進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい 作:ちゃっぱ
何度も何度も、最初からを繰り返しているような気がする。
そのたびに変わってしまった部分を見て、深い溜息を吐くのだ。
(流石は兵長と言うべきか。本当に、厄介だ……)
エレンにとってリヴァイという存在は前世の記憶を持つだけでそこまで脅威を抱くはずじゃなかった。
ただ────前世の記憶を持ってしまっただけで、こんな風にリヴァイに引っ付く必要があるとは思わなかったのだ。
たった一つ。皆とは違う部分。
前世の記憶なんてものを持って生まれてこなければよかったのに。
(このままじゃ何も変わらないな……)
エレンは一人、苦悩する。
今生きている彼の記憶は消せる。なんせ今のリヴァイは前世とは別物だ。
アッカーマンではあるが、エルディア人の生まれであるため始祖の巨人の力を行使して生まれてから今までの記憶を消去することは可能だった。記憶をゼロから捏造するという点では難しいが……。
アッカーマンという血筋でも、記憶を消すことは可能。逆に消した記憶を思い出すこともまた出来る。
あの時、過去から未来が変動するより────リヴァイが動く前。原作と呼ばれた確定未来が見えていた頃。
自分が誰かに殺されるため、ちゃんと死ぬ覚悟を決めた時だった。
皆に会って全てを話して、それを忘れさせて自分を殺せるよう仕向けて。
そうして最後に会ったミカサと一緒に居た優しい記憶。
あの山小屋で、全てから逃げ出してきたのだと思い込ませたミカサと共にいて。つかの間の一瞬が、永遠に感じられた頃。
────自分が死んだら全てを思い出すようにと、ミカサの記憶を忘れさせた決意を思い出す。
リヴァイのせいだった。
過去が変わったせいで全部台無しになった。
だからそこだけは、エレンはリヴァイを許せない。
ただいくら記憶を消していても、リヴァイの頭の中に前世の記憶があるせいで、いくらこちらが暗躍をしていてもすぐに気づかれてしまうのだ。
いわゆる雑草を表面だけ切り取っても根っこが残ってしまったら何度も生えてくるようなもの。
しかも原作知識とリヴァイが呼んでいたそれは、始祖の巨人の力すら理解しているようで、エレンが何かしら記憶を消去していることにも感づいているようだった。
前世の記憶を持つせいで出来ない部分も多いように感じる。あとは人類最強としての切り札という彼の立ち位置が問題でもあった。
彼がいなければ進めない未来がある。
そのため、リヴァイ自身を根っこから変に弄ることは出来なかった。
前世の記憶さえ無くせば元通りになるのだが、それを手放さないと言うのはこの数年で理解した。
彼にとってはそれが全てなのだ。もうエレンは分かっている。リヴァイにとって前世とは自分自身を示す本質そのものであると。
それを消しても良いと言ったら喜んで行うが、リヴァイの意志は頑なである。
だからもう、前世の記憶を消そうと足掻くのはやめた。
ただ勝手な行動をして未来を変えないでほしいだけ。
あのユミルの民が集う『道』が穴ぼこになった件もそうだ────あれは未来でリヴァイがいくつものバタフライエフェクトを引き起こしたせいだった。
未来が変われば、それだけ道筋も変わる。
始祖ユミルはその未来が変わるたびに巨人を作るか減らすかを決めていく。しかし未来が変わるのは突然なのだ。なんせリヴァイが「今日はどこに散歩しようか。そうだ、前世で見たあの場所にしよう」と気まぐれに行動するだけで未来が一気に変わる可能性があるのだから。
巨人になるはずだったモノが巨人にならず人として死んでいく未来があったとして、その『道』には巨人が消失する。消失した分だけ、その場所に穴が出来るのだ。
穴ぼこの未来は、巨人を減らした証拠。
────リヴァイなりに、巨人を殲滅しようとした証でもあった。
エレンとリヴァイは巨人を殲滅するという同じ目標を持っている。
ただ違うのはその犠牲者の数。どのような未来を描くのかの理想。リヴァイはエレンが一人悪になって進む未来を止めたかった。エレンはこのまま突っ走りたかった。その攻防のせいで、エレンは過去から現在へ戻ることが出来ずにいた。
「リヴァイさん」
「あぁ?」
「もう俺ね、決めたんです」
「何が?」
一歩後ろへ退き注意深く見つめてくるリヴァイに、エレンは苦笑する。
リヴァイはきっと始祖の巨人の力が脅威だと認識し警戒しているのだろう。
何度も何度も見てきた光景だ。何度も記憶を消しているのだから。
いや、出来るかは分からないがもしかしたらアッカーマンとしての血が警戒を促しているのかもしれないが……。
「立体機動装置を手に入れましたし、そろそろ地上へ行くために動こうとしてますよね?」
「……だから何だ」
「いえ、俺もうアンタがどう動こうが変に弄るのは止めることにしたんです」
「あぁ?」
「リヴァイさん俺が記憶を消してるって理解してるでしょ?」
その言葉に彼は目を細める。
やはりかと言うように、警戒は怠らずに。
まるで小さな動物がこちらへ向けて威嚇しているように見えた。中身は肉食動物のように狂暴だが。
「何が言いたいんだ、エレン」
「リヴァイさんの持っていた前世の記憶……あの漫画の、原作が始まる瞬間までに勝負しませんかってことです」
「どういう意味だ?」
「リヴァイさんがこの地下街にいる今から、過去の俺が兵団へ入隊するまでの間に俺は無理やり記憶を消そうとはしません。……いくつか仕掛けますけど、リヴァイさんだったらすぐ分かるでしょうし、問題はないですから」
垣間見える未来でエレンをじっと見つめるリヴァイの瞳。何を考えて行動するのか読めない不可解なもの。
いくつかの偶然を引き当てて、さっさと地上へ上げてしまおう。その方が都合がいい。
早めに地下街から脱出したリヴァイさんによって見れる複数の未来にはかつて経験した最悪のものはない……はずだ。
ハンジが地下街へ興味を持ち、偶然リヴァイがいる場所へ来るように仕向けておいた後の未来は現段階で複数見えるが、そこからどう伸びるのかはまだ未知数だった。
何度も言うように、リヴァイが動けばそれだけ未来が変化するのだから。
だからこれは、エレンとリヴァイの理想をかけた勝負でもあった。
「リヴァイさんは前世の記憶を失いたくはないでしょう。なら俺はもう諦めます。でも俺は俺が描く未来は変えたくない。リヴァイさんが変えようと動くならそのたびに俺も動きます。イタチごっこ上等ですよ」
「……だから勝負ってことか」
「はい」
原作知識を持つリヴァイにとっては、それがすべてだ。つまりはそこから改変した未来についての対応力はないに等しい。
そこからどうやって人を救うのか。どうやって理想の未来を目指すのかを────何故か、リヴァイの理想の先を少しだけでも見てみたいとエレンは思ってしまった。
あの『道』すら変異させてしまったリヴァイの力に、様々な感情が込み上げたせいかもしれない。
まあそれでも、自分の理想を覆すつもりはないとエレンは覚悟を決める。
今は何もしない。これから先は裏で動く。リヴァイのように行動するだけ。
ただすべてが始まったその後は────。