進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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第六話、追手

 

 地下街は常に騒がしい。

 喧嘩によって響く悲鳴と怒声。酒を飲んで喚く男たちの声。それ以外にもいろいろと、時間が朝でも夜でも構わず喧騒が響き渡っていた。

 

 もちろん地下街には静寂な空気に包まれた区域も存在する。

 しかしそこはより殺伐としているか絶望に満ちた場所しかない。

 

 人が路上のどこかで倒れ、死んでいる。

 地下街の表通りとも言うべき賑やかな場所は分かりにくいが、目立たない路地裏、通路の奥の狭まった広場などは死体が朽ち果てていた。

 

 それらを大雑把に捨てる業者がいれば、丁寧に土に埋めようとする愚かで優しい人たちがいる。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

 そんな静かで死に溢れた地下街区域にて、珍しく一人の少年が駆けまわっていた。

 

 路地の隅っこで力なく座る一人がその騒がしさに気づき、その方向へ視線を向けた。

 いつものあの頭のおかしいゴロツキのリヴァイとは違うと分かり、また顔を俯かせる。そうして目を閉じて静かに死を待つ彼とは違い、少年は必死に生きるため走っていた。

 

 

「はぁ……はっ……」

 

 

 必死に前へ、出口が見えない先へと駆けていく。

 背後から聞こえてくる物騒な音。「ガキでも容赦するな殺せ!」という嫌な声。石が投げられ頭に当たり、視界がふらつくが足を止めようとはしなかった。

 

 逃げ回る最中地面に転んで擦り傷が出来ようとも、服が泥まみれになろうとも構わずに。

 懐にしまい込んだパンを一つ抱えて。

 

 そうして必死に逃げた通路で行き止まりとなっているのに気づき、絶望する。

 

 

「こんなところで諦められるか……!!」

 

 

 捕まればきっと酷い目に遭うだろう。

 いや、もしかしたら殺されるかもしれない。地下街とはそういうところだ。小さなパン一つ盗んだだけでも生死に関わるのだから。

 

 後方から足音が聞こえる。

 曲がり角が多い通路だからか、「こっちに行ったか!?」「いやいない」「向こう側を探せ!」と怒声が響く。近づいているのだろう。ここは行き止まりだから引き返そうにも奴らに見つかってしまう危険性があった。

 

 

「何かないか、なにか……」

 

 

 打開策を探す少年がふと壁が欠けていることに気づく。

 

 狭い穴が開いているのだ。

 それは子供だと通れるけれど、大人には難しいもの。

 しかも小さくて見つけにくい場所にある。ここから逃げればきっと奴らは自分を見失う。完全に撒くことが出来るはずだ。

 

 でも、と。少年はその狭い穴に入るのを戸惑った。

 その先にやばい大人がいる可能性もあった。殺人を好む者。変態。そして頭が狂ったやばい奴。

 

 そういう奴に対抗できるかと考えて、子供たる彼は遭遇したら逃げるのは不可能だと判断する。

 これは賭けでもあった。

 

 引き返して奴らと鉢合わせになる危険性か、穴の先に危険人物がいる可能性のどちらを選ぶか。

 

 

「クソっ! どこ行きやがったあのクソガキ!」

 

 

「ッ────!!」

 

 

 そうして立ち止まっていると先ほどより近くから声が響くのが分かった。

 もう戸惑ってはいられない。生きるためには前へ進まなきゃならない。危険性を取るなら壁の向こう側だと少年は足を動かした。

 

 穴の中は少し狭くて暗い。向こう側に何か布でもかけられているのか、それを軽くどかして中へ入るとそこに広がっていたのは不思議な空間だった。

 木材が綺麗に組み立てられて、丸い形をしていた。その中には地下街では珍しい透明な液体が入っていた。

 それは広い空間のど真ん中に設置され、細長いレンガ上のブロックの上に置かれている。レンガブロックの間にも小さな空間が出来ていた。その中で細かく切られた木材が燃えているのだ。

 それが水を温かくさせているのか、ほのかに湯気が立っている。

 

 

「なんだ、ここ……」

 

 

 少年が想像していたのはより酷いもの。

 血に濡れた地面。死体が転がっていて、包丁を手にこちらへ近づく気色悪い大人の男が自分を発見して捕まえようとする最悪のもの。それしかないと思っていたのだ。

 

 それなのに、そんな考えとは真逆の空間に感嘆の息を零した。

 

 ここは何だろう。

 

 何故か分からないけれど、いい匂いがする。風呂に何かが浮いているのが見えた。果物の皮か?

 その匂いに耐え切れずクゥっと腹が減り思わず懐にしまったパンを一口食べた。流石に一気に食べたらもったいないので一口だけ。

 

 もぐもぐと口を動かして、ふと気づく。

 

 そういえば、と。

 ちょっとした違和感を感じた少年は地面を見た。よく見ればその空間は一部分だけ綺麗に土が撒かれており、それらはちゃんと整えられている。木材で囲われているその部分から穴が通じており、少年は偶然にも硬い石で覆われた場所とは違い、その一部囲まれた所から出てきてしまったようだった。

 

 土の感触が気持ちいい。その違和感に気づき愕然としたのだ。

 

 整備されていない場所、泥水などで濡れた硬い土は触った記憶がある。しかしそれとはわけが違う。柔らかくてとても気持ちがいい。ずっと触っていられる。

 ────これがあの硬い土と同じものだと気づくのに時間はかかったが、それは仕方がなかった。なんせ地下街では珍しいものだったから。

 

 地下街の端っこ。より遠くへ行けば確かに柔らかめの土や草などがあるのは分かっている。

 草木を覆う土に柔らかいものが存在していることも、少年は知っている。

 

 だって彼は、踏み固まったものしか知らなかったのだ。尖った石、ごみが散乱し素足が傷つくような地面の感触しか理解していなかったから。

 

 もしかしたら地下街の端っこ。少年が知るあの階段とはまた別の地上に最も近い場所まで行けばこの感触に似た土を触れるかもしれない。しかしそこまで行く体力はパン一個盗むだけでも命がけな彼にはなかった。

 

 ────それは少年にとって生まれて初めての感触。柔らかく栄養分を含んだ土を踏んだ瞬間だったのだ。

 

 裸足でも痛くはない。

 靴がない少年はその不思議な感触に首を傾けつつ土を踏み続けた。

 

 地面だけじゃない。周りもそうだ。珍しいものだらけで好奇心が擽られる。普通だったら未知な空間に恐怖を抱くというのに、ここは本当に綺麗だった。

 ピッカピカなのだ。地下街にしては不気味なぐらい。

 

 

「おい」

 

「……えっ?」

 

 

 聞こえてきた声はアルトの音域に近いもの。

 警戒し振り返った先にいたのは細長い棒を抱えた自分と同じ年頃かそれより年下の子供だった。髪が長く、少女かと一瞬誤認したがその目つきの鋭さや殺気にも似た強烈な威圧感にすぐ男だと察する。

 

 自分より背が小さいその子供がずんずんと自分の方へやってきて、急に胸ぐらを掴んできた。

 

 

「おいお前今どこを踏んでいるのか分かっててやってんのか?」

 

「えっ」

 

「畑にするはずの場所で何やってんだって聞いてんだよクソ野郎。猫が足踏みするみてえに無駄に踏み荒らしやがって」

 

「……っ! そ、それは悪い。悪かった。ごめん」

 

 

 冷や汗をかきつつも両手を広げて抵抗はしないと姿勢で示す。

 自分が想像していた危険性よりはまだマシな方だろう。こいつが殺しにかかったとしても、自分より背が小さいから逃げ切れるはずだ。たぶん。

 

 こんな広い空間を独り占めしているわけはないはずだ。彼を保護しているか身内として扱う大人が出てくる可能性もあるので、まだ警戒は解けない。

 

 そう思っていると、その小さな子供は舌打ちを鳴らしつつも手を離し、少し離れた場所で少年を睨みつけてきた。

 

 

「……それで、何処から入ってきた?」

 

「ええと、この先に小さな穴が開いてあったから。……俺ぐらいが入れるサイズだよ。それに仕方がなかったんだ」

 

「ほう? 仕方がなかったで畑予定の土を踏み荒らすか?」

 

「それは本当に悪かった。ハタケってものが何なのかわからないけど……踏み荒らしたのは謝るよ」

 

 

 勝手に穴の中に入った自分も悪い。そう少年は心の底から反省する。

 もしも住処にしている場所に勝手に誰かが入ってこられて、しかも大切な持ち物を荒らされたらキレるのは当然だ。

 

 壁の向こう側から怒鳴り声が聞こえてくる。まだ探しているのか。しつこいな。

 それにビクリと肩を震わせると、小さな子供は溜息を吐いた。

 

 

「なるほど。あいつらから逃げるためにその小さな穴に入ったってわけか。何やらかしたんだ」

 

「俺がここにいるってこと、ばらさない?」

 

「状況によるな」

 

「はぁ、まあいいけど……パン一個だ」

 

「あぁ?」

 

 

 首を傾けたので少年は懐から一口だけ齧ったパンを見せた。

 それを奪われないように注意しつつ、自嘲気味に笑う。

 

 

「小さなパン一個であいつらが追いかけてきたんだ。だから俺は必死に逃げてきたってわけ」

 

「……そうか」

 

「そんなに驚くこと? 身寄りのない子供が生きるには盗むのが当然だし……これぐらい当たり前だろ」

 

 

 そう言いつつも理解する。

 彼は誰かに育てられているのだろう。そうじゃなければこんな綺麗な空間に居られるわけがない。地下街で暮らすには身綺麗だし、自分とは違って怪我も何もない。それぐらい大切にされているんだろう。

 

 自分の境遇と彼と比べて惨めに思う。

 いつかこんな生活から抜け出して……どうせならギャングにでもなって生きていきたい。地下街で信頼できる仲間を集めて、共に暮らしていくんだ。そうしていつか地上へ出る。それだけの夢を叶えるには、現状パンすら買えない自分に、少年は情けなく感じていた。

 

 

「勝手に入って悪かったよ。もう二度とここには来ないから……」

 

「待て」

 

「なに?」

 

 

 帰さないつもりだろうか。この小さな子供を保護している大人に引き渡すつもりか。

 警戒し距離を取る少年に対し、その子供は何かを考えるようにじっとこちらを見つめてきた。

 

 そうして彼は戸惑い気味に口を開く。

 

 

「……俺の家、その土を踏み荒らしたんだ。このまま帰すことはできねえ。だから名前を教えろ」

 

「えっ、名前だけ? 聞いてどうするんだ」

 

「いいや、少し……気になっただけだ」

 

 

 どうせもう二度と会わないんだし、でたらめなことを言おうかと悩むが子供はそれを察したのかジト目でこちらを見つめてきた。

 

 

「偽名なんてクソな真似すんじゃねえぞ」

 

「あーハイハイ。分かったよ」

 

 

 しょうがない。……でもまあ、いいか。

 何度も言うように、この子供とはこれでお別れなのだから。

 

 

「ファーランだよ。ファーラン・チャーチ」

 

「ファーラン……?」

 

「そう。それが俺の名前」

 

 

 

 そうやって笑って離れようとしたファーランに、何故か子供はその腕を離そうとしなかった。

 急にファーランとは違う何もない空間を睨みつけてくる。何を見ているのだろうか。ぼそぼそと「うるせえクソが」や「エレン。そう何度も言うな喧しい」やら、「これは俺のせいじゃないだろ」とか独り言を呟いている。

 

 エレンって誰だ。頭がおかしいのか。こいつ大丈夫なのか?

 腕を離してもらおうと動くが、思いのほか子供の力が強く引き剥がせない。

 

 

「チッ……おいファーラン」

 

「な、なんだよ」

 

「腹が空いてんだろ。俺の家に来い」

 

「はぁ?」

 

「地下街で生き抜く方法を教えてやるよ」

 

 

 

 そう言って不敵に笑った子供に、俺は抵抗なんて出来やしなかった。

 

 

 

 




下記にてちょっとしたキャラクター設定がありますのでよければどうぞ。



キャラクター設定

リヴァイ(成り代わりのすがた)
 幼少期。まだ子供で小さい。エレンの股下に届かない程度の身長しかない。でも力は強いし、大人も余裕でぶっ倒せる人類最強予定な子供である。
 ちなみにケニーに地下街での生き方を教わっている頃から前世の記憶がぼんやりと思い出しかけていたせいでちょっとしたバタフライエフェクトが起こり、原作より早い段階でケニーがリヴァイから離れていった。なのでまだまだ彼は小さい。
 前世の記憶を持つせいで始祖ユミルの力によりいろいろあったらしいエレンが過去へ来て何かしら訴えてくる。たまにエレンから威圧、殺意、本気で襲いかかってくることがあるので人類最強のスペックとその反射神経によりなんとか逃げることが出来ている状況である。
 殺したくない人を殺して、そうしていろいろと無理をして自分を犠牲にし自由な未来へ繋ぐ行為は奴隷に等しいだろうとエレンの行動に蹴りを入れたい。なのでエレンに牙をむいて彼の都合のいいように未来を進めないようにしようと願う。
 しかしながらエレンもやはりラスボスと言うべきか精神年齢はともかく幼い子供相手に本気で手を出してくる程度には未来が変わることを恐れているのだと理解している。記憶を消されそうになると本能でそれを理解しすぐさま逃げる。
 地下で鬼ごっこを毎日のようにやっているせいでいろんな奴らから「あっ、ゴロツキのリヴァイだ」とか「またなんかやってるよ」とか頭おかしい認定されている。エレンの姿はリヴァイにしか分からないので、一人で駆けているようにしか周りが見えないせいである。それにしても幼少期から狙われるということは成長した俺はやり遂げたのか。
 でもなんかエレンの様子がおかしい。ねえ、未来で何したの俺?


エレン(ガチギレのすがた)
 長髪。未来の成長した姿で来ている。たまに髪の毛を結んだり結ばなかったり。
 これから先の自由を手に入れるためにやるべきことをしようと思っていたら何故かリヴァイ兵長が前世の記憶とかいう別世界からの知識を手に入れてしまったせいで思うように行動できず未来も毎回変化してしまい疲弊した。リヴァイ兵長が動くごとに未来が一気に変化するので、自分の願う通りに進めず内心ガチギレしている。
 そのため力を使い、幼少期のリヴァイ兵長に会いに行って記憶を消そうとしたら何故かうまくいかなかった。ユミルの民としての記憶じゃないからか。キレそう。というか激怒しているようなもん。でもリヴァイ兵長が動くごとによって常に変化している未来の中には最高のものもあるし、最低のものもあった。自分が生き続けることが出来る未来もあるかもしれないとほんの少しだけ希望を抱きかけたが、すぐにそれを捨てた。自分がやるべきことは前へ進むこと。文字通り進撃するために、理想を抱いてリヴァイ兵長に全てを任せたくはない。最悪の未来を知っているから自分が描く未来へ進むと決意している。だから早く記憶を消させろこの野郎とマジギレしてる。未来で見た通りに進めさせてくれないからですよ。ちゃんとやらないと巨人の力を抹消できないだろうが。




地下街編を多めに書いてもいいでしょうか?

  • いいぞ、いっぱい書いてくれー!
  • 調査兵団からが本番だろ早くしろよ
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