林田の歴史   作:林田力

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台湾の林田

台湾にも林田がある。日清戦争の結果、台湾は日本の植民地になった。日本人の移民者が花蓮港庁鳳林郡鳳林庄に林田村を作った。周囲に林が広がり、水田に適した土地もあるため、林田と名付けられた。

 

林田村は中華民国の行政区間では花蓮(ホワリエン)県鳳林(フォンリン)鎮になる。花蓮県は台湾東部にある。西を台湾中央山脈、東を太平洋に挟まれて南北に延びる細長い地域である。ワンタンが名物料理である。鳳林鎮は花蓮県の中央部に位置する。

 

林田村は一九一四年二月(大正三年)に移民第一陣が入った。南岡と中野(林田)、北林の三つの集落から構成された。一九一四年二月に移民第六陣の七三戸が入った。一九一五年一〇月には六六戸が移住した。一九二五年には人口二〇一五人、一九三五年には三三三三人なった。移民者は日本で一切の家財道具を売り払って移民してきた。

 

台湾は中央を山脈が隔て東西の交通が困難である。花蓮県は漢族も、あまり入っていない土地であった。外部と花蓮県との交通は花蓮港を通した海路が主になった。台東と花蓮を結ぶ鉄道の台東線が走るようになると発展した。台東線の鳳林駅は一九一二年一月二五日に開業した。

 

移民者は九州や四国の出身者が多かった。九州は林田の名字が多い地域である。四国も讃岐国阿野郡林田郷という地域がある。林田村の主な農作物はサトウキビであった。煙草や野菜などの栽培を中心とした農産業も盛んであった。林田村には林田尋常小学校や林田神社、林田派出所、タバコ工場があった。

 

移民者は暴風雨、伝染病の流行、原住民との衝突などの問題に直面した。移民勧誘者は台湾を蓬莱の島や高砂の国と理想的なイメージを振りまいたが、伝染病は深刻であった。林田村ではツツガムシ病が流行した。これは細菌の一種であるリケッチアによる感染症である。小型のダニの一種であるツツガムシの幼虫によって媒介される。

 

水利問題もあり、水田耕作は十分にできなかった。水田耕作ができないとサトウキビや煙草といった商品作物に傾斜する。一九一七年(大正六年)の林田村の農作物生産高は金額ベースでサトウキビが米の一三〇倍になった。米を自給できないとなると食べるために高い金額で米穀を購入しなければならず、家計を圧迫する。経営を軌道に乗せられなかった移民の一部は退去を余儀なくされた。

 

台湾林業の一大拠点に林田山がある。台湾では八仙山、阿里山、太平山に次ぐ、四番目に大きな林場であった。八仙山、阿里山、太平山と共に四大林場と呼ばれた。三大林場となると八仙山、阿里山、太平山で、林田山は入らない。

 

林田山は元々、森坂と呼ばれていた。日本人が一九一八年(大正七年)に東台湾木材合資会社を設立し、翌年には花蓮港木材株式会社になった。多くの労働者や家族が住み、住民向けの店舗もでき、小上海とまで呼ばれた。切り出した檜や杉、柏などの材木は、トロッコを使って花蓮港へ運搬した。第二次世界大戦中の物資が欠乏した時代は、牛が軽便車を引っ張る方式で材木を運搬した。

 

日本は一九四五年八月一五日にポツダム宣言を受諾して無条件降伏した。台湾は中華民国に返還された。台湾の日本人は一九四六年三月、現金千円と僅かな衣類の所持だけを持って帰国しなければならなかった。帰国後は日本政府の支援がないどころか、差別された。満蒙開拓団の引き揚げのような悲劇は少ないものの、認知度も低い。

 

林田村は、中華民国時代は大栄村になった。林田尋常小学校は中華民国になると大栄国民小学校になった。一方で台湾人による林田もある。台湾人が日本人の桶職人が桶作りを学び、日本風に林田桶店という名前で店を開いた。

 

林田山も中華民国になっても林業が続いた。一九六〇年代に最盛期を迎えた後に林業は衰退し、縮小した。一九九〇年には伐採は終了した。その後は林務局花蓮林区管理処が運営するテーマパーク「林田山林業文化園区」となった。

 

檜の香りがいっぱいのカフェで紅茶を楽しめる。日本風の町並みが残っている。株式会社加藤製作所のディーゼル機関車が保存されている。二〇一九年には園内の日本式建築「場長館」で台湾原住民の太魯閣(タロコ)族の伝統的な織物を紹介した。太魯閣族の頭目に哈魯閣・那威(ハルク・ナウェイ)がいる。哈魯閣・那威は一八九六年から一九一四年に日本統治に抵抗した抗日英雄である。

 

映画『トロッコ』は林田山林業文化園区で撮影された。芥川龍之介「トロッコ」をモチーフにした映画である。台湾人の父親と日本人の母親の子ども達が主人公である。

 


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