to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「…それで橘さん達が帰った後そんなことがあったと?」
ちひろさんが絶対零度の眼で俺を見つめてくる。
ただいまちひろさんと文香の担当プロデューサー葛城さん、
文香を交えて緊急会議が行われていた。
「はい。その通りです…」
「馬鹿ですかあなたは!」
ちひろさんが怒鳴る。
「アイドルに手を出すなんて何考えてるんですか!?」
「申し訳ないとしか言いようがありません……」
俺は素直に詫びを入れた。
「あの、とりあえず今後どうするかを話し合いませんか?
起きてしまったことは仕方ないですし」
葛城さんが助け舟を出してくれた。
「わかりました。それじゃあ今後の方針を決めましょう。
鷺沢さん。橘さんを訴えますか?」
「いえ……。訴える気はありません。
わざとじゃないのはわかっていますから」
「いいんですか? 訴えたら勝てますよ?」
「いえ。同意したのは私ですから」
「へ?」
俺は間抜けな声を出す。
「橘さんは覚えていないでしょうけど、本当にいいのか聞いてきたんですよ」
「え? 何で同意したんですか?」
ちひろさんが信じられないという表情で聞いてくる。
「前から橘さんのことは好ましく思っていて…。
いつか告白しようと考えていたんです。それで…」
「同意したわけね。橘さん。あなたは文香をどう思ってるの?」
葛城さんからの問いに俺は少し間を置き答える。
「……文香のことは好ましく思っています。
他の女性といるより安心出来ますし」
「なるほど……。橘さん。責任は取れる?」
「責任…ですか?」
「そう。アイドルに手を出した責任」
「俺の出来る範囲でなら」
葛城さんは俺の返事に頷くと文香に視線を向ける。
「文香は今後どうしたい? 橘さんと付き合うならアイドルを辞める必要があるわ」
文香は少し沈黙した後、答えた。
「申し訳ないのですが、私は橘さんと付き合いたいです」
「そう……。わかったわ。橘さん」
「はい」
「文香を幸せに出来る?」
「俺の全ての力を持って。必要なら魔術の誓約書で誓います」
「魔術の?」
「はい。俺が作る物でしたら強力な物です。破れば自害させることも可能です」
「そこまでは流石に求めないわ。文香を幸せにしてちょうだい」
会議はこれでお開きとなった。
「文香。本当にごめん!」
俺は再度与えられた個室で土下座して謝った。
「もう顔をあげて下さいレイジさん。私が決めたことですから」
「しかし、アイドルを辞めざるを得なくなったわけで……」
「私が決めたことですから。だから、もういいんです」
俺が顔を上げると文香は微笑んで見せた。
「それよりこれからよろしくお願いしますレイジさん」
「文香。絶対に幸せにする。それが俺の誓いだ」
その後俺達は俺の家に向かった。
「あ、兄さんお帰りなさい。それと文香さんがなんでこんな時間に?」
「そのことで父さん達に話がある。ありす、呼んできてくれるか?」
「わかりました」
そしてリビングで事の顛末を皆に話した。
「……なるほど。鷺沢さん、うちの息子がすまないことをした」
「いえ。同意の上ですから」
「つまり結婚が前提のお付き合いということね?」
レオンさんが真面目な顔で話す。
「ええ、レオンさん」
「レイジ、鷺沢さんの親御さんにもこのことを報告しろ」
「わかったよ父さん」
その後、鷺沢さんのご両親にもこのことを報告。
ご両親にも認めてもらえ、俺は文香と付き合うことになった。