ヒーローを夢見る少年はヒロインに助けられる   作:シーチ

2 / 9
第一話 僕たちの日常

小学4年生の頃、絡んできた(絡まれに行った?)いじめっ子たちから僕を助けてくれた少女、澁谷かのん。あの日僕、望月陽翔(もちづきはると)は彼女に憧れを抱いたのと同時に、恋をした。それは、5年ほど経った今でも継続中だ。

 

あの時助けてもらったあと、クラスが一緒ということもあり僕とかのんちゃんはよく遊ぶようになっていった。元々人見知りなところがある僕にとって、かのんちゃんは初めてできたちゃんとした友だちだ。

 

そんな僕たちも、今や中学三年生になった。現在は冬休みで、高校受験直前の追い込み時ということもあり、今はかのんちゃんの部屋で3人で勉強会をしている。

 

3人、というのは僕とかのんちゃん、それからかのんちゃんの幼なじみであるちーちゃんこと嵐千砂都ちゃん。「うぃっす」が口癖で、丸が大好きな女の子。あまり詳しくは聞いたことがないが、昔のちーちゃんは気弱な性格だったらしい。だが、その頃を知らない僕からすれば、そんなこと信じられないぐらいにとても元気な女の子。ダンスが得意で、自分にも、時には人にも厳しいところがある一生懸命な子だ。

 

僕がかのんちゃんと遊ぶようになってから、元々かのんちゃんと仲が良かったちーちゃんとも遊ぶ機会が増えた。出会った頃の僕とちーちゃんはいろいろあってあまり仲良くなかったが、今ではとても仲のいい友達だ。

 

「ねぇねぇ、陽翔ー。ここどうやるんだっけ?」

 

「あー、ここはね…」

 

こうして、勉強を教え合うぐらいには。かのんちゃんとちーちゃんは、来年度から新設される結ヶ丘女子高等学校の音楽科に進学する予定らしい。かのんちゃんは歌、ちーちゃんはダンスがとっても上手なので、2人とも音楽科でもすごい成績を残せると思う。かのんちゃん本人は、人前だと歌えないことがあるのが気がかりだって言ってたけど…

 

男子の僕は普通科だとしても女子校の結ヶ丘に行くことは出来ないので、残念だが近くの違う高校を受験する予定。

 

「はぁ…勉強疲れたぁ…今日はこれくらいにしない?」

 

かのんちゃんが机にグデーっと倒れながら言った。

 

「そうだね。もう日も暮れかけてるし、今日はここまでにしよっか。」

 

僕がそう言い、今日の勉強会はここまでとなった。

 

「ふぅ…よーしっ、気分転換に一曲!」

 

そう言ってアコースティックギターを手に取り、楽しそうに弾き語りを始めたかのんちゃん。かのんちゃんは、本当に楽しそうに歌っている。こんなに楽しそうに、綺麗な歌声で歌うかのんちゃんが歌えないなんてことはないと思うけど…

 

でも実際、これまでにも歌えなかったことが何度かあるそうだ。その内の1回は、僕も目撃している。まだ僕がかのんちゃんと出会って間もない頃、かのんちゃんが所属していた合唱部の発表会で、かのんちゃんは歌えずに倒れてしまった。それからも何度か歌えなかったことがあるらしい。

 

それを聞くと、とても心配だ。でも、かのんちゃんならきっと大丈夫。今だって、こんなに楽しそうに歌ってるんだから!

 

僕は歌っているかのんちゃんを見て、そう思った。

 

「ほんと陽翔はかのんちゃんの歌、楽しそうに聞くよね〜。」

 

すると、一緒にかのんちゃんの歌を聴いているちーちゃんがそんなことを言い出した。

 

「えっ?それはちーちゃんも一緒でしょ?」

 

「もちろん私もかのんちゃんの歌大好きだよ。でも、悔しいけどかのんちゃんの歌を一番楽しそうに聴いているのは陽翔だよ。今だってそうだけど、いつもとびっきりの笑顔で聴いてるじゃん!」

 

「えへへ、そうかな?でもそうかも。だって、かのんちゃんの歌が大好きだから!」

 

ちーちゃんの言葉に照れながらも、僕はそう答えた。すると、それが聞こえたのか、かのんちゃんは弾き語りをやめてギターのボディで顔を隠した。

 

「もぉ〜、恥ずかしいよぉ…でも、ありがとね。はるくん!」

 

恥ずかしさからか頬を赤く染め、はにかんだかのんちゃんに僕は思わずドキッとした。

 

「あーっ、もちろん私もかのんちゃんの歌大好きだよ!」

 

「うんっ、ありがとう、ちぃちゃん!」

 

すかさず自分もかのんちゃんの歌が好きだとアピールしたちーちゃんに、ニコッと笑顔でお礼を言うかのんちゃん。

 

すると、何故か僕を見たかのんちゃんはシュンと落ち込んだ。

 

「かっ、かのんちゃん…?」

 

まさか何かかのんちゃんを悲しませるようなことをしてしまったのかと不安になり、僕は恐る恐る声をかけた。

 

「あっ、ごめんね…でも、もし私とちぃちゃんが音楽科に行っちゃったら、こうしてはるくんと遊ぶ機会も減っちゃうのかなって…」

 

「えっ?」

 

まさか落ち込んだ理由が僕と会えなくなるかもしれないということだとは思ってもみなかった僕は、思わず嬉しくなってしまった。ってダメダメダメ!かのんちゃんが落ち込んでるのにそんなこと考えるな僕のバカ!

 

僕は自分を落ち着かせてから、かのんちゃんの言葉に答える。

 

「大丈夫だよ。学校が違っても、住んでる場所が変わるわけじゃないんだし、会おうと思ったらいつでも会えるよ!それに、僕はかのんちゃんとちーちゃんのためなら、いつだってどこにいたって飛んでいくよ。」

 

ちょっとクサイセリフだったかな?でも、2人は僕にとって初めてできた大切な友だちだから、もし2人に何かあったらどこにいたって駆けつけたい。そう思ってる。

 

「はるくん…うん!高校生になっても、また3人でたくさん遊ぼうね!」

 

そう言ったかのんちゃんは、再び笑顔になっていた。僕の大好きな、キラキラした笑顔に。

 

きっとかのんちゃんなら大丈夫。きっとかのんちゃんなら歌えるよ。この時の僕は、そう思っていた。この後の結果を、知る由もなく。

 

 

「じゃあまたね、はるくん、ちぃちゃん。」

 

勉強会も終わり、僕とちーちゃんはかのんちゃんに見送られながら家を出た。

 

「それにしても、陽翔も大きく出たね〜。かのんちゃんのためならいつでもどこでも飛んでいくなんて。」

 

帰り道、隣を歩いていたちーちゃんが、先程のことを揶揄うようにニヤニヤして言ってきた。僕はそのことを思い出して、つい顔を赤くしてしまう。

 

「うぅ…今思うとクサイセリフだよね…」

 

「あははっ。でも、かのんちゃんのことが大好きな陽翔らしい言葉だと思うよ。」

 

ちーちゃんは、僕がかのんちゃんを好きなことを知っている。昔はともかく、今はそんな僕の気持ちを応援してくれているらしい。

 

「でも、アレはかのんちゃんだけじゃないよ?さっきも言ったでしょ、かのんちゃんとちーちゃんのためならって。」

 

「えっ?私も?」

 

「もちろん!だって、ちーちゃんも僕にとって本当に大切な友だちだもん!」

 

「えへへっ…陽翔って、たまにそういうこと恥ずかしげもなく言うよね。」

 

照れくさそうに笑ってそう言ったちーちゃん。

 

「そういうこと…?えっ、もしかして何か変だった?」

 

「ううん。私は陽翔のそういうとこ、好きだよ。多分、かのんちゃんもね。」

 

そう言って、ちーちゃんはふと既に暗くなってしまった空を見上げる。すると、そこにあった大好きなまん丸を見つけてちーちゃんはテンションを上げる。

 

「あっ、みてみて!まん丸のお月様!」

 

「そういえば、今日は満月の日だったね。それも雲ひとつなくて綺麗…!」

 

「ほんと、丸っていいなー!」

 

ちーちゃんは恍惚とした様子で、満月を見つめている。

 

ちーちゃんは本当に丸いものが大好きなんだなぁ…そういえば、高校生になったらたこ焼き屋でバイトしたいとも言ってたっけ。

 

「ちーちゃん。満月が綺麗なのはわかるけど、もう暗いしそろそろ帰ろ?」

 

満月に見惚れているちーちゃんの邪魔をするのは気が引けるけど、まだ中学生の僕たちが夜遅くまでウロウロしているわけにもいかない。そう思い、僕は彼女に声をかけた。

 

「あっ、そうだね。よーしっ、じゃあ帰ったらたくさんお月様見るぞー!」

 

そうして再び帰路に着こうとしたところで、ちーちゃんは振り返って僕に声をかけてきた。

 

「あれ?陽翔の家あっちでしょ?」

 

ちーちゃんが聞いてきたように、本来ならここの別れ道でちーちゃんとは別の道を行くはずなのだ。でも、僕はちーちゃんと同じ道を歩こうとしていた。

 

「もう夜も遅いし送っていくよ。」

 

「いいの?」

 

「うん。それに、今のちーちゃんを一人で帰らせたら、お月様に見惚れて事故とかに遭いそうだもん。」

 

冗談のように聞こえるが、丸いものになると我を忘れてしまうところがあるちーちゃんだと、あながち冗談とも言えない。

 

「あははっ、流石にそれはないと思うけど…じゃ、お言葉に甘えちゃおうかな。それにしても、あの暗いところとかお化け屋敷にビビってた陽翔が、夜遅いからって送ってくれるようになったなんてね〜。」

 

今でこそ夜道とかは平気になったが、ちーちゃんと出会った頃の僕は暗いところとかも大の苦手。本当に弱虫だった。

 

「でも、まだお化けとかは怖いし…僕はまだまだ弱いままだよ…」

 

僕がそう弱音を吐くと、ちーちゃんは僕の前に立って腰に手を当てた。

 

「あー!またそんな弱音吐いて!そんなこと言うなら、またみっちりお説教しちゃうよ〜?」

 

そうドスの効かせた声で言ってくるちーちゃん。自分にも人にも厳しいところがあるちーちゃんは、こうして僕が弱音を吐いたりしたら叱ってくれる。以前僕が落ち込みとてもネガティブになり、沢山弱音を吐いていた時、ちーちゃんはお説教をしつつも僕の背中を押してくれた。そのお陰で僕は立ち直れたのだが、お説教の時のちーちゃんは本当に怖かった。あれはあれで良い体験だったが、僕はもうちーちゃんを怒らせないようにしようと心に誓った。

 

「ヒッ…ごっ、ごめんなさいちーちゃん!」

 

僕が慌ててそう謝ると、ちーちゃんは笑いながら僕の背中を優しく叩いた。

 

「あはは!もうっ、しっかりしなきゃダメでしょ?男の子なんだから!」

 

「うん…そうだね!ありがとう、ちーちゃん!」

 

すぐ弱音を吐いてネガティブになってしまう僕には、こうして時々叱ってくれるちーちゃんの存在が有難いのだ。

 

ちーちゃんこと嵐千砂都は、丸が大好きでダンスが上手な、とっても元気な女の子。ただ、時々ちょっぴり厳しくてスパルタだ。




第一話でした。いかがでしたか?

第一話なのにヒロインのかのんちゃんより千砂都ちゃんの方が絡みが多いような…?あと、最後のまとめ方はちょっと強引でしたね…

ここで今作のオリジナル主人公について一つ…今回の作品の主人公、望月陽翔は僕が描くキャラクターの中でも珍しい内気で気弱な少年です。そんな彼がかのんちゃんたちと出会い、今後どのように成長していくのか…そう言った話を描いていこうと思っています。

では、今回はこの辺で…第一話を読んでくださり、ありがとうございました!お気に入り登録、評価や感想など是非よろしくお願いします!

次回第二話は、本日中に投稿予定です。是非ご覧ください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。