進撃世界に人類最強として生まれたけどエレンがうるさい   作:ちゃっぱ

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第七話、傲慢

 

 

 以前俺の家に侵入してきた子供。

 ボロボロの布を身にまとい、たった一人で生き延びてきたと思わせる哀れな姿をした彼を救おうと思った。

 

 それはもちろん、打算も含まれてはいたが……。

 

 

「リヴァイさん」

 

「あぁ?」

 

「あの子供がリヴァイさんの前世で知る人じゃなかったら、助けようとは思わなかったんですか?」

 

「いいや、救っただろうよ」

 

 

 エレンは訝しげな顔で俺を見てきた。

 それの意味がよく分からないので、とりあえず無視していつものように掃除を始める。

 

 あの子供────ファーラン・チャーチという男を、エレンの言う通り俺は前世の知識で知ってる。

 あの漫画で見たキャラクター。本編とはまた別の、番外編のような形で出てきた青年だ。漫画では当然のごとく巨人によって食われてしまったが……。

 

 淡い髪色が特徴の、社交的な一面を持つなかなかに癖のある性格をしていた。リヴァイのストッパーになり得る程度には信頼されていたみたいだし、結構良いやつではあると思う。漫画としてではない。俺が実際に会って感じた印象だ。

 

 俺が出会ったファーランはまだ幼く十歳程度の年齢で、まだ純粋なのか素直に表情を表に出していた。そういう甘い部分が地下街で生きるには少しだけきつかったのかもしれない。

 だからいろいろと教えることにした。

 

 地下街での生き方。どうやって金を稼ぐのか、安全に寝るためにどうするか。喧嘩の仕方。それ以外にも危険かどうか見分けるためには。

 まあそういうケニーからの受け売りをそっくりそのままファーランに教えてみた。

 

 ちょっときつい部分もあったし、泣き言を言われたこともあったが着実に出来るようになっていったのだ。やっぱり手際が良いのか。掃除とかも教えたら凄いテキパキやるようになったし。風呂とか教えたら風呂に浮かべる果物の入手を優先するようになった。

 

 毎日のように来ていたファーランは────今日だけは俺の家に来ないと分かった。

 何故なら彼は俺が紹介した酒場でスタッフとして働いているからだ。

 

 最初に出会った頃のみずぼらしい子供はいない。

 もう一人で立派に生きることが出来る程度には成長したはずだ。数か月程度時間はかかったけれど……。

 

 

(……そういえば、その頃のエレンは何もしてこなかったな)

 

 

 いつもだったら俺にちょっかいをかけてくるし、たまに喧嘩売ってくるし、鬼ごっこみたいなことだって何度かやっていた。

 それら全部が殺し合いのようなもの。俺という存在を消されないために、エレンは自由ある未来のために。物理的に動く場合は家が崩壊する可能性もあったので外で喧嘩しまくっていた。

 

 子供と大人の体格。

 力はきっと────エレンの方が上。

 でも避ける、逃げるにおいては俺の方が圧倒的に有利だった。

 

 

 そういった争いごとはファーランが来てからやることがなくなったように思う。

 ファーランと話しているときのエレンは俺の後ろからじっとこちらを見つめているだけで何も言わないのだ。

 いつもは誰かがいても構わず話しかけてくるというのに。

 

 俺の考えていることを勝手に読んだのか、それとも察したのかエレンが口を開く。

 

 

「リヴァイさんって結構傲慢ですよね」

 

「はぁ?」

 

 

 急に何言いやがるんだろうかと掃除の手を止めてエレンの方を見た。

 彼はいつものように瞳にハイライトがない無表情の顔で、こちらに近づいて俺を見下ろしてくる。

 

 

「ファーランっていう男以外にも……ちょっとした仕事で見かけた子供がいたはずでしょう。路地で倒れている人、飢えで死にかけた子供。病に倒れた女性。足を無くして生きる気力を失った男ども。そういう人たちをリヴァイさんは救おうと思わないんですね」

 

「当たり前だ。地下街は毎日のように死人が出る。いちいち死にかけた奴まで救ってたら俺の身が持たねえ。今は無理だって分かってるからな」

 

「ハハッ、それってただの偽善ですよね?」

 

「あぁ?」

 

 

 馬鹿にしたように笑うエレンについ苛立ったが、彼は真剣に俺に向かって何かを訴えたいようだった。

 しゃがみ込んで至近距離で、俺の目をじっと見て威圧をかけてくる。

 

 

「だってそうでしょう? あの子供と関わってた時から見てましたけど、自分にとって興味のない人は救おうと思わないで……アンタの前世で見た漫画に出てくるキャラクター。自分が救いたいって思う人しか救わないんだろ」

 

 

 ギリギリと歯を鳴らして。下げた拳に血が滲み出るほど握りしめて。

 苛立ったように俺を睨むエレンは、何故俺を今この時点で殺さないのかと思うぐらい殺意に満ちていた。

 

 

「自分勝手な考え。その自己満足で未来を変えられたらたまったもんじゃない」

 

 

 深い溜息を吐いたエレンが、俺を見下ろす。

 失望しきった目でこちらを見てくるのだ。

 

 勝手に思い違いをしているくせに。

 

 

「……つまりあれか。俺が漫画のキャラクターしか救わねえクソ野郎だと思ってるからそんなクソなら自分の邪魔ばっかしてねえでさっさと前世の記憶消して都合のいい人形になれって言いたいんだな」

 

「っ……当然だろ。だって俺は────」

 

「ふざけるなよクソが!」

 

「いっだっ!?」

 

 

 エレンがしゃがんでいたおかげで手が届きやすい位置にあいつの顔面があったため容赦なくぶん殴る。

 勢いが強かったのか横に倒れていったが、彼はすぐに体勢を整え俺を睨みつけてきた。

 

 

「何するんですか急に!」

 

「お前が俺の事を誤解しているからに決まってんだろうがクソ野郎」

 

「はぁ? クソ野郎はリヴァイ兵長の方じゃ────」

 

「誰がクソ野郎だクソが!」

 

「勢いに任せて脛に蹴りはやめてください地味に痛い!」

 

 

 容赦なく攻撃したからか、殺意が少し薄れて戸惑いの混じった目で俺を見てきた。

 それに小さく息を吐きつつも口を開く。

 

 

「俺が救いたいのは自分の手で救えると思った人間だけだ」

 

「……」

 

「やっぱりとか思ってんじゃねえだろうな。俺が言いたいのはそうじゃねえよ」

 

「じゃあ何ですか。その葉っぱのような小さな手で何ができると?」

 

「あぁ? チビって馬鹿にしたなてめえ。これでも早寝早起きして今から身長伸ばすために頑張ってんだぞ。いつかエレンよりでっかくなってやるからな」

 

「安心してください兵長、貴方はずっと小さいままです!」

 

「ふざけるなよクソが! ……って、そんな話じゃねえ。俺が今話したいのは別だ」

 

 

 エレンが見た未来の中で、俺は自分の手で救えなかった人がいたかもしれない。それ以外にも何か、エレンが苛立つような行動をしてきたかもしれないな。

 

 なんせ定められた未来に抗って、その先に何があるのか分からないまま未知の先を突き進もうとしているのだから。

 

 

「俺は必ず人類最強と呼ばれる男になる」

 

 

 地下街で死んでいく人、これから先俺が知らない場所で死んでいく人がいる。

 全てを救い出せない俺を許せ。地下街にいる彼らを選択して切り捨てるのは弱く死んでいった彼らだけにするから。

 

 そういう部分こそ、自分勝手な感情。自己満足に過ぎないけれど。

 それでもエレンのように、一人を悪にして多くの人を犠牲にするよりは────。

 

 

「俺は強くなる。自分の手の届く範囲を大きくしてやる。それで救い出すんだ。お前も含めて全部を生かす。それだけの力を持つって決めた」

 

「……そんなことをしても、未来で絶望が待っているだけですよ。リヴァイさんが見えない範囲で死ぬ人だっているでしょうに」

 

「だから作るんだよ。仲間を」

 

 

 ファーランのように。

 エレンともいつか、心強い仲間になれるように。

 

 

「俺の力が及ばなくても、俺が仲間を育てればいい。強くなって生かすって決めたから。俺の原作知識、その知恵を役立てる誰かに授けてもいいかもな」

 

「やめてください今アルミンのゲス顔が頭に浮かんだんですけど!?」

 

「そうか。それは良い事を聞いた」

 

「リヴァイさん!!」

 

 

 少しだけ焦った顔のエレンに笑う。

 いつもの静かなエレンとは違う。不気味で背後霊のような雰囲気は何もない。それが未来でも続いていけたらいいんだ。

 

 

「エレン、俺は全部救ってやる。お前が手のひらから零したものも全て……お前の事も含めてな」

 

「えっ」

 

「切り捨てるのは今だけだ。いつか必ず全部救ってやるからな。ちゃんと見とけ」

 

 

 そうして人差し指を向けた瞬間────何故かエレンが、衝動的に頭を押さえる。

 

 

「エレン?」

 

 

 何かあったのか。実体がないエレンは未来から来たから……そこで何かあったのか?

 でもエレンはすぐに我に返ったようで、俺から視線を外してそっぽを向いたまま、乾いた笑みを浮かべてきた。

 

 

「その考え方、傲慢すぎて気持ち悪いです」

 

「うるせえ」

 

「本当に、気持ち悪い」

 

「……エレン?」

 

 

 少し瞬きしただけだ。

 それなのに声がした方にいたエレンがいつの間にかいなくなっていた。

 

 

(何かあったのか?)

 

 

 頭を押さえていたから、何か原因があるはず。

 それとも────未来へ帰ったのだろうか。それとも過去に来れなくなった?

 

 最後に聞いたエレンの声。

 元気のなさそうなあの静かな音色は、少しだけ嫌な感じだった。

 

 

 結局、エレンがその日帰ってくることはなかった。

 ファーランが元気にやってきて、今日何があったのか話をするだけ。そうして帰っていく子供に笑って見送りをして……。

 

 

 ────この家の広さに、愕然とした。

 

 

「エレンがいたから、狭く感じていたのか」

 

 

 ケニーがいなくなってから急に来たエレンという存在。

 ずっと一緒に居たようなものだった。一人でいたのはほんの少しの間だけな気がする。

 

 自分の独り言すら誰も返してこない。

 それが酷く寂しいものだなんて思いもしなかった。

 

 

(やっぱり俺のせいか、エレン……)

 

 

 せめて一言だけでも何かを言ってから帰ってほしかったな。

 

 

 

・・・

 

 

 

「あっ?」

 

「うわ……」

 

 

 

 ちょっと待て。

 何でエレンの代わりにやさぐれた様子のジークが居やがるんだよ。

 

 

 

 

 

 

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