進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい 作:ちゃっぱ
今日も地下街は騒がしい。
いつものような喧騒。地上から来た商人たちの怒声。そしてある子供が何かを追いかけている姿。
でも誰を追いかけているのかは分からない。また子供が何か幻覚でも見ているのか。
「おい待てゴラ! 逃げんじゃねえ眼鏡野郎!!」
聞こえてきた怒声に振り返る地下街の住人達。
そうして誰が騒動の中心にいるのかを知り、リヴァイであれば関わるのは止めようとつい先ほどまでやっていた作業へ戻る。
大抵は喧騒などが起きれば野次馬が出来てその便乗に何かしらやらかそうとする者がいるのだが、リヴァイの場合は絡んできた奴ら全員ぶっ飛ばす程度には狂っているので関わらない方が吉と最近ではそう噂されるようになったからでもある。
走っている声に怒りの感情が混じっている。
駆けている場所すら道なき道であり、屋根の上やら路地裏の塀の上やら、とにかく奇妙な道を駆け回っているのだ。
そうして何かに向かって手を伸ばすのが見えた。その先に誰もいないはずなのに。
「地下街だよ説明してやるからとっとと止まれや!!」
誰もいない先で、幻聴でも聞いたのか。
本当に頭がおかしいガキだ。
先ほども塀の上を飛んで屋根へ上り、どこかへ行く姿が見えた。その騒がしい姿に「仕事の邪魔しないでくれよ」と願いつつ小さく溜息を吐くと、俺の傍に居た子供が驚いたような表情を浮かべてきた。
「今のって……リヴァイか?」
「ん、何だファーラン、お前あのゴロツキと知り合いか?」
「ええっと……」
最近よく働くようになったガキが肯定なくただ曖昧に微笑む。
それを奇妙に思いつつも、なんとなく理由が分かった。
「まあそうか。あのリヴァイなら地下街の誰でも知ってておかしくないな」
「……へぇ、リヴァイってそんなに有名人なんだ?」
「まあな。チビのくせに喧嘩は強いわ何考えてるのか分からねえわで不気味だがな。どっから来たのか分からないがあのケニーってやべえ男の付き添いしてたガキだ。いろいろと頭が狂ってんだろうよ」
「……ふーん」
「サボってねえで仕事やれガキ。終わらせねえと駄賃もやらねえぞ」
「っ────すぐにやります!」
そうして意識を切り替えたのかテキパキと動く子供を見下ろす。
このガキと同じで、あのリヴァイも俺のところで働いたことがあったっけなと思い出した。
(……そういえば、あの娼婦んとこの区域はどうなったんだか)
あそこはあのリヴァイが唯一行き来しない場所だったはず。そう周りが囁いているのを聞いたことがある。しかしあの区域でつい最近建物が炎上する大騒ぎが起きたとか聞いたが、あれはどうなったんだろうか。
まあこちらに被害が来ないなら、あまり気にしなくていいか。
・・・
エレンがいなくなった翌日、目が覚めて起きた先に何故か床に座ってボーっとしている男がいた。
「あっ?」
「うわっ……え、まさかリヴァイ────」
その男────前世の記憶通りであれば奴はきっとジークであると思うが、彼が俺を見た瞬間物凄い悲鳴を上げながら逃げ出したのだ。それはもうゴキブリを直視したかのような反応。
トラウマを刺激されたような行動だった。青ざめたまま変な顔をしたあいつが一目で俺をリヴァイと断定したのは凄いと思う。
それだけ俺が恐ろしかったのか?
これでもまだ髪はちゃんと切ってない。髪の毛も売れる材料と知ってある程度は売り物にするため伸ばしてる最中だったんだぞ。かつての母さんみたく伸ばしまくっていて、肩まで長さがあるはず。年齢も子供で普通だったら分からないはずだろ。
それなのに俺をリヴァイと認識する何かがあったのか。
未来でジークに恐怖を刻む何かを俺がやらかしたか。
いやまあそれは良い。
そこはどうでもいいんだ。問題はただ一つ。
「ふざけるなよクソが」
何でエレンの代わりにジークが来たのかとかいろいろ言いたいことはある。それ以外にも実体ではないくせに物に触れることが可能なのか家の扉をご丁寧に蹴り飛ばし、俺から逃げていったのだ。
このまま逃がしたら駄目だと本能的に理解する。
────地下街では何度かエレンと記憶を巡って鬼ごっこをしたことがある。今回はそれと真逆だ。
俺が鬼でジークが逃げる方。
ジークは何故か死に物狂いで逃げまくってはいるが……。
「おい待てゴラ! 逃げんじゃねえ眼鏡野郎!!」
「何なのお前そんなちっさい頃から何でそんな怖いわけああああもうまたこうやって逃げ続けなきゃいけないのかよ!! 巨人にもなれないしなんだここは!!」
「地下街だよ説明してやるからとっとと止まれや!!」
ようやく捕まえた時には、地下街の端まで来ていた。どれだけ俺が怖かったんだこいつ……。
縄を持ってきて正解だった。両手を結んで身体も縛って、引きずってでも連れて帰ろう。
「ねえちょっと待って。リヴァイ?」
「あぁ?」
「お前、俺のこと分かるの?」
まだ俺と会ってないくせに────と、ジークはあり得ないような目で俺を見てくる。
ジークと繋がった縄を引っ張りつつ、それに素直に答えるか考えて瞬時に否定を下す。
こいつが味方かどうかまだわからない。
俺が覚えているのは最後どうなるのか。そして誰がどうやって死ぬのか程度。細かい道筋で何が起きるのかは知らないのだ。ジークが味方であるのかすらも。
「……少なくとも、お前が俺の家をぶっ壊して逃げた不審者だってことは分かる」
「いやアレ不可抗力だよ! ユミルの民が通じる道の中にあんなでっかい穴が開いてたら飛び込みたくなるの当然だろ! というか道の至る所でボッコボコに穴開いてたし始祖ユミルが小さな穴の一つに足引っ掛けて派手に転んでたけどね! そういえばエレンも転んでたなぁ!」
「……はぁ?」
「穴の先にまさかこんなちっさいリヴァイがいるとか思わないだろ……なんだこれ。本当に。まさか、これもエレンが何かしでかしている結果なのか?」
いや、それはきっと違う。
なんとなくそう思った。どうしてそう思えてしまったのかは分からなかったが。
でもこいつにそれを教える義理はない。一応は敵対関係。マーレ側だったこいつに知識を教えて何になるのか。
おそらく『道』と言うのは始祖ユミルから始まった光の柱が立つ景色の事だろう。そこだけは覚えている。ジークが何でエレンと一緒に居るのかは覚えていないが……。
彼が王族の血筋を持つというのは知っているが、そこまで細かい最後を覚えていないのが難点だ。だからこそ強くなって皆を助けていきたいとは思うが。
「お前が何でここに来たのかは分かった。間抜けにも穴に潜って地下街に来ちまったってことだろ。……それで、お前はちゃんと戻れるのか?」
「……さあ」
「帰りたくないのか?」
何も喋らないので首に引っ掛けた縄を引っ張ってやると、ジークは俺を見下ろしてくる。
その瞳は淀んでいた。エレンよりはマシだが、目に光がなく何かに絶望しきっているように見えた。
「俺は、いろんなことをしでかした。自分にとってそれが正しいと思っていた。でもエレンは……」
「……」
「ああそうだ。あの男の過去を見た時に……そう、これだけは分かる。リヴァイ、お前のおかげで世界は面倒くさい事態になったよ」
「はぁ? どういう意味だ」
「…………」
「おい眼鏡野郎なんか言ったらどうなんだ、おいゴラ」
それ以降喋らなくなったジークに俺は深い溜息を吐く。
何が起きているのか分からない。エレンがここに姿を見せなくなった理由も、なにもかも。
とりあえずこいつはペットみたく家に放置しておくべきか。それか扉ぶっ壊したのこいつだし直してもらおうか。強制的に。
何が起きているのかは分からないけれど、ここに来た以上ある程度は働いてもらおう。物動かせるみたいだし。
(というか、エレンに働かせようって考えが浮かんでなかったな。そういえば……)
俺の身体に触れることが出来たのなら、きっと物を動かすことも出来たかもしれない。
それともこのジークが何かおかしいのか。トラウマ級の悲鳴を上げて逃げた勢いが凄すぎて扉がぶっ壊されたのか。いやそれなら縄を縛ることが出来るのはおかしいよな。
「リヴァイ?」
「……ファーランか。今日は仕事じゃなかったのか?」
「あ、うん。それはもう終わってこれから帰る途中なんだけど……」
戸惑い気味に俺の後ろ側を見てくるファーラン。
そうしてその先、俺の手の平に握られた縄を見て、顔を青ざめてきた。
「いったい何を縛ってるんだリヴァイ。俺には空気を縛って縄が宙に浮いているようにしか見えない」
その言葉に、俺は自分がやらかしたと理解する。
「待てファーラン。逃げなくていい」
「何を縛ってるんだリヴァイ。何かいるのかそこに。リヴァイしか見えない何かがいるのか!?」
「大丈夫だ害は与えないきっと多分。だから逃げるな!」
「本当か!? 本当なんだな!? 俺は信じてるぞリヴァイ!!」
「なら何で一歩後ろに退くんだクソが!!」
ドン引きするファーランに慌てて誤解を解こうと必死に弁明する俺。
そんな姿が面白かったのかジークがちょっとだけ笑っていたので思わず膝に向かって蹴りを食らわせたのだった。
穴に引っかかって怪我(すぐに治った)したのは?
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始祖ユミル
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エレン
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ジーク