エクストリームウマ娘昔話 作:えもえも
昔々ある所に、お爺さんとお婆さん(ウマ娘)がおりました。
場所は中山競馬場くらいの場所で、多分最後の直線くらいの場所に畑を耕しています。
ここが未来のトゥインクル・シリーズの舞台となることを知らない二人は何百年かすると芝生に変えられる土地を必死に耕しておりました。ウマ娘のお婆さんにかかればその広さは大した事はありません。中山の直線は短いのです。
その日もいつも通りに、お爺さんは川へ洗濯に、お婆さんは畑へ棃を引きに行きました。
老いてなお健在なウマ娘の膂力、体力は二人の生活を支えております。この頃、普通はお爺さんが仕事をし、お婆さんが洗濯などするものですが、二人には関係ありません。人はウマ娘には力では勝てないのです。お爺さんは、色々あって、それをもう受け入れておりました。
今日もお爺さんは洗濯をしておりましたが、その日は普通ではありませんでした。
なんと、川上からぷりんせす、ぷりんせすと大きな人参が流れてきたではありませんか。
お爺さんはビックリしました。だって、それはお爺さんの身体ほどもある大きな人参だったのです。それに、川の上流は山です。こんな人参を作る人も土地も聞いたことがありません。ですが、人参はお婆さんの大好物。珍しいものですし、取り敢えず持ち帰ってみました。
持って帰ってきて、家の前に置くとその大きさはやはり普通ではありません。皮をむこうにも、大きすぎて話になりません。
お爺さんはまずはいくつかに分けることとしました。でも、包丁では小さすぎます。薪割り用の斧を使うことにしました。
老体のお爺さんには中々重いもので、持ち上げるだけで精一杯でしたが、なんとか大きく振りかぶって斧を振り下ろしました。ほとんど自由落下に近いものでしたが、大抵のものはこれで両断できます。
ですが、人参はほとんど切れませんでした。きっとこれでは、若かったとしても人間のお爺さんの力ではほんの少ししか斧は入りません。
どうしたものかと頭を悩ませていると、お婆さんが帰ってきました。
最初は驚いたお婆さんでしたが、事情を聞いてこれは私の出番だと斧を握りました。斧はお婆さんのものでした。力はお婆さんの方がありますから、薪割りもやっており、斧もお婆さん用の調整がされておりました。これを本気で振るえば、お爺さんの何倍もの力で斧は使われるのです。
お婆さんは腕に、足に、満身の力を込めて、久方ぶりの全力で斧を振り下ろしました。斧は人参を両断した。かのように見えました。
異変に気づいたのは、実際に使ったお婆さんでした。
「違うッ! これは切れていない! 中で何かが私の斧を受け止めているッ!」
お婆さんは戦慄した。人より力に優れるウマ娘、その中でも怪力で名を馳せた自分が全力で振るった斧が受け止められるなど有り得ない。
中に何かがいる。それが現実である。それがお婆さんを凌ぐ力を持っている以上、二人の生命を脅かす脅威になり得る。お婆さんはお爺さんを後ろに下がらせて、引き抜いた斧を強く握った。
斧が引き抜かれたことにより、7割がた切られた人参は、恐らくは中の何かの力も加わってすぐに二つに分かれる。
息を呑む。どのような怪物か、妖の類か。いずれにしても何としてもお爺さんだけは守らねばならない。
焦燥。
脅威は、姿を現した。
「あ、赤ん坊……?」
そこにいたのは、恐らくは2歳から3歳程度の幼児だった。それもウマ娘であった。
人参から出てきたというだけで異常ではあったが、それ以上に、その纏う空気の高貴さと強靭さが二人に何かを感じ取らせた。
ある種の命令に近い在り様。何もできないはずで、何も伝えられないはずの赤ん坊の、自分を育てる事を願う様。ただ願うだけならばいいのだけれど、赤ん坊にはそれを強いるほどの何かが秘められていた。
お爺さんとお婆さんはその赤ん坊を育てることに決めた。
川から流れてきた、高貴な子供。二人は、赤ん坊を川上姫と呼ぶことに決めた。
※
お爺さんとお婆さんはそれはそれは大事に川上姫を育てました。
二人が子供を授からなかった身であった事もあり、愛情は一層強く注がれ、立派に成長をしました。
川上姫はそこいらの子供と比べて力が強いのはウマ娘であるから当然として、ウマ娘の中でも抜きん出て強く、怪力のお婆さんをして最盛期の私より強いと言わしめるほどでした。
お淑やかとは言い難い性格でしたが、不思議と高貴さに溢れて、只者でないことは村の誰もが知るところです。しかし、同時に人を想う心を持つ川上姫を村の皆は愛しておりました。
そんな川上姫も、14歳になりました。そして、ある日、お爺さんとお婆さんに言うのです。
「人様のものをぶんどるという鬼ヶ島の鬼達をとっちめて参りますわ!」
そして、探求の旅は始まった。
一人のウマ娘は強者として自らに与えられた使命の大きさと待ち受ける波乱の運命に眩暈など覚えず、威風堂々たる様子であった。
その意味さえ知らず、川上姫の持たされた人参ハンバーグ。
遥か昔その中には輝きが宿っていたという。
さあ旅立つのだ。
この世界を覆う暗黒を振り払い、平和の光を再びこの地に。