「あー…緊張する…」
中学からの帰り道、隣を歩くかのんちゃんがそう呟いた。
「かのんちゃん…それさっきからもう4回目だよ?」
僕は苦笑してそう言った。帰路に着いてまだ数分、その間かのんちゃんはこの言葉を既に4回も繰り返していた。
「だってぇ…緊張するんだもん!!」
そう僕をポカポカと叩きながら、涙目になるかのんちゃん。何故かのんちゃんがこんなに緊張しているのか、それは、明日は結ヶ丘女子高等学校の音楽科の入学試験だからだ。
「気持ちはわかるけど、いつものかのんちゃんの歌ならきっと大丈夫だよ!」
「うん…でも、そのいつものができたらいいんだけど…」
確かにかのんちゃんの場合、歌の出来栄え自体に関しては大丈夫だろう。問題となるのは、歌えるかどうか。
「……」
過去に一度、かのんちゃんが歌えずに倒れてしまったところを見たことがある僕には、軽々しく大丈夫だなんて言えず言葉が出なかった。それに、かのんちゃんは今回の受験で合格しなかったら歌はやめると言っている。それを考えれば、尚更言葉が出ない。
悔しい。かのんちゃんを元気づけたい、自信を取り戻せるような言葉をかけてあげたい、そう思ってるのに何にも言葉が出てこない。
「あっ、ごっ、ごめんね…はるくんにこんなこと言っても、困らせちゃうだけだよね…」
ついにこの沈黙に耐えきれなくなったかのんちゃんは、そう言って更に落ち込んでしまう。
何やってるんだよ僕は…かのんちゃんの力になりたい、かのんちゃんの助けになりたい、そう思ってるのに…これじゃあ、ただの足でまといじゃないか…!
「あっ、ここでお別れだね…」
気づいたらかのんちゃんの家と僕の家の別れ道のところまで来てしまっていたようで、それに気づいたかのんちゃんが寂しそうにそう言った。
このままでいいのか?このままかのんちゃんと別れてしまって…いや、ダメだ!今かのんちゃんは、とても不安なんだ。だからせめて、ちょっとでもかのんちゃんの不安を和らげるようなことを…!
「かのんちゃん!!」
僕は帰ろうとするかのんちゃんを、大声で呼び止める。
「うぇっ!?はるくん?どうしたの…?」
「ごめんね!僕、何を言ったらいいのか、どんな言葉をかけたらいいのかわからなくて…でもっ、これだけは言える!たとえ本番の結果がどうであれ、かのんちゃんが歌が上手なことも、人の心に響く歌を歌えることも、歌で人を元気にできることも、僕は知ってるから!僕はそんなかのんちゃんが、大好きだから!!だから、頑張って!」
何を伝えるのが正解なのかわからなかった僕は、とにかく僕の想いを伝えた。ちょっとでもかのんちゃんの不安が和らいでくれたら、その一心で。
「っ!うんっ、ありがとう!はるくん!!」
僕のこの行動が、正解だったのかはわからない。そもそも、これに正解があるのかどうかすらわからない。
でも、最後に僕の名前を呼んだかのんちゃんは、少しさっきよりも明るい声をしていたような気がした。
最後に僕に手を振ったかのんちゃんには、少しいつもの笑顔が戻っていたような気がした。
自分の家に帰っていくかのんちゃんの足取りは、さっきまでよりも少し、軽く感じた。
きっと、かのんちゃんなら大丈夫。僕はそう信じて、見送ることしかできなかった。
しかし、かのんちゃんは歌えなかった。
第二話でした。いかがでしたか?
今回はかなり短くなってしまいました。申し訳ありません。
あと、Twitterや活動報告などでも記載しましたが、この小説自体を間違えて一度削除してしまいました。大変申し訳ありません。内容自体はプロローグと第一話ともに、変更点はありません。
ということで今回はこの辺で…第二話も読んでくださりありがとうございました!お気に入り登録、評価や感想なども是非よろしくお願いします!
今回の第二話が短くなってしまったため、次回第三話も今日中には投稿いたします。