トータルイクリプスサンダーボルト 外伝   作:マブラマ

29 / 34
Schlacht bei Neuruppin

「総員傾注!」

ベーバーゼー基地の格納庫には、作戦の準備が整った衛士達と、作戦計画を確認するスタッフたちが集まっている。ニコラは、広いホワイトボードに向かい、ペンで慎重に作戦の詳細を書き込んでいた。兵士達は一列に並び、黙々とその内容を目で追っている。静けさの中、緊張感が漂っている。

ニコラは短く、簡潔に作戦を説明し始める。彼女の言葉は冷徹で、どこか計算された響きを持っている。彼女は中隊の士気を高めるような言葉ではなく、むしろ冷静に事実を並べる。

「今日の作戦は、フランツ・ハイム少将の拘束が目的だ。彼は西方総軍隷下教育軍の総監であり、反体制派との関わりが深い。特に、西側のキルケ・シュタインホフ少尉との会談が行われるホテルアルベルトにおいて、重要な情報が交渉される可能性が高い」

ニコラはホワイトボードに大きな地図を貼り付け、その上にマーカーで指示を出しながら説明を続ける。

「場所はノイルピーン市街近郊のホテルアルベルト。ここで少将とシュタインホフ少尉が会談を行う予定だ。この機会を逃さず、私たちは工作兵を利用して接近し、彼らの会話を監視しつつ、ハイムを拘束する。シュタインホフも反体制派と関わっている可能性があるため、確実に情報を押さえておく必要がある」

中隊に属する衛士達は慎重にその内容を聞き、目を見開いている。ニコラは作戦のポイントを繰り返し確認しながら、冷静に指示を出していく。

「作戦の核心は、フランツ・ハイム少将を確保することだが、もしシュタインホフの意図が我々にとって不利なものであれば、彼も無力化する。会談後、彼らがどのような動きに出るかはわからないが、これ以上反体制派の影響力が拡大することを許してはならない」

その後、ニコラは作戦に参加する衛士や工作兵達に具体的な役割を割り当て、各自が持つべき装備や移動ルートについて説明する。

「工作兵はホテル近くに潜入し、少将とシュタインホフの動向を監視して接触する。各部隊は、包囲網を作るために素早く展開し、必要に応じてバックアップを提供する。情報収集と拘束が優先事項だ。」

彼女は中隊の中で特に信頼できる者に目を向け、しっかりとした指示を与える。

「反体制派の要素がここにいる可能性がある。油断するな。必要なら、会談を聞き逃さないようにしっかり監視し、何があってもフランツ・ハイム少将を逃がすな。生死は不問だ」

作戦の内容が終わると、ニコラは深いため息をつきながら衛士達を見渡す。

「何か質問があれば、今のうちに聞いておけ」

ニコラがそう言うと、イングヒルトが挙手し質問を投げつけた

「シュタインホフ少尉との会談内容に関して、どのような情報を得るべきですか?」

「可能な限り、反体制派のネットワークやフランツ・ハイムとの関係を掴むことが重要だ。会談が進んだ後、その情報を迅速に分析し、次の一手を考える。貴様達がそこで得た情報が、今後の作戦の成否を左右する」

「恐れ入りますが同志大尉。敵の罠の可能性はあるかと、話が出来すぎています」

「ハイムの存在を確認した。―――が、反体制派が罠を仕掛けてくる可能性は高い。皆も警戒しておけ」

ニコラはリィズの顔を見て軽蔑な目で吐き捨てた

「……貴様の義兄も反乱軍らしいな。分かりきったことだが……念のために言っておく。貴様の意見を聞くに値しない!」

「……!」

「話は以上だ。ヴォルクヴァルデ中隊、出撃する!」

衛士達は無言で頷き、各自の任務に集中する。ニコラはその様子を冷静に見守り、最終確認を行った後、作戦を開始する準備を整える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベーバーゼー基地での作戦ブリーフィングが終わった後、隊員たちは準備に取り掛かる。ニコラは自身の機材を整えながら、思案に耽っている。

彼女の心の中には、作戦の成功に対する確信と、反体制派に対する冷徹な処断の決意が交錯していた。しかし、同時に彼女は一抹の不安も感じている。それは、彼女が選んだ道が最善であり、反体制派を排除することが本当に正しいことなのかという問いだった。

「(この作戦が成功すれば、反体制派の影響力を大きく削げる。でも、彼らを排除することで、私たちに残るものは一体何だろう。私がしていることは正しいのか?その答えは、作戦が終わった後にしかわからない)」

ニコラは作戦の詳細が記された書類を見つめ、再び冷静さを取り戻す。そして、次に控えている重大な選択に対して、覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコラ率いるヴォルクヴァルデ中隊は反体制派殲滅任務でホテルアルベルトに向かっていた。

「見えたぞ。ホテルアルベルトだ」

出撃してから数分後、ホテルに到着――――夜の闇の中で、ニコラ率いる戦術機中隊がホテルアルベルトを包囲している。チボラシュカの巨大なシルエットが闇の中に浮かび上がり、その重厚な装甲と武装が戦場の空気を一層引き締める。チボラシュカは周囲の建物に隠れるように配置され、ニコラの部隊は目立たぬよう慎重に動いている。

「総員警戒、注意を怠るな!」

―――。

「…総員待機。工作部隊が侵入するまで動かない。私たちの役目は警戒を維持し、状況を監視することだ」

チボラシュカの衛士達は、その指示を受けて緊張感を持ちながら待機している。ヘリコプターから降下する工作部隊をサポートするため、彼らは無線で常に連絡を取り合いながら、最適なタイミングで行動できるよう準備を整えている。

Mi-8ヘリコプターが夜空を切り裂くように飛行している。風の音と共に、ヘリの回転音が徐々に大きくなり、建物の近くに接近する。機体が低空を飛行し、ホテルの屋上付近に位置をとると、背後でチボラシュカたちの姿がその暗闇の中に確認できる。

「準備完了。降下位置、確認。こちらはコントロールタワー、降下の許可を求めます」

《降下許可。安全確認後、速やかに行動を開始しろ》

工作兵たちは無言で互いに頷き、緊張感が一気に高まる。彼らの目の前には、ホテルアルベルトの屋上が広がり、その向こうにはフランツ・ハイムとシュタインホフの会話が続いている部屋が存在している。作戦が進行中であることを意識しながらも、彼らは一切の動揺を見せず、決して失敗できないこの重要な任務に集中している。

 

Mi-8ヘリコプターがホテルの屋上に停まり、風を巻き起こしながら工作部隊員が素早く降下していく。彼らは機動力を最大限に活用し、ヘリのローター音が鳴り響く中、まるで影のように地面に降り立つ。彼らの動きは迅速であり、ホテル内への侵入ルートを確保するために周到に準備されている。

「二手に分かれて進行。リーダー、ルートA。サポートはルートBを確保」

工作兵達は冷静に動きながら、ホテルの内部に侵入するための各ポイントに向かう。彼らは無駄な音を立てず、各部屋の警備状況を即座に確認して回りながら、最短で目的地に到達しようとしている。

工作兵達は最初の障害を乗り越え、ホテル内の階段に差し掛かる。階段を下りていくその足音すらも、作戦の成否に関わる重要な要素だ。微かな足音を立てないよう、全員が意識して動き続ける。

《侵入成功、現在、目的地に向かっている。警備兵の位置を確認》

ニコラの指示により、彼らの動きは非常に精密であり、警備兵の目をかいくぐりながら進行している。今、まさに作戦は核心に迫りつつあった。

ここまでが作戦は順調だった……が、予想外のことが起きる

次の瞬間、反体制派の戦術機がニコラ率いる中隊に接近してきた。

「な…何!?」

無慈悲にチボラシュカが一機ずつ撃墜される……!

ニコラは目の前の危機を瞬時に理解し、冷静さを保ちながら指示を出す。彼女の目は素早く周囲を見渡し、反体制派の戦術機が次々とチボラシュカを撃墜していく様子を捉えた。その空気は一瞬で重くなり、戦場の緊張感が一層増す。

「全機、退避! 目標は生存だ、撤退準備を急げ!」

彼女の声は、命令ではなく、必死な叫びのように響いた。しかし、それでも冷静さは失っていない。ニコラはすぐに全隊員に通信を送り、反体制派の戦術機を撃墜するための対応を指示した。だが、相手は数機の戦術機を投入しており、速度と火力で圧倒してくる。

「各機、前面遮蔽! 隠れる場所を探せ!」

隊員達は即座に周囲の建物や廃墟に隠れながら、反体制派の戦術機に対抗しようとする。しかし、反体制派の戦術機もそれを予測していたかのように、追い詰めてくる。

 

 

 

一方、ホテルアルベルト内では工作部隊が懸命に進行を続けていた。階段を駆け上がり、目的地である部屋に向かって移動する中、突然響いた銃声が作戦の進行を遅らせる。工作兵たちは足を止め、周囲の状況を確認しながら、慎重に動く。

「銃声…! 今のは?」

リーダーが低く呟く。彼は即座に無線でニコラに連絡を取る。

「同志大尉!?大丈夫ですか!!?」

ニコラの返答は瞬時に返ってきたが、その声にはどこか切迫した響きがあった。

《反体制派の戦術機が接近している。ホテル内の進行を続けろ。遅れを取らないようにしろ》

工作部隊は、今や命懸けの任務を全うするために、慎重に計画を遂行していた。足音一つで戦況が大きく変わる中、彼らは必死に目標に向かって進み続ける。

「リーダー、何があった? どうしてこんなに焦っている?」

サポート役の兵士がリーダーに問いかける。リーダーは一瞬考え込み、深く息をついて答える。

「反体制派が予想以上に早く動いてきている。何が起こるかわからないが、この作戦は絶対に成功させなければならない。」

しかし、反体制派の機動力と火力は予想以上で、戦術機の接近が更に速まってきた。チボラシュカの周囲の状況はどんどん厳しくなり、ニコラ率いる部隊は撤退の判断をせざるを得なくなる。

その時、ふと、彼女の耳に届いたのは一度も聞いたことのない、背後からの足音だった。それは確実に人間のものだ、そして、無線からは何も伝わってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かいる…」

 

ニコラは低く呟くと、素早くその音の源を追い、背後に気を配りながら動き出したその時、アネットが乗るバラライカが長刀を握りニコラ機に襲いかかる。

接敵されたニコラは管制ユニットに目掛けて蹴りを入れる

「…舐めるな、叛乱分子!」

蹴り飛ばされたアネット機は立ち上がり再度襲いかかるが、長刀が建物に挟まり身動き出来なかった。

ニコラは焦り始めた直後、イングヒルトから通信が来た。

ニコラはそれを応答する

「何だ?」

《敵は戦術機の特性を見抜いています!後ろにも警戒を強めて下さい!》

「そうか。ここまで的確な指示を出してくれる……(イングヒルト、申し訳ないが利用させて貰う!私だけでは頼りない!)

前方から反体制派の戦術機が立ち塞がり、ニコラは警告を発した

「反乱軍に告ぐ!今すぐ戦闘行為を停止し投降せよ。繰り返す戦闘行為を停止し投降せよ!」

《此方、国家人民軍地上軍第612中隊の中隊指揮官代理、オイゲン・アルトナー中尉だ。貴官らの要求は呑まない。我々はシュタージを叛く者の集まりだからだ。すまないが理解してくれ》

「投降しないなら此方から武力を使い分からせて貰う!シュタージに逆らったらどうなるかをな」

《……総員傾注!レーヴィット少尉、マイツェン少尉はエーベルバッハ少尉達の援護を急げ!》

()()()

ニコラは息を呑んだ。

背後からの警告が耳に響き、冷静さを保ちながら前方の敵機を睨みつける。アネットの戦術機が建物に挟まれ、動きを封じられたその隙に、ニコラは即座に判断を下す。前方の反乱軍の戦術機を突破する必要があった。

「これが最後のチャンス…」

自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はチボラシュカの操縦桿を強く握り、前進を加速させた。反体制派の戦術機が密集する前線に向け、ニコラは急速に接近する。

その時、イングヒルトからの指示が再び届く。

《中隊長、敵はただの一部ではありません、援軍が来る前に突破を!》

「分かっている…」

ニコラはそう答えると、後ろの警戒を強めつつ、最前線の突破を目指した。だが、その瞬間、再びアネットの機体が動き出し、ニコラの行く手を塞ごうとした。

長刀が猛然と振り下ろされ、チボラシュカの装甲を鋭く切り裂こうとする。ニコラは反射的に操縦桿を引き、ギリギリでその攻撃をかわす。長刀がチボラシュカの側面をかすめ、火花を散らす。

「無駄だ…」

ニコラは冷徹な視線でアネットを見つめ、その動きに合わせて一気に加速した。彼女の目の前で、反乱軍の指揮官のいる位置がついに視界に入る。

その瞬間、イングヒルトの声が耳に響いた。

《今がチャンスです!指揮官を追い詰めるため、前線突破を急いで!》

ニコラは一瞬迷ったが、すぐに決断を下す。背後に注意を払いながら、前方の指揮官の機体に向けて突撃を開始した。反体制派の増援が迫る中で、ここで突破できれば状況を有利に運べるかもしれない。アネットの戦術機はまだ完全に立ち直っていない。ニコラはその隙を突いて、前進を続けた。

《ここから先は通さん!》

ヨーゼフ・マイツェン少尉が駆けるバラライカが突撃砲を構えニコラ機に砲撃した。しかし…。

「動きが鈍い。あれでよくBETAとの戦闘で生き残ったな」

《え?はやぁああ!?》

ニコラはヨーゼフの砲撃パターンを読み、放たれた120mm弾を躱した。

「反乱軍に加担したのが間違いだったな」

ニコラはヨーゼフ機に120mm弾を放ち管制ユニットに直撃!

《ぐあああああああ!!》

ファルカが乗るチボラシュカも遅れて合流。

《遅れて申し訳ありません!大尉》

「…あの長刀使いは貴様に任せる」

《了解しました!》

 

 

戦場は一瞬、静寂に包まれた。

ヨーゼフの戦死により、反体制派の士気は大きく揺らいでいた。彼の機体が爆発し、煙と火花を撒き散らしながら大地に落ちるのを、アネット、グレーテル、ファムの戦術機が遠目に見つめている。

「マイツェン少尉!!」

アネットは叫び前方を見つめていた。

彼女の感情は抑えきれないほどに混乱していた。長刀を握りしめたまま、アネットは静かにその場に立っていた。

彼女の決意は揺らがなかった。戦闘の最中、アネットは自分の手に握られた長刀を強く握りしめ、怒りと悲しみを胸に刻んでいた。

「私たちが続けなければならない。マイツェン少尉の死を無駄にしないためにも。」

アネットは冷徹に口を噛みしめ、グレーテルとファムに通信を送った。

「同志中尉、ファム姉、後ろの敵機が厄介よ。前線を維持しながら、なんとしてでも突破しなきゃ…!」

グレーテルはその冷静さで返事をする。

「了解だ。アネット。無駄な犠牲は出させない。動けるか?」

「うん」

「長刀で無茶するな。機体性能では奴らが上だ。だが互いに連携しての戦闘で我らに勝てる者などいない。行くぞ!」

グレーテルの声には迷いがなく、戦術家としての冷徹さが感じられる。戦況を見守りながら、的確に指揮を取ることを決意した。

ファムは少し遅れて応答した。

「わかりました、行きます!」

戦場では既に多くの死者が出ており、ファムの声には少しの恐れも感じられたが、それでも彼女は全力で戦う覚悟を持っていた。

その瞬間、反乱軍の戦術機が一斉に動き出し、ニコラのチボラシュカを囲い込むように接近してきた。

アネットはグレーテルが放った言葉を安堵を感じていた

「アネットって呼んでくれた…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコラの目は鋭く、冷徹だった。

反体制派の戦術機が再編成を始めたことを確認し、彼女は一瞬で戦局を分析する。ヨーゼフの死は大きな転機であったが、反乱軍がこれ以上の被害を出さないためには、彼らを速やかに排除しなければならない。

ファルカからの通信が入る。

《反乱軍の指揮系統に隙間が生じています!》

「分かっている!」

ニコラは短く返答し、さらに冷徹に操縦桿を握りしめる。アネット達が再度前線を切り開こうとするのを、彼女は決して見逃さなかった。

その瞬間、アネットの戦術機が再び前線で接近してくるのが見えた。アネットは長刀を構え、ニコラに向かって突進してくる。

アネットが叫ぶ。

《あたし達は決して後退しない!……戦いはこれからだ!》

その声は戦場の中で響き渡り、決して引き下がらないという強い意思が込められていた。

ニコラは冷徹にその動きを予測し、チボラシュカを操作する。アネットの長刀が振り下ろされる瞬間、ニコラはその攻撃をかわし、同時に反撃のための一撃を加える。……筈だった。

アネットの斬撃を防いだのは。

《!》

ファルカの長刀だったからだ。

《大尉、ここは私が食い止めますので撤退を》

「私は北に向かう。ミューレンカンプ、貴様はその長刀使いを南へ誘導しおびき寄せるんだ。そこで叩け!」

《ホーエンシュタイン中尉の機体が作戦区域外から離れていきます!どうしますか?》

ニコラは秘匿回線に切り替え厳格な表情でこう切り捨てる。

「……命令不服従で独断行為。―――ミューレンカンプ、ホーエンシュタインは最初から従う気はなかったんだ。ブレーメ少佐の忠誠心は全くなく義兄の愛情を優先した」

《……同志大尉》

「無駄話してる場合じゃない。とにかく北へ行く。貴様は作戦に集中しろ」

ファルカは「了解」と一言を添え、ニコラの命令に従った。

そしてニコラは北へ向かい、リィズの捜索へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコラは冷徹にスピードを上げ、リィズの捜索を続けていた。しかし、彼女の心は別の目的に向かっていた。それは、表向きの命令である「リィズの捜索」ではなく、内部の裏切り者を粛正するための計画だった。

「……ホーエンシュタインが生きているなら、今度こそ終わらせるべきだ。」

ニコラの目は鋭く、周囲の状況を把握しながら、心の中で計算をしている。もしリィズが敵に捕まっていれば、彼女は新たな戦術や情報を流出させる可能性がある。それを防ぐためには、リィズがどんな状態であろうと、もはや無駄な情けをかけるわけにはいかない。

「もし彼女が裏切り者であれば、他にも忠義を欠く者がいるはず。」

ニコラは内部の不穏な動きにすでに気づいていた。リィズの忠誠心に疑問を持ち始め、彼女等の行動が作戦の進行に悪影響を及ぼしていることを確認していた。反乱軍に対する作戦を優先させるため、彼女はそのような裏切り者たちを排除する覚悟を決めていた。

「……ホーエンシュタインを探しているふりをして、裏切り者を処分する。それが今の私の仕事だ」

ニコラは再び冷徹な表情を浮かべ、通信を開き、ファルカに連絡する。

「状況報告を」

《大尉、リィズ先輩の痕跡はまだ見つかりません。敵の動きも依然として活発です》

「それより666の長刀使いは?」

《……逃げられました》

「言い分は後で聞く。……捜索は継続する。しかし、重要なのはその先だ。指揮系統の弱点を突く時が来た。」

ニコラは短く命じると、通信を切った。戦場の中で彼女が真に狙っているのは、反乱軍ではなく、自分の部隊内での裏切り者だった。リィズが見つかることで、彼女にとって必要な「証拠」や「口封じ」が整うだろう。そして、その証拠をもとに、仲間たちを次々と排除していくのだ。

暫くして、ニコラは無線の中でファルカからの報告を受ける。

《大尉、ホーエンシュタイン中尉が予想通り作戦区域外に向かっています。》

「すぐに追撃しろ。ホーエンシュタインの行動を止めるんだ。」

その声には、もはや情けのかけらもなかった。リィズの行動は明らかに命令違反だ。彼女が裏切り者である可能性は高く、ニコラの冷徹な判断によって、粛正の時が訪れた。

ニコラは、リィズを見つけるふりをしながら、裏で仲間を排除し、再編成を進めていく。表向きの正義と内心の冷徹さ、その二つの顔を巧妙に使い分けて、彼女は戦場の主導権を握ろうとしていた。

ニコラの目の前に広がるのは、戦場の一角で激しく交錯する火花と轟音だった。彼女の視線の先には、バラライカが堂々と立ち、テオドールがその操縦席に座っているのが見える。バラライカの動きはまさに猛獣のようで、リィズの機体と激しい戦闘を繰り広げていた。

「ホーエンシュタイン………!」

彼女の冷徹な計算はすぐに次の一手を見出していた。もしリィズが反体制派側に与しているのなら、今すぐに処分しなければならない。しかし、目の前の戦術機はその思惑を一時的に邪魔していた。

「……これ以上の無駄な戦闘は避けるべきだ。」

ニコラは冷静に判断しつつも、作戦遂行を難しくしていることに気づく。

リィズの動きに目を凝らしながら、ニコラは無線で指示を出す。

「全力でバラライカを封じろ。聞こえないのか?ホーエンシュタイン!」

その指示が飛び交った瞬間、バラライカが再び攻撃を仕掛け、轟音とともに周囲の空気が震える。テオドールの冷徹な操縦技術が光り、彼の機体がリィズの機体に向かって激しく動き出す。リィズもまた、必死に応戦していたが、彼女の機体の動きにはどこか冷徹さが足りないように感じられる。

「……」

その時、ニコラの視線が鋭く、戦術機の戦闘の中でリィズとテオドールの機体に注がれる。戦場の中で、冷徹な計算と戦闘が繰り広げられ、ニコラはその目を見開いて次の瞬間を見定める。

テオドール機が、リィズの機体に大きな一撃を加える。その瞬間、リィズの機体が揺れ、思わず機体の操作が鈍る。

「これが最後の警告だ」

ニコラは無線で命じた。

「今すぐ降伏しろ。」

テオドールの機体がさらに接近してくる中、ニコラは冷徹に判断する。リィズが裏切り者なら、どんな手段を使ってでもその命を断たなければならない。だが、今は戦術機を優先せねばならない。無駄な戦闘は許されない。

だが、ニコラの声は届かずリィズはテオドールだけ優先し一騎打ちで戦闘を挑んでいた。

互いに激しい砲撃を繰り広げる。

《邪魔しないで、お兄ちゃん!》

《リィズ……お前は俺の敵だ!!》

《そう…だったら力づくで!わからせてあげるよ!》

テオドール機の動きが突如、鈍くなり左側の跳躍ユニットが破損し飛行不可能に至った。

《抵抗は無意味だよお兄ちゃん!シュタージには誰も逆らえない!私はこの3年で思い知ったの…!だから、夢とか、希望とか…いい加減諦めてよ!!》

テオドールは必死に抵抗するが、遂に機体が故障し動かなくなった

《待ってて、お兄ちゃん。今から私が…》

リィズ機はナイフを持ちテオドール機の管制ユニットに向け躊躇なくその刃を振り下ろす。

《目覚めさせてあげるよ!!》

次の瞬間、ニコラは鬼の形相で操縦桿のレバーを引き、120mm弾を放った

「――――!」

それと同時に鉄塔に仕掛けられた爆弾が爆発し傾いて倒れ、リィズ機に衝突した

《ぐ!な、何なの!?》

頭部が破壊されてメインカメラが損壊し巻き込まれるように倒れていく

完全に倒れた後、リィズは機体から降りて何も考えずに雪原を走って行く

テオドールは機体からすぐ降りて後を追う。

「リィズ!」

当然、逃げられるはずはなくここで漸くアネットとグレーテルのバラライカ2機がリィズの前に立ち塞がる。

「な…?!」

後ろにはファム機が道を塞いだ。機体の背後には人民警察第19人民警察機動隊の隊員達が待ち構えていた。

ニコラはそれを気付き機体から降りて、リィズのところに駆け走る

「……リィズ・ホーエンシュタイン!!!」

リィズは気付くのを遅れた

「!?」

拳銃を取り出そうとしたが、先にニコラが発砲し右手首に当たった

「!」

遅れてファルカが現場に到着し機体から降りる

「リィズ先輩……」

その光景を見たリィズは息を荒げながら悪魔の笑みを浮かべていた。

「はぁ…はぁ……」

テオドールはリィズのもとに歩み寄り悲しい表情を浮かべ話しかける

「リィズ……」

「お兄ちゃん……はぁ……馬鹿だよ…シュタージに逆らったらどうなるか……」

「ごめんな…リィズ。義父さんの約束守れなくて、お前を守るって言ったのに守れなかった」

テオドールはリィズの父親であるトーマスの約束を疎かにして悔やんで涙を流し泣いた

「お兄ちゃん……私は――」

ニコラはそんな事お構いなしでリィズの額に銃口向ける

「貴様は、私達を見捨てようとしたな?ブレーメ少佐から話は既に聞かせて貰ったよ。貴様がヴェアヴォルフに入隊する前にだ」

「同志、大尉…はぁ……はぁ……」

「頼む……正直に言ってくれ。貴様は少佐の忠誠心より義兄の愛情を選んだ。違うか?」

リィズは銃口向けられても何も動じずこう言った

「……確かに私は大尉達を見捨てようとしたわ。そしてお兄ちゃんのお嫁さんよ」

「違うな。貴様は狂った愛情を持つ裏切り者だ。ブロニニコスキーから言われたのに何も反省の色がないようだな」

「…大尉、ブレーメ少佐の事ばかり考えてるあなたにはわからないでしょ…?善人が悪人の犠牲になってる世の中のことが知らないのよ……昔の人間、抹殺した方が人間は世の中にいる。もう法律では救えない世界になってるのよ!!」

リィズは悪魔の笑みを浮かびつつ涙を流しニコラに訴えかける

しかし、ニコラは拳銃を下ろし彼女を同情せずにこう言い返した。

「……確かに法律は不完全だ。人間が作ったのだから完璧である筈ではない。ただ、正しき事を貫くのが法律だ…貴様は独り善がりだ。独り善がりで他人の命を奪ってまで義兄と一緒に生活するなど絶対に許されない!」

「も、もう話しても無駄ね………お兄ちゃん、あの女を殺して」

リィズはテオドールにニコラを粛正させようと目論む

「……今すぐ全員粛清してよ!」

「…リィズ」

リィズの顔を見たテオドールは困惑する

「どうしたの?早く粛正して。お兄ちゃんの拳銃で撃つのよ」

窮地に陥ると手のひらを返すように拘束されている自分に助けを求めた

無論、答えは既に決まっていた。テオドールはリィズの嘆願を拒否する

あまりの無様な姿に泣き崩れた挙句、複雑な思いを抱いた。

「で…出来ない。―――俺は…」

「何で……?」

「俺は……お前の兄だからだ」

ニコラはテオドールを下がらせ再び銃口を向ける

リィズはシュタージの忠誠心と義兄への愛情の狭間で揺れ動きながらも、最終的には自己の信念を貫こうとする。しかし、その信念は既に狂気の域に達しており、ニコラにとっては「独り善がりな裏切り者」としか映らない。一方で、テオドールは義父との約束を果たせなかったことを悔やみつつも、リィズの変貌に対してどうすべきか決めかねている。

一方で、リィズは最後までテオドールにすがろうとするものの、もはや彼女を救う術はない。テオドールの視点から見れば、かつての妹はすでに「戻れない場所」に行ってしまった存在であり、彼自身もどうすることもできない無力感に苛まれていた。彼女はニコラの冷徹な判断によって見捨てられる。この瞬間、彼女の絶望や狂気が頂点に達する。テオドールも、かつての妹が完全に破滅へと向かっているのを目の当たりにしながら、何もできない。

処刑を目前にし、地に伏せられたリィズは、なおもテオドールを見つめていた。血走った瞳には、かつての優しい兄を求める哀願の色が浮かぶ。しかし、その兄はもうどこにもいない。

「お兄ちゃん…私を…見捨てないよね?」

その声は震えていたが、返事はなかった。テオドールはただ沈黙を守り、リィズから目を逸らした。

次の瞬間、リィズは鋭い笑みを浮かべた。

「そう……なら、私が……ッ!」

拘束されていたはずの彼女の手が、不自然に動いた。誰もが反応する間もなく、彼女は隠し持っていた小型のナイフを抜き放ち、電光石火の勢いでニコラへと跳びかかる。

 

しかし、それはすでに読まれていた。

 

銃声が響いた。

リィズの身体が空中で弾かれ、鈍い音を立てて地面に転がる。撃ったのはニコラだった。彼女の手には拳銃があり、冷たい視線がまだリィズを捉えていた。

リィズは苦しげに咳き込みながら、腹部を押さえた。ナイフは手から滑り落ち、震える指先が血に濡れる。

「……まだ、終わりじゃ……」

それでも彼女は這いながら、なおもテオドールへ手を伸ばそうとする。その姿はもはや惨めなまでに執着に囚われた少女のものだった。

「……お願い……助けて……」

しかし、テオドールは彼女を見下ろしこう言った。

「本当にすまない……お前を助ける事が出来なくて、俺はアイリスの事が好きなんだ。だからお前と一緒にいけない」

「……っは、あ……そっか……」

リィズは微かに笑った。諦めと、狂気と、哀れみの混じった笑みだった。

「……やっぱり……お兄ちゃんは、あの女を選ぶんだ……ふふ、ふざけてる……最初から、そうだった……」

そして、彼女の身体から力が抜けた。

ニコラは無表情のまま、リィズの亡骸を見下ろし、静かに銃を収める。

「無駄な足掻きだったな。哀れな女だ」

テオドールは何も言わなかった。ただ、心の奥底で何かが軋む音を感じながら、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は無線で簡潔に報告を入れる。その声には一片の感情もなかった。

テオドール・エーベルバッハは、リィズの亡骸の前に膝をつき、震える手で彼女の髪に触れた。かつての妹、血を分けた家族。彼女の人生は、シュタージという闇に絡め取られ、最後には命を落とすことになった。

「……リィズ……」

その声は嗚咽に混じり、雪原に消えていく。

アネットとグレーテルは視線を交わしたが、何も言わなかった。ファムは静かに目を伏せた。ファルカもまた沈黙したまま、ただ冷たい風に吹かれていた。

処刑は終わった。しかし、戦いは終わらない。

ニコラは振り返り、ファルカに命じた。

「遺体を回収しろ。報告書には『任務中に死亡』と記載する。」

ファルカは無言で敬礼し、人民警察の機動隊員たちに指示を出す。

テオドールは何も言わなかった。ただ、リィズの身体が兵士たちに運ばれていく様子を、呆然と見つめていた。

グレーテルが小さく息をつく。

「……これで、本当に終わったの?」

誰も答えなかった。

しかし、終わりではなかった。

シュタージの闇はまだ続いている。リィズの死がもたらす影響は計り知れない。

ニコラは再び無線を開いた。

「総員撤収!」

冷たい風が吹き抜ける中、彼女たちはそれぞれの感情を胸に秘めながら、次の戦いへと歩み始めた。

リィズが処刑された直後、雪原に静寂が訪れた。冷たい風が吹きすさび、銃声の余韻をかき消していく。

テオドールは拳を握りしめていた。あれほど憎んだはずの妹。しかし、実際に命を奪われた今、胸の奥に広がる感情は説明のつかないものだった。

「……くそっ!」

低く絞り出された声とともに、彼は拳を雪に叩きつけた。

ファムはゆっくりとテオドールの肩に手を置いた。

「……もう行きましょう。ここにいても、何も変わらないわ」

テオドールは深く息を吐き、リィズの亡骸を運んでいる機動隊員に最後の視線を向けると、立ち上がった。

「そうだな……行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らは反体制派として動き続けなければならなかった。シュタージは未だにドイツを支配し、彼らの存在を許さない。リィズの死が無意味にならないように——彼らは、戦い続けるしかなかった。

しかし、その夜、テオドールは一人、リィズの処刑が行われた場所へと戻っていた。

雪の上にわずかに残る血痕を指でなぞる。

「……お前は、何を思っていたんだ?」

彼女はシュタージの犬として生き、最後には処刑された。それでも、彼女が何を本当に望んでいたのか、テオドールには分からなかった。

「俺たちは……前に進む」

彼はそう呟くと、静かにその場を後にした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。