トータルイクリプスサンダーボルト 外伝   作:マブラマ

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Rebellion

ベーバーゼー基地 尋問室

 

リィズの冷徹な目がイングヒルトを捕え、その手が銃の引き金にかかる。息が止まるような緊張の中、イングヒルトはその銃口を真正面に感じながらも、一歩も引くことなくリィズを見据えていた。

「――これで終わりよ」

リィズは冷たく呟き、トリガーを引こうとした。

その瞬間、尋問室の扉が激しく開き、ファルカが飛び込んできた。彼の顔には焦りと驚愕の色が濃く浮かんでいた。息を切らしながらも、声を震わせて報告する。

「リィズ先輩! 緊急事態です!」

リィズは銃を構えたまま、無表情でファルカを一瞥した。その目は鋭く、ただでさえ冷徹な彼女の姿勢を一切崩すことなく、ファルカに向けられる。

「今、何を言っているの?」

リィズの声に鋭い苛立ちが込められた。

ファルカは一瞬、息を呑むが、すぐに冷静さを取り戻し、必死に続ける。

「基地が襲撃されています!反体制派の構成員や衛士達が突入してきました!格納庫では、監視しているはずの666部隊の整備兵全員が叛乱を起こしたんです!」

その言葉に、リィズの手が微かに震え、銃をイングヒルトに向けたまま、一瞬だけ目を閉じた。状況の急変に、彼女は完全に意表を突かれた。

「叛乱……?」

イングヒルトもその言葉に驚き、リィズの銃口がわずかに逸れるのを感じ取った。その一瞬が、彼女にとっては命運を分けるような間合いだった。

リィズは顔をゆっくりと上げ、険しい表情でファルカに指示を出す。

「すぐに対応策を講じなさい。状況が把握でき次第、私に報告を。」

ファルカは頷くと、すぐに尋問室を後にした。

部屋に残されたのは、依然としてイングヒルトとリィズ、傷や殴打、痣だらけのファムだけだった。しかし、今やその空気は、戦いの前の静けさから、すぐにでも爆発しそうな緊迫感へと変わっていった。

リィズは冷徹な目でイングヒルトを再度見つめ、ゆっくりと口を開く。

「あなたの命は、あと少しだけ延命されたようね。だが、状況が変わった。今は他に集中しなければならない」

イングヒルトは、今のうちに反撃のチャンスを逃すまいと、彼女の言葉に強い反発を感じながらも、内心で冷静さを保った。自分にとっても、これから起こる事態に対処するためには、即座に判断しなければならない。

「リィズ、あなたがどれほど強くても、私はあなたを止める。これ以上、無駄な命を失わせないために。」

イングヒルトは拳を握りしめ、決意を固めた。

リィズはその言葉に小さな笑みを浮かべる。

「あなたの言葉も、どうせ空しいだけだわ。」

そして、リィズはすぐに背を向け、部屋を出る準備をした。その時、彼女の脳裏に浮かんだのは、シュタージとヴェアヴォルフの支配を確実にするための次の一手だった。叛乱を制圧するために、どのように動くべきかを考えながら。

イングヒルトもまた、戦いの準備をしながら心の中で決意を新たにした。この基地内で何が起ころうとも、今こそ自分の信念を貫く時だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベーバーゼー基地の格納庫周辺は、まるで地獄のような光景になっていた。爆発が連続し、炎が天を焦がす。シュタージの部隊は壊滅的な被害を受け、基地の戦術機部隊は次々と撃破されていた。

反体制派の戦術機「バラライカ」が基地内部へと侵入し、圧倒的な機動力と火力でシュタージ側の「チボラシュカ」を次々と撃墜していく。敵の動きは計画的で、単なる襲撃ではなく、徹底的な制圧戦だった。

《リィズ先輩!基地がもう持ちません!》

ファルカの悲鳴のような通信が入る。リィズは冷徹な表情を崩さず、既にチボラシュカのコクピットに乗り込んでいた。戦術機のOSが立ち上がり、モニターに基地の戦況が映し出される。

「……バラライカがここまで入り込んでいるなんてね」

リィズは静かに呟き、操縦桿を握る。チボラシュカの駆動音が響き、機体がゆっくりと立ち上がる。

彼女の視界に、3機のバラライカが映る。そのうちの1機から通信が入った。

《おやおや、シュタージの小娘が一機で出てきたか。降伏する気になったか?》

リィズは静かに笑った。

「あなたたちに降伏するくらいなら、ここで死んだ方がマシね」

《ふざけたことを……チボラシュカでバラライカに勝てるとでも?》

「勝てるかどうかは問題じゃないわ。あなたたちが、ここで死ぬかどうかが問題よ」

言い終わると同時に、リィズは機体を急加速させた。敵のスナイパーが発砲するが、弾丸は空を切る。リィズは素早く遮蔽物の陰に入り、敵の包囲を崩す機会を狙う。

《こいつ……逃げる気か?》

敵が警戒しながら包囲を狭める。その瞬間、リィズは影から飛び出し、至近距離での戦闘を仕掛けた。バラライカのパイロットが驚愕する間もなく、リィズのチボラシュカは素早くナイフを抜き、最も近い敵機のコクピットを貫いた。

爆発が起こり、敵の1機が墜落する。

《貴様ぁっ!》

リーダー機が怒りに燃え、即座に攻撃を仕掛ける。リィズのチボラシュカが被弾し、警告音が鳴り響く。

「……ふふ、やるじゃない」

リィズはすぐに後退し、戦況を冷静に見極める。敵はまだ2機、しかしこちらの戦力は限られていた。

その時、無線からファルカの声が響いた。

《リィズ先輩!味方の部隊が再編成完了、援護に向かいます!》

リィズは小さく笑った。

「やっと来たのね。なら、今度はこちらが反撃する番よ」

彼女はバラライカの残存機を見据え、操縦桿を握り直した。戦いは、まだ終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎と煙が立ち込める戦場で、リィズのチボラシュカは静かに機体を旋回させた。彼女の視線の先に、一機のバラライカが悠然と立ちはだかる。その機体は今までの敵とは違い、威圧感を放っていた。

「……なるほど」

リィズは微かに眉をひそめた。敵機の塗装、識別コード――どれを取っても、ただの叛乱兵ではない。

その時、通信が入る。

《リィズ……お前が相手か》

聞き覚えのある声だった。冷徹ながらも、かすかに怒りを含んだ男の声。

「……お兄ちゃん」

リィズは低く呟く。

《……》

「……まさかこんな形で再会するなんてね」

リィズは僅かに微笑んだが、その表情は冷たいままだった。

テオドールのバラライカが一歩踏み出す。重厚な機体がゆっくりと突撃砲を構えた。

《お前のやっていることは、間違っている》

「間違い?私のどこが?」

《お前はシュタージの犬となり、無意味な粛清を繰り返し、大義もなく戦い続けること。それが正しいとでも思ってるのか?アイリスディーナを傷付けてまでお前は!》

リィズは短く息を吐いた。

「…お兄ちゃんは何のために戦っているの?」

《仲間のために。自由のために。そして……お前を止めるために》

リィズの表情が僅かに曇る。しかし、すぐに元の冷徹な顔に戻った。

「私を止める? 本気で言ってるの?」

《ああ、本気だ》

次の瞬間、テオドールのバラライカが閃光のように動いた。突撃砲の砲口が火を吹き、リィズのチボラシュカの装甲をかすめる。リィズは瞬時に回避し、カウンターで掃射したが、テオドールの機体は見事な機動でかわした。

「やるわね……!」

リィズは舌打ちしながら、すぐに次の行動に移る。至近距離に持ち込み、格闘戦に持ち込む――それが彼女の狙いだった。

しかし、テオドールはそれを読んでいた。バラライカは鋭いステップで間合いを保ち、ライフルを精確に撃ち込む。

《リィズ、お前にここで死んでほしくはない》

「何を今さら!」

リィズは叫びながら、機体を加速させた。近接戦闘に持ち込むため、ナイフを抜き、一気に踏み込む。しかし、テオドールはそれを冷静に見極め、ナイフシースを展開する。

「……ッ!」

金属音が響き渡る。リィズのナイフと、テオドールのナイフが激しくぶつかり合う。

《お前を救いたいんだ、リィズ!》

「救う?今さら何を言っているの?私はもう、後戻りなんてできないのよ!それにあの女はもういない。お兄ちゃん達に希望なんて残ってないよ!!」

二機の戦術機は交錯し、激しい格闘戦を繰り広げる。リィズは全力でテオドールを倒そうとするが、彼の技量は予想以上だった。

「……クソッ!」

リィズは焦りを感じながらも、戦いを続ける。しかし、その心の奥には、かつての記憶が微かに蘇っていた。

そして、二人の戦いはなおも続いて激しい戦闘が続く中、リィズのチボラシュカは徐々に追い詰められていた。テオドールのバラライカは、一撃一撃が正確で無駄がなく、彼女の動きを確実に封じ込めていく。

「……くっ!」

リィズは歯を食いしばりながら、回避機動をとる。しかし、テオドールの狙撃が彼女の左腕部装甲を貫き、機体が大きく揺れる。

《降伏しろ、リィズ!これ以上戦っても、お前に勝ち目はない!…アイリスディーナはどこだ!?本当はわかってるんだろ!?この国を変えるためにはあいつが…!》

「降伏?冗談じゃないわ!」

リィズは即座に機体を立て直し、120mm弾を乱射する。しかし、テオドールは巧みに回避し、反撃の構えを取る。

 

その時――

 

《通信回線、緊急開放!リィズ先輩、聞こえますか!?》

突如、ファルカの声が割り込んだ。

「ファルカ!? 今どこにいるの!?」

《格納庫です!基地の防衛ラインが完全に突破されました! シュタージの生き残りも散り散りになっていて、もはや持ちこたえられません!》

リィズの眉が険しくなる。

「……何ですって?」

《逃げてください!戦ってる場合じゃありません!今すぐ脱出しないと、もう手遅れになります!》

リィズは唇を噛む。彼女の信念は、最後まで戦うことだった。しかし、今の状況では勝ち目がない。

「黙れ!ミューレンカンプ!!義兄妹の間に入るな!!―――今すぐ投降しなければこの女を殺す。他の仲間も全員殺す。基地も何もかも破壊する。お願いお兄ちゃん。もう諦めて。この国の事なんてどうでもいいの。お願いだから私の所に来て…」

《…リィズ、お前はどうしたいんだ?》

テオドールが問いかける。彼のバラライカは、まだ砲口を向けたまま動かない。

「……私はこれまでずっと頑張ってきたんだよ。お兄ちゃんのために…亡命者だって何人も殺してきた!仲間だって何度も密告した!上層部をたらしこむために体も汚した!アクスマンに抱かれ犬にもなった!

《…もう一度聞く。アイリスはどこだ?》

リィズは一瞬、決断を迷った。しかし、今この戦場で死ぬわけにはいかない。

「……お兄ちゃんと一緒になるまで降伏はしない!」

《リィズ………!》

リィズはテオドール機に反撃を仕掛ける!

「ふふ、やっぱりお兄ちゃんだね」

リィズはフットペダルを強く踏み込み突進した。

「ほんと頑固で、馬鹿なんだからああああああ!!!!」

次の瞬間、リィズのナイフと、テオドールのナイフが再び激しくぶつかり合うが圧されていったのは……。

《ぐ……》

テオドールの方だ。

リィズは涙を流し泣き叫ぶ

「どうしてなの!ねぇ!わかんないよ!なんであの女なの!?あの女なら今頃男を咥えこんでお兄ちゃんのことなんてとっくに忘れちゃってるよ!」

リィズは怒りを任せテオドールに向け攻撃する。

「あいつは自分の家族を殺せる女なんだよ!でも私は違う!お兄ちゃんの為だけに生きてきたんだから!」

猛攻撃の際、テオドールが握り構えてるナイフを弾き飛ばし

リィズは管制ユニットを的確的に攻撃

「なのに!なのに私じゃ駄目なの?私はお兄ちゃんだけいてくれればいいのに!」

ファムが戦術機の後ろからRPG-7を構え発射、突撃砲に直撃!

「駄目よリィズちゃん。あなたはそんな子じゃないでしょ。だからもうやめて。あなたたちは…」

「……!」

リィズは予備の突撃砲を構えファムに砲口向ける

「邪魔を、するなー!」

リィズは逆上しファムに向け突撃砲を発砲しようとするが

《先輩!》

ファルカは36mm弾でリィズ機が持ってる突撃砲を弾き飛ばす

「!?」

《先輩、命令違反です。無意味な粛清は…》

「煩い!ミューレンカンプ!黙って私の言う事聞いていればいい!」

《リィズ先輩!!》

モニター越しでファルカは画面に映っているリィズの顔は最早天使ではなく悪魔に魂を売り自分の思うがままに願望を実現させようとしている表情だった。

「くっ…!あの女が……あの女が悪いのよ!!」

「リィズちゃん………?」

「お兄ちゃんを誑かした!酷い女!悪女が!雌豚!淫乱女!お兄ちゃん以外に他の男を咥えてるでしょ⁈そうなんでしょ!!!?この阿婆擦れ女!!アンタなんかお兄ちゃんに相応しくないからいなくなればいいのよ!!削除される側の人間が私の事が何分かるって言うの!?削除されれば良いのよ!」

リィズは怒りを任せファムを侮辱した。

「そんな…リィズちゃん…私は貴女の事を…うぅぅ…うぅぅ…」

ファムはリィズの身勝手な発言を聞いて号泣してしまった。

テオドールはリィズの言葉に怒りを爆発させた。

《何故だ!? 何故ファム姉を侮辱した!? ファム姉はお前を助けようとしたんだぞ! それを!》

しかし、リィズは狂気に満ちた笑みを浮かべたまま、歪んだ感情をぶつける。

「助ける? 馬鹿言わないで! あの女はお兄ちゃんを誑かしたのよ! お兄ちゃんは私だけを見ていればよかったのに!」

ファムはショックを受け、涙を流しながら言葉を絞り出した。

「違う……私は……リィズちゃんを……」

だが、リィズはその言葉すら聞き入れず、さらに罵声を浴びせる。

「黙れ! お前なんかが、お兄ちゃんの隣にいる資格なんてない! お兄ちゃんは私だけのものよ!」

その瞬間、テオドールの怒りは限界に達し、バラライカの巨大な腕がチボラシュカの頭部を殴りつけた。

「ふざけるな! 俺はお前の所有物じゃない!」

衝撃で機体が大きく揺れ、リィズの思考も一瞬止まる。彼女は驚いたようにテオドールの名を呟いた。

「……お兄ちゃん……?」

しかし、テオドールの声にはもう迷いがなかった。

「ファム姉はお前を傷つけることなんて考えもしなかった! それなのに、お前は……!」

「違う! 私が悪いんじゃない! 悪いのはあの女よ!」

リィズは撃墜されたチボラシュカが持ってた突撃砲を拾いそれを構え、怒りのままにファムへと狙いを定める。

「邪魔をするな! お兄ちゃんは私だけのものなのよ!!」

しかし、その時だった。

《先輩!》

鋭い砲撃とともに、リィズの持つ突撃砲が弾き飛ばされた。驚いて振り向くと、ファルカの機体が突撃砲を構えていた。

《もうやめてください、先輩……これ以上、あなたが間違った道に進むのを見たくない!》

リィズは愕然とし、震える声でファルカの名を呼んだ。

「ファルカ……? 何で……」

しかし、モニターに映るファルカの表情は、悲しみに満ちていた。

《先輩、命令違反です。無意味な粛清は……》

「さっきから何なんだ!その態度は!ふざけるなーー!!」

リィズは叫んだが、その声はどこか震えていた。彼女の視界の隅で、ファムが嗚咽を漏らす。

「……リィズちゃん…………うぅぅ……」

リィズは動揺しながらも、まだ怒りを捨てきれない。

「どうして……なんで私じゃ駄目なの……? どうしてあの女なの!?」

だが、その問いに答えたのは、テオドールだった。

《俺は、お前を妹として愛していた。だけど今のお前は……俺の知っているリィズじゃない……!》

その言葉は、リィズの心を鋭く貫いた。

彼女はただ呆然とし、震える唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィズは震えながらも突撃砲を再度拾って握りしめたまま、ファルカの機体を見つめる。その目は、怒りと混乱の入り混じったものだった。ファルカが今にも泣きそうな顔で、リィズに向かって話しかける。

《リィズ先輩…お願い、目を覚まして! あなたの戦いは、もう誰のためにもなりません!》

リィズの心がざわめく。彼女は目を閉じ、深く息を吐き出す。だがその胸の中に湧き上がる感情は、止めることができない。涙が頬を伝うのも構わず、彼女は叫んだ。

「……何もわかってない!あなたには、私がどれだけ苦しんでいるかなんて、わかるわけがない!」

その言葉を聞いたファルカは、さらに泣きながら言った。

「先輩……私はあなたを理解したいと思っている。だけど…そんな風に戦い続けて、どうするつもりなんですか?」

リィズは頭を振り、歯を食いしばる。彼女の心の中で、かつての温かい記憶が一瞬だけ蘇る――兄と一緒に笑っていた日々。しかし、その記憶はすぐに黒い感情に覆い隠され、怒りに変わる。

「私は、ずっとお兄ちゃんと一緒にいたかっただけなのに!」

と叫びながら、彼女は突撃砲をファルカに向けて引き金を引く。しかし、その瞬間、テオドールのバラライカが前に飛び出して、リィズの攻撃を遮った。

「リィズ!」

テオドールの声は、以前の冷徹なものではなく、もう一度妹を助けようとする決意が込められていた。

「もうやめろ!お前は、そんなふうに自分を壊すようなことをしてはいけないんだ!」

リィズは一瞬、その言葉に動揺した。だがすぐに、彼女の心の中に渦巻く怒りと悲しみが再び彼女を支配する。

「どうして、どうしてお兄ちゃんは私を見てくれないの!? あの女と一緒にいるなんて…!」

その言葉を受けて、テオドールは目を見開き、彼女に向けてゆっくりと歩み寄った。

「リィズ、お前はもう俺を失いたくないんだろう?なら、俺たちは戦うべきじゃない。」

リィズは涙を浮かべた目でテオドールを見つめる。彼女の手が震え、突撃砲を下ろすことを迷っていた。

そのとき、ファムが前に出てきて、リィズに向けて言った。

「リィズちゃん、私は…あなたを傷つけようなんて思っていない。テオドール君だって、私たちのために戦っているだけよ。でも、あなたがそんなふうに誰かを憎んで、戦い続けて、何かが変わると思ってるの?」

リィズの心がまた揺れる。だが、その時、彼女の中で何かが弾けた。涙をこらえきれずに流しながら、彼女は叫んだ。

「お兄ちゃんを返して! 私の、お兄ちゃんを――!」

そして、リィズはその叫びを最後に、自分の心を見つめ直す決意を固める。それは、戦いの中での一つの選択を意味していた。

イングヒルトは基地の屋上に立ち、冷徹な目で下の戦場を見下ろしていた。手すりに片手を置き、煙の立ち込める戦場をじっと観察している。彼女の目に映るのは、リィズとテオドール、そしてファムの姿だった。

リィズの姿は、イングヒルトの目にはまるで愚か者のように映った。彼女は、家族や信念に囚われて、周囲の人々を傷つけ、破滅へと向かっている。それをただ見ていることしかできない自分に、内心の怒りを抑えきれずにいた。

「こんなにも無様に、自分の感情に振り回されて…」

イングヒルトは小さく吐息をつき、冷ややかな笑みを浮かべた。

「一体、何を考えているんだろう。こんな幼稚な戦いを続けて、何が手に入るというの……」

リィズがファムに向けて怒りをぶつけ、テオドールとの間で深い溝を作りながらも、必死に戦い続ける様子を見て、イングヒルトの心は一層冷たくなる。その目には、リィズを救おうとする者たちが滑稽に映り、まるで泥沼に足を取られているように見えた。

「彼女はもう、止まれないのだろう。目の前にあるのは、破滅だけ……義兄妹の絆も、ファムの無駄な助けも、すべて無意味…」

イングヒルトは静かに拳を握りしめる。戦場で繰り広げられているのはただの感情の衝突であり、戦いの本質を見失っていると感じていた。彼女のように冷徹で計算高い者にとって、感情や個人的な思いは戦の道具に過ぎない。だが、リィズのように感情に突き動かされている者は、戦場で無様に倒れていくしかないのだと、イングヒルトは心の中で結論を下していた。

「ファム姉さんがリィズを止める?―――それは無理だろう…だが、これ以上見逃すわけにはいかない」

イングヒルトは短く呟き、目を細めた。リィズの愚かさを断ち切るために、彼女自身が何かしらの手を打たなければならないという思いが強くなる。

その時、彼女の手に持っていた通信機が震え、冷静な声が響いた。

《イングヒルト、大丈夫か?》

それは、彼女の部下からの声だった。イングヒルトは無表情のまま通信機を耳に当てる。

「私は、あの場に加わる必要はない。ただ見守っているだけだ。」

彼女の声は冷静で、感情を一切交えなかった。

《でも、ホーエンシュタイン中尉の状況が悪化しています。エーベルバッハも動きが怪しい。もし何か手を打つなら今がチャンスかと…》

「チャンス?」

イングヒルトはふっと笑みを浮かべ、目を細めた。

「……彼女がどんなに暴れても、無駄だということを、まだ理解していないのか?」

その言葉を聞いて、部下は一瞬黙った。イングヒルトはさらに続けた。

「リィズ・ホーエンシュタインにはもう、選択肢はない。感情に支配される者は、必ず崩れる。そして、その崩れる瞬間こそが最も価値のある瞬間だ」

彼女はしばらく戦場を見守った後、通信を切った。

その後、イングヒルトは冷たい視線を戦場に向け、心の中で次の動きを決めた。彼女は、あえてリィズを破滅に追い込むことで、戦局を自らの手のひらに乗せようと考えていた。無駄に抵抗している彼女に対して、最も冷徹な方法でその結末を迎えさせるつもりだった。

地主貴族で優しい性格とは程遠く、それはまるで事実上の恋仲であるニコラみたいに冷徹な目だ。

イングヒルトは、その時の彼女の表情に微かな興奮を覚えた。それは、リィズの無様さを目の当たりにすることが、彼女の心に何かを引き起こしたからかもしれなかった。

リィズの心は完全に暴走していた。涙が乾く間もなく、彼女は無意識に突撃砲を再び握りしめ、その目は狂気のように輝いていた。心の中では兄との記憶が渦巻き、彼の声が何度も何度も響いていた。

「お兄ちゃん、お願い、帰ってきて…!」

その叫びとともに、リィズは突撃砲をファルカに向けて引き金を引く。しかし、今度はファルカも一歩も引かない。ファルカの目に浮かぶのは、リィズの暴走を止められないという焦りと恐怖だった。

《リィズ先輩!お願いです!これ以上、誰かを傷つけないでください!》

しかし、リィズの耳にはその声すら届いていなかった。目の前に映るのは、自分を止めようとする者たちだけで、彼女の心は完全に閉ざされていた。

「あなたなんかに、何がわかるって言うの!?」

リィズは叫びながら、再びトリガーを引いた。今度はテオドールのバラライカがリィズの攻撃を受け止めた。

《リィズ!お前がそうやって戦い続けたら、何も変わらない!》

テオドールの声は、必死だった。しかし、それでもリィズの怒りは収まらなかった。彼女の手が震え、目がぎらぎらと輝いていた。兄との思い出、失ったもの、そして自分が何をしているのか分からないという感情が混じり合って、彼女はただただ前に進みたかった。

「私はお兄ちゃんを取り戻すんだ!あんな女と一緒にいるお兄ちゃんなんか、いらないんだ!」

リィズの叫びが戦場に響き渡る。

その瞬間、ファムが前に出てきて、リィズに向かって叫ぶ。

「リィズちゃん、あなたはそれで幸せなの!? もう、こんなことをしても誰も救えないわ!」

だが、その言葉は、リィズには届かなかった。ファムの優しさが逆に彼女の怒りを掻き立て、リィズは冷徹な表情を浮かべた。

「何もわかってない!私は、もう…何もかもが壊れてしまったんだ!」

リィズの怒りと悲しみが暴風のように周囲を包み込んでいた。

そのとき、イングヒルトが冷静に戦場を見守っていた。リィズの暴走を遠くから眺めながら、彼女は次の動きについて冷徹に考えていた。イングヒルトにとって、リィズのような感情に溺れる者は必ず崩れ、やがて無力化されると信じていた。

「また、愚かな戦いか…」

イングヒルトは小さく吐息をつき、次の指示を部下に伝えた。

《ホーエンシュタインが暴走しているうちは、戦況は安定しない。だが、あれを利用できるなら、今がその時ですよ》

イングヒルトは静かに手を動かし、何かを決意した様子で戦場を見つめ続けた。

その時、リィズはさらに突撃砲を手に、前方に向かって走り出した。彼女の視界には、もう誰の顔も見えていない。怒りと絶望、そして狂気の中で、ただ前へと突き進んでいく。

「私は…お兄ちゃんを…!」

その瞬間、彼女の進行を止めるために、ファルカが再び立ちふさがろうとする。しかし、リィズはそのすべてを無視して、突撃砲を向ける。その姿は、もはや彼女自身が止められない存在になっていた。

ファルカは死を覚悟しリィズを止めようとした次の瞬間。

「!」

アネットが乗るバラライカがリィズ機に急接近!

リィズの怒りは、もはや制御不能な状態に達していた。暴走した彼女の機体は激しく揺れ、突撃砲を握りしめたまま、アネットに向けて容赦なく引き金を引く。

「アネット……」

リィズは叫びながら、目の前の敵を撃ち抜こうとする。

「馬鹿野郎!アネット、誰を撃ってる?ふざけるなーーーーーー!!」

しかし、その攻撃をアネットは冷静に回避し、彼女の顔に浮かぶのは悲しみと決意に満ちた表情だった。

「な…何だったのよ…!」

アネットの声が震える。

「テオドールの義父さんは一体何のために!?」

リィズはその言葉を一瞬無視したが、胸の中に過去の記憶が蘇る―――だが、すぐにその思考を振り払う。怒りが彼女を支配していた。

「お父さん?……あぁ…トーマス・ホーエンシュタインか。そうだ!アネット。ああ言うクソ真面目で真っ直ぐな人間が損をするんだ!そんな世の中で良いのか!?分かったら、そこにいる其奴らを殺せ!撃てええええええええええええ!!!」

リィズは歯を食いしばりながら叫んだ。

その時、アネットはリィズに向かってゆっくりと歩み寄る。

「リィズ…あんなにアンタは大切な人を守ろうとしたじゃない!―――それとファム姉を死に追い詰めて…馬鹿を見たで済ませるの!?」

その言葉がリィズの胸に突き刺さる。しかし、彼女の中の怒りがそれを押し込め、再び突撃砲を発射させる。

「黙れ…黙れ!!」

リィズの声はかすれ、絶叫に近くなる。

「私の痛みなんて、誰も理解しないんだ…!お前だって、私の気持ちなんてわかるわけない!」

アネットはその場で立ち止まり、目を閉じた。心の中で叫んでいた。リィズを止めなければならない、しかしそのためにはリィズを傷つけるしかないという矛盾した思いに苦しんでいた。

「リィズ、もう…!あたしだってあんたを助けたかった!」

アネットの目から涙がこぼれた。

「でも、もしあんたがこんなふうに暴走して、みんなを傷つけ続けるなら、私には止めるしかないのよ!」

リィズの機体が再びアネットに向かって突撃する。その瞬間、アネットは深く息を吐き、冷徹に判断する。彼女は自らの涙を拭い、無駄な感情を排除した。そして、リィズの暴走を止めるために、決してためらわず引き金を引いた。

「ごめん、リィズ…でも、これ以上は許せない!」

アネットは涙をこらえながら、強い意志で発砲する。その一撃がリィズの機体の左腕を貫き、続いて右腕も破壊した。

リィズはその痛みによろめきながら、叫び声を上げる。

「うあああああ…!!」

アネットは冷静にその瞬間を見つめ、すぐにリィズの動きを封じることができた。しかし、その目には苦悩と絶望が浮かんでいた。

「リィズ…あんたを傷つけたくはなかった。でも、私にはあんたを止めるしか…」

その言葉を聞いたリィズは、怒りとともに顔を歪めた。

「お前なんかに…!お前に私を止める資格なんてない!」

アネットは立ちすくみ、リィズの目に宿る狂気を見つめる。彼女がどれだけ絶望的な状態にあったとしても、リィズがもう戻れない場所にいることを理解し、痛みとともにその事実を受け入れるしかなかった。

リィズは激しく震え、叫びながらアネットに向かって突撃する。だが、アネットはもう一度、全てを断ち切るようにその一撃を放ち、リィズの突撃砲を完全に破壊した。

「殺す……!」

アネットの声は、悲痛で切実なものだった。

そして……リィズ機の管制ユニットに

「此奴を殺さないとダメだああああ!!」

テオドールはアネットに叫ぶ!

《待て!アネット。早まるな!》

120mm弾を放ったが、態と外した。

リィズはとうとう、動けなくなった。涙を流しながらも、冷徹に相手を打ち倒すその冷徹な目が、少しずつ曇っていく。アネットはその光景を見て、心が痛むのを感じた。

「あたしが…あたしがこんなことをしても、リィズはもう戻らない…」

アネットは静かに呟く。

基地の屋上に一部始終を見ていたイングヒルトは既に立ち去っていた。誰にも気付かれる事なく。

その後、アネットは戦場を後にし、リィズの悲しみと絶望を胸に抱きながら、前進を決意する。戦いはまだ終わらない。しかし、彼女の心には一つの決意が固まっていた。それは、リィズを止めたことが最終的に良かったのかどうか分からないが、今の自分にはこれしかできなかったという思いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネットがリィズを止めた後、戦場は一時的に静寂に包まれる。リィズの機体は無力化され、動かなくなった。しかし、その静けさは長く続かない。周囲には戦いの痕跡が散らばり、仲間たちの顔には疲れと痛みが色濃く浮かんでいた。

アネットは暫くその場に立ち尽くし、目の前に倒れたリィズの機体を見つめる。涙をこらえきれず、視界がぼやける。しかし、彼女は一歩を踏み出し、ゆっくりとその場を離れようとする。戦場はまだ終わっていない。彼女には進むべき道があるからだ。

その時、テオドールが走り寄ってくる。彼の顔には怒りと絶望が混じり、アネットを睨みつける。

「お前…リィズを…!」

アネットはテオドールの視線を受け止め、少しだけ目を閉じる。彼の怒りが理解できるからこそ、言葉を選ばなければならなかった。

「テオドール…あたしだって、あんなことをしたくなかった。だけど、リィズがこのまま暴走し続ければ、誰かが命を落としていた。あんたも、彼女を止められるわけじゃなかったでしょ?」

テオドールは何も言わず、ただアネットを見つめる。その表情には、失ったものの大きさと、どうしても消せない怒りがにじみ出ていた。

「……だからって、俺たちがどうしてこんなことをしなきゃならないんだ!?」

「それを選んだのはリィズだ!」

テオドールは振り返り、痛みと無力感を吐き出す。

「え……な、何で……?」

その時、背後から冷徹な声が響く。イングヒルトだ。彼女は無表情でその場に立ち、リィズの倒れた機体を一瞥する。

「イングヒルト……?」

「既に終わったことだ。無駄に感情的になっても、何も変わらない。」

アネットはイングヒルトを一瞬見た途端驚愕し、その冷徹な態度に心が冷えるのを感じた。しかし、彼女はすぐに視線を戻し、テオドールに向き直る。

「…イングヒルト、生きてて良かった。―――あたし達…親友だよね?」

「うん。でも、これで終わりじゃない。私たちは、まだ戦わなきゃいけない。ホーエンシュタインのためにじゃない。私たち…いや、祖国のために」

テオドールは無言で立ち尽くし、アネットとイングヒルトの言葉を飲み込む。彼の心には、リィズの痛みも、自分の無力さも、全てが交錯していた。

その後、戦場は再び激しさを増し、戦況はますます緊迫していく。リィズの倒れた後、何かが変わり始める。それは、物理的な戦闘の中での変化だけではなく、この場にいる人達の心の中での変化も意味していた。

イングヒルトは冷静にその動向を見守り、次の一手を考えている。彼女はリィズの暴走を利用し、戦局を自らの手のひらに乗せようと考えているが、その選択がどれほど残酷な結果を生むのは既に計算済みだった。

アネットとテオドールはそれぞれの痛みを抱え、今後の戦いをどのように進めていくべきか、それを模索しながら、戦場の中で動き出す。

その中で、リィズの無念が何を生み出すのか、そして彼女を止めたアネットの心に残るものは何か、次第に明らかになるだろう。

その時、イングヒルトは無表情から優しい表情でアネットに話しかける

「……驚かせてごめんね。アネット―――テオドールも」

「……うん、何でシュタージに鞍替えしたのか。全部説明してくれるよね」

アネットは彼女が何故シュタージに入省したのかは察した。がテオドールだけ納得いかなかった

「……な、何で……死人が何でここにいるんだ!?ふざけるな!!この裏切り者が!!」

666中隊にいた頃は何も言い返せず悲しい表情を浮かべる姿はあったが、シュタージに入省した直後、心を鬼にして無慈悲でこの国にいる犯罪者や叛乱分子を摘発していた――そう、あの頃のイングヒルトは。第666戦術機中隊としてのイングヒルト・ブロニコフスキーは既に死んだのだ。

「テオドール、あなたの言い分は理解出来ない訳はありません。でも、もうあの頃の私ではありません」

「………!」

「あなたは――――自分勝手で私とアネットを貶し、病人だからという理由でアネットを見捨てリィズ・ホーエンシュタインがアクスマンの狗だと見抜けず彼女のことを最後まで擁護した哀れな男。それ以上でもそれ以下でもありません」

「!!!」

テオドールは怒りを任せ拳を強く握り殴ろうとしたが……イングヒルトの言葉が響き躊躇った。

「くっ……!」

戦場の静けさが再び破られたのは、突如として現れたニコラの姿によってだった。彼女の表情はいつもと違い、深い憂いと怒りが混じり、目の前の状況に対する冷徹な評価を一瞬で見せつけていた。

「ホーエンシュタイン…テオドール・エーベルバッハ…何をしている。こんな状況で」

ニコラの声は、戦場の喧騒を打ち消すかのように響き渡り、その場にいる全員が一瞬で身を固くした。

テオドールは驚き、言葉を失う。彼女がどれほど部下としてリィズを守りたいと思っていたか、その気持ちを理解してもらえないことが、彼女にとっては辛い現実だった。しかし、ニコラの冷徹な視線に圧倒され、反論する力も湧いてこなかった。

「貴様等、何をしている。無駄に暴走するだけで何かが変わると思っているのか?ホーエンシュタインを止められなかったからって、これ以上誰かを犠牲にしてどうする。自分の心をどこに置いてきた!」

ニコラは一歩、リィズに向かって歩み寄り、冷徹な目でその姿を見つめた。リィズは既に無力化されているが、その横たわる姿がまるでニコラを挑発するかのように見えた。

「ホーエンシュタインもだ、自分の無力さをもっとしっかり認識しろ。自分だけの力で解決しようとするからこんな結果になるんだ」

説教が続く中、アネット、ファム、そしてテオドールは言葉を返すことなくその場に立ち尽くしていた。心の中でそれぞれが、ニコラの言葉に対して何かを感じているが、言葉にできなかった。

「この場で何もできないのなら、さっさと逃げろ」

ようやくニコラは息を呑み、言葉を止めた。その厳しさの中にも、彼女自身が背負ってきた重責がにじみ出ていた。

その瞬間、ニコラはファム、アネット、テオドールに向かって目を向けた。そして、その視線はまるで彼らを試すかのように鋭くなった。

 

「貴様等、今すぐにここを離れろ。これ以上戦いに巻き込まれれば、もっと無駄な犠牲が出るだけだ。」

アネットはしばらくニコラを見つめ、その後、決意を固めて頷いた。彼女の中で、ニコラの言葉が新たな道を切り開いたからだ。テオドールもまた、ニコラの指示に従わなければならないことを理解した。リィズを守るために戦ったが、今はそれ以上に、彼ら自身の命と未来を守ることが必要だ。

「アンタ、ベアトリクスの副官でしょ…あたし達を逃がして良いの」

「二度も言わせるな―――貴様等と戦えないのが退屈になるだけだ」

「……わかったわ。――けどあたし達を逃がした事後悔するわよ」

アネットが口を開く。

「しつこいぞ。さっさと逃げろ」

ニコラの言葉を聞いたファムも静かに頷き、テオドールは苦い顔をしながらも、何かを決意したように前を向いた。

その後、ニコラは彼らが態と逃がす手筈を整え、隙間を見て戦場から逃げる手助けをした。数分後、彼らは既に安全地帯へと向かう準備を整え、静かにその場を後にした。

リィズとテオドールにとっては、これが一つの決断となり、彼らが歩んでいく道は変わった。その瞬間、戦場に残されたのはニコラとリィズ、イングヒルト、ファルカだけだった。彼はその場を静かに見渡し、まだ終わっていない戦争に備えた。

「さてと……命令なしでファム中尉を粛正しようとしたのは…何を考えてるんだ!?リィズ・ホーエンシュタイン!!」

ニコラはリィズに対し怒髪天を衝いた。そしてリィズは怯える。

「!!?」

「……この後、反体制派の殲滅作戦でのブリーフィングを行う。貴様の処分はその後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネット達はニコラの指示に従い、戦場からの脱出を試みる。数分間の静寂の後、戦況がさらに激化し、彼らはついに安全地帯へと足を進める。しかし、その道中でも心の中での葛藤が続く。

アネットは歩きながら、リィズを止めたことが本当に正しかったのか、何度も自問自答している。リィズが暴走していたとはいえ、彼女を止めることで失われたものの大きさを感じていた。テオドールの怒り、そしてイングヒルトの冷徹な態度が重く心に残る。

「(リィズ、あたしの選択があんな結果を招くなんて……。でも、あれが唯一の選択だったんだよね。誰かが犠牲にならなきゃ、戦場は終わらない。でも、あたしはそれを受け入れなきゃいけないのかな…)」

ファムもまた、静かに前を歩きながら自分の思いを抱えている。戦争の中での彼女の立場が変わるたびに、彼女の心も変わりつつあることに気づいている。

「(みんながそれぞれ、選んできた道がある。でも、この戦争が終わらない限り、私は何を信じて歩いていけばいいんだろう…。あの場所で戦ったリィズちゃんも、もう戻れない。あの頃の仲間たちも、みんな違ってしまった。どうしても、気持ちが追いつかない…)」

その時、前方から聞こえる爆発音に、アネットたちは立ち止まり、周囲を警戒する。戦況が一層激しさを増し、彼らの行く手を阻むものが現れるのは時間の問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、戦場に残ったイングヒルトとニコラは、リィズの処分を巡って対立が続く。イングヒルトは冷徹な表情を崩さず、リィズに向けて無言のプレッシャーをかけているが、心の中では何かを感じているようだ。

「(リィズ…君が犯した過ちは大きい。だけど、君がこの戦争の中で変わっていったのも事実。――どうしても、私たちの間には埋められない溝ができてしまった。でも、今はまだ戦いが終わっていない)」

ニコラは冷静さを保ちながらも、イングヒルトをじっと見据え、今後の展開を見守る。

「イングヒルト、お前がシュタージに入ったことは理解している。しかし、あの頃と同じことを繰り返してどうする。リィズを処分する前に、お前自身が選ぶべき道があるはずだ」

イングヒルトはその言葉に一瞬だけ目を閉じる。そして、リィズに対して冷徹な目を向けたまま、ゆっくりと答える。

「私はもう、あの頃の私ではありません。シュタージにいる間に、学んだことが多い。でも、それが全て正しいとは限らない。ただ、リィズが今後どうなるかを決めるのは私達です」

イングヒルトとニコラは絆を固め決意した。その一方でファルカは呆然と立ち尽くすリィズの姿を見て悲しんでいた。

「リィズ先輩………」

「………お兄ちゃん……何で……」

その姿を見たニコラはファルカに冷徹な目線を送る

「やめろ。不穏分子になりつつある彼女を同情してるのか」

「………ですが」

ファルカはリィズの過去と境遇は理解している。だが、ニコラは彼女の過去と境遇を理解していても軽蔑していた。何故なら義兄妹で結婚し一緒にいること自体が道徳心の欠片もないと確信したからだ。

「エーベルバッハとホーエンシュタインは義理の兄妹で結婚なんか出来る訳ないだろ!」

「法律では可能ですよ……」

「法律は可能でも道徳的に不可能だと言っている!」

ファルカは何も言えなかった。自分が無力だと……自覚していた。

「ブリーフィングは格納庫で行う!すぐ終わらせる任務だ――いいな?」

「……了解しました」

ファルカは呆然しているリィズを抱え上げつつ持ち場へと戻った。




リィズの場面は義兄(テオドール)に対する盲目な愛情で狂気的な感情を誇張しました。本編通りに書いたら道徳心0だと思うかもしれないのでリィズを幸せにする展開は出来ませんし無理ですね。
これではリィズルートへ行けませんね……。
次回はノイルピーン市街戦です。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた
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