進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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「お前がリヴァイだな?」

「……」

「目隠しと手錠を付けてもらうぞ。おっと、抵抗はするなよ? お友達がどうなっても────」

「うるせえ」


 蹴り上げられた男は、扉ごと会場内へぶっ飛んでいった。


 それを見たエレンは、何故か頭を抱えた。頭痛でもしているのか。しかし小さく呻いた後、彼は死んだ目をしたまま人間賭博場を眺めているだけだった。

 リヴァイはエレンを気にせず進む。ファーランを助けるために。








第十六話、娯楽

 

 

 

 

 ファナティカーは真実を知った瞬間の感情がどれだけ揺れ動くのかを知っている。それがたとえ世界の謎の一端だとしても。

 

 世界は未だ謎が多く残されている。

 それらを解明した時、人はどう思うのか。

 感激して涙を流すか、または心の底から絶望し生きる気力を失うか。

 

 ファナティカーが王家支持派になったのは親から受け継いだ商人の主として正式に引き継がれたその日に真実を知ったからだった。

 彼はただ、『王家が受け継いでいる人から巨人になれる力によって壁は守られている』というもののみを知った。真実という枷に縛られて、自由に動くことが出来なくなったのだ。

 

 そしてその王家が持つ力の一端は、ウーリ・レイスという名の王に出会えて初めて理解したのだ。

 

 絶対に越えることのできない圧倒的な力。その存在感に彼は魅了された。それと同時に失望した。

 何もできず踏み潰される蟻のように、力がある者は弱者を簡単に嬲ることが出来る。

 

 それなのに王家は力の行使を許さない。

 楽園を壁の中に築く。それだけのために動いているようにしか思えない。

 あれだけの力があると分かっていながら、誰も何も言わないのだ。

 

 自分が知っている知識はまだ一端に過ぎない。きっとまだ、何かを隠している。

 それは薄々感づいていた。

 でも彼は何も言えなかった。自分が利用されていることも。『王家の秘密を知る』という枷を己につけるために教えたということも分かっている。

 

 だからファナティカーは心の奥底で自分を含めた王家とその支持派達を深く蔑む。

 

 王に何かを命じることなど出来るわけがない。

 そんなことをすれば己の命含めて家族全員が死ぬと分かっているのだから。

 

 ウーリ・レイスはとても甘い人だ。ケニー・アッカーマンという男を引き入れてアッカーマン家の迫害を止めた。しかしそれだけだ。

 壁外への進出の手助けになりかねないと自覚もせずに、様々な技術発展をしようと夢見た人々の妨害。壁の外へ出ようとする人の思考を狂人と思わせる行為。

 

 王政府はそうやって自分たちを壁の中へ押しとどめた。

 平和主義者でありながら、破綻した思考の持ち主だった。壁の中の楽園へ自分たちを監禁するような行為に嫌気がさした。

 

 でもそれを口に出して言おうとは思わない。

 王家、または王政府の意志のままに動く忠実な駒へ成り上がることだけに注意していた。

 ファナティカーは賢く、そうしなければいけないほどの圧力に屈する自分を嫌悪してもいたが……。

 

 だからファナティカーは失望したのだ。王家の思考そのものに。

 その巨人化する力はすさまじく、とても美しかった。

 あっけなく人を踏み潰すような化け物として魅了された。なのに彼は人々と同じように生きている。

 

 壁の中に人々を押し込め、監禁しているようなものだ。

 楽園を作り上げることに重点を置く王家の気味の悪さに寒気がした。それを表に出して言ったことはないが。

 

 王家とはそういうものだとファナティカーは心の底から理解したせいか、恐怖は抱かなかった。むしろ怒りの方が強かったかもしれない。

 

 我々が守らなくてもいい。別にその一端を知らなくても問題はなかったというのに、一定の利益と様々な目的の上で成り立ったもの。その一員になれたことが幸運だと思えた。いやもしかしたら逆で、知らない方が幸運だったともいえるかもしれない。

 一般人が知ればきっと混乱し大騒動へ発展するだろう事実だ。誰かに話せばきっとファナティカー自身は拷問され殺される。どんなに商人として王家を支え、民間人の支えとなろうとも────己の立場が崩れるのはきっと、あっという間だろうと。

 

 だからファナティカーは王家を支持している。

 巨人になれる化け物が王家だと若干の蔑みを抱きつつも。

 

 それでも、王家以上の圧倒的な力を持った存在はいないだろうなと思っていた。

 王という権力。その力は本物だ。

 

 一番最初に見たあの美しさをもう一度味わいたい。

 それだけのために彼はこの人間賭博場を開いている。金稼ぎと王家の意志のため反逆する可能性や壁外へ発展しそうな力を有した者達に警告の意味を兼ねての娯楽でもあった。

 

 それとはまた別に、ファナティカーはあの圧倒的な力に魅了されていた。

 存在を知った後は何度か会合に参加するだけであって、直接力を見ることは叶わなくなっていた。

 

 だから彼はそれに類するものを探していた。

 

 

 

 そうして出会ったのだ。

 

 

 

 

「なんてことだ……」

 

 

 ファーランという男を捕らえた後、柵の中で起きている殺し合いを見るために今回新しく来た客と共に眺めていたはずだった。

 そこに乱入してきたのは今回殺すはずだったリヴァイという男。

 

 何故か名前を知られているというのに、彼はマントを着て顔を隠していた。

 まあそれはどうでもいい。それよりも引っかかる部分があった。

 

 監視員として雇っていた兵士が扉ごとぶっ飛ばされてきた。何が起きたのかと混乱する場で悠々と柵の中へ入ってきたのは、人を威圧するような鋭い目つきの少年だったこと。

 

 その少年がリヴァイだと理解し、ファナティカーは驚愕する。

 

 

「正面から乗り込んできたのか……!?」

 

 

 目隠しや手錠はされていない。

 ファーランという男が殺されるかもしれないのに抵抗したのか?

 人質すらどうでもいいという冷徹な思考の持ち主か、絶対に救えると自信を持って動く相応の馬鹿か。

 

 ごくりと生唾を飲んだファナティカーは少しだけ目を輝かせた。

 あまりにもぶっ飛んだ登場の仕方をしたリヴァイに目を奪われたからだった。

 

 扉ごと吹っ飛ばされてきた兵士は地面に伏せる形で倒れていた。痛みに呻きつつ何とか柵の外へ逃げようとしていたのだ。

 そんな彼よりも小さく、まだ子供であるはずのリヴァイという男が吹っ飛ばしたのか?

 

 

「っ……おい、何をしている。早く殺せ!」

 

 

 ファナティカーの指示によって動いた地下街から集めた玩具共が武器を手に殺しにかかる。

 しかしリヴァイは彼らを汗一つ流さずに処理していく。殺しはしていない。ただ地面へ転がしているだけだ。ある程度の痛みを伴った攻撃でもって、しばらくは立ち上がれないようにしているだけ。蹂躙にも似ているそれは、まるで大人が小さな子供たちを遊ばせているかのようだった。

 

 見た目は全く逆なのに。

 大人が遊ばされているのだ、子供であるリヴァイによって。

 

 地面に転がされている大人たちに誰もが口を開いて呆然と眺めていた。

 

 

「……すごい」

 

 

 何故かは知らないが、切り裂きケニーの異名を思い出す。ファナティカーにとっても王家支持派の一人であったため、王政の一人として見られ殺される可能性が高かったためいろいろ情報を集めていたことがあった。いつの間にかウーリ・レイスの傍に居るようになったあの男。あいつの攻撃方法と似ているように感じた。

 

 逆手で持ったそのナイフは武器で攻撃してきた男共の剣を受け流すために使用されていた。武器を盾代わりに利用して、あとは己の拳と足のみで潰しまくっている。

 

 一撃で倒すその圧倒的な力に、無意識ながらに魅了されていた。

 

 人は超えられない壁というものが存在する。

 ウーリ・レイスとは全く別の、人より優れた圧倒的な力。化け物が人の形をしていると言われたらどれだけ幸せだったことだろう。

 柵の中にいるリヴァイへ向けて銃を使った攻撃さえも人間と思えない反射能力で避けている。

 

 そうして地面にあった石を思いっきり投げたのだ。銃を放った方向へ向けて。

 鈍い音と共に倒れる兵士の姿が窓からはっきりと視認した。

 

 貴族共があまりの混沌とした状況に悲鳴を上げて逃げようとする。

 玩具たちに加えて兵士たちもやられたのだ。自分たちも攻撃されると思ったのだろう。

 慌てるように裏口から逃げていく人々。きっとこれでもうこの娯楽は使えない。大赤字だ。別のやり方を探しておかないと、王政にしくじったと思われて殺される。そうファナティカーは計算していた。

 

 リヴァイをじっと観察するように見下ろしていた。

 周りの阿鼻叫喚が一曲を奏でているように感じつつも。

 

 恐ろしい化け物だ。

 まるで人の形に縮まった巨人だ。

 ────そんな声が聞こえてくるようだ。

 

 ファナティカーも同様に感じていた。

 このままではあのリヴァイに殺されるだろうと。

 

 なのに何故か、足が動かない。

 彼をずっと見つめていたい。

 

 

「ファナティカーさん? な、なんで笑っているんですか……?」

 

「えっ?」

 

 

 怯えたような声が聞こえて、ファナティカーは我に返った。

 隣にいた末端貴族たちはリヴァイにだけじゃなくファナティカーにすら恐怖を抱いているように感じた。

 

 逃げたいけれど、ファナティカーがいるから逃げることすら出来ないと思われているのか。

 

 

「にげないんですか。ふぁ、ファナティカーさん!」

 

「このままじゃ……わ、我々は彼に殺されてしまう。は、早く逃げないと!!」

 

「……そう、ですね」

 

 

 ちらりと窓の外を見た。

 

 そうして────ふと、目が合った。

 

 

「……チッ」

 

 

 舌打ちを鳴らしたリヴァイが敵意を持った目でこちらを見上げてきたのだ。

 それに恐怖で足踏みし、泣き震えてる貴族たちがファナティカーの隣で悲鳴を上げる。

 

 その嗚咽に眉を顰めたファナティカーが彼らの方へ顔を向けた。

 

 

「……逃げましょう。幸いここから裏口へ行く手段は残されています。階段を降りなくてはいけませんが、表からは入れないよう全く別の構造となっていますし、扉も頑丈なので来れませんよ」

 

「そ、そうですか。では早く逃げないと!」

 

「……ええ、そう。そうですね」

 

 

 少しだけ無念に感じつつ。

 足を止めたい衝動に駆られながらも、ファナティカーは末端貴族共を連れて逃げることを選択した。

 

 ファーランという少年はあのまま放置で構わない。

 そうしなければきっと、リヴァイの逆鱗に触れるかもしれない。

 

 このままここに居たら殺される。

 それは分かっている。自分がしている凶悪さも、その娯楽も。

 

 

「何処へ逃げようって言うんだクソ野郎」

 

「────ッ!」

 

 

 衝撃がファナティカーの頭を抉るように走る。

 回転する視界の端に見えたのは、窓の外から足を乗り出し────立体機動装置を伴ってこちらへ侵入してきたリヴァイの姿だった。

 まさか、マントをしていたのは立体機動装置を隠すためだったのか。

 

 悲鳴を上げた末端貴族共が逃げようとしたが、リヴァイに捕まりあっけなく気絶させられていた。

 片手にナイフを持っているというのに、それを使わずに手加減したのだと知る。

 

 身体の至る所から痛みが走るが、立てないこともない傷だとファナティカーは分かった。

 加減された力の入れ方は、全力でやったらどうなるんだろうかという疑問に変わる。

 

 

「ファーランを攫ったのはてめえだな」

 

「そ、れは……」

 

「てめえの何が俺を気に食わないのかはどうでもいい。ただ喧嘩を売るなら真正面から。俺に直接言いやがれ」

 

 

 これは警告だと彼が言う。

 人を殺さずこれで終わりにしようというのか。それともまた来ても全部ぶっ飛ばせるという余裕があるのか。

 

 

(そう。そうか……ウーリ・レイスがあんな破綻的な平和主義者なのはもしかして……)

 

 

 圧倒的な力を持つが故の、余裕の表れなのではないかと思ってしまった。

 いわば人間と蟻のような比較だ。

 

 その関係性はまるで────巨人と人間のようではないか。

 

 蟻はあっけなく殺されるのだ。

 人間に抵抗することすら出来ずに踏み潰されて一生を終える。

 

 そんな圧倒的な力を持った人間は、道端に落ちている蟻を意識するだろうか?

 いいや、人間が道端で歩く蟻を意図的に殺そうと動くのは滅多にない。それをやるのは純粋な子供か、害虫が大嫌いな人間ぐらいなものだ。

 

 わざわざ殺すまでもない存在だから、無視している。

 ────平和主義者ではない。ウーリ・レイスもリヴァイもきっと。力があるが故の余裕の表れなのだと感じてしまった。そう理解してしまったのだ。

 

 呆然とリヴァイを見上げているファナティカーに何を思ったのか。

 リヴァイはまた舌打ちを一つ鳴らしつつも、小さく呟く。

 

 

「……殺しはしねえよ。安心しろ」

 

 

 そうして己を気絶させようというのか、彼の手がファナティカーの方へ伸びる。

 

 それに慌てて彼は頭を下げた。

 

 

「悪かった。許してくれ! な、なんでもするからお願いだ! このまま終わらせないでくれ!」

 

「あぁ? 殺しはしねえって言っただろうが」

 

「そうじゃない。そうじゃないんだ……!!」

 

 

 ただファナティカーは圧倒的な力を持った存在に、魅力を抱いていた。その感情の奴隷だったというだけだ。

 

 リヴァイは不幸にもファナティカーの期待に応えてしまった。

 己自身の力でもって全てをぶっ倒した行動力。未知の力ではない。彼自身の純粋な力。

 

 そしてその力をウーリ・レイスと重ねて見てしまったことで、リヴァイに執着を抱いたのだ。

 王家支持派という衣を脱いだ彼は、ただの狂人だっただけ。

 

 圧倒的な力を持った存在がこんな地下街で生きている事実に驚いた。

 王家ではない。地の底へ堕ちた生き方をするリヴァイという存在がどれだけ成り上がれるのかを見てみたいと思ってしまった。

 

 

「俺は貴方がどれだけ上へ上がれるのか見てみたいと思った。殺そうとしたことを許さなくてもいいです。制裁されても構いません。ただ……ただ、貴方がこれから先何をするのかを見てみたい!」

 

 

 ウーリ・レイスへの執着は『壁の中に人類を監禁させて楽園を築こうとしているだけ』という目的だと知った時点で消えている。圧倒的な力を持った存在だとしても、何もしないならそこらにいる人間と変わらない。

 

 暴力に飢えていた。

 その力が何に向くのかを見てみたかった。

 

 リヴァイがこれから先、何をするのかを知りたくなった。

 商人のトップとしては失格なその性根を必死に隠していたというのに。リヴァイのせいで閉ざさなくてはいけない扉を開けてしまった感覚に襲われただけだ。

 

 

 それによくわからない顔で「まあ抵抗しないならいいか……」と頷いたリヴァイにファナティカーは目を輝かせる。

 

 そうしてファーランがどこにいるのかを知って、ファナティカーが鍵を手に意気揚々とリヴァイを案内した。

 

 

 

 ────未来が変わる音がする。

 

 

 

 

 

「なんでこうなった」

 

 

 

 死んだ目で彼らを観察していたエレンは、ファーランが死ぬはずだった未来が何故かリヴァイが手錠などを付けないと宣言した時点で急に斜め上にぶっ飛んだ。

 

 どんな原理でこんな変な未来に変わるのか。

 混沌とした状況にエレンは頭を抱えたのだった。

 

 

 

 

 

 

今回は誰のせい?

  • エレン(試合に勝って勝負に負けた)
  • リヴァイ(無自覚に状況悪化させた)
  • ファナティカー(性癖の開花)
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