進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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おめでとう、RTA走者エレンはあまりのバグと荒ぶりまくる乱数リヴァイのお陰で何度も最初からを繰り返しても終わりが見えない苛立ちからブチギレ達観の極致に入り、進化しました!








第十五話、人間賭博場 後編

 

 

 

 エレンが促した選択肢は二つ。

 ファーランを助けるか、見捨てるか。

 

 そんなの選択肢は一つしかないに決まってる。

 

 

「それで、お前が言うには今行われてるのは王家支持派の仕業ってことだな」

 

「……」

 

 

 何も言わず、ただ目を瞑り額に軽く手の甲を当てているエレン。

 無言は肯定と捉えるが、それにしては少し様子がおかしい。いやまあいつもこいつは頭がぶっ飛んでる程度にはおかしいが……。

 

 先ほどファーランが逃がしたチビが慌てて外へ出て行ったのは、きっと立体機動装置を取りに向かったから。

 睨み合う俺とエレン。その空気は冷たく研ぎ澄まされていた。

 本当だったら酔っぱらい共の喧騒が外で響き、熟睡するチビ達の寝息が聞こえるはず。

 

 しかし今はとても静かだ。喧嘩が起きていないのは偶然だろうけれど。

 子供たちの寝息すら何も聞こえない。まるでこの世界で俺とエレンしかいないように思えた。

 

 ただ、息を呑むようにこちらを伺う気配がしなければだが……。

 

 

「エレン、俺は別にお前がいちいち口出ししてくるから面倒なだけであって、お前が言った通りの行動をしてやってもいいと思ってる。それで平穏に事が済むならな」

 

「……リヴァイさん」

 

「でもそれをこいつらが受け入れると思うか?」

 

 

 扉を開ければそこからなだれ込むように転がり落ちてくるチビ達の姿。

 その一番上にいたのは赤毛のチビ────立体機動装置を他のチビ達と協力して持っていたイザベルだった。

 

 このチビこそ、過去から未来を変動させた一人。

 前世とは全く別物になったキャラクター。

 

 漫画で読んだことのあるイザベル・マグノリアという名前の少女は男勝りな性格と口調が特徴だが、俺が出会った当時はまだ幼女であり、まだまだ俺より背が低く小さいため他の奴等と同じようにチビと呼んでいる。それにファーランからもいろいろと教わっているせいか、イザベルは俺を特別視しない。それだけのこと。口調すら敬語を使い分け、態度も若干女の子らしくなっているのだ。

 

 そんなイザベル含めたチビ達はファーランが捕まったという事態に気づいたらしい。

 

 

「リヴァイさん誰と喋ってるの!?」

 

「もしかしていつもの幽霊!? ってそんな場合じゃねえや!」

 

「ファーランさん助けに行くなら俺も行く!」

 

「なんか手伝えることありますか、リヴァイさん!」

 

 

 チビ達全員の顔を見た後に、エレンの方を向いた。

 あいつは俺をじっと見据えていた。未来について話していた時よりもずっと無表情のまま、こちらをじっと見つめてくる。

 

 

 

「お前が言う未来に、こいつらは出たのか?」

 

「リヴァイさん誰と話してるの?」

 

「まだ幽霊いるの?」

 

「静かにしてろチビ共」

 

 

 不安そうな顔で周りをキョロキョロと伺うチビ達。

 俺の腰や手にしがみついては幽霊を探すその姿はまだ幼くとても癒される。

 

 ああ、こんなことをしている場合じゃねえってのに。

 

 本当はこいつらにエレンと話している様子を見せたいわけじゃない。チビ達には俺が頭ぶっ飛んでるとか誤解されるかもしれないが、それでも構わない。幽霊騒動は俺の周りでよく起きているからな。

 

 ただエレンには自覚してほしいのだ。

 俺が未来を変えているとこいつは言うけれど、エレンが細かく説明してくれた未来にチビ達はいるのかどうかという話がしたかった。

 

 ハンジと出会った時点で原作とは異なっているはずだ。ファーランはともかく、まだ十歳にも満たないイザベルをチビ達と同じく一緒に育てている時点で地下街で生きる俺は────前世の漫画で見たあのリヴァイとは全くの別物になる。

 

 そもそも前世の記憶なんてものを持っている時点で俺の知る原作知識とは逸脱していると思うが。

 

 じっと見つめてくるエレンが片目を閉じてから、また静かに口を開いた。

 

 

「……そうやって未来を勝手に変えて、自分が勝ったと思わないでくれませんか。リヴァイさん」

 

「はっ?」

 

 

 ────不意に、背筋がゾッと凍り付くような悪寒に襲われた。

 

 無感情な声で言い切ったエレンの周りで、チビ達が倒れていく。

 慌ててイザベルの傍に行くと、あいつは眠っていた。全員静かに寝息を立てて床で熟睡していたのだ。

 

 

「エレン、おまえ……」

 

「それは脅しですか?」

 

「あぁ?」

 

「リヴァイさんは自分の力を過信しすぎてるんですよ。俺が言う未来と全く別に進もうとも……ファーランを助けると、パラディ島に住む皆を、エルディア人を全員救えると本気でそう思っているんですか?」

 

「本気じゃなかったら今てめえはここにいないだろうが。俺はファーランを助ける。それ以外も全員救う。平穏な終わりを目指すためにな」

 

 

 

 エレンは俺を失望したような目で見て、深い溜息を吐き出した。

 

 

 

「……本当に俺のよく知る兵長とは違うんですね。人を殺していないからかな」

 

「何言ってやがる。兵長ってのは未来の俺だろ?」

 

「いいえ違います。……未来はたくさん変わっていますが、それでも兵長は一貫して理想を追いかけていなかった。現実を見て、自分の出来ることをやろうとしていた。それが俺にとっては邪魔なだけでした。本当に……。アンタのように全てを救うと思い込むような鬱陶しい理想論は掲げていませんよ」

 

 

 気に食わない顔をしているエレンは、以前感情を爆発させたときの雰囲気に似ている。

 情緒不安定なのか。急にキレる様子に困惑するが────でも、なんとなく理解した。

 

 

「つまりエレン、てめえは俺がお前の知る『リヴァイ』がするだろう行動をしろって言いたいのか。現実を見ろと、ファーランは救えねえとでもいうのか」

 

「俺が協力しなかったらもう手遅れになりますよ……リヴァイさんも含めてですけど……」

 

「うるせえふざけんじゃねえクソが! 俺はてめえの好き勝手に動く人形じゃない。お前が知る未来のリヴァイ兵長とやらは俺じゃない!」

 

 

 ようやくわかったのだ。

 エレンに感じていた違和感。この嫌悪感の正体が。

 

 つまりエレンは今の俺を見て、未来の俺と比べている。

 現実を見ていると言った未来の俺は────何をやらかしたのか分からない。

 

 もしかしたら俺が救いたいと思った誰かが死んでしまったのかもしれない。

 理想のままで生きられなくなって、現実を見てやれることだけをやろうとしているのかもしれない。

 

 エレンの邪魔をしたのは分かる。

 過去に来て干渉するぐらいの酷いことをエレンにしたのだと分かる。

 

 ただそれだけじゃない。

 エレンは勝手に俺に期待して、勝手に失望しているだけだと気づいたのだ。

 

 

「お前にとってはここは過去かもしれねえがな。俺にとっちゃここは『今』だ。前世の記憶を持った俺が『今』を生きているだけだ! 未来のレールなんざ知るか。お前が期待するリヴァイ兵長になりたくもねえよ!」

 

 

 そう叫んだ瞬間、エレンの目が細まる。 

 逆鱗に触れたのか、それともまた俺に何かするつもりなのか。

 

 警戒しつつも俺はエレンと向き合った。

 

 

「前言撤回する。エレン……俺はお前と協力してファーランを助けようとは思わない。俺が全てを救う。犠牲を伴った未来なんて作るつもりはない。お前が目的とする地ならしへの未来も全部────」

 

 

 俺はきっと、こいつが接してきた未来の俺と同じようにエレンに期待していたのだろう。

 勝手に仲間であると期待していた。こいつと協力しても良いと思っていた。

 

 何を思い上がっていたんだ。

 エレンは俺の目的に反する敵であるはずなのに。

 

 

「俺が殺すのは巨人だけだ。それ以外は絶対に殺さない。憎しみを生み出す行為をするつもりはない。エレン、俺はお前と真逆の意志を貫く」

 

 

 エレンは何も言わなかった。

 チビ達の事は────始祖の力で記憶を弄ったのかもしれないが、眠らせたというのに。俺にはなにもしないでいた。

 

 じっと睨み合っていたが、不意にエレンが視線を背けた。

 

 

「……じゃあ勝手にしたらどうですか。このままここに居ても、ファーランは死んじゃいますけど」

 

「うるせえ今すぐに行くに決まってんだろうが!」

 

「俺が記憶を奪わなかったらこれから先、面倒な事態になりますよ」

 

「別にそれでも構わねえよ!」

 

「……はぁ」

 

 

 深い溜息を吐いたエレンは、もう何も言わなかった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 今のリヴァイは反抗期真っ盛りだ。

 エレンはリヴァイのことをちゃんと理解していた。

 

 過去の自分よりかはまだマシだろうけれど、エレン自身の意志とは真逆の方向へ突っ走るのは止めてほしい。いろいろと面倒くさいのだ。主に最悪な未来にならないよう調整することが。

 

 エレンは何度も過去から未来を繰り返し見てきたわけじゃない。

 見たものは己の経験に変わる。絶望を何度も味わったし、いろんな悲劇を繰り返し見てきた。リヴァイ兵長がいない未来も経験していた。ミカサが早々に死んでしまった未来すら、リヴァイが動く先にはあった。

 

 別にエレンはリヴァイが自分の意思通りに動くとは思っていない。

 

 今回ファナティカーという男が起こした出来事、そしてリヴァイがどう動くのかについて未来を話したのだってそうだ。

 何度も繰り返してきたエレンはとっくにリヴァイの精神年齢を超えていた。

 だからまだ幼く、青いリヴァイは扱いやすかった。それでも突然発生するバグのように急に未来が変動することはよくあるが。

 

 

(演技だって気づかなかったなら、それでいい)

 

 

 今回は物凄くうまくいったと思う。

 つまりエレンにとっては────非常に珍しいことだが、あのリヴァイに未来云々での勝負で勝ったと言える状況だった。

 

 リヴァイに気づかれないようにしつつも、小さく溜息を吐いた。

 

 

(本当によかった。まだこの頃のリヴァイさんは素直だ……。どうかこのまま、リヴァイ兵長の時のような裏の裏を読んで未来を激変させるぐらい動こうとするあのやばい感じにならないでほしい。でも、あの兵長のようになってほしい)

 

 

 矛盾を抱えた願いをリヴァイに込める。

 

 これから先で起きる悲劇について、エレンはリヴァイに語らない。

 自分の意思で動いてもらう。そうして────あの恐ろしき『リヴァイ兵長』になってもらわないと困るから。

 

 未来を勝手に変えられるのは困る。それに今もなお、リヴァイの前世の知識を奪おうと虎視眈々と狙ってはいるが。

 

 エレンは心の中で冷や汗を流す。

 リヴァイが自分を敵と認識し直したことに称賛する。

 

 リヴァイの周りで影響を受けた奴らの未来も変わる。それら全てが悪い方向へ行かないよう、エレンが調整するだけの話だ。

 

 これからもなお、エレンはリヴァイの敵として傍に居る。

 彼が弱りきり、前世の記憶なんて持たなきゃよかったと思えるぐらいの修羅場を乗り越えてくれるまで、エレンは彼から離れるつもりはない。

 

 

 まだリヴァイはこれから成長し『リヴァイ兵長』となった時のように現実を見ていない。全てを救うと夢見ているだけ。

 

 まだ幼い彼は、リヴァイ兵長になれない。

 このまま死ぬ可能性だってあるのだ。人類最強たる彼が。

 

 地下街の中で必死に生きているだけのゴロツキという程度。それをどうにかしないとこの先の未来で躓く恐れがあった。エレンはそれを察して、死んだ目になりつつも動くことにしたのだ。

 

 

 ファナティカーを通じて、彼の中に根付く常識をぶち壊さなくてはならない。

 

 

(俺が今、目の前にいるリヴァイさんを────あの人類最強のリヴァイ兵長へ成長させる)

 

 

 人を殺すことに躊躇いがある彼は、戦うための力にストッパーをかけた状態なままなのだから。ミカサの時のように、アッカーマン家として覚醒していてもその引き金は降ろせない状態なら一般人と変わりない。

 

 だからエレンは自分でリヴァイを育てることにした。

 リヴァイが周りすら未来を変えるぐらいの影響力を持つなら、自分はそれ以上の力でもって動けばいい。どんなに敵意を持たれても構わない。その覚悟を持ってエレンは動いていた。

 

 

 

 今はまだ、舞台は整っていない。

 

 すべてが始まった時に笑うのはどちらなのか、それを知る人はまだいない。

 

 

 

 

 

 






 訓練兵として血反吐を吐きつつも体を鍛え上げてから数年と少し。
 やるべきことを全て終えて、調査兵団へ入った後。
 私はいまだに、リヴァイから受け取った手紙をどうすればいいのか悩んでいた。

 やはりリヴァイは何かを隠している。
 それを早く、問い詰めたいけれど……。


(エルヴィン・スミス……約束ぐらいは、果たしてやらなきゃいけないか……)


 手紙の宛名はエルヴィンくんと書かれているから、私より幼い子供か、一つか二つ年下を想像していた。
 入団した後に真実を知る。

 リヴァイは地下街に住んでいながら、調査兵団の内部に詳しいのか。それともエルヴィンと仲が良いから訓練兵として志願した私に手紙を渡してくれと頼んだの?
 でもそれにしてはおかしい。私は志願するとリヴァイに言ったことはなかった。将来調査兵団に入りたいとも言わなかった。

 偶然か、それとも意図的か。

 当日に「この手紙を渡してくれ」だなんて事前に用意するだろうか。
 それに少しだけ意地悪だ。こんなふざけた手紙をまだどんな性格をしているのか分からない上司に渡せるわけないだろう。
 
 スミスさん家のエルヴィンくんって、つまりそういうこと?


「……ハハハ」


 流石にこれはないと思うよ、リヴァイ。



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