進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい 作:ちゃっぱ
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失敗した、と思う。
どうにもエレン相手に本格的に敵対するとして、奴の邪魔をしようと思ってもうまくいかないという話を手紙越しにエルヴィンに諭されてしまったからだ。
ぶっちゃけ手紙は誰かに読まれる可能性があるため、姿が見えない幽霊的な同居人がいるとかそういう設定で相談しているという風に見せている。
頭がおかしいと思われてもいいようにと、嘘で言い逃れできるようにするためでもあった。地下街出身だからとか偏見もあるからそれぐらいなら慣れてるし。
失敗したと思うのは、エレンのことを甘く見過ぎていたということ。
エルヴィンに全部ぶっちゃけてこれから先の未来について道連れにしてやろうかと行動したことがあった。
しかし手紙でもエレンの邪魔は入るようで、書きたいことが書けず思うようにいかない。
もしやと思い、通りがかりのモブリットに始祖ユミルについて話したことがあった。
巨人の正体。その起源。そして世界の敵について。モブリットは頭が良いからもしもエレンに邪魔されないならこのまま黙ってもらいつついろいろ協力してもらおうかとも思っていたんだ。
予想通りエレンは動いた。
モブリットと話していた数分間の記憶。それを消して俺が掃除していた時間と置き換えたらしい。
記憶を捏造されたこと。それを直接俺の目の前で見せたこと。
それはつまり、エレンからの警告だった。
自分以外の誰かに話すなと言いたいのだろう。前世の記憶、その知識を。
エレンにとって都合の悪い未来になるものは全て排除される。
俺が動いたところで問題はないみたいだが、相手に喋るのは論外ということか。
モブリットのようにエルヴィンに正直に打ち明けても意味はない。もしかしたら今までの行動すら無駄になるかもしれない。手紙だってそうだ。姿も見えない幽霊について「視線が喧しい」だの「小言がうるさいけど周りに人がいるから文句が言えにくい」だのそういう愚痴ばかりしか書けない。物語の根本に関わる話を書こうとすると手が止まるのだ。
気が付いたら手紙が散乱し書いた文字が読めなくなっている状況もあった。
正直言ってエレンについて書くことすら神経を使う。
きっとあいつは未来を何度も見直して俺の手紙の内容を注視しているのだろう。それはまるで部屋の隅まで埃がないかチェックするかのようで、妙に苛立つ。
未来を見通せる時点であいつの方が明らかに勝機は上。
エレンにとって都合のいい未来へのレールを無理やり歩まされているようなもの。
というか、そもそも未来からエレンが来ている時点で未来が変わってないってことになるのか?
あいつがいなくなった瞬間こそ未来が変わった証拠になるんじゃないだろうか。
いやでもそれに気づいたとしてもどうやって本格的に未来を変えるのかが問題だと思う。俺以外に真実を知る奴はいないし、エレンに記憶を抹消されるだけだからな。
……なら俺は、自分自身の手で動けばいい。だから都合が良いように動かしているのだろう。俺を人形のように。手紙で検証し、調査兵団に顔見せがてらいろいろ紹介してもらってはいるが、このままじゃ埒が明かないのは当然。
でも何もできない。自分しか動けず現状何かをやるにしてもどうすればいいのか分からないから。記憶を消される。行動を制限される。そんな状況で何をすればいいというのか。
だからエレンの望む未来通りに従えばいい。
そう思うだろうな、エレンから見れば。
(ふざけるなよクソが。このままで終わらせると思うかこの野郎)
エルヴィンはきっと俺が何かを伝えたがっていることに気づいている。
ハンジが訓練兵になる前に話すことが出来たあの内容もすべて伝わっていると見た。
ちょっとだけ危険を伴うが、仕方がない。
「……リヴァイさん、何をする気ですか」
考えていたら急に出てきやがる。
つまりそれだけ未来で何かが変わったということだ。
「まだ何もしてねえだろうが」
「でもこれからする気でしょう?」
「さぁな」
俺は何もしない。ただちょっと目の前にいるエレンについて、隠す気が無くなったってだけだ。
「このまま動いたらリヴァイさん死にますよ。いつものように直前で回避できるようなものじゃない」
「なら俺をいつものように動かして未来を回避してやればいいだろ」
「分からないんですか。もうリヴァイさんだけを止めるだけじゃ────」
「うるせえ指図すんな」
何があろうともこれは自己責任。
そして最終的にはエレンのせいにする。
俺の苛立ちとこれからの行動に眉を顰めたエレンが、苛立ち交じりに目を細めた。
「……ああそうですか。リヴァイさんがそう言うなら俺も考えがありますから」
そういって、エレンはどこかへ消えていった。
・・・
訓練兵にとって休息の時は少ない。
それは本番に備えるため。いざ巨人と戦う時に臆して動けないという状況を防ぎ、人と争う時に逃げないよう徹底的にしごくためでもあった。
訓練は月日が進むにつれて厳しくなっていく。
それに余裕を持ちつつ動くことが出来たのはリヴァイとリコの二名。地味だがイルゼとモブリットもまあまあ動けてはいる。そう教官は彼らを評価していた。
それ以外だと人相手なら動けるけれど巨人だったらきっと即死だろうなと思える程度の者しかいない。今期の訓練兵は優秀な人材が数少ない年であった。
ただ成績トップに君臨するリヴァイが頭おかしいレベルでぶっ飛んでいただけ。
全てにおいて上位をキープ。筆記についても最初は躓いていたようだったがモブリットなどと交流していたおかげかいつの間にか出来るようになっていた。
そのおかげで彼を中心とした問題騒動も何回か起きていたようだったが全てリヴァイ自身が鎮圧している。その冷徹な判断。敵と見定めれば容赦ない行動。それら全てが巨人に向けられればとても面白いことになるだろうと。
「リヴァイ訓練兵は調査兵団に向いているでしょうな。しかし成績優秀者は憲兵団に行くことも出来ます。彼がどんな判断を下すのやら」
「はて、それはどうじゃろうなぁ……」
ピクシスの声に教官がピクリと眉を動かす。
「それは一体どういう意味でしょうか」
「うむ。少しばかり面白いうわさを聞いてな。……なんでも調査兵団がそのリヴァイという少年を勧誘することに熱心だそうだ。わざわざ手紙を送る程度にはな」
「はぁ。それは……まあ、彼は優秀ですから」
「それに妙な噂もあってな……」
「噂とは? 私は何も聞きませぬが……」
教官にとって訓練兵は最も近くにいる存在。
駐屯兵団たるピクシスが知っている噂を自身が分からないということはない。そう首を傾けるとピクシスは意外そうな表情を浮かべてきた。
「最近妙に憲兵団がうろつくようになったと思わぬか?」
そう、だろうか。
よくわからない。教官にとってはいつもの事だと思っていた。ピクシスが何故そう問いかけるのか分からない程度には毎年変わらないことだと思っていた。
訓練兵を勧誘するためにどのような人材が揃っているのか見るためにこちらへ来る人が多いからだ。
そう困惑するような目で彼を見つめていると、ピクシスは飲み物を片手に窓の外を見上げた。
「まあ些細なことかもしれぬがな。ワシの考えすぎかもしれん。……いや、酔っぱらいの戯言だ、気にするな」
彼の言葉になんとなく頷いておいた。
それからというもの、教官はいつもの日常にリヴァイを観察するという動作が加わった。
ピクシスが「うちに欲しい」とは言わず、「アレは調査兵団行きじゃろうな」といったこと。そして憲兵団が動いているという件について何か裏があるのではと疑っていたからだった。
そうして理解したことがある。
どうにも最近リヴァイについての噂が絶えないようだった。
その噂は訓練兵の間ではなく外から来たらしい。
リヴァイには悪魔が見えている。その悪魔が何か悪事を働いているらしい。
そんなバカげた噂が密やかに囁かれているものの一つだった。
まさかそんな噂だけで上が動くとは思わなかったのだ。
外から来たという、何処から発祥したのか分からない噂一つだけで。
エルヴィン(ソワソワ)
エレン(イラァ)