進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい 作:ちゃっぱ
書かないと言ったな、あれは嘘だ。
甘い考えだったかもしれない。
イタチごっこだと思われた攻防は、確実に別の意思を持って変わろうとしていた。
────流石にこれは、予想外だと。
勝負を仕掛けた話についてはリヴァイの記憶を消した筈だ。その後は本当に記憶を弄る真似はしないつもりだった。
今回の件についてもそうだが、本当なら口を出すつもりはなかったのだ。
今ここにいるエレンにとって重要な点はリヴァイとハンジが交流すること。
ファーラン達との関わりは注視していなかった。
さすがに幼い頃はエレンとの交流が多く、独り言など目立ちすぎて死にかける未来もあったからそれだけは気をつけたが。
小さいが、なんとか成長したリヴァイなら大抵の人間が敵うわけはない。本当に気をつける点はリヴァイの発想。どういう考えで未来を辿るのかという点だった。
だからエレンは、ハンジが協力者になるよう仕向けたのだ。
なんせエレンが手を出さなければ未来は本当にひっくり返る。
調査兵団へ行くことを止めて密かにアルミン達と接触した世界もあった。
あれは主にアルミンがヤバすぎて即座にその未来ルートを消そうとエレンはすぐ行動したが。
他にも、ケニー・アッカーマンを始めから味方へ引き入れてリヴァイが憲兵へ成り上がり壁の崩壊と共にライナー達を引っ捕らえてグリシャがレイス家を襲う前に捕縛した未来ルートがある。
あのあとの未来をエレンは見ていない。そこまでの未来が確定してしまったらエレンは巨人になれないからだ。
だからハンジと交流させ、壁が破壊される前に巨人を捕らえようという考えをリヴァイにさせないよう気をつけている程度である。
それと以前何故かこちら側へ落ちてしまったジークのせいで彼と協力する未来ルートが出来てしまったこともあった。その場合壁は破壊されず物語が始まることなく、リヴァイがジークと共に過去のマーレにいたアニ達を仲間にすることへ成功し、奮闘していた世界に変わっていたのだ。
もちろんこれもエレンにとっては理想とは程遠い未来なのですぐにジークを道へ投げ飛ばして来た穴をなんとか塞いだけれど……
未来を見通すといっても、リヴァイの動き一つで一気に複数の結末へ変わるようになっている。
確実にヤバイなと思われる部分はなるべく誘導していた。
自分が出来るのは、原作と呼ばれたあの最初の未来へ繋ぐため。でも自分が行動したことで起きる未来変動は流石にリヴァイほどではない。死人がどれだけ出るのかといった部分のみ。それ以外は変えてないつもりだった。
最初に見たあの『地ならし』を起こすことこそパラディ島の自由へ繋がる近道だから。
だから、エレンは気にしなきゃいけなかった。ハンジと出会ったからある程度の未来改変は大丈夫だと思わなきゃよかったのだ。
リヴァイの傍にいるエレンが、彼の行動を変えるたびに未来が変わる。
それなら、リヴァイに最も近くにいて影響を受けたファーラン達もまた同じなのだと。
最近はなくなった筈。ハンジと出会うことで、後はリヴァイのいう原作開始までは注視する程度でいいと思っていた。
それは、頭が痛くなるほどの大きな未来改変だった。
きっかけなんてなかった筈だと一瞬焦ったが、リヴァイを注視していたエレンには分かった。
これは、まだ小さな出来事でしかないのだと。
(今回はリヴァイさんが未来を変えたんじゃない。リヴァイさんに影響を受けたあいつらが引き起こしたのか)
────その時になってようやく、心の奥底が凍るような感覚に襲われる。
前世の記憶があるからリヴァイは動いた。そのせいで未来が変わったと思っていた。しかし違うのだ。
未来改変への羽ばたきが大きければ大きいほど、その影響は強まる。
(俺も、兵長に影響を受けてたってことかよ……!)
そうエレンは今までの行動全てを思い返し理解する。
リヴァイを動かすエレンもまた、未来を変えているようなもの。リヴァイだけじゃない。エレンもその自身の行動一つで未来を変えてしまっていたのだと気づいた。
それは無意識だった。
リヴァイが未来へ進む先、その歩む方向さえ変えるだけだから。
あの最初の未来を見るために動いているのだと思い込んでいた。
事象が逆転していた。
リヴァイの動き自体が未来を変えていたのではない。リヴァイ自身のせいじゃない。確かに彼の影響でこうなったと言えなくはないが。
リヴァイではなく、周りが影響を受けて動いたせいで未来が変わっていたのだと気づき、愕然としたのだ。
もしもその影響が大きくなったらどうなる。
リヴァイだけじゃない、他も気をつけなければならないのか?
もしも全員の動きが変わって、全部未来が変わったら……。
そこまで考えてエレンは死んだ目になった。
いや過去へ来てからずっとエレンは感情をなくした魚の目をしてはいたが。
それ以上に彼の目が死んだ。
前世の記憶を持つリヴァイ風にいうなら、これは呪いのようなもの。それも膨大に増え続ける汚染。
一人で止めきれるかと叫びだしたくなるほどのもの。
エレンは少しだけ面倒くさくなって全てを投げ出しそうになった。それでもすぐに意地を張り、頑張れる程度の決意を抱くことができたけれど。
(いろいろと考えるのは後にしよう。今はとにかく、リヴァイさんのことだ)
あの時ファーランによって引き起こされた未来は、リヴァイの自由が失われる最低のもの。
なんせリヴァイはまだ誰も失っていない。それどころかより多くの子供達を抱え込んでいる。
多くの者の庇護は、リヴァイの弱みに繋がる。
リヴァイは自分のせいで失う命がないように行動する。だから人質をとられたらそれだけで抵抗が出来なくなる。
地下街に根を張る金持ち連中はリヴァイの噂を聞き、弱みにも気づいたのだろう。
リヴァイの隣にいたファーランが有効な人質として狙えると。
リヴァイは一人なら最強だ。
でも仲間がいたら弱くなる。守らないといけない命を庇うから、傷が増える。エルヴィン以外の人間に縛られる。それだけは駄目だ。
勝負とか言っていられる状況じゃない。これを見過ごすことはできない。
だからエレンは、今回だけは特別に休戦にしようと思い込むことにした。
リヴァイがこれから選択する行動が、面倒な未来へ繋がる恐れもあるのだから。