を添える
そしてあいこになったら再度じゃんけんする
5回目のじゃんけんで久我はチョキを出し里中はグーを出して勝った
先攻は私と里中だな
「よし!勝ったぞ!」
「グウウ、チキショ―!」
使用する拳銃は無論エアーガンではなく本物の拳銃だ
私は拳銃を構え的を目掛ける
集中だ……集中!
弾丸を放ち、的に命中。
「腕は鈍ってないようだ」
「次は私ね」
鈴乃も拳銃を構え的に目掛けて弾丸を放つ
ヘッドショットだ
「ふふ、こんなもんね」
「おぉ…大倉大尉すげぇ…!」
里中が拳銃を構え的を狙う
「ナイフばかり投げてる訳じゃあないんだぜ久我」
「くっ…(彼奴、口だけ一人前だな)」
そして弾丸を放ちヘッドショット
ふむ…里中はナイフばかり投げてはいない事は理解した
「やるな…俺の番か」
久我も的に目掛けて弾丸を放つが……外れてしまった
「ッ!!?(端寄り過ぎてしまった!)」
「何処を狙っているんだ久我」
「ぐ…すみません」
で、私の番に来た。
その繰り返しだ
30分の攻防戦で射撃訓練は繰り広げたが50回目で勝機が決まる
「久我、射撃センスはいいと見た」
「へへ、どうも(さっきから余裕の表情してる…あの坂崎都大尉だ。自信はあるだろう…だがな…俺は負ける訳にはいかねぇんだ!)」
その時、久我の目は闘志を燃やす
「ふぅん…」
私は久我の目を見て闘志を燃えて来た
本来なら久我と里中の一騎打ちだが…
「里中、代われ」
「あ、はい…」
里中は大人しく私と交代
「お、坂崎の姐さんと一騎打ちか…」
「ふふ、久我…お前を勝たせる訳にはいかない。本気でやらせて貰う」
私は凄みある笑みを浮かべ、久我に言い放った
「俺が勝ったらデート付き合って貰いますよ」
久我は本当に私を敗北させデートするつもりだな?
鈴乃は私に応援の声を掛ける
「頑張れー!都ー!」
里中も便乗する
「坂崎大尉、負けないでください!」
「あ、テメエ!裏切る気か?」
「裏切ってねえよ。ただ久我が坂崎大尉に負ける姿を見たくて見たくてたまらねえんだ。ハハハ!」
「ぐ……!(里中、徴兵期間終わったら覚えとけよ…!)」
本気の一騎打ちだ
さあ、決着を付けようか
「勝っても負けても恨みっこなしだ」
「その言葉そのままそっくり返させて貰いますよ坂崎の姐さん!」
互いに引き金を引き的に目掛けて弾丸を放った
そして結果は……
「………」
「……」
引き分けとなった
里中は目を擦りこれは現実なのか?と悟る
「おい、嘘だろ……久我が」
「都が、引き分け…」
勝負は決まり、引き分けとなった
これで射撃訓練は終え、4人共お腹が空きPXに向かった。
私達はPXで昼食を取りつつ雑談していた
余談だが、4人共全員カツカレー定食だ
久我が妙な事を言い出した
「坂崎の姐さん」
「何だ?」
「……風の噂によると上層部は反社に属してる衛士を一掃する作戦を企てているらしい」
こんな時に衛士を斬り捨てるのか?
無謀だ…こんなの
戦力が削られるだけだ。しかし
「……くだらないな。この状況下で衛士を斬り捨てる訳ないだろ」
私は信じない
里中は会話に割って入る
「なあ久我、それが事実だとしたら俺達の立場ヤバくねえか?そもそも誰が企てているんだよ」
「橘っていう将校だ。彼奴は俺達極道の事軽蔑してるからな。根っからの反社嫌いだ」
私と鈴乃は「?」という顔つきを浮かべる
「馬鹿者、橘っていう将校が反社の事を快く思わないのは理解できないとは言えないが、軍内で問題を起こすヤクザ衛士がいるから彼は上層部と直談判して踏み切ったんだろう」
華太も極道だったな…彼奴の立場が危うくなると言う事か
そんな事は束の間、私はカレーを口に放り込んだその時PX内で食事してる他の衛士の会話が聞こえて来た
「おい聞いたか?俺達朝鮮半島に派遣されるらしいぜ」
「朝鮮?そこって」
「ああ、俺達は南側の韓国に派遣されると思う」
朝鮮半島か……確かにあそこはBETA侵攻阻止する最前線だ
「北側の朝鮮自治区ってあまり良い噂聞かねえし、足引っ張ったり何も成果得てなかったらその場で処刑されるらしい」
「うわぁ…酷いなそれ。北側に派遣する衛士達が気の毒だな」
「良かったな。韓国に派遣されてさ。あそこは恵まれた環境で食事摂れるから安心だ」
…………。
私はそれが本気なのかどうなのか、衛士2人の顔を見返すほど妙な気持ちになった
「……鈴乃、私達朝鮮半島に派遣されたら何処だと思う?」
「何処って……?」
「北側だろうな。確かあそこに派遣された衛士達は冷遇されてる人達ばかりだ」
「え…?都、何言って」
少しブルーな気持ちだ
まだ確定したわけではないが、私達は北側……朝鮮自治区に派遣される
「坂崎の姐さん、言ってなくて申し訳ないです」
ん?久我…何を言おうとしてるんだ?
「?」
「昨日、上層部から呼び出されて俺と里中は南側の韓国に派遣される事になったんスよ」
嘘だろ…とは言えない。
久我の目を見ると濁っていない
どうやら本当のようだ………。
「そうか。暫くは会えないな」
「姐さんと鍛錬に付き合えないのは心苦しいです」
食事を終え、鈴乃と共に私の個室に行こうとしたが、一人の将校が現れる
「坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉。基地司令室に来るように」
不安が襲い掛かり、頭を悩ませたまま私と鈴乃は基地司令室に連れていかれた
基地司令室に連行された私と鈴乃は目の前に椅子に座ってる冷徹な目線をしてる基地司令官が命令を出した
「坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉2名は明日から朝鮮半島の派遣任務を遂行して貰う」
互いに腹に力を入れ、平静を装う
「場所は……朝鮮自治区主都平壌だ!」
やはりか……私達をぼろ雑巾として扱いそこで死ねと言うのか
いや、ダメだ。逆らってはいけない
私達に与えられた任務だ
「2人共異論はないな?」
「ありません」
「以上だ。今日荷物を纏めて出動できるように準備だ」
…………。
「下がれ。行っていいぞ」
「は!失礼しました!」
私と鈴乃は基地司令に向け敬礼し、真剣な表情を浮かべつつ基地司令室から立ち去った。
それから暫くは慌しく平壌行きの準備の日々が続いた。
そして今日。出発の日を迎えることができた。
北朝鮮での派遣は急遽決められたものだったのだが、向こうは私達がこの過酷な環境を耐えられるか試してるのだろう
そして現在 帝国軍入間基地滑走路
出発準備をした私と鈴乃は待機所にて、軍用輸送機に物々しく撃震2機が搭載されるのをなんとなく見ていた。
機体全体を防護シートにくるまれ、厳重な警戒のなか輸送機に運ばれている。
「平壌か……分かってると思うが私達は観光に行く訳ではないからな」
「ええ、分かってるわ…都」
鈴乃は突如、私の背後から抱き締める
「私は貴女について行くわ」
私は気持ちを隠さず嬉しそうな顔をする
「鈴乃…お前さえいてくれば私は嬉しいよ」
搭乗時間になる少し前になった
そこに久我と里中が見送りに来るのが見えた
2人が私達の前に送ると敬礼で挨拶をする。
「お見送りに参りました。坂崎大尉」
「うむ、見送りご苦労だった。そっちは準備できたのか?」
「ええ、俺達韓国行くの初めてっスよ!」
「……」
観光に行くんじゃないぞ…里中
全く自分の立場は理解しているものの肝心な事を忘れてしまったのか。
「存じてると思いますが朝鮮自治区はベアトリクス・ブレーメっていう女が支配してる区域っス」
「ベアトリクス・ブレーメ……」
東欧州社会主義同盟の総帥……東ドイツでのウルスラ革命で勝利を掴んだ後、ベアトリクスは早速行動に移し朝鮮半島北部は支配下に置いたとか。
何にせよ社会主義の影響下にある所だ。油断は出来ない
「忠告感謝するよ久我」
「坂崎の姐さん、必ず生き残ってください」
「馬鹿者、私はそう易々と死なないよ」
私と鈴乃は輸送機に搭乗し、2人に見送られて出発した。
高度が上がり、離れていく滑走路を見ながら思う。
まさかこういう形で日本を出るとは思わなかったな。
鈴乃も何やら思うことがあるのか、窓の外を名残惜しそうに見ている。
ふと私の方に向き、陰りのある顔で言った。
「朝鮮自治区……ここが私達の派遣先ね」
「そうだな…」
私は鈴乃の隣に寄り添い手を握った
「都?」
「暫くこうさせてくれ。少し落ち着きたいんだ」
私達は航空戦術機輸送機で朝鮮半島北部の朝鮮自治区にある平壌基地へと向かっている。
数時間の空路での狭い客室の中。私と鈴乃とただ、親友として愛し合ってる仲である
海外派遣での任務はこれが初めてだ
「…私は貴女の事大好きよ。都」
鈴乃は優しい笑みを浮かびつつ言い放った。
輸送機は無事平壌空港の滑走路に着き、私達はその地に降り立った。
平壌空港は平壌基地の敷地内にある空港だ。
軍用滑走路と民間滑走路の2つに分類されている
私達が見た光景はそれはまさに
「嘘だろ…ここが本当に韓国の一部だって言うのか?」
社会主義建築を象徴する建物や銅像、朝鮮軍の兵士達や将校の胸に付けてるのはベアトリクスの肖像画があるバッジを付けていた
「一体何がどうなっている?」
季節は冬…防寒具着てる人達が多い
鈴乃もこれには驚いた
「…日本人、見かけないわね」
「そうだな…」
空港内は民間人の姿は少なく大半が軍人だ
いたとしても軍の関係者だろう
基地の敷地内である空港の中に迷った私達は呆然としていた
しかしそんな中、黒髪に金髪メッシュの髪型にチェーン付の丸メガネが特徴の青年とトップの部分を水色に染めた(後頭部は黒髪)長髪をハーフアップにあしらった髪型で、水色の瞳の色を持つ端正な顔立ちの青年の2人が空港内で楽しく話していた
この2人は関西弁喋ってる……日本人だ。
帝国軍の制服に衛士の証であるウイングマークが胸についてる
私は2人に近付こうとしたがその前に男一人が私に近付いてきてとびっきりの笑顔を私に向けた
「アンタは坂崎都大尉やな?」
「そうだが…(何故私の名前を知っている?)」
この男は普通の衛士ではないと理解した
相当数の人間を葬っている
「おおっ、やっと『狂犬坂崎』と出会えたわ。俺は幸せな気分や」
「それは城戸の兄貴だけやと」
「つれないなぁ~」
敵意は無い……一応味方側、だよな
「あ、申し遅れましたわ。俺は天王…いや日本帝国軍八尾駐屯地第326戦術機中隊の城戸丈一郎や。階級は坂崎はんと同じやで。でこっちは浅倉潤……」
「どうも…」
ふむ…大阪か
関西弁話すの納得できる
城戸と言う男は恐らくヤクザだろう
その嬉々した表情を見れば…
「白陵基地から派遣した坂崎都大尉だ。嬉しいよ―――同じ日本人と出会えて」
「ホンマでっか?!」
城戸は笑みを崩さず鈴乃の方に目線を向ける
「そちらの別嬪さんは?」
「大倉鈴乃中尉だ」
鈴乃は城戸に向け敬礼をする
「おぉっ、大倉はんやな?覚えとくで。俺はなんて幸せなんや」
幸せ………か。
衛士になってから私は幸せを掴めたのだろうか?
いや、異星起源種と戦う日々送ってるから普通の女とは程遠い
しかし掴められないとは言えない――――鈴乃も恐らく普通に彼氏作って家族を作りたかっただろうな
まだ22歳だ。この先チャンスは幾らでもある
「ここから伝説つくるでえ。俺は幸せな人間やなぁ」
「はぁ…」
そういう訳で私と鈴乃は城戸と浅倉について行く形で平壌基地に向かった。
基地の中に入ると、そこにはベアトリクスの肖像画やその部下と共に写ってる写真が何百枚も壁に貼っていた
「ぐ…!(ベアトリクスの写真が沢山ある…)」
正直頭がおかしくなりそうだ
「都、ここって…」
「ああ…(完全に赤く染まっている…何なんだここは?!)」
頭を抱えていたら、私達の前に朝鮮軍の将校が現れた
「日本の衛士だな?案内してやる。付いて来い」
言われるがまま私達は将校について行く
将校に案内されたのは会議室
「この中にお前等の他に日本人はいる」
不貞腐れた顔でそう言い残し、去っていった
「何やら不穏な空気流れてますなぁ」
「何やあの態度……それに壁がベアトリクス一色やわ」
確かにそう思う。
だがこんなところで止まってる訳にはいかない
私は扉を叩いて「失礼します」と一言を添えてから会議室の中に入った
その中にいたのは日本人ばかりだ
そして――――――一人の男と再会する事になる
「ん?お前は…」
「華太?華太なのか?」
そう、松本駐屯地にいる筈の小峠華太と北岡隆太、その他諸々の衛士だ。
「都か?何でここにいるんだ!?」
「上層部から命令下されただけだ」
「下されたってお前……」
どうやら呆れているようだ
状況が全く掴めていないだろう
「坂崎はん、知り合いでっか?」
「ああ、私の……」
私の恋人―――――んん…言いづらい。
別の言葉で言うか。
「私の旦那となる男だ」
「は!!?(都、お前……う、嬉しいけどよ。ここで言うなよ)」
私がこう言うと、城戸は優しい笑みを浮かべる
「坂崎はんの旦那さん候補ですか…よう似合ってますわぁ」
「城戸の兄貴、あの男はもしや…(田頭組の小峠華太に北岡隆太。ここで会うとは思わんかった)」
浅倉は小峠の方に目線に行く
「知っとるで。田頭組の小峠華太やろ?」
「城戸の兄貴は知ってたんですか」
「当たり前のクラッカーやで!」
………ギャグが古過ぎて寒くなって来たぞ
華太は作り笑顔で城戸に接触する
「アンタは天王寺組の城戸か?」
「小峠はん、ここでは組の揉め事は御法度や。それに俺達は今お国のために戦う衛士や―――気楽にいこうや」
城戸は華太に明るく接した
………そうか。そう言う事だったのか
上層部にいる連中は私と鈴乃を冷遇しここに送り込んだ
この場にいる衛士達はアウトロー…所謂荒くれ者だ。
まさか私と鈴乃は荒くれ者扱いされてるのか?
………否定は出来ない―――――華太も同じ類だし、渡世に生きてる
「ああ、ここでは組同士の争いはなしだ。分かっているさ」
「ほな、仲良くいこか」
嬉しい表情を浮かべる城戸は華太と楽しく話している
その時、会議室に将校2人が入って来た
帝国軍の制服を身に纏ってるが、この風貌は普通ではない
この2人もヤクザか。
一人目は厳つい印象を与える強面な男で、頭髪をオールバックか…ここではめったに見られないヘアースタイルだ。
「おお、坂崎はん。あの厳つい男が伝説の男と呼ばれる工藤っちゅうヤクザや。田頭組の構成員やけど彼も徴兵されたらしいな」
「伝説の男…?」
裏社会での界隈で有名な男なのか。
城戸は凛々しく言葉を言い放つ
「帝国軍では中佐待遇……第1006戦術機連隊の長を務めてる。ここでもご立派に出世しよったで」
工藤と言う男の姿を見ると年齢は50代
城戸の奴は彼の事を知ってるみたいだ
「俺達がいる界隈の間ではドスの工藤と呼ばれとる。ごっつい男やから口には気を付けた方がええで」
「忠告感謝するよ」
…で二人目は非常に素行が悪い将校だな
警戒しておこう。
「此奴は京極組の泉屋やな。文字通り素行が悪いヤクザや」
城戸はベラベラと喋ってるがもうすぐブリーフィングの時間だ。
口を閉じた方が良い
幾ら同じ階級でも節度ってものがある
私はブリーフィングの内容を聞き集中した
工藤中佐がドスを聞いた声で言い放つ
「俺は第1006戦術機連隊を任された工藤清志中佐だ!お前等よぉく聞けッ!」
工藤の言葉により私含め他の衛士達は直立不動
皆真剣なんだ。
「いいか?我々は日本帝国軍の衛士としてここ朝鮮自治区に派遣された。それだけは覚えとけ。ここにいる以上は現地の軍人の言う事を聞かなきゃあならねえ。でねえと異星起源種と戦う前に殺されちまうからな」
つまりこの自治区を守ってる衛士や将校の言う事を絶対に聞けと言う訳か
戦う前に殺されるって…まるで社会主義国家そのものじゃないか
私は工藤中佐の話を聞きつつ挙手する
「上申し上げます!」
「ん?お前さんは坂崎都大尉か。姉ちゃんの事は聞いてる。とある教団をぶっ潰したってな…」
とある教団は恐らく、もう関わる事は一切ないと等しい宗教団体だ。
「で、質問してぇんだろ。何だ?」
私は勇気を振り絞って言葉を投げかけた
「……何故現地の衛士や将校の言う事聞かなければならないのですか?この戦域は中韓連合軍の管轄下ではないのでしょうか」
この戦域は中韓連合軍の戦域だ。
私の質問に工藤中佐はとんでもない答えを言った
「大尉、ベアトリクス・ブレーメって女傑衛士知ってっか?朝鮮自治区はな、ベアトリクスの支配下なんだ」
え?何を言って…あ!何かおかしいと思ったらそう言う事だったのか。
私は察した
「どうやら察したようだな大尉。でもよぉ、俺達みたいな荒くれ者を手を差し伸べたのはベアトリクス・ブレーメ総帥閣下……彼女が救ってくれたんだ。彼女には感謝しきれねぇ」
「……何故ベアトリクスは反社を?」
「俺達の目を見て『良識ある人間』だと判断し生かしてくれたんだ。東ドイツの反体制派にとっては邪魔な存在だっただろう。あのウルスラ革命で―――彼女は勝利を掴んだからこそ今の俺達がいる」
………私は言い返す言葉がなかった
ベアトリクスが、日本のヤクザを救った?
どう言う事なんだ?意味が全く分からない
「では逆に聞くがなぁ、坂崎大尉はもしよぉ…ウルスラ革命で東ドイツ反体制派が勝っていたらどうなってたと思う?」
工藤中佐の質問に対し私は複雑な表情でこう言い放った
「東ドイツは――――国全体が大混乱してたと思います。そして半グレやテロリストの連中は野放しになり世界各国はBETAとの戦闘に優先し世紀末みたいな世界になると思います」
「そうだ。反体制派の連中が革命に勝利したら今の俺達は既にいねぇって事だ!それだけは覚えとけ」
理解不能だ…しかしベアトリクスがそこまでやったとは思えなかった
「本題に入るぞ。まずここは平壌だ。今のところはBETAのクソ共の支配下になっちゃあいねえが―――――何れ最前線になることは避けられねえ」
BETAが朝鮮半島を侵攻している……どう足掻いても避けられない
「豆満江がBETAの支配下に落ちた――――そこにいる衛士達も恐らく全員やられてるだろう。しかし攻めていくどころか上層部の連中が全く動こうとしねぇ」
我々帝国軍衛士は上の命令がないと動けない
工藤中佐が言ってる事も理解できない訳ではないが現状維持というわけにはいかない
「これは朝鮮自治区を支配してるベアトリクスの策だろう。国の叛乱分子をBETAの餌として食わされてる」
「食わされてるって…」
「そのままの意味だ。とにかくだ!朝鮮自治区の人達を怒らせないように肝を命じておけ!以上だ」
工藤中佐はそう言い残し泉屋と共に会議室から出て行った
このまま基地の中にいるのは息詰まると判断した私は平壌市街へ散策することにした
無論、工藤中佐の許可を貰った
一人で行くのは危険なので鈴乃と華太を連れていくことになった
鈴乃は不服そうな顔してたが本当は私と一緒についていく事だけで心の底から喜んでいた
華太は平壌市街の中に歩くだけで常に警戒している
韓国とは違うからな……無理もない
数時間後、私達が向かった先は金九広場とユルゲン思想塔
「おおっ、これが金九広場…広過ぎだろ」
華太は子供みたいに驚いた表情を浮かべる
鈴乃は少し笑みを浮かべた
「ねぇねぇ都、あそこにあるお城みたいな建物は?」
「ああ、あれは人民大学習堂だな。軍事パレードで使用される主席壇があるだろ?あそこにはベアトリクスとアイリスディーナが手を振ってるんだ」
「え?!アイリスディーナってあの666中隊の?でも何でここに…」
理解できないのは無理もない
革命に勝利したベアトリクスはすぐに行動を移し、東欧州社会主義同盟を設立させ朝鮮半島北部を支配下に置いた
救国の女神と謳われたアイリスディーナは総書記という肩書きを与えられた
無論、本人は納得していなかったが状況は状況だ。
それに対し敗北した反体制派は機能不全となり空中分解した挙句にそのリーダーだったズーズィ・ツァプは半グレに成り下がり荒れていったという
「666中隊は戦力の要の一つだと判断したのだろう。代役はいないから生かしたんだ」
「成る程…」
「アイリスディーナ・ベルンハルトの代わりはいねえからな。彼女…いやベアトリクスとアイリスディーナ2人が死んだらそれこそ全体国家としての東ドイツは終わっていた筈だ」
と華太はユルゲン思想塔を眺めながら煙草を一服するが
「吸うのはいいが後始末はするんだぞ」
「分かってるよ」
ここでも朝鮮軍の兵士が見張られてるからな。油断できない
もし捕まったら私達は教化所というところで収監され二度と日本に帰れなくなる
下手な行動はできない
「次はどこに行くの?」
「喫茶店に行ってコーヒーを飲もう。それから万寿台にある金九銅像とベアトリクス銅像を拝もう」
金九広場を後にし、小休憩で喫茶店に向かおうとしたが一人の女性に声を掛けられる
「そこの日本人止まりなさい」
「?」
顔を見てみると、欧州系の女性だ
この顔立ちは…ドイツ人だと!?
まさか東欧州社会主義同盟の人間か!?
この女、どこかで見たことある…。
明るめの茶色の髪型にサイドテール…。
「まさかお前は…」
カタリーナ・ディーゲルマン。彼女はベアトリクスの部下である女性だ
当時はヴェアヴォルフ大隊のアイドル的存在と扱われていた
彼女が何故ここにいるのか察した
カタリーナは私の顔に近づき目の奥を覗いた
「ふーん、目が濁っていない…だけど演技の可能性は否定できないわ。名前と所属は?ここに来た理由は?あと朝食食った?」
質問を投げかけたカタリーナは意外と仕事を成し遂げてるようだ
私の答えは決まっている
「…日本帝国軍第1006戦術機連隊の坂崎都大尉だ。基地でいると息詰まるから上官の許可を得てここに来たまでだ。あと朝食はちゃんと食ってきたぞ」
その答えを聞いたカタリーナは無邪気な笑みを浮かべる
「あら?そうだったのね。変なこと聞いてごめんなさい」
「いいんだ。私達はここに派遣されて異星起源種との戦いを備えているんだ」
カタリーナの纏うオーラは半端ではない…これまで数多の修羅場を潜り抜け何人かの人間を殺めている
目は普通の女性に見えるが、シュタージという東ドイツの秘密警察にいたからか当然殺しの経験をしている
「ヴェアヴォルフのアイドル――――か。私達に何の用だ?」
「何の用?決まってるじゃない。貴女を拘束するのよ。そこの2人もよ」
ッ!
「罪状は?」
「国家反逆罪よ」
「国家反逆罪……?私達が何をしたというんだ!(ここは韓国の自治区じゃなかったのか!?)」
「勘違いしてるようだから言っておくわね。ここはもう国の一つなのよ」
何を言って………?
やってもいない罪を私達を擦り付けようとしているのか!?
最悪だ―――――。
日本の地を二度と踏み込むことができないと悟った私だがその時、華太が私達を擁護する
「坂崎大尉は何も悪いことしちゃいねえ。俺達に何の恨みがあるんだ?」
そしてカタリーナに威圧を掛ける
「ッ!!!(この男、何なの!?)」
「罪をでっちあげしてまで都を連れていくのか?ブチ殺すぞゴラァ!」
半分ビビったカタリーナだったが、東欧州社会主義同盟の衛士としてのプライドがあるからかそう易々と引き下がれない
「何?私とやる気なの?いいわよ…かかってきなさい。遠慮せずに」
カタリーナは華太を挑発し先を出させようとする
しかし
「俺らみたいな荒くれ者を救いの手を差し伸べたのはベアトリクス・ブレーメ総帥だ。その総帥閣下の側近であるアンタには手出ししねえ」
「は?何を」
「二度も言わせるな。アンタ達が革命に勝利したおかげで俺達は今ここにいるんだ。感謝してるぜ」
私は華太が何を言ってるのか少し理解したような気がする
その言葉を聞いたカタリーナは困惑しつつ小さな笑みを浮かべる
「わ、分かればいいのよ!この自治区は国として独立する時が来るのよ。ブレーメ総帥は本当に生きる価値がない外道を葬ってるのよ」
カタリーナは突如、悲しげな表情を浮かべ言葉を放つ
「私達はそんなにいいイメージじゃない事はアンタ達でも分かってるでしょ?『シュタージは悪だ』『シュタージなんか消えればいい』『ベアトリクスはアクスマンとシュミットと同類だ』とほざく人間が沢山いるわ――――――でもね、反体制派の言い分も少し理解できる。だけど遊び半分で革命に参加した人間は分かり合うことはないのよ」
言葉が震えて涙を流した
血涙、憎悪、悔恨の意を表していた
当時、東ドイツはシュタージを率いるエーリヒ・シュミットによる独裁政権で統治していたがベアトリクスが筆頭のモスクワ派とアクスマン率いるベルリン派と2つに分かれ政治的対立。政治体制は崩壊寸前といっても過言ではない
ウルスラ革命が勃発し東ドイツ国内は大混乱。
その最中、シュミットはベアトリクスに暗殺されアクスマンはアメリカに亡命しようと試みたがそれは叶わずアネットの手により射殺された
そして、ベアトリクスは666中隊にいたイングヒルトの策略、工作により革命に勝利を掴んだ。
シュミットが政権率いていた頃は無差別で不特定多数の罪なき人間を粛正したことは確かだ
家族、親友、親戚、学校の教師、恩人等自らの保身によりシュタージに売り飛ばした
善悪問わずだ
ベアトリクスが東欧州社会主義同盟総帥として君臨した後、『本当に生きる価値がない人間』を葬り始めた
対象とするのは悪人……善人は粛正しない。
もしベアトリクスが革命で敗北し反体制派が勝利を掴んだらどうなっていたか私達は理解している
半グレやテロリストが増殖し世界各国が『BETA大戦下でテロリストの相手にしてる暇はない』と口実で野放しにした可能性は高いだろう……。
「私達はあくまでも本当に生きる価値がない外道と半グレを対象としている。リィズ・ホーエンシュタイン曰く『誰にでも幸せになる権利がある』と言ってたけど世の中はそんなに甘くないのよ。他人を傷つける奴がいたら粛正するしかないのよ」
そっと涙を拭い冷静を保つカタリーナは明るく振る舞う
「ごめんね。暗い話だったよね…それよりこれからどこに行くの?案内してあげるわ」
なんと私達に観光案内しようとしたのだ
有難い話だが、私達はあくまでも息抜き―――観光旅行に来たわけではないのだが
「ならお言葉を甘えさせて貰おう」
「都!」
「大丈夫だ。工藤中佐から事前に許可を得ている。それにだ――ここ平壌はまだ最前線ではない。この風景がなくなる前に今のうちに見ておくべきだ」
鈴乃は不安そうな顔しているが華太は嬉しそうな顔をしていた
「鈴乃、もう二度と見れなくなる風景だ。今のうちに焼き付けておこう」
「華太……ふふ、全くしょうがないわね。分かったわ――――都、付き合ってあげるわ」
「決まりだな」
そして私達はカタリーナが事前に手配した車に乗り込み万寿台へ向かった。
いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は朝鮮半島北部での派遣任務…所謂北朝鮮ですね
北朝鮮っていう国は本来なら原作本編には出てこないし存在しない国なんですよ。
そこで独自解釈で『朝鮮半島北部はベアトリクスによって支配され、北朝鮮という戦闘国家が樹立する』という事なんです
金九という韓国の政治家なんですが史実では暗殺されてるんです
ただ、史実とは全く異なり『李承晩がいない朝鮮半島』という事になりますね
勿論、史実世界で北朝鮮を支配する金日成、金正日、金正恩の3人は存在しません。
だからマブラヴ世界での北朝鮮は実質的にベアトリクスが支配してる国という設定なんです。
金九の銅像の隣にベアトリクスの銅像があるのはその為です
何が言いたいかというと史実世界の朝鮮半島とマブラヴ世界の朝鮮半島は全く別物なんです
シュヴァケンアニメ最終回を振り返りましたがあの時アネットがギリギリのタイミングでアクスマンを射殺していたらアイリスディーナは生き延びた可能性は高かったと思いますね
それでも作品の構成上反体制派が勝利することは変わらないし仕方ないけど(-_-;)
マブラヴアニメは甲21号作戦は終了しクライマックスに迎えつつあります。
臼杵咲良、まさか生き延びていたとは思わなかったです
戦死すると強く思ってましたが………この先どうなるんでしょうね(-_-;)
次回も朝鮮半島の派遣任務です!
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた