to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「おはよ……うおっ!? どうしたみんな!?」
部屋に入るとありす達に、武内さんとこのアイドルに美嘉さん、拓海がこちらを見た。
「あれ、みんなどうしたのかな?」
「プロデューサーって何者?」
晴が聞いてくる。
「何者もこの前説明して……」
「兄貴そういう意味じゃねえんだ。美嘉が撮った動画みたぜ。
相手は自分の名前を言ってねえ。でも、兄貴は戦いの後美嘉に言ったそうじゃねえか。
スカサハだって。何でわかった?」
「それは……」
「影の国へは行き来出来ない。つまりスカサハの顔を兄貴は知らねえはずだ。
じゃあ何で兄貴はわかった?」
「…………」
「それは僕が答えようか?」
突然部屋の一角にローブを纏い、杖を持った魔術師が現れる。
「…………昨日のはお前の差し金か、グランドくそ野郎」
「マーリンと呼んでくれたまえ。くそ野郎なのは認めるけど」
「マーリン…アーサー王伝説の!?」
ありすが驚く。
「どうせここにいるのは幻術だろ。さっさと質問に答えろ」
「うん。その通りだよ。スカサハに君のことを吹き込んで送り込んだのさ。
「…………どこまで知っている?」
「君が造られた時からだよ」
「造られた? 何を言ってるんですか?」
「ありすちゃん。君の兄さんはね純粋な人ではないのさ。
身体は龍の心臓を持ち、全身に魔力回路を張り巡らされた。
三分の二が神で、三分の一が人の超越者として神に造られた存在。
転生者十六夜レイジ。それが君の兄さんの正体さ」
「…………やめろ」
「そして得た特典が英霊達の力。この世界では過剰だね」
「…………やめろと言っている!!」
「おっと。怒らせてしまったかな」
「アヴァロンに乗り込んでやろうか?」
「流石にそれはノーサンキューだね。それじゃあ」
そう言ってマーリンは消えた。
「…………」
「兄さん……今のは本当何ですか?」
「……本当だ」
俺は諦めて本当のことを話す。
「俺の前世は十六夜レイジ。家の事情で中卒でブラック企業勤めだった」
「ちょっと待ってください。他にも仕事があったんじゃ…」
「俺の世界ではこの世界と違いバブルが弾けてな。三十年に渡り経済成長がしなかったんだ。
だから働ける所が限られていた。それでも人に後ろ指指されるような人生は送ってこなかった」
「ちなみに死因は?」
「風呂で眠っての水死だ。死んだ後はマーリンが言った通りさ。徳を積んでたのが幸いだったな」
「ふーん。なろう系の小説にありがちな設定だね。現実にいるとは思わなかったけど」
双葉さんが話す。
「双葉さん。誰がこの世界を現実と言った?」
「え? どういう意味?」
「この世界は創作物かもしれないという話だよ」
「え? え?」
「誰もこの世界が現実などと言えないからね」
「ちょっ!? 怖い話やめて!?」
本田さんが身震いする。
「この辺は哲学的な話だけどね」
「つまりなんだ。兄貴は神寄りの人っつーことか?」
「概ね拓海の認識で合ってるよ」
「スカサハに関することも……」
「知識としては知ってたのさ。本当にいるとは思わなかったけどね」
「兄さん……」
「俺が怖いかい?」
「いえ。兄さんは善人です。怖くはありません」
「兄貴は兄貴だろ? それでいいじゃねえか」
「……ありがとう」
俺は泣きそうになった。
「それよりこの動画! これが橘さんの本気!?」
本田さんがグイグイくる。
「えーと、一応限定的な本気です」
「限定的?」
「広範囲殲滅型の宝具は使ってないから」
「ちなみに使った場合は?」
「一都市が消滅する程度にはなるかな。物にもよるけど」
「怖! ていうかこの動画でも動きをやっと追える位のスピードで動いてるんだけど!?」
「まあ、それ位の速さがないとスカサハ相手だと死ぬし」
「兄貴、さっきのマーリンもこの位動けるのか?」
「いや、マーリンはキャスターだから、スカサハほど速くはない」
「じゃあ、勝ちやすいってことか?」
「あー、一概にそうとも言えない。魔術を使う分厄介な面もあるしね」
「兄さんが言ってたクラスというものですか?」
「ああ。基本的にランサーはスピードが速い。キャスターは工房に立てこもって戦う。
この辺は戦い方が変わってくるから、一概にどちらが強いとかは言えないんだ」
「ややこしいんだな」
「そうだね拓海。まあ、スカサハやマーリンは今も生きているから、例外的だけど」
「…………」
「どうした晴?」
「特典の英霊達の力ってどんなのだ?」
「簡潔に説明すると、歴史上の英雄、神霊、創作物の人物等の能力に、それを昇華した宝具だ」
「ちょっと待って! それって偉人のいいとこどりって意味だろ!」
「その通り。ホームズ、モーツァルト、ゴッホ……こういった人物の能力が付与されてる」
「…………!」
晴が絶句する。
「兄貴はチートの権化ってことかよ……」
「兄さん。龍の心臓と魔術回路はどうなんです?」
「龍の心臓は呼吸するだけで魔力を生み出す。魔術回路は回路が多いほど有利になる」
「事実上魔力は無限ということですか?」
「その認識で大体合ってる」
「反則過ぎるだろ……」
晴が呟く。
「まあ、スカサハとの戦いで弱点が露呈したけど」
「弱点ですか?」
「ありす。基本スペックは俺が上回っているのに、なぜスカサハに押されたと思う?」
「…………実戦経験の差?」
「その通り。俺には命を賭けての実戦経験が無かった。だから苦戦した」
「でも戦うのは無しですからね」
「ありす……」
「約束してください」
こっちをしっかりと見て言うありす。
「……ごめん。それは約束できない。相手次第だからね」
「そうですか……」
しょんぼりするありす。
「大丈夫。いざとなれば逃げるから」
そう言って俺はありすの頭を優しく撫でた。