to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
それは一本の電話から始まった。
「はい。もしもし橘です」
「橘殿! 助けて下さい!」
「その声は脇山さんか!? 落ち着いて。何があった!?」
「家の道場に道場破りが現れて……門下生達が次々倒されてるんです!
このままだと道場の看板が! 橘殿、助けて下さい!」
「わかった。住所を教えてくれ!」
俺は脇山さんから住所を聞き出す。
「兄さん。どうかしたんですか?」
「脇山さんの道場に道場破りだ。急いで向かわないと」
「父さんから車の鍵を借りましょう。その方が早いです」
「そうだな。車を借りよう」
俺達は車に乗って道場へ向かった。
「こっちです! こっちです!」
道場前に脇山さんがいた。
「脇山さん状況は!?」
「今、父上が相手をしていて……でも相手が滅茶苦茶強くて!」
「ギリギリ間に合ったか……それで相手は……」
俺は道場破りの姿を見て固まった。
着物姿で四振りの刀を差している女性……。
「新免武蔵守藤原玄信…………」
「兄さん知っているんですか? それにその名前……」
「こっちの方が通りがいいか。宮本武蔵」
「えっ!? でも女性で…………」
「並行世界の宮本武蔵だ。あれのいた世界はもう無い。
漂流者として様々な世界を旅する存在。それがあの宮本武蔵だ」
「そ、そんな。父上じゃ勝てませんぞ」
脇山さんの言う通り、武蔵の面が入った。
崩れ落ちる脇山さんの父親。
「父上!」
脇山さんが駆け寄る。
「んー、歯ごたえがないなあ」
武蔵はそう呟くと俺を見つめる。
「ふーん。あなた強いわね。助太刀?」
「ああ。道場の看板は渡さない」
「助太刀結構! でもね……」
武蔵は刀を抜く。
「勝負は真剣でやりましょ」
「兄さん! 絶対ダメです!」
「橘殿! それは危険ですぞ!」
「だってさ。どうする? 諦めて看板渡す?」
俺は蔵からアロンダイトを取り出す。
「兄さん! 無茶です!」
「やらないと看板が無くなる。やるしかない」
「やる気だね。それじゃ私も本気でいくよ」
こうして武蔵との勝負が始まった。
俺の右からの胴を左の刀で受け流しつつ、
右の刀で唐竹割りで襲う。
俺はそれを躱しつつ、左袈裟斬りで斬りつける。
武蔵はそれを躱し、両方の刀で刺突する。
俺はそれをアロンダイトで何とか受け流す。
くっ!? 武蔵の能力も取り込んでいるから、二天一流の軌道もわかっている。
だが流石は本家本元。軌道がわかっていても、攻めきれない。
次の動きは………これだ!
「!?」
俺の予測の動きより早……!?
ズバッ!
「ぐっ!?…………」
武蔵の刺突が脇腹を深々と抉った。
「兄さん!」
「橘殿!」
ありすと脇山さんから悲鳴が上がる。
くっ、軌道は間違いなかった。武蔵が戦いながら進化している!?
「んー、やっぱりか。あなた、二天一流を知ってる戦い方ね」
「まあ、色々と知ってるとだけ答えよう」
「やっぱりそうか。まあ、面白いけどね」
そして再度剣が振るわれる。
次はそこだ。
俺は剣を振るう。
「なっ!?」
完全に予測の死角から斬撃が来た。
不味い。戦いながらこちらに対応してきている。
次の斬撃は上だ。
「!」
なっ!?
「残念、下からだよ」
ブシューッ!
ドサッ!
道場が一瞬の静寂に包まれる。
道場の床に俺の右腕が転がっている。
「橘殿ォーーーーーーーー!」
「いやあああああぁぁぁぁ!」
ありす達の悲鳴が響き渡る。
「勝負ありだね」
「……まだ左手が残っている」
「へえ。まだやるんだ。でもその出血量そう持たないでしょ」
「心配いらない。それまでに勝つ!」
もう時間の猶予もない。本当は剣技のみで勝ちたかったが仕方ない。
「最果てに至れ。限界を超えよ。彼方の王よ、この光をご覧あれ! 『
武蔵は俺の宝具を刀で受け止める。
「ああああああああ!」
俺は残りの力を絞り出す。
そして武蔵の刀が破壊され、アロンダイトの一撃が入った。
「……見事」
そして武蔵はこの世界から消えていった。
「……勝った?」
誰ともなしに呟く。
「橘さんの勝ちだああああああ!」
喜ぶ門下生達。
終わったあ。
俺の意識はそこで途絶えた。
「兄さん! しっかりして下さい!」
「私に見せてくれ」
珠美の父がレイジの状態を見る。
「いかん! 心臓が止まっとる! 珠美、救急車を急いで呼べ!」
「わかりました!」
珠美の父が心臓マッサージを施す。
レイジが助かるかどうかは予断を許さなかった。