「よし…これでだいたい買い終わったかな。」
ハンバーグの材料を買うため、僕とかのんちゃんは近所のスーパーまで来ていた。
「それにしても、買い物まで付き合わせちゃってごめんね…!」
僕がそう謝るとかのんちゃんは首を横に振った。
「ううん!むしろご馳走してもらうのに買い物まで任せっきりにはできないよ。それに、私も楽しかったし。」
「えっ?楽しい?」
僕がそう聞き返すと、かのんちゃんはにっこり笑って答える。
「うん。はるくんと2人でお話しながら買い物してるの、楽しかったよ。あれ美味しそうとか、これとそれどっちがいいかなとか話し合うの、なんか夫婦みたいだなって。」
「えっ…?ふう、ふ…?」
ふうふ…?夫婦って、あの夫婦…?あの、結婚した人たちのことを言う夫婦だよね?ちょっ、ちょちょちょちょっと待って!?かのんちゃん、それってどういう意味で言ったの!?僕と夫婦みたいで楽しいって、まさかかのんちゃんもそれを望んで!?いっ、いやいやいやいやっ!まさかそんなわけ…
「かっ、かのんちゃん…?夫婦って…」
「へっ?……っ!?」
僕が夫婦について聞くと、かのんちゃんはその言葉の意味を理解したのか顔を真っ赤にした。
「ちっ、違うの!そっ、そういう意味で言ったんじゃなくてその…うぅ…」
やっぱりそうだよね…さっきのは単に言葉の綾だった。かのんちゃんが本気で僕と夫婦になりたい、なんて思っているわけないか…
凄い勢いで出たかのんちゃんの否定の言葉を聞き、内心落ち込む僕。
「わっ、わかってるよ!かのんちゃんは僕と夫婦になりたいって思ってるわけじゃなくて、単に言葉の綾というか、言い間違えただけなんだよね?」
「あっ……うん…」
かのんちゃんはそう頷いたのだが、何故かまた落ち込んでしまった。何か間違えたことでも言ってしまったのだろうか?
それから、なんとなく気まずくなってしまいその場に沈黙が流れる。
「あっ、じゃあそろそろお会計しに行こうかな。」
一通り買うものも買ったので、そう言って僕たちはレジの方に向かった。
それにしても、かのんちゃんと夫婦か…
ー妄想ー
『かのんちゃん、朝だよー。ほら起きて?』
かのんちゃんを起こそうと、そう声をかけながら優しく揺する。
『んぅ…むにゃむにゃ…あと5分…もう、5分だけ…』
かのんちゃんは目を閉じたまま猫なで声でそう言う。
『かわいい…ってダメダメ!ほら、もう起きる時間だよ?』
『えー…』
すると、かのんちゃんは薄らと目を開けて、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
『じゃあ、はるくんも一緒に寝ようよ?』
そう言って、かのんちゃんは自分の隣にスペースを開ける。
『ほーらっ、はるくん。おいで。』
甘い声でそう言われ、僕は言われるがままかのんちゃんと共に夢の世界へ…
ー妄想終了ー
みたいな?えへへ…
そんなことを考えていると、僕はニヤけが止まらなくなってしまった。
「あっ、あのぉ…」
「へっ…?あっ、はい?」
そんな僕に若干引き気味のレジの定員さんに声をかけられ、僕は現実の世界に引き戻される。
「5100円になります。」
「あっ、はい…」
見知らぬ定員さんの前であんな醜態を晒してしまったことへの羞恥心に襲われつつ、僕は会計を済ませた。
〜〜〜〜〜
うぅ…つい調子に乗って『夫婦』なんて言ってしまった…
私、澁谷かのんははるくんがお会計しているのを横目に、さっき自分が言った言葉を思い出してどうしようもない羞恥心に襲われていた。
今までだったら、あんなこと言ってもあまり気にしなかったのに…はるくんを好きだと思ってから、何かある度にやきもきしている。ちょっとしたことで嬉しくなって、ちょっとしたことで悲しくもなって、ちょっとしたことで恥ずかしくなるようになった。
それに…
『わっ、わかってるよ!かのんちゃんは僕と夫婦になりたいって思ってるわけじゃなくて、単に言葉の綾というか、言い間違えただけなんだよね?』
はるくんがああ言った時、なんで頷いちゃったんだろう…あそこではるくんを好きって言えてたら…いやでも、それでもし振られたらはるくんと今までみたいに話せなくなるし…そんなの絶対嫌だ!
ああどうしよう…はるくんに好きだって伝えたいけど、今までの関係が崩れてしまうなんて嫌だ。
「かのんちゃん?」
私が考えを巡らせていると、はるくんが不思議そうに私の名前を呼んだ。
「どっ、どうしたの?」
「お会計終わったよ。あっち行かないと…」
そうはるくんは袋詰めをする台の方を指さした。そう言われてようやくお会計が終わったのことに気づいた私は、後ろを振り返るとおばさんが早くどいて欲しそうに私を見ていた。
「あっ、すみません…!」
私はそう謝ってレジから退いた。
「かのんちゃん、大丈夫?何か考え事していたようだけど…」
買った食材を買い物袋に詰めながら、はるくんがそう聞いてきた。
「だっ、大丈夫大丈夫!ごめんね…はるくんのハンバーグ楽しみだなぁって思ってると、ボーッとしちゃって…」
私がそう言うと、はるくんは笑った。
「あははっ!そこまで楽しみにしてくれてるなら、僕も作り甲斐があるよ。」
それから、荷物を詰め終わり店を出る私たち。どうやらはるくんの家の冷蔵庫にあまり食材がなかったらしく、今日はハンバーグの材料以外にもたくさん買っていた。そのため、2つの袋にパンパンに荷物が入っている。
「はるくん、袋1つ持つよ?」
袋は2つともはるくんが持っていたので、私はそう言ってはるくんが持ってる袋に手を伸ばす。
「ありがとう、かのんちゃん。でも重いから大丈夫だよ。」
しかし、はるくんにそう言われてしまう。
「でも、作ってもらうんだから荷物ぐらい持つよ。」
「大丈夫、気にしないで。それにほら、ハンバーグに関係ない食材もいっぱいあるし…」
はるくんは優しい。きっと重たい荷物を女の子に持たせるわけにはいかない、そう思っているんだろう。かと言って、このまま2つともはるくんに持ってもらうのは申し訳ないし…あっ、そうだ…!
「だったら、これならいいでしょ?」
私はそう言って、はるくんが荷物を持っている右手に私の左手を添えて支えた。これではるくんの右手の負担は、半分ぐらいは減らせたと思う。
「かっ、かのんちゃん!?」
はるくんは驚いて顔を真っ赤にする。正直言うと、私も恥ずかしい。今の私たちはほぼ手を繋いでいるようなものだし、肩と肩が触れ合うぐらい距離も近くなっている。
「えへへ…半分の半分くらい持つのはいいでしょ?」
私は赤くなった顔を誤魔化すように笑い、そう聞いた。
「うっ、うん…」
はるくんは恥ずかしそうに少し下を向いて、そう頷いた。これって、はるくんもちょっとぐらいは、私のことを女の子として意識してくれてるってことなのかな…?そう考えると、妙に私の胸はドキドキして温かくなった。
いつの間にか、はるくんもこんなにおっきくなったんだな…出会った頃は同じくらいだった手の大きさも今では一回りぐらい大きくなっていて、身長も私の10cmぐらい高い。ずっと一緒にいたせいで気づかなかったけど、いつの間にかとっても頼もしくなっちゃって…
私はそんなはるくんをもっと近くに感じたくて、こっそりと完全に肩が密着するぐらいまで近づき、そのままはるくんの家まで歩いた。
「じゃあ、かのんちゃんは僕の部屋で待ってて。」
はるくんの家に着くと、いつも通り部屋に案内されそう言われた。
「私もなにか手伝うよ?」
「いいからいいから。あっ、そうだ!カフェオレ作ってくるから、ちょっと待ってて。」
はるくんはそう言って、部屋から出ていった。ハンバーグとかカフェオレとか、私の好みをちゃんと知ってくれているところに思わずドキッとする。はるくんを好きになってから、ちょっとしたことでもドキッとするようになってしまった。さっきみたいに密着するのもちょっと前だと普通だったのに、何故か凄くドキドキした。これが恋なんだ…
そんなことを思いながら、ふとはるくんの部屋を見渡した。はるくんの部屋は物が少なく、必要最低限のものしか置かれていないような部屋だ。勉強机にベッド、その前にちゃぶ台があり、あとは本棚と服などが入っているであろうクローゼットくらい。その他には勉強机の上にあるノートパソコンと、本棚の中に入っている中学の頃使っていた教材と数冊本がある程度。
そういえば、はるくんからこれが好きだとかそういうのはあんまり聞いたことがない。はるくんは私の好物とか知ってくれてるのに、私ははるくんの好みとか全然知らないなぁ…
そう思い、私は何かないかと本棚の中を見る。
「これ中学の時の教科書…まだ卒業したばかりなのに、ちょっと懐かしいな。」
それにしても、本当に少ない。漫画とかもないし、本も毎年夏休みの宿題に出ていた読書感想文を書くために読んでいたであろうものぐらい。
「はるくんって、ほんとに好きな物とかないのかな…ん?」
すると、私は本棚の端の1枠に数種類入っている本に目がいった。その1冊を手に取り、表紙を見てみる。
「これって…ヒーローの図鑑?」
どうやらそれは、ヒーロー番組に登場するヒーローの図鑑だったようだ。何冊かあり、裏に書いてある発売日を見てみると、1番最初のが13年ほど前。私もはるくんも3歳ぐらいの時。それから毎年1冊ずつ出ていたようで、1番新しいのが私たちが9歳の頃。
「9歳の頃っていえば、私がはるくんと出会うちょっと前だ…」
はるくん、私と会うまではヒーローが好きだったんだ…全部ボロボロになるまで読んでるってことは、本当に好きだったんだろうなぁ…
そういえば、この前出会った頃の私のことをヒーローのようだったとか言ってたっけ。でも、折角なら私はヒーローじゃなくてはるくんのヒロインに…って、何考えてるの私!?
「かのんちゃん、入るよー?」
はるくんの声が聞こえたので、私は頭をブルブル振ってさっきの考えが顔に出ないようにしてから答える。
「どっ、どうぞー?」
私が答えると、はるくんはアイスカフェオレをコップに入れて持ってきてくれた。
「はいどうぞ。」
「わぁ…!ありがとう!」
私はカフェオレを一口飲む。すると、程よい苦味とともにミルクの甘みが口いっぱいに広がった。
「ん〜!美味しい!」
「ほんと?なら良かった。」
美味しそうに飲む私を見て、はるくんは笑ってそう言った。
「あっ、それ…」
すると、はるくんは私が持っていたヒーロー図鑑に気づき、そう声を漏らした。
「あっ、ごめんね…勝手に見ちゃって。でも、はるくんってヒーローが好きだったんだね。」
「うん。かのんちゃんと出会う前はね。好きというか、憧れてた。」
そう言ったはるくんは、憧れを思い出して目を輝かせているようにも、昔を懐かしんでいるようにも見えたけど、何故かどこか悲しそうに見えた。
「今は、好きじゃないの?」
「んー…好きじゃないってわけでもないけど、昔みたいに憧れて毎日のように見ることはなくなったかな。もっと憧れる人に出会えたから。」
「もっと憧れる人?」
私がそう聞くと、はるくんは困ったように苦笑して私を一瞥し、話を逸らした。
「あっ、僕そろそろ夕飯作らないと!何もない部屋だけど、まぁゆっくりしててよ。」
そう言って、はるくんは出ていってしまった。
はるくんの憧れている人って誰だろう…?
やっぱり私、はるくんのことあんまり知らないな。もう5年も一緒にいるのに…そういえば、はるくんは今まで好きな子とかいたことはあったのかな?そもそもはるくんって、どんな女の子が好みなんだろう…?元気な子かな…?それとも静かな子?髪は長い子なのかな?……でも、男の子だしやっぱり可愛い女の子の方がいいよね。
そういえば私、今までオシャレとかにあんまり気を使ってこなかったな…お化粧とかもしたことないし。今度はるくんと会う時は、お化粧とかしてみようかな…?
〜〜〜〜〜
僕は完成した料理を、かのんちゃんの前に並べる。
「うわぁ…!美味しそう!」
ハンバーグを前にしてキラキラと目を輝かせているかのんちゃん。
今日の夕食はかのんちゃんの好きな物尽くしにしようと思い、ハンバーグの他にもトマトとモッツァレラチーズのサラダを作った。あとご飯とお味噌汁。ちなみに僕とかのんちゃん、そして父の分を作り、仕事で遅くなる父の分は冷蔵庫に入れてある。
「いただきまーす!」
かのんちゃんはそう言って、ハンバーグを一口サイズに切り口に運ぶ。実を言うと、僕も結構緊張している。そこそこ長い間料理をしてきたので、不味いということはないと思う。でも、折角好きな人に食べてもらうんだから、美味しいと言って欲しいし喜んで欲しい。
そう思い、ドキドキしながらハンバーグを頬張るかのんちゃんを見る。
「ん〜!美味しい!すっごく美味しいよはるくん!」
良かった…!喜んでもらえた…!
「ほんと?良かった!」
「もうほっぺた落ちちゃいそうなくらい!これお店で出せるぐらい美味しいよ!」
こんなに褒めてくれるなら、本当に作った甲斐があった。かのんちゃんはそれからも美味しそうにご飯を食べ進める。そんなかのんちゃんの様子に嬉しくなりつつ、僕もハンバーグを1口食べた。
「っ!」
美味しい…!
前に作ったハンバーグと特にレシピも変えてないのに、その何倍も美味しく感じた。恐らく、前は1人で食べていたからだろう。誰かと…それも好きな人と一緒に食べるご飯は、こんなにも美味しく感じるんだ…!
それに更に嬉しくなり、僕も夕食を食べ進めた。
「「ご馳走様でした。」」
夕食を食べ終わり、僕とかのんちゃんは手を合わせてそう言った。
「本当に美味しかったよ!今まで食べたハンバーグの中でも、1番美味しいって思えるぐらい!」
ハンバーグが好物のかのんちゃんにそう言われるなんて、本当に嬉しい。それも、大好きなかのんちゃんに。大好きな人からの1番って言葉が、こんなに嬉しいなんてなぁ…
「またはるくんの料理食べたいな…!」
「僕の料理で良かったらいつでも食べに来てよ!それに、いつも一人でご飯食べてたから、久しぶりに楽しい食事で僕も嬉しかったよ!」
仕事熱心な父は帰りも遅いため、一緒に食事をする機会は滅多にない。そのため僕も久々にご飯を一緒に食べる人がいて、とても楽しかった。
「それにしても、はるくんがこんなに料理上手だなんて知らなかったよ。こんなに美味しいご飯を作れるなんて、いっぱい練習したり研究したりしたんでしょ?」
かのんちゃんにそう言われて思い出した。僕はとあることがきっかけで、料理を上手に作れるよう研究しだしたんだったな…
「うん。最初の頃はただ作ってただけだったんだけどね。とある時から、もっと上手に作れるようになりたいっていっぱい練習して、たくさん研究しだしたんだ。」
「とある時?」
「うん。僕のお母さんは幼い頃に亡くなったし、父は昔から仕事が忙しくてそんなに会えなかった。僕はかのんちゃんと出会うまでは友達もいなくて、ずっと一人だったんだ。」
人見知りしてしまうところがある僕は、かのんちゃんと出会うまでは友達がいなかった。そのため、学校ではずっと一人だったし、家に帰ってもヒーロー図鑑を読んだり一人で過ごしていた。
「そんな時、僕が父の分の食事も作って置いておくと、次の日の朝に美味しかったって褒めてくれたんだ。あんまり多くはなかったけど一緒に食べた時には、美味しいってとても嬉しそうに食べてくれた。それがとっても嬉しかったんだ…!それからは、もっと美味しいって思ってほしいくて、いっぱい料理を作るようになったんだ。」
「はるくん…」
「だから、今日久しぶりに一緒にご飯を食べてくれる人がいて、目の前でとっても美味しそうに食べてくれる人がいて本当に嬉しかった。ありがとう!かのんちゃん!」
僕がそうお礼を言うと、かのんちゃんは優しく微笑んだ。
「はるくん。また一緒にご飯食べようね!今度は、ちぃちゃんも一緒に!」
「うん!」
誰かと食べるご飯がこんなにも楽しくて、こんなにも美味しく感じるんだと久々に思い出した。またかのんちゃんと、それにちーちゃんともご飯を食べられたらいいな…!
僕は次にかのんちゃん、そしてちーちゃんとご飯を食べる時を今から心待ちにしていた。
第七話でした。いかがでしたか?
まず初めに、UA1200突破、お気に入り登録してくださった方も25人になりました!評価や感想などもいただき、まさかこんなに早くたくさんの方に読んでいただけるなんて思ってもみなかったです。皆様、本当にありがとうございます!!
そして、アンケートにもご協力いただきありがとうございます!前回のアンケートの結果ですが、このままヒロインはかのんちゃん1人でという意見が多かったので、今回のヒロインはかのんちゃん1人ということにいたします。ただ、千砂都ちゃんやすみれちゃんもという意見も多数ありましたので、サブヒロインとまではいきませんが、2人を含める他のLiella!メンバーとの絡みも少しずつ書いていきたいと思います。ただ、ヒロインはかのんちゃんということになります。一応アンケートはこのまま残しておくので、急に他の案の票が増えたりしたらまたその時に考えます。
あと、もう1つご報告が…今回の話のもう2話後にはアニメ本編の時系列に入る予定です。アニメに入ってからのお話はアニメ最終回が終わり、アンケートの結果が出たら執筆しようと考えていたので、実はもうストックがありません…なのでこれからは投稿ペースが落ちてしまうと思います…大変申し訳ありません!できるだけ落とさないように頑張ります…!
では今回はこの辺で…第七話も読んでいただきありがとうございます!お気に入り登録、評価や感想も是非よろしくお願いします!
次回、第八話も是非ご覧ください!!
サブヒロインについて(2)
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ヒロインはかのんちゃん1人のままで!
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サブヒロインは千砂都ちゃんで!
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サブヒロインはすみれちゃんで!
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千砂都ちゃんとすみれちゃん両方!