都Side
私の名前は坂崎都
「やっと日本に帰って来れたよ…」
日本に帰国し漸く安全圏に入り出世の道へと踏み込めると思い込み希望に胸を膨らませる日本帝国軍の女性衛士だ
私が衛士の道に志す前、『狂犬坂崎』と呼ばれていた。
どういう訳か喧嘩が強過ぎた
「何が”狂犬坂崎”だぁ!化けの皮剥がしてやるよ!!」
「お前、何でウチの生徒を殴ったんだ?」
何故か全国の喧嘩屋に寄って来たんだ
私は圧倒的に強かった
「ハァッ!」
ガッ
「ごふ!」
草食動物の中に獅子が紛れ込んだくらいに
「口先だけで…殴った人に土下座して慰謝料を払え」
「ハ…………ヒ」
強く生まれたからには弱き者を守るのが責務と思っていた
そして私は曲がった事が心の底から嫌いだった。
「ジジイ狩りでえええす」
「なんだ君達は!?」
「え…え…」
「通行料は財布まるまる。老いぼれが持ってても無駄だろ」
そんな性分が引き寄せるのが…
「年の差パーンチ!」
ガッ
「うわああん!おじいちゃあん!」
「次、俺もやらせろ!」
こういう胸糞悪い現場に出くわす事も多かった。
「お孫さんの前で何やってるんだ!」
ガッ
「ぐげえええ!!」
「貴様が金を持つことが一番無駄なんだよ!このボケェ!」
ボグ
「ブゲア!!」
顔が陥没するほどの強烈な一発
人の道に外れた奴に容赦はしなかった。
「大丈夫ですか?すぐに病院に連れていきますから―――坊やも、もう大丈夫だからな」
「ありがとう」
「アイツだ!」
いつもやり過ぎて警察の世話になってしまうんだが
おかげで学校の成績はダダ下がり
「坂崎、東ドイツのウルスラ革命で”救国の女神”と讃えられた女性は誰だ?」
「アイリス……アイリス・バリー…!」
「それイギリス出身のアメリカ合衆国の映画批評家ね。何でアイリスの部分が合ってるんだ?」
答え:アイリスディーナ・ベルンハルト
本来なら大学どころか衛士訓練学校に入ることは不可能だった。
鈴乃の助力で私は猛勉強し漸く衛士訓練学校に入れた
今考えると正規衛士になり中隊長に就任したことは全て鈴乃と華太のおかげだ。
そんな結果が朝鮮半島陥落後に厚木基地に所属だった
「今度こそ真面な上官と巡り会えますように」
今まで出会った上官はどれもこれも真面な衛士ではなかった
坂元、尾崎――――今となっては反面教師として見習っている。
そんな訳で今は基地司令執務室に向かっている。
すると誰かが私に声を掛けて来た。
「もしかして坂崎さんですか?」
「ん?」
振り返るとそこには黒髪ロングストレートな外見で20代前半の女性がいた
「えっと……」
「お久しぶりです坂崎都大尉」
―――――誰なんだ?
「覚えてないのも無理ないわね。私と貴女は別の部隊にいたからね。いしずかと言えば分かるかしら?」
「あ!」
そう言われて私は漸く彼女が誰か合点がいった。
私には学生時代から付き合いがあるいしずかという名前の女性がいるんだが、彼女は6歳年下の妹がいて偶に面倒を見ていたのだ。
正規衛士になってから彼女とは疎遠になっていたんだが……
「久しぶりだなぁ」
「北朝鮮の戦線にいて内ゲバに巻き込まれたらしいけど…色々と大変だったわね」
「ああ、機体は爆破されるわ日本人を差別的発言されるわ挙句の果てに私怨で日本人衛士を殺した将校がいたわ―――酷い有様だよ」
「私は厚木基地の司令官秘書として配属されたのよ」
いやはや、こんなに大きくなったうえに司令官秘書までなったとは…。
時の流れというモノを感じてしまうが、めでたい事だろう
「遅ればせながらおめでとう」
「ありがとうございます坂崎大尉」
同期が立派な肩書を手に入れたのに私と来たら……
「基地司令執務室は左曲がってすぐそこですよ」
「ああ、ありがとう」
そろそろ切り上げだな。此方も早めに行かなければならないし基地司令に挨拶しないといけない
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
「はい、では後程」
積もる話は次の機会にすればいい
そうして私とは逆の方向に向かう彼女の背を見送ってた時だ
「ん?(何だ彼奴は)」
彼女の前方に明らかに不審な男が現れたのだ
簡易ジャケットの左胸にウイングマークがある。ここに所属している衛士だろう。
自分の機体の整備する為か埃や塵が体内に入らないようにマスク着用している。日差し対策に帽子も珍しくはない。だが……。
「クソ!司令官に挨拶しにいかないといけないのに!」
私はあの衛士にやけに嫌な予感を憶えた。
必死になって足を動かす間にも奴と彼女の距離は縮まっていく。
「何かヤバい!」
そうしている間に奴はショルダーバッグから液体が入った小瓶を取り出した
瓶の蓋を開けて彼女の方へ接近した男
「つまんねえ顔、溶けちまいな!」
バシャ
「え…?」
そしてその液体を彼女の顔に向かって襲ってきた。
ダメだ、間に合わない―――と思ったその時だった
「危ない!」
「え?戸狩司令!?」
突如現れたロマンスグレーの髪色をしたミディアムヘアに右目付近に大きな傷跡を残した精悍な顔立ちが特徴のイケオジの男性はギリギリのタイミングで彼女の前に割り込んだ。
そして奴の小瓶から溢れた液体が掛かった瞬間、刺激臭と共に司令官は腕に焼けるような痛みを覚えた。
「クソッ、邪魔しやがって!」
そんな中、上着を脱ぐ司令官の目には逃げ走ってる奴の姿が映った
これは硫酸か?
司令官は奴を追いかけると同時に私も追いかける
だが格納庫まで追っていると男がまた瓶を取り出した
「(拙いな…一つだけじゃなかったのか!)そこの衛士、はよ逃げろ!」
「ヒャアアアアア!!」
「え……」
そして全く別の衛士の顔にかけた。
庇おうとしたが間に合わなかった。
「ギャアアアアアア!!」
「溶けろ溶けろ。お前衛士に相応しくねえんだよ!!」
「このボケナスがあああああ!!」
その衛士はモロに硫酸を顔に浴びてしまった。
次の瞬間、司令官は男の後ろ襟を掴んだ。
「この阿保が!何やっとんねん!!」
「グウウ!何なんだよ!テメエッ!邪魔ばかりしやがって!」
奴は司令官の腕を振り払うとマチェットナイフを抜いた
彼もプライドがあるからか刃物程度で怯まなかった。
「刺せるものなら刺してみい!」
「はあ!?気持ち悪いぃんだよ!偽善者が!」
「お前、何でしょうもない真似するん?何の恨みがあるんや?」
そんな司令官の問いかけに返って来たのは予想以上に下衆な答えだった。
「そんなの知るか!あの女が幸せそうだったから狙ったんだ!!」
「何やと、ワレ」
私はやっと司令官に追いついたが既に疲労感があった。
「はぁ…はぁ…やっと追いついた」
奴の言葉を聞いた私は堪忍袋の緒が切れた
「俺の人生は何やっても上手くいかないのに!!他の奴が幸せになるなんて認められない!!」
「だからこんな事したんやな?」
「さっきの男もそうだ!幸せそうな顔してやがったんだよ!そんな顔溶かしていいだろ!!」
怒りを通り越し、まるで血が沸騰するような感覚…なんて自分勝手な奴だ。そんな理由で罪なき衛士に硫酸をかけたのか。
「……!!!」
弱者を的にして…その腐りきった性根……反吐が出る。
「うるさい!まずはお前から殺してやる!」
「ガタガタ言ってないで掛かってこんかい―――お前自身にコンプレックスがあるからしょうもない発想になるんやろ?」
「う……うわあああああっ!!」
すると叫びながら奴が奇妙な物を出した。次の瞬間
銃の形態をしたそのモノから何かが飛んできた
「ぐうううううおおおおお!!」
「痺れろ!!」
奴が持っていたのはテーザー銃
先端が飛ぶ数十万Vのスタンガンだった
意識が刈り取るほどの強烈な電気ショック
「ぐ…おお、俺を焼き豚にするつもりか…?」
「お前は、死ねよおおおおお!!」
司令官が動けないと判断したクズ衛士は叫びながらマチェットナイフを振り上げた
だが、クズ衛士がどんな武器使おうが―――私には関係ない!
「何をやってる貴様は!!」
バキィッ!
「ぶげぇっ!?」
素人が…本気で刺したいならナイフを振り上げるな!
一発でナイフを手放して崩れ落ちようとする不審者
「貴様が不幸だから他人の幸福は許さないだと?ふざけるな!!」
ゴッ
此奴はこの程度で寝かせはしない。
私は足腰が立たない奴を襟首をつかんで無理矢理立たせた。
「世の中に幸福も不幸もない!」
ゴッ
「本人の考え方でどうにでもなる!」
ゴッ
ゴッ
「ぐ!」
ゴッ
「ぎゃあっ!」
「貴様は訳知り顔で現実を分かったつもりになっている捻くれた子供だ!自分を守る事しか考えない貴様を衛士を名乗る資格はない!!」
バキィッ
「へべぇっ!!」
アイリスディーナ・ベルンハルトの名言だ。
このパンチと一緒に頭にすり込んどけ
奴の顔面は陥没した
「カカカ…ア…」
でもまだだ……これくらいじゃ許されない。
「都、もうやめて!」
「坂崎大尉!」
鈴乃の制止といしずかの声に私は我に返った
不審者は逮捕されたが、当然私もお咎めなしとは行かなかった
「幾ら何でもやり過ぎだ。営倉に入れ」
「それより病院が先です。戸狩司令の腕、えらい事になってますよ」
これに関しては毎度のことなので仕方ない。
戸狩司令の腕に関しては流石に痕が残るが動かなくなるという事はなかった。
彼女に掛かる事を思えば全然マシだ。
その後、私は営倉入りになったのだが大事な事思い出した
「あぁ、挨拶…頭に血が上った時に全部吹っ飛んでしまった」
本当についてない……。
翌日、改めて私は鈴乃と華太の2人を連れ、戸狩司令官に挨拶する為に基地司令執務室の扉の前にいた。
「漸くだな。昨日は散々だったからな…」
「全く……一度血が上ると戦意喪失するまで制裁するんだから」
「本当に済まない。でもやっと安全圏に入れたな」
「そうね……北朝鮮みたいに内ゲバ巻き込まれるのは懲り懲りよ」
私と鈴乃は互いに苦い表情で会話してたが、華太は困惑していた
「オイ、俺も巻き込まれたんだが…忘れてねえか?」
「忘れる訳ないだろ」
ノックして扉を開けようとしたその時、戸狩司令官が基地司令執務室から顔出してきた
「何や?もう来てたのかいな」
「昨日は挨拶できず申し訳ありません」
「ええで。昨日の事はトラブル起きたに過ぎない。仕方ないで」
関西弁……戸狩司令官は城戸と同じ出身地なのか。
「ほら、中に入ってええで。君らには色々言いたい事が山ほどあるで」
「では失礼します」
戸狩司令官の誘いで私達は基地司令執務室に入った。
中に入った途端、戸狩司令官から歓迎の言葉を添えられた
「ようこそ厚木基地へ。俺は戸狩玄弥や。階級は……大佐」
え?大佐!!?
「お手柔らかに宜しく頼むで」
「は、はぁ…」
これは聞かない訳にはいかないな。この基地に何か揉め事があった筈だ。
「戸狩司令官、我々がここに配属される前に何かあったのですか?」
私がそう問いかけると戸狩司令官は苦い表情を浮かんだ
「あぁ…その事やけどな。今から話すところや」
「…」
「まずここにいた士官は全員九州の戦線に送り寄った。前の基地司令官は更迭されて長崎に左遷したんや―――少し分かりやすく言えば軍部の派閥争いがあって俺はそん時、一連隊指揮官だったんや」
?
「派閥なんてどこの国でもある。俺は楽観的な前の基地司令官の意向に従わなかった。何故か分かるか?」
「…」
「…(いつもなら都は自分の口で言い返すけど何も言い返せない。戸狩玄弥……あの男はただモノじゃない)」
鈴乃は戸狩司令官は”普通の基地司令官”ではない。と察した。
「軍の上層部は俺等を見下してる。特に端くれ者衛士はな―――――ま、俺の場合は出身と言うだけで過剰な差別が許されるという巫山戯た迫害受けたんや。その為、派閥が2つに分かれ今に至るって訳や」
「……」
何も言えない――――どう言えばいいのか全く分からなかった。
私は恐る恐る戸狩司令官の出身地を聞き出す
「戸狩司令官、ご出身は?」
「ん?赤森やけど」
赤森……聞いたことない地名だな。
「あそこは俺等みたいな人間をゴミのように扱われたとこや。悲惨な幼少期やったわ……ウチの母親は『どつかれたらどつき返せ!』というアドバイスくれて強く生きる決意をしたんやで」
成る程な。つまり部落差別を受けてたと言う事か。その前の基地司令官が戸狩司令官を部落差別したとなるとこれは問題行動となる。
戸狩司令官は続けて話す
「そんな束の間、母親の勤務先が倒産。就活しようとした時自ら軍を志願して衛士になったけどそこも差別されて沖縄に左遷されたわ。施設に預けられたんやけどそこも差別受けまくってな。そんな生活が嫌気が差したのか施設から脱走してゴミを漁る生活をしていたところ人身売買組織に拉致されて檻の中で臭い飯を食べているとアサシンギルドに引き取られて柴犬のコードネームが与えられここで急激に実力を発揮したんや」
………。
「……極道に入った―――そう言いたいのですね?」
「察しが良いな。その通りや」
私達は困惑していた
戸狩司令官がそんな過去があった事を――――。
「そういえば君らの名前聞いてなかったわ」
そう言うと戸狩司令官は小さな笑みを浮かんだ
そして私達は戸狩司令官の前に敬礼する
「坂崎都大尉です。北朝鮮の戦域や革命を生き延びた一人です」
「同じく大倉鈴乃中尉です」
「小峠華太中尉です…(戸狩玄弥……天王寺組戸狩派トップだ。敵だったら強敵だが味方だったら頼りがいがあるな)」
「小峠……(確か、田頭組にいた関東の極道……)」
戸狩司令官は小峠の顔を見て芝居がかった笑みを浮かべる
「………田頭組長の件はお気の毒やったな。けどな、前向きに生きなきゃあかん―――」
「お気遣いありがとうございます。司令官殿」
華太はこう言ったが、難しい表情を浮かんでる
徴兵されてる間は組の事は無関係だからな……触れてはいけない話題だったのか
「ま、ここでは組の事は関係ないわ。お互い仲良くやろうや」
戸狩司令官は華太に優しい笑みを浮かべた
そして、笑みを崩さず私達にこう言い放った
「早速やけど、命令下すで。3人共実戦経験はあるようやから君らは基地の守衛任務やって貰いたい」
基地の守衛か……異星起源種との戦いを一時的に避けた事はいいとして、問題はこの基地にいる人間が真面であるか?だ。
「基地の守衛任務ですね。了解しました」
当分の間は基地の守衛だな。
私が戸狩司令官に基地の守衛させる理由を聞こうとしたが鈴乃に制止される
「ただ基地の守衛任務だけは君らには退屈やろ?坂崎大尉、大倉大尉。お二人さんにピッタリな極秘任務を与える―――――小峠中尉、下がってええで。ここから先は三人だけの話や」
「え?自分も話加わりたいです……いけない、でしょうか?」
華太はぎこちない喋り方で戸狩司令官に嘆願するが断りの言葉を添えられ即答された
「聞こえへんのか?下がれと言っとるやろ」
戸狩司令官の凄いオーラに圧倒された華太は「失礼しました」と一言を添え基地司令執務室から出ていった
「……改めてお二人さんだけもう一つの任務与えるで。これは極秘事項や。誰にも言ったらあかんで」
「その極秘任務とは?」
私がそう言うと戸狩司令官は凄みある笑みを浮かび高らかに言い放った
「二人は開発衛士として撃震の改良型――――86式に乗って貰う」
「ハチロク……?」
どこかで聞いたことある名前だな……確か車種の型番だ。
当然、私と鈴乃は呆れた表情を浮かんだ。
「……御冗談ですよね?」
「冗談言ってる風に見えるか?ホンマや」
戸狩司令官の顔を見ると、鋭い眼差しで私達の目を覗いている
「本気、ですよね。理由を聞かせて貰えないでしょうか?」
「撃震の改良型に瑞鶴って言う名前の戦術機あるけどあれは帝国斯衛軍向けに作られた機体や。当然俺等のとこに配備されるわけがない。意味は分かるな?」
分かりません―――とは言えない。
こんな時どう答えればいいのか?
深く悩んだ末、私が思い浮かんだ答えをハッキリと言い放つ
「……独占してる。そう言いたいのですか?」
「そやな。車で言うたらこのディーラー店だけ独占販売するのと同じや。撃震は帝国軍に配備されてる機体―――瑞鶴は帝国斯衛軍に配備されてる機体。瑞鶴だけ独占しとる訳や」
成る程……戸狩司令官は瑞鶴を超える機体を開発したい………と?
一体何の為に?
「77式戦術歩行戦闘機86型――――撃震86式。通称:ハチロクや」
…………。
「ん?何や。そんなに驚いたんか」
驚いたというか…唖然するほどの機体だ。
鈴乃は話について行ってないようだ。しかしこんな機会、二度とないかもしれない
戸狩司令官が続けて話そうとしたその時、顔に生来的な痣がある緑髪の青年将校が基地司令執務室に入って来た。
「お取込み中失礼します。兄貴」
「室屋、ここでは司令官と呼べや。身の程弁えんかい!」
?
立場上、この男は側近なのか?
「…失礼しました司令官殿。で、この二人が北朝鮮の」
「そや」
「……成る程」
ん?
室屋という男は私の顔を覗いた。
何だ、その冷徹な目線は……?まるで狼みたいだ。
「坂崎大尉やな?俺は室屋柊斗。階級はお前と同じや」
「…坂崎都大尉だ。宜しく頼む」
此奴も戸狩と同じか――――裏社会の人間は国に貢献することだってある。無下にするわけにはいかないだろう。
「ほな、行こか――格納庫に見せたいもんがあるねん」
戸狩司令官の一言で私達は格納庫に向かった。
格納庫に入った私達は戸狩司令官によりある機体を見せられる
「これは撃震ですよね……」
「普段使ってる機体と何も変わらないわね…」
鈴乃は困惑している。まぁそりゃそうなるな
本気で信じるにはあまりにも馬鹿馬鹿しい話だとは思うが、戸狩司令官の表情は不敵な笑みを浮かべている
「アホ、よく見てみい」
そう言って撃震の頭部に向け指差した
「白と黒塗装されてるやろ。あれが”ハチロク”や。お前さんが乗る機体やで。坂崎大尉」
「え?私が乗る機体ですか…(見た目は撃震と変わらないが、中身は違うのか?)」
撃震86式――――私の専用機か。悪くない
86式の隣にある機体は白を塗装している撃震があった。
その時だった。戸狩司令官の顔が笑みが消え、偶然通りかかった整備兵に話しかける
「ちょっと君、こっち来てくれへんか?」
その一言で整備兵は戸惑いを見せる
「な、なんでしょうか?司令官殿」
惚けた態度を見た戸狩司令官は整備兵に指摘する
「何やあれは?白黒の機体2機発注した筈やけど」
「何と申されても……」
「これ”ハチロク”やない!”ハチゴー”や!」
”ハチゴー”……これも車種の型番だな。
「恐らく整備班長が間違えて発注したと思います」
そう言い返した整備兵は緊張で顔が強張る
戸狩司令官は呆れて何も言えなかった
「……」
「司令官殿?」
「……廉価版の機体を大倉中尉に乗らせるとは、全く上層部の連中は俺等を除け者扱いしてるな――――ええで、仕事に戻りや」
整備兵は「失礼しました」と一言を添え立ち去った
「……そんな訳やから大倉中尉は77式戦術歩行戦闘機85型――――撃震85式。”ハチゴー”に乗って貰う。すまんな」
すまんな…って言うレベルじゃ通用しないと思うが。
ここで苦情しても何も起こらない。
鈴乃は戸惑いつつ返答した
「了解しました。戸狩司令官」
この時点で坂崎中隊は戦術機開発試験中隊として編成された。
軍上層部の命令ではない。戸狩司令官の独断で上層部に直談判する形で行動した
「さっき言うたけど、君らは基地の守衛や。これは表向きの任務や。よう覚えときや。明日から本格的に鍛え上げるで。覚悟はしときや」
そう言い残し、戸狩司令官は格納庫から出て歩き去った。
鈴乃の専用機は”ハチゴー”か。見た目は普通の撃震と変わらないな。
「これが私が乗る機体……」
「鈴乃、私も最初、戸惑ってたが内容理解してやりがいがある任務になりそうだ」
「見た目は撃震と変わらないわね。何処が違うの?」
鈴乃は真顔で私にこう言った
それに対する私の返答は決まっている
「恐らくだと思うが、跳躍ユニットをチューニングして飛行速度を上げてるな。乗ってみないと分からんが多分そうだ」
「チューニングね……別の機体のパーツを取り替えたりとか?」
「それもあるが、私が見た限り純正機体だ」
とは言ったものの、86式をじっと見ていたら何か違和感を気付いた
「ん?照明がないな……」
「え?」
「胴体の両肩に照明ある筈だが、私の機体だけないんだ」
鈴乃も86式を見て異変を感じた
「あら、本当ね……都の機体は格納式照灯―――――リトラクタブルヘッドライトね」
本来は自動車のリトラクタブルヘッドライトは消灯時、ボンネット内部に埋没しており、点灯時のみ外部に展開される構造となっている。
それを戦術機に搭載するとは……だが問題点がある
展開時、空気抵抗が増大し、開閉機構を装備することによる重量増により、ヨー慣性モーメントの増大や跳躍ユニットの悪化を招く。
とどのつまり、動力性能の悪化だ。
さらに安全面・信頼性の問題がある。
開閉機構が複雑で部品点数が増加し、コスト面と信頼性で不利。
突出したライトは、対人事故の際、対象に重度の傷害を与える恐れがある。
事故時や、寒冷地での凍結時ではライトが展開しなくなる恐れがある。
この3つだ。
「(日本はもしかするとステルス戦術機を開発してるのか?)」
「明日からが本番ね」
「ああ、この機体がどれだけの性能があるのか試してみる必要性があるな」
翌日、私達は戸狩司令官の命令で86式と85式の試験飛行を行った。
…まぁ、普通の撃震と変わらないな。
何処が変わったんだ?
と思った次の瞬間、跳躍ユニットが噴出し徐々に加速し始める
それによりGに負担掛かった
―――――成る程。そう言う事か。
余程珍しいのか。基地内の滑走路付近でギャラリーが集う
「あの77式、凄い加速だな!」
「3300km出してるな!このまま突っ込む気か!」
「跳躍ユニットが噴出し華麗に飛んでる!カッコイイな~」
何だ?此奴等は……まさか興味本位で見学しに来たのか。
ギャラリーの事は気にせず試験飛行を挑もうとしたその時、97式戦術歩行型戦闘機――――吹雪2機が迫って来た
「早速来たか…(97式…吹雪。昨年導入した高等練習機だが、性能と出力は撃震より上だ。普通の衛士なら勝てる訳がないが……)」
《仮想敵機は吹雪ね。元になった機体は不知火よ!》
「だから何だ?旧型の機体は新型に勝てないと思い込んでるのか?それに乗ってる衛士は新兵だ。一気にやるぞ!」
私は吹雪2機に目掛けて突撃砲で120mm弾を放った。
だが、それを傷一つなく躱された
《下手したらギャラリーに当たってしまうわ》
「分かっている!」
鈴乃は慎重に頭をフル回転させる。
そして思いついたのが…
《都、逃げるわよ!》
「!?」
この場から逃走する選択をした――――フリをした
当然ながら、吹雪2機は追跡する。
「!」
追いつかれる………!
そう思った次の瞬間、吹雪2機の動きの様子が一変した。
徐々に低速し降下していく
「(今ならやれるか!)よし、撃ち込めぇ!」
私と鈴乃はその隙に36mm弾を放ち2機共撃墜させた
一方その頃、戸狩司令官は側近の室屋と共にギャラリーに紛れ込んで高みの見物していた
「ほう、やるやんけ」
「坂崎都大尉ですか」
「そや、彼女は将来ビッグになるで」
と戸狩司令官は口角を上げる
「ビッグに?まさか将官にですか?」
「アホ、ちゃうわ!まあアレや。日の本の英雄になるのが正しいわ」
その言葉を聞いた室屋は否定する
「戸狩の兄貴、それはないと思いますわ」
「何でや?」
「英雄になれるというなら666のアイリスディーナ・ベルンハルトと同じ扱いになりますわ」
室屋の発言に対し、戸狩司令官はこう言い返した
「そんなに大きいもんやない。何というか島国の英雄になると思うんや」
「……」
「今回のは良いもん見させて貰ったわ。帰るで」
「はい」
そう言って戸狩司令官と室屋は立ち去って行った。
戸狩Side
俺の名前は戸狩玄弥。
日本帝国軍厚木基地の基地司令官や。
厚木基地に赴任してきた坂崎大尉と大倉中尉を撃震86式と撃震85式のテストパイロットを任命し坂崎中隊は戦術機開発試験中隊として編成。正直不安要素しかあらへん。
俺は基地司令執務室で2人を岡山に派遣させようと思ったその時、黒電話が鳴り響く
「誰や?」
俺は受話器を取り通話し始める
その相手は………?
《橘だ。戸狩大佐、君は何か企んでるようだが後ろめたい事でもあるのか》
「(橘……アンタこそなんか企んでるやろ?)いえ、何も。新型の試作機体のテストしてます」
《……試作機か。まぁいい……私の判断次第でお前を辞めさせる事出来るんだぞ。分かってるのか》
嫌な奴やな。適当に対応しとこうか
「それぐらい理解してるつもりです」
《厚木基地にいる2人だが…》
坂崎大尉と大倉中尉の事を言ってるんやな。
何を企んどんねん……。
《7月末に佐渡基地に転属する事を今日、上層部の意向により決定した》
何やて………?
「待ってください。橘中将、それはどう言う事でっか?」
《君の反論は聞かんよ。この決定は覆されない――――新潟に佐渡基地で配属してる戦術機を5個中隊分配置させる》
戦力を削ってまで新潟に配置させるつもりなん?拙いな……これは拙いで
「……自分が何言ってるのか理解してまっか?アンタとこの衛士たちが佐渡島と共に道連れするつもりなんか?」
《そうではない。これは日本の未来のためだ。個人的な感情で判断した訳ではない。戸狩大佐、日本は必ず勝利を掴む!我々は米軍が守っている。日米安保条約を結んでるのを口実で仮に佐渡島の危機を訪れた時は頼れば良いのだ》
何を言うとんねん。このおっさんは。米軍が日本を助けるとでも思っとるのか?
―――そんな考えは、無謀というのやで?頭の中はお花畑としか言えないわあ…。
「自分の首を絞めるだけやで。米軍は頼りにならん」
《……戸狩、私が無能な指揮官とでも言いたいのか?立場を弁えろ。米軍は助けに来てくれる》
此奴、アホちゃうか。そんな都合良く救助しに行く訳ないやろ。現実を見てない無能指揮官やな
ま、ついて行く衛士はアホな男に踊らさせてるだけや。
「後悔しまっせ。BETAが米軍より先に来たらそれこそ終わりや」
《まあ、見たまえ。迅速に来てくれる》
何を言ってるんや?俺はもう知らんで。
俺は不安を募らせつつ電話を切った。
「さて、どないしよか……」
戦術機最速理論なんて考えてる場合ちゃうな。これは
上層部の意向に従うかそれを反するか迷ってまうわ。
「(小峠も佐渡島に行かせる条件でいこか……2人だけやと可哀想やわ)」
その前にやらなければあかん事がある。せめて86式と85式の試験飛行だけでも終わらせんといけへんな。
そして、俺は決断し答えを思い浮かんだ。
「そや、坂崎大尉と大倉中尉、小峠中尉を九州に派遣させよか。これなら橘の奴は納得するに違いないわ」
小倉駐屯地は今、BETA対策に乗り込んで作戦計画を練り込んでる筈や。
……ホンマ、この戦争はよ終わらせたいわ。
翌日、俺が日本帝国軍の基地司令官として直面している矛盾や悩み、そして上層部の命令にどう対処するかの選択に迫られてた。
坂崎大尉、大倉中尉、小峠中尉をどのように九州派遣するかを考えている。彼の不安は募るが、同時に冷静な判断が求められていた。
「(佐渡基地への派遣が決まってしもたんか…。ほんまに、この選択が正しいんやろか…)」
その時、衛士3人が基地司令執務室に入り俺に向け敬礼した
坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉、小峠華太中尉の3名や。
「失礼します、大佐。何かお話が…?」
「おお、坂崎大尉か。ちょっと来てくれ」
俺は坂崎大尉を真顔で話しかける
「実は、橘中将からの命令で、君たち二人を佐渡基地に転属させることが決まった。だが、ちょっと待ってくれ…佐渡島に行くのはまだ先にしたいんや」
まあ、困惑するわな。急に決まった事や。
坂崎大尉は俺に問いかける。
「それはどういう意味でしょうか、大佐?」
「お前たちは、今の状況を見ても分かるように、佐渡島に行くのが得策かどうかは微妙や。だから、いったん九州に派遣して、BETA対策の訓練を進めさせたいと思ってる」
大倉中尉は俺の顔を見てこう言い放った。
「九州ですか? でも、それは今までと違う方向への派遣ということになりますね」
「その通りや。でも、佐渡島に送られるよりはましやろ? それに、九州の基地で作戦計画を立ててる部隊があるから、その計画にも参加してもらうつもりや」
何とかなる……俺の考えが間違えてるが、仕方あらへん
坂崎大尉は真顔で言い放つ
「…分かりました、大佐。ですが、佐渡基地への転属が決まった以上、その後どうなるかが気になります」
「それについては、まだ俺もはっきりとは言えんが、少なくとも九州に行けば、何かしらの準備が整うまでは落ち着けるだろう。それに、橘中将が言うような未来なんて見えてへんし、俺も信じとらん」
「……それでも、任務に従います。九州で何かをするための準備ができるなら、それが最善だと思います」
と、大倉中尉は真っ直ぐな眼差しで言った。
「その通りや。君たちには最前線で活躍してもらいたいからな。それじゃあ、すぐに準備を整えてくれ。すぐに出発することになるかもしれん」
坂崎大尉達はこの任務を引き受けることを決意した
「了解しました、大佐」
「(坂崎大尉、大倉中尉、小峠中尉…君らがいないと、この基地も持たへん。お前たちの力が頼りや…そして、この戦争をどうにか終わらせるために、動き出さなあかん)」
俺は心の中で呟いた。
そして、坂崎大尉、大倉中尉に自分の決定を伝え、彼等をどう動かすかの指示を出した。
1998年7月某日、坂崎大尉達は小倉駐屯地へと赴いていった。
都Side
私、坂崎都と鈴乃、華太の3名は、小倉駐屯地への赴任を完了し、新たな任務に就くこととなった。小倉駐屯地は九州の防衛拠点の一つであり、BETA対策部隊の訓練施設として機能している。特に、西日本方面軍直属の戦術機部隊が駐屯しており、近くの演習場では常に模擬戦や新戦術の研究が行われていた。
私たち3名は、駐屯地の司令部で現地の司令官と面会することになった。
執務室に入ると、木製のデスクに座る壮年の男が彼らを待っていた。
「君たちが派遣された本土防衛軍の将校か」
そう言いながら立ち上がったのは、渡慎吾准将。西日本方面軍・小倉駐屯地の指揮官であり、BETA戦術のエキスパートとされる人物だった。
「坂崎都大尉、着任しました!」
私が敬礼すると、鈴乃と華太もそれに続く。渡准将は彼らを見つめながら、静かに頷いた。
「君たちには、まず九州防衛戦の現状を知ってもらう。そして、BETA戦における新戦術の試験運用に参加してもらうことになる。簡単に言えば、これまでの日本帝国軍のやり方では限界がある。だから、俺たちは新しい戦い方を模索している」
「新戦術…ですか?」
華太が疑問を口にする。
渡准将は頷き、壁に設置された作戦図を指した。
「現在、九州方面の前線は太宰府ラインまで後退している。おそらく、佐賀や久留米の陣地も長くはもたん。このままでは、福岡市内が戦場になるのは時間の問題だ」
「……そんなに戦況が悪化しているのですか」
鈴乃が息をのむ。彼女は本土でのBETA戦の情報をある程度知っていたが、これほど状況が切迫しているとは想像していなかった。
渡准将は険しい表情のまま続けた。
「だが、俺たちは単なる防衛戦を続けるつもりはない。新戦術『機動殲滅戦』を試す。それに必要な戦術機部隊を、小倉駐屯地で養成している」
私は作戦図を見ながら、慎重に質問した。
「機動殲滅戦……どのような作戦でしょうか?」
渡准将は腕を組み、少し考えた後、言葉を選びながら答えた。
「簡単に言えば、従来の陣地防衛ではなく、高速機動と連携攻撃によってBETAの殲滅を狙う戦術だ。現状、日本帝国軍の戦術機部隊は、陣地戦主体の防衛戦術を取っている。だが、それでは結局ジリ貧になる。だから、戦術機の機動力を最大限に活かして、BETAを迅速に叩く。いわば、電撃戦の発展系だ」
「なるほど……しかし、それを実行するには相当な操縦技術と連携が必要になりますね」
私は冷静に指摘した。戦術機の運用経験が豊富な彼にとって、高速戦闘は極めて高度な技量を要求されることが分かっていた。
「その通りだ。だから、お前たちには、ここで実戦に近い環境で訓練を受けてもらう」
「……分かりました。やらせてください」
私が即答すると、鈴乃と華太も頷いた。
渡准将は満足げに微笑むと、デスクの上の書類を手に取った。
「よし、それじゃあ、お前たちの新しい所属を伝えておこう。お前たちは、第17戦術機甲大隊に配属される」
「第17戦術機甲大隊……?」
華太が呟くと、渡准将はニヤリと笑った。
「通称、“雷鬼隊”だ。俺たちの戦い方を試す実験部隊でな。お前たちには、この部隊で新戦術を実践してもらう」
私達3人は顔を見合わせた。これが単なる九州派遣ではなく、新たな戦いの幕開けであることを、彼らは直感していた。
第17戦術機甲大隊――通称「雷鬼隊」への配属が正式に決まった。配属直後、彼らは隊の指揮官である天野義隆少佐と顔を合わせることになった。
――雷鬼隊 格納庫
格納庫に入ると、整備士たちが戦術機の調整に追われているのが目に入る。並んでいるのは94式戦術歩行戦闘機「不知火」、その不知火は通常の帝国軍部隊ではあまり見られない特別仕様の塗装が何機も並んでいた。
「おい、新入りが来たぞ!」
作業中の整備兵たちが振り向く。その視線の先には、一人の男が立っていた。
「貴様らが新しく配属された将校か」
鋭い眼光を持つ長身の男が、彼らの前に立つ。無駄のない軍服の着こなし、立ち居振る舞い、そして漂う威圧感。彼こそが雷鬼隊の隊長――天野義隆少佐である。
「坂崎都大尉、着任しました!」
「大倉鈴乃中尉、同じく着任しました!」
「小峠華太中尉、同じく!」
3人は敬礼する。天野少佐はじっと彼らを見つめた後、静かに口を開いた。
「俺は天野義隆、雷鬼隊の指揮官だ。まず言っておくが、ここは単なる実験部隊ではない。俺たちは”九州戦線の突破口”になるための部隊だ」
「突破口、ですか?」
私が問い返すと、天野少佐は格納庫に並ぶ戦術機を指しながら言った。
「雷鬼隊は”機動殲滅戦”の試験部隊だ。渡准将から聞いていると思うが、従来の陣地防衛戦ではBETAの進攻を止めることはできない。だから俺たちは高機動戦闘による迎撃戦術を実戦で確立する」
「つまり、敵に対して正面から迎撃するのではなく、機動力を活かして撹乱しながら撃破していく戦法……?」
鈴乃が考え込むように呟く。
「その通りだ。しかし、理論と実戦は違う。俺たちは実際に戦場で試さなければならん。戸狩大佐から言われたんだ。そこで、貴様らにはまず”雷鬼隊仕様”の不知火に慣れてもらう必要がある」
「雷鬼隊仕様の不知火……?」
華太が機体に目を向ける。通常の不知火とは違い、装甲の形状が一部異なり、武装マウントの配置も標準仕様とは違っているようだった。
「この機体は、近接格闘と高速戦闘を重視した改良型だ。お前たちの機体は既に準備してある。まずは演習場でテストを兼ねた模擬戦を行う」
「模擬戦、ですか」
坂崎は少し驚いた。配属されたその日にいきなり実戦形式の演習とは、かなりのスパルタだ。
天野少佐は不敵に笑いながら言った。
「何か不満か? 戦場では待ったなしだぞ。それに、お前たちの実力を見極めるためでもある。さっそく準備しろ。30分後に演習場に集合だ」
私達3人は顔を見合わせた後、それぞれの機体へ向かって歩き出した。
――30分後・演習場
演習場に集まった坂崎たちは、それぞれの不知火(雷鬼隊仕様)に搭乗していた。
「これが……雷鬼隊仕様の不知火か」
私はコックピットでHUD(ヘッドアップディスプレイ)を確認しながら呟いた。
・機動性強化:推進システムの改良により、通常の不知火よりも高い機動力を誇る
・近接戦闘強化:刀剣戦闘を重視し、専用の「強化型突撃刀」を標準装備
・防御力低下:機動性を重視するため、一部の装甲が軽量化されている
「……速いな、確かに」
機体の試験的な動作を行いながら、私は違和感を覚えた。通常の不知火よりも圧倒的に機敏だ。しかし、その分、ミスをすれば即座に撃破されるリスクも高い。
「全機、準備完了か?」
通信が入り、天野少佐の姿が映し出された。彼はすでに自らの機体に搭乗していた。
「これより模擬戦を開始する! ルールは単純だ。俺がお前たちの敵役を務める。全員で俺を撃破してみろ」
「……っ!」
3名が同時に緊張を走らせた。
「(天野少佐は戦術機のエースパイロット……簡単にはいかないな)」
だが、この試練を乗り越えなければ雷鬼隊の一員とは言えない。
「……やるしかない」
私は決意を固め、操縦桿を握り締めた。
「模擬戦、開始!!」
天野少佐の不知火が一瞬で姿を消すように動いた――まるで獲物を狩る鬼のように
1998年7月某日 小倉駐屯地・演習場
雷鬼隊・模擬戦開始
「全機、戦闘開始!」
天野少佐の号令と同時に、模擬戦が始まった。私達が乗ってる3機の不知火(雷鬼隊仕様)が、天野少佐の機体に対して包囲陣を展開する。
「三方向から挟撃する!」
私が即座に指示を飛ばす。
「了解!」
鈴乃が左側、華太が右側へと展開し、天野少佐の機体を包囲する形を取る。
しかし――
「……甘い」
天野少佐の機体が、突如として爆発的な加速で後方へ跳躍した。次の瞬間、消えた。
「!? どこだ!?」
華太が慌ててレーダーを確認するが、天野少佐の機体はすでに死角へと回り込んでいた。
「後ろだ!」
鈴乃が叫ぶ。
ゴンッ!!
華太の機体が突如背後からの衝撃を受け、バランスを崩して地面へと激突する。
「ぐっ……!」
シミュレーターではあるが、強烈な衝撃がコックピットを揺らす。
「落ち着け! まず距離を取れ!」
私が指示を出すが、天野少佐はそれすらも許さなかった。
「逃がすかよ」
天野少佐の機体は次の瞬間、地面を蹴るように跳躍し、瞬時に私へと迫る。
「ッ……くる!」
私は咄嗟に回避行動を取るが、天野少佐の機体はすでに至近距離で強化型突撃刀を振り下ろしていた。
ガキィン!!
咄嗟に防御態勢を取った私だったが、その衝撃に機体が揺れる。
(なんだ、この動き……!?)
明らかに、通常の不知火とは異なる機動の鋭さ。まるで”鬼”のような動きだった。
「終わりだ」
天野少佐の機体が再び加速し、私の機体の右肩部に模擬刀を突き刺す。
「坂崎大尉、戦闘不能」
「小峠中尉、戦闘不能」
次々と表示される敗北のアラート。
「クソッ……!」
私が悔しさを滲ませた瞬間――
「まだ終わってない!」
次の瞬間、鈴乃が、天野少佐の背後に躍り出る。
バシュッ!
鈴乃の機体が、高機動ブーストを使用して側面から急接近!
「なるほど……よし、一撃入れてみろ」
天野少佐は敢えて回避せず、正面から受ける構えを取った。
(この人……!)
鈴乃は迷わず突撃刀を構え、渾身の一撃を振り下ろす。
「大倉中尉、戦闘不能」
「えっ……?」
気づけば、天野少佐の機体は鈴乃の攻撃を紙一重で回避し、逆にその腕を”刃の背”で弾き飛ばしていた。
そして、模擬戦は幕を閉じた。
模擬戦終了――天野少佐の評価
「……全機、戦闘不能。お前ら、まだまだだな」
天野少佐の機体が静かに降下し、私達の前に立つ。
「坂崎、お前は判断が悪くはないが、敵の機動力を軽視しすぎた。状況を瞬時に変えられる相手に対して、包囲なんて意味がない。次からは、もっと”敵の動き”を見ろ」
「……はい」
「小峠、お前は動きが単調だ。敵がどう攻めてくるか、常に裏を読め。お前の動きは”想定の範囲内”だった。戦場でそれは死を意味する」
「……気をつけます」
「そして、大倉。お前の最後の突撃、悪くなかった。もう少しで俺に一撃入れられたかもしれん。だが、お前は俺がわざと受ける”フリ”をしたのを見抜けなかった。戦術機戦闘は、心理戦でもある」
「……!」
鈴乃は拳を握りしめながら、悔しさを滲ませる。
天野少佐は一通り評価を終えると、ふっと笑った。
「ま、最初の演習としてはこんなもんだろう。ただ、お前たちには”伸びしろ”がある。これから”本当の雷鬼隊”を知ることになるぞ」
「……本当の雷鬼隊?」
私が問い返す。
「そうだ。機動殲滅戦は、まだ実戦で試されていない。しかし、近いうちに”初陣”が来る。お前たちはそれまでに、死なない技術を身につけろ」
「……分かりました」
3人は、それぞれの敗北を噛み締めながらも、“雷鬼隊”としての覚悟を固めた。
1998年7月某日 小倉駐屯地・作戦司令部
模擬戦を終えてから数日後、雷鬼隊に実戦配備命令が下った。
「お前たちにとって初めての”実戦”だ。九州戦線の前線に出るぞ」
天野少佐は、戦術司令部のホログラム・マップを指し示す。
任務概要
•作戦名:「疾風」
•作戦目標:北九州の防衛ラインを突破しようとしているBETAの撃破
•作戦地域:八幡防衛区(現・福岡県北九州市)
•敵戦力:推定300体以上のBETA(主に要撃級、光線級少数)
•我が軍戦力:雷鬼隊(不知火×6機)+第25機甲大隊(不知火×12機)
「北九州に駐屯している第25機甲大隊と共に、BETAの先鋒を叩くのが我々の役目だ。だが、忘れるな。これはあくまで雷鬼隊の戦術試験も兼ねている。上層部はこの作戦を”機動殲滅戦”の実戦検証の場と見ている」
「つまり、俺たちの動き次第で”機動殲滅戦”が正式に採用されるかどうかが決まる……と?」
華太は冷静に問いかける。
「その通りだ。そして、逆に言えば失敗すれば”戦術として不適格”と見なされ、雷鬼隊も解散されるかもしれん」
天野少佐の言葉に、隊員たちの表情が引き締まる。
「お前たちも分かっていると思うが、BETA相手に”防衛戦”はもう限界が近い。戦いを変える必要がある。その突破口を開くのが俺たち雷鬼隊の役目だ」
「……了解しました」
私を筆頭に、鈴乃、華太、そして雷鬼隊の他の隊員たちも力強く頷く。
――そして、出撃の時が来た。
1998年7月某日 八幡防衛区上空・作戦開始
「こちら雷鬼隊、目標地点に到達。BETAの前衛部隊を視認」
私が報告する。その眼下には、黒い波のようにうごめくBETAの群れ。肉塊の塊のような要撃級、鋭い脚を持つ突撃級が無数に蠢いている。さらに、後方には光線級のシルエットが見えた。
「雷鬼隊、散開! まずは敵前衛を各個撃破する!」
天野少佐が指示を飛ばす。
「了解!」
雷鬼隊の6機がそれぞれのブースターを噴射し、一気に敵陣へと突入する。
「BETAの正面突破は無謀と思ってる奴もいるだろうが、これは”防衛戦”じゃない。“機動殲滅戦”だ!」
雷鬼隊の戦術、それは高速機動を活かした”ヒット&アウェイ”戦法である。
•ブースターを常時稼働させ、BETAの攻撃を受ける前に回避
•複数の方向から一斉攻撃を仕掛け、敵を撹乱
•突撃刀と近接武装を活用し、確実に仕留める
通常の帝国軍戦術機部隊が防衛戦を主体とするのに対し、雷鬼隊は”攻撃”に特化している。そのため、常に動き続けることが絶対条件だった。
「坂崎、左から突撃級3体! 避けろ!」
「分かってる!」
私は強化型突撃刀を振り抜き、突撃級の首元を一閃。鋭い刃が肉を裂き、頭部を吹き飛ばす。
ドシュッ!!
「……手応えあり!」
その瞬間、別方向から突撃級2体が襲い掛かってくる。
「大倉! 右側フォロー!」
「了解!」
鈴乃の機体が素早く旋回し、突撃級を射撃で牽制。続けて華太が突撃刀で仕留める。
「……これが雷鬼隊の戦い方か」
私は実感する。これは通常の防衛戦とは違う。彼らはまるでBETAの群れの中を疾風のごとく駆け抜けながら戦う”鬼”だった。
作戦の鍵:「光線級」の排除
「天野少佐、敵の光線級が後方に控えています。放っておけばこちらが狙い撃ちにされます!」
「分かってる。雷鬼隊は分隊行動に移る! 坂崎、お前が光線級の排除を担当しろ」
「了解!」
光線級はレーザーを放つ最優先撃破目標だ。しかし、問題はその護衛にいる無数の要撃級。
「正面突破は無理だ……。ならば、“陽動”をかけるしかない」
私はすぐに作戦を立案し、部隊に指示を出す。
「鈴乃、華太、私の指示で一斉に左へ回避しろ。その瞬間にブーストを全開で光線級へ接近する」
「了解!」
「タイミングを間違えたら即死だ。全員、集中しろ!」
「作戦開始!」
突撃級の大群が迫る中、私たちは一斉に左右へ分散。敵の目を欺きつつ、一気に加速する。
「今だ!」
私は敵の死角に回り込み、ブースターを最大出力。光線級の懐へと突っ込む。
「喰らえ!!」
強化型突撃刀が閃き、光線級の頭部を両断!
「光線級1体、撃破!」
「よし……!」
その直後、敵の要撃級が怒涛の勢いで襲い掛かる。
「ここが正念場だ……!」
私は戦術機を再加速させ、次の標的へと向かう――。
1998年7月某日 八幡防衛区・戦場
「光線級1体、撃破!」
私の一撃が決まり、敵の光線級が断末魔の叫びを上げながら崩れ落ちる。
「まだだ、次が来るぞ!」
華太が警戒を強める。
「光線級、残り4体! 迅速に片付けるぞ!」
鈴乃が叫び、雷鬼隊は次なる目標へ向かう。
だが、事態は急変した。
「敵の増援、接近中! しかも……新型反応!? これは……」
HQが報告を入れると同時に、レーダー上に異常なシグナルが映し出された。
「新型……?」
私が振り返ると、霧の向こうから現れたのは異様な姿をした要撃級BETAだった。
通常の要撃級とは異なり、異常に発達した前肢と、頭部に奇妙な装甲のような突起を持つ。
「……こんなBETA、今までの報告にはなかったぞ」
鈴乃が驚愕の声を上げる。
「確認してる暇はないぞ、来るぞ!」
天野少佐が警告を発する。
“異形の要撃級”との交戦
ズガァァァンッ!!
突如、新型の要撃級が高出力の衝撃波を放ち、戦術機を吹き飛ばした。
「くっ……なに!?」
私の機体がバランスを崩しながらも体勢を立て直す。
「やべぇ……通常の要撃級とは全く違う! こいつ、衝撃波を使うのか!?」
華太が警戒を強める。
「つまり、至近距離での近接戦闘は危険ってことか」
天野少佐は冷静に分析しながら、作戦を修正する。
「全機、距離を取れ! 撃ち合いに切り替える!」
「了解!」
雷鬼隊は一斉に後退しながら射撃戦に移行。しかし、新型要撃級はまるで”戦術機の動きを読んでいるかのように”素早く回避する。
「……ッ、冗談だろ!?」
私の狙撃がことごとく回避される。
「こいつら……“学習”してる……?」
鈴乃が疑念を抱く。
「(今までのBETAと違う……まるで”戦術”を理解してるかのような動きだ……)」
だが、そんな疑念を考えている暇はなかった。新型要撃級は再び高速で接近し、今度は前肢のブレードを振り下ろす!
「!―――カブトォ、避けろ!」
「ッ……ちぃ!!」
華太が咄嗟にブーストを吹かし、ギリギリのところで回避。しかし、敵の一撃で装甲が裂かれ、機体が一瞬よろめく。
「クソッ、普通の要撃級と動きが違いすぎる! どうする!?」
天野少佐は一瞬の逡巡の後、決断する。
「……なら、俺が囮になる! お前らはその隙に光線級を片付けろ!」
「なっ……少佐!?」
「今は敵の戦力を削る方が優先だ! 俺がこいつを引きつける! いいな、やれ!」
「……了解!」
私たちは躊躇いながらも、天野少佐の指示に従い、光線級撃破に専念することを決めた。
決死の光線級殲滅戦
「全機、目標を光線級に変更! このまま突っ込むぞ!」
3機が全速力で敵陣へと突入する。
「光線級を優先撃破! 各自、連携を密に!」
ズガァァァァンッ!!!
後方では天野少佐が新型要撃級と激しい戦闘を繰り広げていたが、坂崎たちは振り返らずに突き進む。
「このまま行くぞ! ブースター最大出力!」
「了解!」
3機の戦術機が縦一列のフォーメーションを組み、光線級に突撃!
シュンッ……シュンッ……!
光線級がレーザーを放つが、戦術機の高速機動がそれをかろうじて回避する。
「いける……! 仕留めるぞ!」
私が突撃刀を構え、最も近い光線級に向かう。
「これで終わりだ!!」
ガシュッ!!!
光線級の頭部が一刀両断され、崩れ落ちる。
「光線級、1体撃破!」
「!」
鈴乃も同様に光線級を斬り伏せる。
「こっちも!」
華太も3体目を仕留める。
「残り1体……これで決める!」
私は全速力で最後の光線級へと向かう。
「頼む、間に合え!!」
光線級がレーザーを放とうとした瞬間――
ズバァァン!!!
私の突撃刀が光線級のコアを貫いた。
「……終わった、か?」
「光線級、全滅! 目標達成!!」
作戦成功、しかし……
「光線級を撃破! これで敵の火力は下がる!」
だが、その瞬間――
「天野少佐の機体、大破! 緊急脱出信号を確認!」
「……何!?」
私が振り返ると、天野少佐の機体が無残にも地面に崩れ落ちていた。
「くそっ……撤退準備をしろ! 少佐を救出する!」
「了解!」
雷鬼隊は即座にフォーメーションを変え、戦場からの撤退を開始した。
作戦は成功した。だが、代償は大きかった。
雷鬼隊の初陣……その結末は光線級は全滅し、戦場の制空権を奪取しBETAの戦力を大幅に削ぐことに成功
しかし、新型要撃級の出現により、天野少佐が戦線離脱
無事生存した………とは言い切れず、悲惨な死を遂げた
1998年7月某日 小倉駐屯地・司令部
「……雷鬼隊は、本日をもって解散とする」
司令官の静かな声が響く。
天野少佐の戦死。
雷鬼隊の損耗。
新型要撃級BETAの脅威。
全てを考慮した結果、雷鬼隊は解散を命じられた。
坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉、小峠華太中尉――
彼らは新たな任務へと再配置されることとなった。
「……納得できません、大佐」
鈴乃が悔しそうに言う。
「私たちは光線級を撃破し、戦場の制空権を確保した……それなのに、解散とはどういうことですか?」
私も拳を握る。
「司令……本当にこれでいいんですか? 雷鬼隊はまだ戦えます」
司令官は目を伏せ、重く息をついた。
「……お前たちの功績は十分に評価されている。だが、それ以上に”新型BETA”の存在が問題なんだ」
「……」
「上層部は雷鬼隊を維持するよりも、新型BETAの情報を精査し、新たな戦術を確立することを優先すると判断した」
「要するに……俺たちは”戦いすぎた”ってことですか?」
華太が皮肉っぽく笑う。
「そうだ。戦いすぎたがゆえに、上層部は恐れている。“未知の敵”との遭遇をな」
そんな……私達がやってきた事は無駄だったって言うのか!?
私は悔しい思いで歯を食いしばる。
「……納得はいきません。でも、命令は命令ですね」
司令官は静かに頷く。
「そうだ。お前たちはそれぞれ別の部隊に再配置される。九州戦線は依然として厳しい状況だ……お前たちの力はまだ必要とされている」
「……了解しました」
私は敬礼し、他の二人もそれに続く。
こうして、雷鬼隊は消えた。
しかし、その戦いの記憶は、決して無駄ではなかった。
新型BETAの存在。
学習する”異形の要撃級”。
九州戦線の新たな局面――。
私達の戦いは、形を変えて続いていくことになるのだった。
1998年7月、雷鬼隊、解散。
だが、戦争は終わらない。
どうもお久しぶりです。
1年4ヶ月待たせてしまい申し訳ありません。放置してました(ーー;)
マブラヴ:ディメンションズ…サービス終了しますね。正直呆然しましたしもっと続けて欲しかったですね。
でも、いつか終わる事なんて事は理解してるつもりです。ウルスラ革命や佐渡島防衛戦のイベントシナリオやって欲しかったし、まだ実装されてなかったキャラ沢山いるのにな……と思いました。
あのロードマップ、全部成し遂げること出来るのか?と思ってましたが、今の運営は金銭的に苦しい状況でコネクションも限られてるから厳しいと思います。マブラヴアニメ第三期(もしくは劇場版)制作は放送権を持ってるフジテレビが色々と騒がれてるようだし元SMAPの中居正広氏の女性問題までボロボロと発覚してるからそれどころじゃないですね……。
余談ですが、小倉駐屯地の司令官、渡慎吾は俳優の渡哲也さんとお笑い芸人であるオリエンタルラジオの藤森慎吾から名前を取りました。
と言う訳で連載再開です!次は山口防衛戦です。お楽しみに。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた