進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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夢の瞬き、記憶無しの彼と

 

 

 彼が目を覚ますまで、まだ時間はあった。

 静かにベッド脇の椅子に座り、腕を組んでその時を待つ。

 

 ただじっと待っているだけではない。こうしている間も目を閉じて、彼にとっての未来を垣間見る。

 それはまるで鏡を映し出すかのように。自分が見た記憶。その経験、知識。そして彼が動いた結果が頭に直接叩きこまれていく。

 一瞬で流れるその情報量の多さにエレンは頭痛に襲われた。額に手をおいて深く溜息を吐く。それは珍しく弱り切った姿を表情に出して見せていた光景だった。

 

 もしもここにリヴァイが起きて彼を見ていたなら、エレンは当然弱った姿など見せようとしなかっただろう。

 

 幼いリヴァイが眠りにつくときはいつもこうやって静かに現在時点までの未来から過去までの変異を隅々まで調べ上げ、それを記憶していた。

 

 

 しかし今回は少なかったように感じた。

 ────その分、殺伐度は増していたが。

 

 

 

 

 

「……ん、あれ。ここは?」

 

 

 薄っぺらい布が敷かれたベッドから起き上がる音が響く。

 戸惑う声が聞こえ、即座に意識を声がする方へ集中させる。

 

 そこにいた彼は、いつもの表情とは違いとても儚く見えた。

 

 

「誰だ?」

 

「……目が覚めたか」

 

 

 いつもならもう少しだけ愛想よくしているが、今は違う。

 

 わざと敬語を使わず、初っ端から威圧していくために。

 無表情で取り繕いつつ、彼を見下ろすため椅子から立ち上がった。

 

 彼は現状を理解できず落ち着かない様子で視線を巡らせていた。

 エレンを直視した瞬間、その目は見開かれ呆然と口を開いて固まってしまったが。

 

 

「説明はいるか?」

 

「……いや、待て。少し待ってくれ……ここは一体……」

 

「パラディ島の地下街区域。そこにお前を閉じ込めた」

 

「はっ?」

 

 

 部屋に鍵をかけていること。

 ここからお前は出られない。監禁状態であることを伝えていく。

 

 

「いやちょっと待ってくれ。なんで俺が監禁なんか……それにパラディ島って聞いた記憶が……俺は、死んだはずじゃ?」

 

「そうだ。死んで転生して、今ここに生まれ変わって生きているだけだ」

 

「生まれ変わって……俺の名前は?」

 

「それは知らなくてもいい。俺はただお前に一つの選択を迫っているだけだ」

 

 

 何が起きているのか分からないようで、彼は困惑しきった様子だった。

 まあ彼の気持ちを考えるなら当然といえた。なんせ目が覚めたら転生していたと理解する男が目の前にいて、よくわからない地下に監禁されているのだ。

 

 そんな中、急に選択を迫っているとか言われても「ちょっと待ってくれ」と思うのは当然。

 恐怖を感じているように見えた。彼の心は疑問でいっぱいだったが、パラディ島という単語とエレン自身の違和感に気づいたのだろう。じっと顔を見つめてくる彼は、首を傾けて問いかける。

 

 

「お前は……エレン、だよな? エレン・イエーガー。えっ、漫画の世界かここ? それとも夢?」

 

「夢じゃねえよ。ここは現実。お前が前世で見た漫画と似た世界だ」

 

「何で俺を……ってか何で漫画のことを知ってるんだ────」

 

 

 

 警戒しつつ俺に問いかけようとした声を遮る。

 

 

 

「お前のその記憶が邪魔なんだ」

 

 

 

 彼の小さな腕を強く握ると、痛みが走ったのか抵抗しようともがいていく。

 しかし彼は今、ただの子供だった。

 

 何の力も持たない、非力で哀れな被害者だった。

 

 

「死にたくないならその前世の記憶を全て渡せ。俺が全部、うまく使ってやる」

 

「ッ────嫌だ」

 

 

 思いっきり頬をぶん殴ると彼はベッドから吹き飛び床へ転げ落ちる。

 そんな情けない姿見たいわけじゃなかったが……。

 

 

「もう一度言うぞ、記憶を渡せ」

 

「……い、いやだ」

 

「はぁ」

 

 

 地面に転がったその小さな体を蹴り飛ばす。

 血反吐を吐いた彼は壁にぶつかりまた動かなくなる。

 

 

「これ以上拒否をするなら拷問も辞さない。……ああそうだ、指の爪でも剥がしてやろうか。確かお前の前世の記憶の中にあったよな? じっくりゆっくり剥がしてやろうか?」

 

 

 至近距離でそう言い放つ。

 息が当たるぐらい近い場所で見た彼は、顔を青ざめさせていた。

 

 爪を剥がされる様子を想像してしまったのか。

 暴力に慣れていない平穏な記憶しかない精神力では、小さな体は恐怖に溺れる。

 

 

「その記憶を渡せ」

 

「…………」

 

「痛い思いをしたいのか?」

 

「……渡せるわけ、ないだろ」

 

 

 何を思ったのかは分からない。

 ただその時、彼が心の底から抵抗しようと思い始めたことだけは理解できた。俺のことを睨んできたのだ。

 躾けに必要なのは痛みだという言葉を痛感させるため、頬を殴る。胸倉を掴んで持ち上げて、ベッドへと叩きつけながらも。

 

 彼は痛みにもがき苦しんでいたが、泣きはしなかった。

 逃げようともせず、俺を真っ直ぐ見つめてきた。

 

 いつものような威圧感たっぷりの凶悪な顔ではない。睨みつけているわけでもない。

 無垢な瞳で、ただじっと俺を観察するように見つめてくるのだ。

 

 

 その瞳、その強い視線に歯ぎしりを鳴らした。

 記憶がないくせに、無意識に奪われては駄目だと思っているのか。それとも本気で奪われたくないのか。

 いやきっと後者だろう。それは分かっている。

 

 でもなら何で、未来であんなに邪魔をするんだ────。

 

 

 

「なんでアンタは俺に記憶を渡してくれないんだ!」

 

「ゲホッ……前世の記憶を渡すってことは、俺自身を殺すことになるからだよ。今の俺が誰なのかわからない。どういう存在なのかも知らない。ここが夢なのかって思いたいぐらいだよ、クソが……」

 

「記憶がなくても死ぬわけじゃない。だからいい加減────」

 

「そんなことしてなんになるんだよ。……それに俺の記憶より大事なことがあるんじゃないのか? 俺なんかを監禁してなんになるって言うんだ」

 

「はぁ?」

 

 

 アンタがそれを言うのか。

 いつもいつも、俺の邪魔ばかりしてきたアンタが。

 

 苛立ち交じりに彼の首を絞めたが、本気で殺されると思ったのか必死に抵抗してくる。

 

 

「ゲホッ、ぐっ……」

 

「記憶がなくても生きていられればそれでいいでしょう。俺の思う通りに動いてくれたら、邪魔なんてしなかったらその先で、ちゃんとした自由を手に入れられるのに!!」

 

「そ、んな……ことのために、俺の記憶、俺の全てを消そうって言うのか、お前は」

 

 

 無理だと拒否をする彼に歯ぎしりをして、苛立ち交じりに舌打ちを鳴らす。

 もう彼は恐怖を抱いていなかった。

 この時点で本当に拷問をしていても喋らないと理解できた。

 

 未来は今も過去を通して変化する。

 それなのに、俺の行動ひとつで彼の意志を捻じ曲げるのはまだ不可能のようだ。

 

 

(そういうところは、人類最強とかでなくても良かったんですよ。兵長)

 

 

「……エレン?」

 

「もういいです、眠ってください」

 

「待っ────」

 

 

 力を行使し、強制的に眠らせる。

 

 再び目を閉じた彼に本来の記憶を戻していく。そのせいか、過去の彼────リヴァイからすれば未来となるが、そこで彼が行動するであろう情報がエレンの頭へ殴りかかるように襲いかかる。

 リヴァイが動けば、いくつかの未来が変わる。それは現段階での未来であるため、実体がマーレにあるエレンからすれば過去というべき状況か。

 

 自分が過去へ、幼少のリヴァイに会いに来たせいで引き返せないところまで堕ちてきた。

 それでも、己にとっての最低限のラインは越えたくない。今回だってギリギリ線を越えかけていた。いや一瞬超えたかもしれない。

 だからリヴァイの記憶を消しても、眠りについているうちに戻すのだ。夢の瞬きと思わせるように。

 

 そうして、今回も失敗したと理解する。

 

 

 

「……やっぱり、すぐ死んじまうか」

 

 

 前世の記憶とかいうやばいものより、ユミルの民として生きている今のリヴァイとしての記憶を消すのは容易だ。しかしそのせいで彼はあっけなく死んでしまう。それも地下街で暴漢に襲われ何も抵抗できずに殺される未来が見えた。

 

 リヴァイはアッカーマンとしての目覚めるべき力がなければただの子供。記憶がなければ一般人レベルへ落ちるようだ。

 度胸はあっても、地下街での生き方すら忘れてしまうとなるとすぐ死ぬのは当然。

 

 彼が死んだ結果、その未来は最悪のものへ変わる。

 

 それだけ彼という切り札は捨てることが出来ない。だからもどかしいのだ。

 彼が一言「前世の記憶を捨ててエレンの思う通りに生きるよ!」とか言ってくれれば、過去に来ていろいろ余計なことをやらなくてもよかったというのに。

 

 

「あー、リヴァイ兵長の怪我……」

 

 

 ケニー・アッカーマンとの記憶。リヴァイとして生まれ変わった彼の記憶であれば力を行使して記憶喪失状態にはできた。前世の記憶があるままのリヴァイはある意味喧嘩をあまりしたことのない弱い少年に成り下がる。アッカーマンとしての血に目覚めていない状況にもなるため、身体を投げ出した時に受け身すらとれなかったのか青痣が背中に広がっていた。頬にも殴られた痕が残り、首には絞められた両手の痣がある。

 

 リヴァイとしての記憶がない頃の出来事は全て消している。

 だからどう説明しようかと悩むが────。

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 エレンもまた未来から過去へ様々な暗躍をしまくっているせいで疲弊していた。

 それはもういろんな意味で疲れていたのだ。

 

 言い訳を考えることすら面倒くさい。

 寝相で身体を打ったとかでも言って、誤魔化そう。たぶんリヴァイさんはそれで誤魔化されきれなくて俺をぶん殴ってくるかもだけど。

 

 そうエレンは苦笑して、もう一度力を使ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな風に怒られる?

  • 殴られる
  • 蹴り入れられる
  • 反射的に避けられたのでぶちギレ大乱闘
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