進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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第十四話、人間賭博場 中編

 

 

 

 

 そこは、地下街のゴロツキ共が目的がないと滅多に来ない────地上への階段に最も近い場所。

 

 住宅地のように建物が連なるその奥には、一部区間のみポッカリと何もない空間があった。

 そこには人の身長より大きな柵が張られていた。それはまるで地上の人々を巨人から守るためにある壁のように見える。

 

 その柵の中で、複数の誰かが戦っていた。境界線でありリングのようなものだったのだ。

 誰かが逃げないように。戦うまで終わらない地獄のような光景が広がる。

 

 その柵を囲むように、建物が並べられて建っているのだ。

 

 そこは窓が異常に多く開かれていた。

 まるで階下────柵の中で行われている殺戮を覗き見るために。

 殺し合いを喜んで見て、賭け事を行う観戦者。地上でやるとなると一般的な民衆に共感を得られず目をつけられる可能性があるためなるべく知られない場所で行う遊びだと、彼は笑った。

 

 これは地下街の一部の娯楽であり、国に脅威をもたらそうとする奴らを懲らしめるための場所なのだと説明する。

 

 貴族から見れば、これは地下街でしか暮らせない奴らを見下す行為。地下街で増えすぎた人を物理的にかつ有効に削るための必要な搾取。

 そして地下街で見過ごせない何かをやらかした者達に対する警告。地上で行うのであればまだ見過ごせるが、地下街で生まれ育った子供たちが協力し合い生き抜こうとする行為はこれから先の脅威になり得ると彼は予感していた。だから捕まえたのだ。

 

 しかしそれだけで殺戮が安易に行われるわけがない。

 だから褒美をとらせるのだ。地下街の住人にとっては、地上へ這い上がる権利を与えるためのチャンスなのだと。

 これが出来て勝ち上がれたなら、良い暮らしが叶うぞと。

 

 殺し合いは地下街に住む奴らから始まる。

 これを自ら望むよう細工した者共が数人生き残れば、その後にその娯楽を企画した者から何人かの兵士が投入される。

 王家支持派の中の兵士は、人を殺すことに慣れたものが多い。

 

 手加減もできる。遊びも可能。

 そうして賭けを盛り上げて、地下街の人口を減らすのだ。

 

 金儲けも兼ねた凶悪な行為ではあったが、王家の意志に従った行為でもあった。

 貴族は高みの見物と見てはいるが、心の奥底で「これが自分たちだったら」と恐怖を植え付けられる。勝手な行為をしないよう牽制と警告は、地下街の者達だけじゃない。王家の秘密を知らないが何か抱えていると気づいたが無言を貫く賢明な者どもを対象とした行為。

 賭け事や観戦を行った時点で共犯になったも同じ。だからもう、逃げることは難しい。もちろんこれを一度見て何かに目覚めて何度も足を運ぶ狂人も存在しているが……。

 

 男たちがいる場所は一番高い部屋。

 壁に手錠で繋がれた血だらけのファーランは男を睨む。しかし男は何もせず、ただ嘲笑うだけだった。

 

 

「────お前たちはやり過ぎたんだよ。地上で……学校のように子供たちに何かを教えるという行為は見逃せる。裕福な馬鹿共が勝手に無償でやっているだけならな。だが地下街じゃそれは脅威になれる。わかるか?」

 

 

 柵の中で殺し合いが始まっている。

 血生臭い地面に横たわる死体と、それに興奮する人々の熱狂が部屋に響き渡る。

 

 それを聞いていた彼────王家の秘密を知っているがそれを隠す商会上層部の男だった。

 その名を、ファナティカー・ハイデントゥームと名乗った。

 

 

「地上と地下街は空気が違う。ここは常に殺伐としてやがるんだよ。人を信用しない。利用するためだけに関わる奴ら。ガキどもが手を取り助け合いながら何かを盗む。女は男に金を貰って身体を売り、男は力だけでのし上がる。そんな単純な世界で十分なんだ」

 

「……」

 

「なのに、お前たちがした行為はなんだ? 子供に文字を教え、地下街でどう賢く生きるのかを習わせる」

 

「……それがなんで脅威になるんだよ。意味が分からない」

 

 

 殴られて重傷を負っているファーランはファナティカーの言葉に眉を顰めた。

 何故そこまでいわれる必要があるのか分からない。何故脅威と捉えられるのか、理解が出来なかった。

 

 それにファナティカーは笑う。

 

 

「ハハハ! 脅威に決まっているだろう! 飢え死にするかもしれない弱い子供を育てて自分たちの思うがままに扱えるかもしれない存在へ鍛えるようなものだ! まるで兵団を一から作り上げているみたいじゃないか!」

 

「ッ……そんなつもりで子供たちに生き方を教えてきたわけじゃない! あのままだと死んでいた。親もいない路上暮らしの子供は、何もできず飢えて死ぬだけだ! それを助けて何が悪いって言うんだ!?」

 

「そうだな。過去────お前のように本気でそう思っていた奴らがいたよ。文明の発展のためにと武器を作り上げた者。世界を見たいがために巨人に手が届かない場所まで空を飛ぶことを夢見た者。そういう奴らは自覚もしてないんだ。これは国に対する反逆行為だということもな」

 

 

 そうして言葉を続けようとしたファナティカーだったが、不意に扉が叩かれたため後方へ振り返る。

 

 

「失礼します。会長────」

 

「ああ、やっとお出ましか」

 

 

 そう言って笑ったファナティカーはファーランにこれ以上言うつもりはない。

 どうせいつかはファーランという男は殺す。だが、それより前に一番の盛り上がりを見せるであろう釣り餌になってもらわなきゃいけない。

 

 

「リヴァイという狂人がここへ来るようだ。ここの人間賭博場の一番の目玉としてな。ハハハッ。殺されるためだけに来るだなんて本当に馬鹿だよなぁ!」

 

「ッ……だからどうした。リヴァイは殺されない。あいつはお前が思っているよりずっと強い!」

 

「ハハッ、分かってるさ。だからあいつには枷を付けさせてもらう……さて、そこで楽しんでいてくれたまえ、俺は今回新しい客を迎え入れなきゃいけないのでね」

 

「おい待てクソ野郎!!」

 

「汚い口だ。全部終わったらその口から潰してしまおうか」

 

 

 ファナティカーは別部屋へ向かう。

 隣室に位置するそこは大きな窓が開かれており、客人たちは階下を見て身体を震えさせていた。

 そこにいた客たちは貴族にしては末端の者。しかし王家に疑問を持つ思考であると情報が伝えられ、脅威になり得るかもしれないと判断しここへ招待した者達だ。

 

 

「やぁ、どうですか今回の催しは」

 

「……ま、まあいいんじゃないかな」

 

「顔が青いですよ。これから先がとても楽しいというのに」

 

 

 ファナティカーが笑うと、彼らも無理やりだが笑う。

 今にも気絶し、吐きそうな様子だった。そりゃあそうだろう。なんせ派手な殺し合いが行われているのだから。その殺戮を楽しむのは彼らより圧倒的に地位が上の者ばかり。

 熱狂と狂乱の声が響いた瞬間身体をピクリと震わせるが、ファナティカーに悟られないよう懸命に我慢していた。それをファナティカーは察し、心の中で嘲笑う。

 

 

「リヴァイというゴロツキがここへやってきます。彼はどうにも地下街で脅威となり得る存在でしてね。なんせ奴はとても強い。幼い頃に大人を殴り殺したと噂されている程度には、この地下街では一番と言われるぐらいでしょう」

 

「そ、それはとても楽しみですな」

 

「そうでしょう! しかしそんな圧倒的な強さだと賭けにはなりませんからね。彼には手枷を付けて、目隠しをしたまま参加してもらいますよ」

 

「そ、れは……」

 

「楽しみでしょう? 彼がどういう風に戦うのか」

 

 

 ────言葉の裏に隠された、リヴァイがどう殺されるのかお前たちに分かるかというもの。

 お前たちもいつかそうなるかもしれないぞと言外に警告を発しつつ、ファナティカーは笑う。嗤う。

 

 賭けをするのは自ら進んでこの地下の人間賭博場へやってきた金持ち連中のみ。

 今回もまた稼ぐだろう。ファナティカーの隣で震えている末端貴族共に警告も出来る。

 一石二鳥。リヴァイが殺されたら、その後隣室で繋がれたままのファーランから子供たちをどう教育しているのか詳細を聞くために拷問して、それから殺そう。

 

 だから気づきもしなかった。

 ────リヴァイが、悪魔を連れてこちらへ近づいてくるという事実に。

 

 

 

・・・

 

 

 それは一瞬。

 手枷と目隠しを付けた男、リヴァイ以外の者が立つことすら出来ず地面に身体を伏した光景。

 血に濡れた足が彼の強さを想像させる。

 

 両手を使わず、視界を奪ってもなお戦った男は足だけで全てを倒してみせたのだ。

 

 

「な、んで……!」

 

 

 それを上階から眺めていた全員が絶句した。

 いつもの熱狂すら聞こえないほどの静けさが周りを包み込んだ。

 武器を持った兵士すら瞬殺する圧倒的な強さに息を呑む者が多かった。それと同じく、恐怖を抱いたのだ。

 

 彼は上を見上げた。向けた方向はこちら、ファナティカーの方だった。それに男は一歩後ろへ下がり顔を青ざめる。

 

 

「まさか、俺の位置が分かっているのか?」

 

 

 慌てて部下共に命じて殺せというが、何故か銃を撃つ前に彼らはバタバタと地面へ倒れる。

 リヴァイは何もしていない。ただこちらへ向かって歩き始めただけだ。見えていないはずなのに、しっかりとファナティカーの方へ向けて歩いている。

 

 銃を持った部下たちは上階にいた。何かを投げた様子もないのに倒れていった姿が見えた。リヴァイが攻撃したのかと思い込むぐらいとても不自然に気絶していったのだ。

 

 一歩進むごとに、場の空気が混乱する。でも悲鳴が上がったと思ったらすぐに聞こえなくなる。窓から見えたのは気絶している貴族たちの姿。

 ファナティカーの傍に居た末端貴族すら倒れていく。恐怖で気絶したのかと思ったが、ただ眠っているように見えた。体を揺すっても彼らは起きない。毒でも使ったのか? いやそれにしてはおかしい。何故自分だけは起きているのか。何故だ?

 

 もう自分しか起きていないのか。

 誰か、気絶していない者はいないのか。

 

 王家の秘密を知って以来────こんなにも恐怖を感じたのは久々だった。

 何が起きているのか分からないという未知の恐怖に身体が震え、怯えてしまう。

 

 リヴァイという男は何者なのか。

 分からないという事実が、怖い。

 

 

「……エレン」

 

 

 静寂に包まれた場でリヴァイの声が聞こえた。

 エレンとはなんだ。誰か協力している者がいるのか?

 

 でも誰もいない。窓から覗き見た男はリヴァイしかいないのに────何故か、部下に命じたはずの、後ろ手にきつく縛った縄が勝手に解かれた。

 そうして視界を覆っていた布すらも自然と解かれる。

 

 何をしたのか分からない。

 これは何かの仕掛けか? 罠か?

 

 いつの間にかリヴァイが立体機動装置を付けていた。隠していたのかそれとも呆然と見ている間にまた何かをしたのか。

 立体機動装置によって一気に上階へ。自分がいる窓へと飛び移ってくる。

 

 階下から見たリヴァイは小さな男だと思っていた。

 ……いや、それは当然だ。調べによるとリヴァイはまだ十代前半。

 成長期のはずだが栄養が足りていないのか幼い子供のように見えた。

 

 なのに今窓から侵入してくる男はなんだ。人の形をしているが、本当に人間なのか?

 

 

「よぉ、クソ野郎。ファーランは何処だ」

 

「ひっ!?」

 

 

 リヴァイはナイフを手にファナティカーの眼前へ向けた。

 攻撃されそうだと怯え、尻餅をついたファナティカーは恐怖のあまり失禁する。

 

 それに「汚ねえな……」と舌打ちを鳴らしたリヴァイがふと何もない方向を見た。そうしてじっと見つめていたと思ったら何かに頷く。

 

 

「ああ、隣か」

 

 

 それは確信を持った声だった。確実に隣室にいると分かったのだ。何故?

 

 どうしてファーランがそこにいると分かったんだ。

 何か、音がしたのか?

 

 いや周りは死んだかのように異様に静まってる。

 ファナティカーの嗚咽が響くのみ。それなのに奴は何もない方向を見た後すぐに察した。

 

 ファナティカーは恐怖に身体を支配される。

 このまま何が起きているのか分からず殺されてしまうのかと涙を流す。

 

 

「み、皆に何をしたんだ。ど、毒か? それとも何か驚異的な武器でも……」

 

「あぁ? エレンがやったことだ、俺が知るかよ」

 

 

 また彼はエレンという単語を口にする。

 まるでそこにいるかのように、何処かを見ながらそう答えたリヴァイに、ファナティカーの背筋が凍り付く。

 

 

 ファナティカーは彼の言動を見て思い出したのだ。

 

 なぜリヴァイが狂人と言われているのか。

 奴がガキの頃、誰もいないはずの場所に話しかけ、何かを追いかけていたとされる調査報告。

 ただの頭のおかしいガキだと思ったが、今までの行動を察するにこいつは何かを見ている。

 

 ファナティカー達が見えない何かが確実にそこにいる。

 

 巨人とはまた別の恐怖。

 王家の秘密を知っているせいで、リヴァイがそれに近しい能力を手にしているのかと疑いをかけてしまうぐらいには、ファナティカーの心は現状を理解したいと思わなかった。思いたくもなかったのだ。

 

 こんな子供が地下街にいたなんて思いたくない。それを現実だと思う方がおかしい。

 

 

 

「まさか、悪魔を付き従えているのか……?」

 

 

 

 このリヴァイという男は殺さないといけない。

 これは王家の脅威そのものだ。彼をこのまま生かしておいてはいけない。

 

 伝えないといけない。誰かに。

 

 

 そう思ったのが最後だった。

 

 

「安心しろクソ野郎。俺はてめえら貴族共に目を付けられるようなことはしねえ。せいぜい記憶を奪われるだけだ」

 

 

 その言葉を最後にファナティカーは気絶した────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────というのがこれから行く先で起きる未来です。余計なことしないでくださいねリヴァイさん」

 

「いやふざけるなクソが。俺が悪魔の手先になってるじゃねえか!」

 

「でも全員の記憶を奪って逃走。あとは目立たずハンジさんと再会するまで地下街生活を平穏に暮らすっていう未来ですよ。良いでしょう?」

 

「何でそれでいいと思った?」

 

「俺が何も言わなくてもリヴァイさんが勝手に未来を変えようとするからですよ! 俺だってここまで細かく未来を言うつもりはないですけど、今回は仕方がないですし。それに伝えないとその未来通りにならないでしょうが!」

 

「うるせえ原作厨!! ファーランの身が危険なんだ、シナリオがどうのこうの言ってる暇あるならさっさと俺に協力しろ。未来が変わるのが嫌なら臨機応変に対応しやがれ!」

 

「だからっ────そういうところですよリヴァイさん! 本当に横暴だなこの人は!!」

 

「エレンに言われたくねえんだよクソが!」

 

 

 

 そうしてまた、未来が変わるようだ────。

 

 

 

 

 

 

 




今回のお話はエレンが見た未来の詳細です。
エレンが言わなくても未来が変わり、それを言っても未来は変わる。もうどうしろっていうんだ。ファナティカーという男、フラグです。
ちなみにこの後エレンは────(次回に続く)





あとがき
明日は本当に忙しいので投稿できるかわかりません。そうなった場合は明後日に投稿できるよう頑張ります。よろしくお願いいたします。



ファナティカー(今回の件を引き起こした商人)はどうなる?

  • 記憶消去
  • この世からバイバイ()
  • 頭ぶっ飛ぶ
  • 興奮してファーラン殺す
  • 隠密にファーランを解放され逃げられる
  • エレンの動きに察した貴族が王家に……
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