進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい 作:ちゃっぱ
イルゼはリヴァイという少年のことが気になっていた。
それは別に異性としてというわけじゃない。
出身地が地下街というのも珍しく、また筆記以外でだとトップに君臨する体力お化けの持ち主。立体機動装置を使いこなし、憲兵団に入ることも可能と思われた人物だったからである。
だからイルゼはよくリヴァイの背中を追いかけていた。
そんなリヴァイは身体が小さく、入隊希望の最低ラインである12歳ぐらいだろうと勘違いした男の何人かが教官の目の届かないところで彼に嫌がらせをして脱落させようとしたことがある。
すぐさまそれを察知したリヴァイは何をしたのか、いつの間にか男たちが土下座をして「痛いのヤダ」「怖い怖い顔面抉らないで」とかなんかトラウマ刻まれたみたいにブツブツ呟いて泣いて許しを請う姿を兵舎裏で偶然見てしまったのだ。もちろんそいつらは離脱した。あれだけリヴァイを怖がっていたのだ。きっともう二度とここに戻らないだろう。
その頃からイルゼはリヴァイの事が気になっていた。
それを寮室で二人っきりの時に、内緒話のようにリコに話したことがある。
彼女はただ、首を傾けただけだった。
「リヴァイってあのチビの事?」
「はい」
「気になるって言われても……アンタが探求心強いのは分かってたけどさ。リヴァイはただのチビできっと私たちより年下で、それでただ壁の外に出たいって言う大馬鹿なだけでしょ」
「そう、そこが分からなくて……」
「何が?」
「地下街出身だって言ってましたけれど、私はそこから這い上がってきた人を見たことがあります。なので少しだけ不思議で……。地上に出るだけで満足しないのかなって。なんであえて地獄を選ぶのか私にはわからないんです……」
「……アンタも調査兵団希望しているのに?」
「あ、いやその……だってリヴァイが言ってたんですよ。『憲兵なんかになって安全で快適な生活が送れるのは何も変わらない日常を謳歌しているだけだろ。前へ進むんじゃなくて立ち止まっているだけだ』って言ってたんです……だからその……」
「ふーん? なかなか言うじゃん、あのチビ」
「ああそれとモブリットさんが言うにはあのリヴァイって人私達より年上かもしれないって話ですよ?」
「はっ? あんなに小さいのに!?」
「実年齢が分かってないそうです。地下街出身の子供なら当たり前らしいですよ」
「そんなやばい話私に喋っていいわけ?」
「いや食堂でリコがいない時にリヴァイが喋ってましたから」
「それだけ常識だって思ってるってわけね。地下街の闇怖すぎか」
呆れたような顔のリコに、イルゼは苦笑する。
地下街から出てきた人間は太陽の光の存在がどれだけ尊いものなのか心の底から理解している。だから彼らはもう二度と地下街へは戻らないと誓うのだ。あそこは地獄だと、そう言っていたのを聞いたことがある。
涙を流し顔を青ざめて震えていた。路上で人が倒れ死んでいると。身近にいる誰かが殺されて死ぬのだって当たり前で、助け合いの精神も余裕がなければできないのだと。生きたネズミを喰らう子供がいるぐらいやばい場所だったと言っていた。それを聞いていた記者が様々な人に知ってほしいと新聞に載せようと行動していたようだが、いつの間にかその人は行方不明になっていた。
不幸な事故でもあったのだろうと周りから囁かれていたのでイルゼは納得した。地下街とは比べて平穏だが、地上でも強盗や殺人などといった狂気は存在する。だからこの世界で生きている限り何処にいても平穏な場所はないとイルゼは思っていた。
でもリヴァイは違っていた。
モブリットと話していた会話を聞いていたところ、リヴァイにとっては地下街は実家がある故郷のような場所であり、家族が待っているのだと言ったのだ。訓練兵を卒業した後、時間があったら一度顔を見せに行くと言っていた。
他の人とは何かが違う。
彼にとっては、地下街は二度と戻りたくない地獄のような場所ではないのだ。
「……リヴァイを地下街から出したのは誰でしょうね」
「あいつチビのくせして大人吹っ飛ばせるぐらいには脳筋じゃん。案外自分で出たとかじゃないの?」
「その可能性は十分あり得ますね。でもそれなら何で訓練兵に志願したのかなって思います。地下街から出て地上に来て何で安全な仕事を選ばないの?」
「スリリングが大好きとか?」
「いえ、それにしてはおかしい。家族がいるなら出稼ぎをしに来たってことでは? 多分何か違う気がする。それに私はリヴァイが訓練兵から調査兵団へ行こうと思った理由も知りたい」
何故訓練兵に志願したのか。地下街は地獄だと聞いたが、何をしていたのか。そしてどうしてここへ来たのか。いろいろ知りたいことがある。でもそれを聞いていいのかとちょっとだけ理性が足を止めたのだ。謎を秘めた人物だと感じていたけれど、全てを話してもらえるほど親しいわけじゃない。
それに突っ込んだ話を聞いてリヴァイが自分を鬱陶しいと思う可能性があった。
リヴァイが希望しているのは調査兵団だという。イルゼも同じく調査兵団に行きたかった。だからなるべく仲良くしていた方が良い。チームワークが重要だと言うのは訓練を通してよく理解できたし、気になることはゆっくりじっくり知っていけばいいと思うから。
イルゼはある意味、調査において我慢強さも持っていた。探究心は強いが、本来そこまで好奇心旺盛というわけではなかったのだ。
調査兵団だって希望していたわけじゃない。訓練兵には志願したけれど、ただなんとなくリヴァイの傍に居て、ふと気になったのだ。
憲兵にもなれるはずのリヴァイが何で壁の外へ行きたがるのか。
そうして思ったのは────壁の外には何があるのだろうか、という疑問だった。
リヴァイの言葉を聞いて、心にストっと落ちたのだ。
自分は憲兵として安全な日常を送って、このままずっとみんなと同じように立ち止まっていたいわけじゃない。壁の外を知って、謎を見つけて。巨人の秘密を知って────そうしていつか、前へ進みたいのだと。
そう思っていると何故かリコが微笑ましそうな目でイルゼを見つめてきた。
「……何ですか?」
「いや、ただアンタはリヴァイに夢中なんだなって思っただけ」
「はい?」
「恋はしてないのに興味本位だけでここまで動かすの流石脳筋チビだと思っただけさ」
そうやって笑うリコにイルゼはむぅっと頬を膨らませた。
からかわれているのは分かっている。
別にリヴァイだけに執着しているわけじゃないし。
そう思っていても話すつもりはないのだ。
それを言ったらきっとリコは問いかけてくると分かっているから。
(あの時に見た手紙。それを渡してきたのは……)
食堂から離れた場所。倉庫裏にちょっとした空間があるのをイルゼは知っていた。調査した結果そこに人は全く来ない絶好の休憩ポイント。良い隠れ場所だと分かったのだ。
しかもそこから教官たちにバレることなく外へ抜け出せる秘密の隠れ家のようになっていた。
イルゼだけが知っている情報だと思っていた。
なのにそこに────リヴァイがやってきたのだ。偶然彼を見つけた時はもう就寝時間をとっくに過ぎた時だった。イルゼはただ眠れなくてこっそり歩いていただけ。騒がなければ教官たちが見に来る心配もないし、星を見てから帰ろうと思っただけ。
リヴァイは何故か、周りをキョロキョロと見渡していた。探し物でもしていたのかと慌ててイルゼは隠れた。一瞬視線が合い、見つかったのかと思ったがリヴァイはイルゼを無視した。
そうして小さく舌打ちを鳴らしたリヴァイは、倉庫の扉を軽く叩いた。
軽い音が響いたので教官にバレたのかと少しだけ不安になったが、リヴァイはそれでも寮に戻ろうとしない。
そうしているうちにやがて誰かが遠くからやってきたのだ。
よく見ればそこにいたのは訓練兵ではない。翼の模様が描かれたあの兵団の服装。リヴァイの頭をスンと匂いを嗅いで少しだけ笑った年上の男が懐から何かを取り出してくる。
それは手紙のように見えた。
男が出した手紙をリヴァイが受け取り、代わりにリヴァイも同じように手紙を差し出した。
手紙を持ったリヴァイは静かに寮へ戻っていく。そうして男もまた同じように離れていった。
(あの背中。自由への翼の模様は……調査兵団のものだった……)
リヴァイは既に、調査兵団と何かをしている。
でも彼は誰にも言っていない。イルゼはそれを話そうかと思ったが、脳裏に過ぎったのは地下街の生活の悲惨さについてみんなに知らせようとした記者のことだった。
行方不明となった記者が何故脳裏に浮かんだのかは分からない。でもこれを誰かに話すのは止めた方が良いと思った。それだけのこと。
夜中にこっそりと行われたそれは誰にも言えない。リコにすら話したこともない秘密の光景だった。
だからイルゼはリヴァイの事を知りたいと思っている。
調査兵団に入れば、あの時の秘密もきっと分かると思ったから。
イルゼは行動しなかった。慎重になり過ぎたせいで、判断が遅かったのだ。
リヴァイが何をしているのか直接彼に問いただせばよかったのだとイルゼは後悔する。
「……なんだろう、これ?」
リヴァイを観察し続けた結果、彼が持ち歩いていたノートを偶然見る機会があったのでそれを読もうとして、そこに書かれていた奇妙な文字系列に首を傾けたのが最後。
絵かなと思ったが、それとは違う。
文字のように見えるけれど読めない。ひっくり返した先、その一部分だけが────。
「おいイルゼ、何見てんだてめえ」
「あっ」
「あ、じゃねえよ盗み見すんな痛い目に遭いてえのか」
「うっ、す、すいません……ちょっと気になってしまって……」
「お前の手帳が勝手に読まれても怒らねえってか?」
「いや別に私の手帳には変な内容は書かれてませんけど」
「そういう問題じゃねえよクソが」
骨が折れたんじゃないかと思えるデコピンを食らい、それに悶絶しつつリヴァイに何度か謝って許してもらったことがある。
さりげなく彼から「あのノート全部読んだのか?」とか聞かれたけれど、首を横に振って「あんな落書きみたいなの読めるわけないでしょう」と否定しておいたのだった。
ただイルゼは読めた文字があった。
なんとなく────こう書かれていたんじゃないかなって思う文字。
(ユミルって……リヴァイの知り合いの名前なのかな……)
分からないけれど、それを聞ける状況じゃないのはイルゼも理解していた。
だから彼女は何も聞かずに黙認する。それは、無意識ながらに感じる身の危険のせいでもあった。
何か嫌な予感がしていたのだ。
誰かに見られているような視線も、イルゼは感じていたから。
ただその不気味な視線の先は────偶然かは分からないけれど、リヴァイがたまに何もない場所をじっと眺める位置にあるなと思っていた。
だから一度だけ、リヴァイと同じように感じ取った視線の先へ顔を向けたことがあった。
────やらなきゃよかったと、即座に恐怖を抱いた。
これは察しちゃいけない気がする。何かが見ているのだ。きっと。自分が向いた方向に、誰かがいる。誰かが、自分を見ているようなそんな嫌な感覚に襲われる。
それだけは、本当に不気味で知りたいと思わなかった。
世の中には知らなくても良い事がある。
イルゼはそう思ってリヴァイの事だけを観察するにとどめた。彼の先に何か不気味なモノがあるだろうけれど、リヴァイだったら別に怖くはないから。
いろいろと知りたい先にリヴァイがいると理解したからでもあった。
だからイルゼは今日もリヴァイの背中を追いかける。彼が何をしているのかを知るために。
あとがき
私的ながら予定があり忙しくなるので不定期更新になります。
これから先のこと。原作が始まったらどうなるのか。エルヴィンとの対話。いろいろ書きたいこと多いけどなんか反応が微妙みたいなのと評価が下がりまくっててああこれは他の人が読むにはつまらないものなのかと思いました。
不定期更新ついでに、少し物語の構成を練り直そうかと思います。勝手ながら申し訳ないですが、よろしくお願いいたします。