to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
暑い。
俺は346プロに向かっていた。
面会の約束は取り付けてあるが、とにかく暑い。
そんなことを思いつつ、346プロにたどり着いた。
「・・・城?」
346プロの外観は城であった。
少し見てから建物の中へ入ってゆく。
建物の中は冷房が効いていた。
入口に制服を着た女性が立っていた。
「橘さんですか? アシスタントの千川ちひろです」
「橘レイジです。ご丁寧にどうも」
「常務がお待ちです。お部屋へご案内します」
俺は千川さんの後をついて行った。
常務室には女性が座っていた。
・・・眼力強いな。
場違いな感想を抱きつつ勧められるまま、椅子に座る。
「よく来てくれた橘君。作曲を引き受けてくれたこと感謝する」
女性・・・美城常務が話す。
「いえ。これが持って来た音源です」
俺は持って来たCDを渡す。
ちなみに今回の曲は、
・月光花
・Destiny-太陽の花-
このチョイスを常務がどう感じるか。
常務はCDを流し始める。
しばし音楽が流れる。
「・・・素晴らしい」
常務が感嘆したように呟く。
「初めて聞く旋律ながら、耳に馴染む音楽・・・素晴らしい」
「お褒めの言葉をいただき恐縮です」
お世辞ではなく本心からの言葉だ。
「私から提案があるのだが・・・プロデューサーをやってみないか?」
「プロデューサーですか?」
「ハッキリ言えばわが社の専属で曲を作ってもらいたいのだ」
「・・・・・・いいでしょう。お引き受けします」
思った以上に好評価らしい。これなら他の曲も問題ない。
「決まりだな。契約等の細かいことは千川君に任せてある」
「ふふ。よろしくお願いしますね橘さん」
「契約も終わりましたし、346プロをご案内しますね」
俺は千川さんの後をついて行く。
346プロの敷地は広大で多種多様な施設があった。
「ここがプロデューサーさん達の部屋。武内プロデューサーの部屋を訪ねてみましょう」
そう言って千川さんが扉をノックし、ドアを開ける。
「武内プロデューサー、今お時間よろしいですか?」
「はい。どうぞ」
「こんにちは・・・」
言いかけて声が止まる。
この人、海で会った保護者の人じゃん。
「あなたはこの前海で出会った・・・」
「プロデューサーやることになりました橘レイジです。よろしくお願いします」
「武内プロデューサーは橘さんをご存知なんですか?」
「この前海に行った時、溺れた島村さんを助けてもらいました」
「そうなんですか! 偶然ですね」
「おはようございます武内プロデューサー。・・・ってあの時の」
「確か島村さんでしたね。新しくプロデューサーになった橘レイジです」
「そうなんですか。・・・何でプロデューサーに?」
「それは専属で作曲してもらうためですよ。雷電Pって知ってます?」
千川さんが尋ねる。
「知ってます! 今までにない独創的な曲で人気の仮面ユーチューバーですよね!」
「ふふ。その雷電Pが橘プロデューサーなんですよ」
「えー! そうなんですか!?」
「まあ、一応そうです」
うう・・・笑顔が眩しい。
島村さんと話していると、ドアをノックする音が聞こえ女性が入って来た。
「こんにちは。武内プロデューサー。・・・あなたは海の時の」
「こんにちは。橘レイジです。新しくプロデューサーとして働くことになりました」
「そうなんですか。あの時はありがとうございました。私は新田美波といいます」
微笑みながら挨拶する新田さん。
陰キャボッチの俺には笑顔が眩しすぎる。
「そろそろ次の施設へ行きましょうか」
ナイス千川さん。
俺は千川さんの言葉に乗り、そそくさと部屋を出た。
「橘さんは女性が苦手何ですか?」
千川さんが聞いてくる。
「えっと千川さん・・・」
「ちひろでいいですよ。それでどうなんです?」
「・・・ちひろさん、ええ、まあ、その通りです」
「・・・一度前髪を上げてみてもらえますか?」
「・・・一度だけですよ?」
俺は前髪をかき上げた。
「・・・・・・」
ちひろさんは俺の顔をじっと見る。
うう。そんなに変な顔なのか?
「も、もういいでしょう!」
俺は前髪を元に戻す。
「あ・・・・・・」
ちひろさんは残念そうな顔をした。
「橘さん。絶対髪を短く整えた方がいいです!」
ちひろさんが力を込めて断言する。
今の俺はぼさぼさの髪に前髪で顔が隠れている。
「嫌です。昔女子にいじめられたことがあって、
何でいじめるのか聞いたら顔と言われました。だから顔を髪で隠してるんです」
「素材はいいのに勿体無いです! 髪を切りに行きましょう!」
「施設の紹介は・・・」
「そんなの後です! 美容師さんもいますから行きましょう!」
無理矢理引っ張られる俺。
力を込めれば止められるがちひろさんがケガをしかねない。
仕方なくちひろさんに引っ張られることにした。
数十分後・・・
「できましたよ」
美容師さんの言葉に前を向く。
髪が短くなった俺の姿が鏡に映っていた。
「いいですよ橘さん」
「うう・・・。落ち着かない」
「そのうち慣れますって。絶対そっちの方がいいですから」
それじゃあ施設の紹介を再開しましょうとちひろさんは言った。
その後、すれ違う人皆俺を見て振り返るし、
プロデューサーを引き受けたのは間違いだったかなと思った。