進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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第十二話、手紙

 

 

 地上から地下街へ来たハンジは相応の危険に身を晒されてでも知りたいことが山ほどあるらしい。

 うんざりするほど怒涛の質問攻めを喰らい、これがハンジかと遠い目をしてしまったが、とりあえず当たり障りない答えを出しておくことにした。

 

 あいつは紙を取り出してメモを刻んでいく。

 それを何度か繰り返すうちに気が付けば夕暮れに差し迫っていて、それに気づいたハンジが「もうこんな時間!?」と慌てたように上から垂らされたロープを手に取った。

 

 

「何だ、もう帰るのか?」

 

「無断でここへ来てるからね。地下街にいるってバレたら面倒くさい。また明日、同じ時間に来るよ! リヴァイ、あなたもまた来てくれるかい?」

 

「……まあ、時間はあるからな」

 

「よかった! 何かあったらメモでも残しておいて!」

 

「いや字は書けねえから無理だ」

 

「えっ────うわっ!」

 

 

 何故か驚いた様子のハンジがロープからずり落ちて尻を強打する。

 痛みにもだえ苦しんでいたようだったが、涙目になりつつも俺の方を見てきた。

 

 

「文字読めないの? じゃあ書くことも?」

 

「地下街育ちはほとんどがそうだが……なんだ、馬鹿にしてんのか?」

 

「いやいやそうじゃないよ! そっか。そういう教育を行わないのも地下街の……よし、リヴァイ!」

 

「あぁ?」

 

「私が君に文字の読み書きを教えてあげるよ!」

 

「いやそれは……」

 

「リヴァイ?」

 

 

 思わず断ろうかと思ったが、さすがに言語習得についてこれから先の事を考えれば必要なものかと判断し頷いておく。

 

 それに満足そうに笑ったハンジは「また明日!」と言って地上へ戻っていった。

 

 騒がしい嵐が無くなったせいか少し寒気がする。

 冷たすぎる風が肌に当たるせいだろう。もうすぐ冬がくるからか。

 

 コツコツと足音が聞こえて後ろへ振り返る。

 そこにいたのはエレンだった。

 

 ハンジがいた時は後ろへ下がり、いつの間にかいなくなっていたはずのエレンの姿に少しばかり苛立ちが込み上げてくる。

 

 

「……エレン」

 

「はい、何ですかリヴァイさん」

 

 

 とぼけたような顔で、俺をじっと見つめるその姿。

 彼に隙を与えてはいけない。そう思っていたはずなのに、何故俺は散歩をしようと思った時、エレンの言う通りに従ってしまったのか。

 

 

 

「……お前、仕組んだな?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 

 にっこりと笑ったエレンが何を考えているのか分からず、少しだけ恐怖を覚える。

 それと同時に、怒りもあった。

 

 こいつ、俺をどうにか手のひらの上で転がそうとしてやがるな。

 

 今回は分かりやすい警告。

 次はもっとうまく誘導してやろうかという意思すら感じられる。

 

 

(……ああ、そうか。前世の記憶を奪われないから大丈夫だと思っているのが間違いか)

 

 

 奴にとっては、今もこれから先も俺を含めた様々な未来が見えるはず。

 その先で何が起きるのか理解し、俺をエレンの理想通りに動かそうとしているだけ。明らかな挑発行為だった。

 

 ────でも、なんでわざわざそんな分かりやすい警告をしてくれたのか。

 それだけが気がかりだった。

 

 でも今はそれを考える暇はない。

 喧嘩を売られたなら買う。そうじゃなければ俺が見た原作に近い未来になってしまう可能性が高い。

 つまり意地とプライドの問題だった。

 

 

「上等だ」

 

 

 ニヤッと笑った俺にエレンは何も言わずに俺を見つめてくるだけ。

 きっとこれから先もエレンについては注意を怠らない方が良い。

 

 それだけを心に刻んで動くことにした。

 

 

 

 

 

 

 ────と言っても、地下街ではファーラン達の面倒を見て、約束の時間ではハンジと会って文字を教えてもらう代わりに地下街の生活について教えていく。

 

 そうやって日々を過ごすうちに、気が付けば半年過ぎていたようだ。

 

 

「よし! もうこれで文字はばっちり覚えたね。流石だなぁリヴァイは。結構早い段階で覚えてたじゃないか」

 

「カタカナを右から読んで上下逆転させてるような文字だったからな。覚えやすかっただけだ」

 

「カタカナ?」

 

「いやなんでもねえ。……それで今日は何が知りたいんだって?」

 

「あーうん。それなんだけどさぁ」

 

 

 目をキラキラとさせていたハンジが、ちょっとだけ気まずい顔で口を開く。

 

 

「私はこれから訓練兵として志願することにしたんだ。だからここへ来るのは難しくなる」

 

「……壁の外を見るためか?」

 

「何があるのかを自分の目で見て知りたいからね! もちろん時間があって抜け出せるならまたここに来るよ!」

 

「いや来るなよ訓練兵。バレたら処罰の対象になるだろ」

 

「アッハハハ! 処罰どころか地下街にたまーに侵入してたってバレたら牢獄行きかもね! いやもしかしたら殺されるかも!」

 

「おい」

 

 

 危険を承知の上でやるのは構わないが。こいつ好奇心で動いていつか死ぬぞ。誰かついていてやれ特にモブリット。まあ未来で会えるとは思うが。

 

 

「……まあつまり、お前が来るのは今日で最後なんだな?」

 

「まあね。リヴァイは寂しい?」

 

「いや」

 

「そう言うと思った!」

 

 

 やけに爆笑しつつ空を見上げたハンジ。

 流れる空気が冷たく、太陽の暖かさに眠気が呼び起こされる。地下街では通常聞こえない鳥の鳴き声がする。

 

 いつの間にか、ハンジの笑い声は聞こえなくなっていた。

 

 

「……ハンジ。お前に聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「地下街を調べていて、お前はどう思った? これは自然形成されたもんだと思うか?」

 

「急に何言い出すの? うーん……流石に人工的には無理だと思うよ。こんな大きさ。今の技術でも不可能だと思う」

 

「人がやるなら無理だろうな。でも巨人だったら?」

 

「いやだから何言ってんの? 巨人ならできるって言っても、あいつらに知恵はないんでしょ。一匹閉じ込めて暴れさせたとしても、こんな広い穴出来るわけがない」

 

「出来るわけがないって誰が決めたんだ? いや、そもそも地下街だけじゃねえ。巨人は何処から来たのか。巨人に知恵がないって本当に断言できるのか。お前は」

 

「なにを言ってるの?」

 

「地下街は安全とは言えない。それは地上も同じはずだ。壁がどうやってできたのか。巨人に何故壊されないと断定できる? 何で王政はその常識を民に押し付けたのか、分かっているのか?」

 

「リヴァイ、それは────」

 

「絶対にありえないって言葉はな、胸糞悪いがそういう未来の道筋を確定させたクソ野郎にしか出来ねえんだよ。だから巨人が知恵を持って動くかもしれない。壁がいつか壊される日が来るかもしれないぞ」

 

「ね、ねえリヴァイ。何言ってるの? 頭おかしくなったの? いやほんと、なんで急にそんなこと言い出すの? まるで何か、根拠があるみたいな……」

 

 

 冷や汗を流したハンジは顔を青ざめている。

 頭が回るのか、もしかしたら地下に巨人でも眠ってるとかいう想像でもしてるのか。

 俺の真後ろにいるエレンをチラリと見たが、奴は何も言わない。

 

 

(……少し言い過ぎたか)

 

 

 ハンジがこぶしを握り締め考えている様子に、肩の力を抜いてみせた。

 俺の雰囲気が変わったのが分かったのか、きょとんとした顔でハンジが見つめてくる。

 

「あの、リヴァイ?」

 

「まあ、冗談だ。さっきの話は何も気にするな」

 

「ちょっと! ねえ本当にやめてくれない!? ってかマジでビビったー! ああもうリヴァイ本当そういう冗談良くないよ!!」

 

「うるせえ黙れクソ」

 

「クソって言う方がクソなんですぅー。このクソ野郎!」

 

「うるせえクソ野郎。……まあこういう話は流石に誰かに喋らねえ方が良いぞ。話すなら内緒話でも出来そうな友人とかにだな」

 

「え、それってつまり、リヴァイにとって私はこんなぶっ飛んだ話でもできる友達だってこと?」

 

「いやそうじゃねえクソが。……はぁ、もういい。おら、夕暮れが近づいて来てるぞ。帰るんだろ」

 

「まあそうだけど、なんか釈然としないな! なんでお別れ直前になってこんな意味深な話してくるわけリヴァイの馬鹿!」

 

「うるせえ」

 

「それにこれは話さない……いいや、話せないよ流石に……」

 

 

 まあ、そうだろうなと思う。

 ハンジは頭が回る。俺が話した内容について、いろいろと危険性に気づいたのだろう。

 

 俺が冗談だと言った話が、嘘かどうか遠回しに伺っている様子も含めてハンジはちゃんと考えているようだった。

 

 

「ああそうだ、ハンジ。文字を教えてくれたお礼だ。受け取れ」

 

「え、なにこれ雑巾?」

 

「これから集団で生活すんだろうが。汚ねえと眠れた気がしないだろ」

 

「いや私は別に……というか、今日言ったばかりなのに雑巾持ってたってことはリヴァイはこれを常に持ち歩いてるわけ? 何それ変態? そういう性癖の持ち主!?」

 

「うるせえ明日から大変なんだろ掃除して風呂入ってクソして寝ろ」

 

「もう指摘するとすぐ罵倒するの良くないと思うよ!」

 

「指摘されたわけじゃねえよ! ……ああそれと、これも頼む」

 

 

 懐から取り出した封筒に入った手紙。封筒には蝋燭で封をしてある。

 こういった手紙類は地下街にとって高級品だが、これだけは譲れなかった。

 

 勝手に読まれたら困るから、封をすればそのままにしてくれると思ったのだ。

 ハンジが独断で勝手に開けたとしても、こいつならおそらく自分の考えで動いて周りに喋ろうとかはしないはずだから、責めるつもりはないが……。

 

 

「これは?」

 

「地上にいる男に宛てた手紙だ」

 

「ええと宛名は『スミスさん家のエルヴィン君へ』ってその子が何処に住んでるのか具体的に書いてないんだけど!? 私スミスさんちのエルヴィン君とか知らないよ!」

 

「じゃあ持ってるだけでもいい。俺もいつか地上に行く。その時まで預かっててくれ。それかお前がエルヴィンに会ったら渡しといてくれ」

 

「会ったらって、そんな偶然あるわけが……ああ、いや……」

 

 

 ハッと俺を見たハンジが口を閉ざす。

 そうして何も言わなくなったこいつは、別れる時間までその場で黙って考え込んでいた。

 

 俺に何かを聞こうとしていたが、問いかけようとはしない。

 

 

「とりあえず、再会する時までに何かしらの返事でも書いてくれたら助かるって伝えといてくれればいい」

 

「あーうん。なんかよくわからないしいろいろ考えなきゃならないことを頭にぶっこまれた感じだけどもう分かったよ!! ……つまり、再会した後なら問い詰めても問題はないってことだよね?」

 

 

 

 ハンジの質問に、俺は何も言わないでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

スミスさん家のエルヴィンくーん?

  • はい
  • はーい!
  • 別人です
  • 違います俺じゃない
  • エレンならお前の真後ろにいるよ!
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